―――遠方の地
槍兵「な、なら・・・・・・先輩は・・・・・・」
副官「・・・・・・」
技師「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・ったく、先に行きやがって。 って、あんたは・・・・・・」
槍兵「・・・・・・嘘だ」
技師「・・・・・・槍兵?」
槍兵「嘘だ、嘘だ・・・・・・嘘だ・・・・・・」
技師「お、おい槍兵!!」
槍兵「ありえない!! 絶対に!! そんなの嘘だ!! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!」
技師「槍兵!!」
―――そう恨み言を言うな。 こうやって、お前のヤケ酒に付き合ってやってるんだからな―――
―――そんな暇があるなら、槍の腕を磨くか、戦闘の勉強をしろ。 そんなんじゃいつまでたっても竜騎士にはなれないぞ―――
―――だったら、今以上に鍛錬に励むことだ。 速さだけなら、お前は見所がある―――
―――十分すぎるくらい俺は欲張りだよ。 だから、毎度毎度、広げすぎた風呂敷に苦労するんだ―――
―――そうか・・・・・・。 なら、いつか俺が困った時、ちゃんと助けにきてくれよ―――
槍兵「嘘だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
―――その日、王国は歴史を刻んだ。
調査隊の赴いた島は七割が消失し、爆発の際に生じた衝撃波は、周辺諸国にまで影響を与え、地平線の向こう側でさえ観測された。
未帰還者数は当時上陸していた人数の9割以上に上り、救助された者も、その殆どが治療中に命を落とした。
多くの犠牲者、亡骸無き兵達の為に、王国と爆心地となった島には慰霊碑が作られた。
そして、大掛かりな捜索を長期にわたって行なった王国だったが・・・・・・。
竜騎士の亡骸の発見には、ついに至らなかった。
鎮魂の儀は国を挙げて行われ、国民は、深い悲しみにつつまれた。
誰もが調査隊として赴いた人々の、そして竜騎士の死に涙した。
しかし、時はそれでも流れていく・・・・・・。
大きな損失を生んだこの出来事は、再び城内の動きを慌ただしいものにした。
王国は竜騎士を失ったことによる戦力低下を魔法部隊増強という形の手段で処理し、引き続き統括者に司令が選ばれた。
国民たちも、悲しみを振り払うかのように、日々を強く生きていこうと自らの足と手を動かす。
それは、各々の時を刻むことでもある。
ある者は、さらなる高見を目指すため、日々鍛錬をこなし。
ある者は、己の技能を開拓するために遠方へと足を運ぶ。
ある者は、見聞を広めるために新しい道を見聞する。
それぞれの道は違うが、しかし、胸の内に負った傷は大小あれど、皆同じだった。
失ったモノが大きければ大きいほど、その思いを振り払うかのように、皆、己の本文を全うしようと日々前に進み続けたのだった。
―――そして、三年の月日が流れた。
―――城内 玉座の間
国王「“槍兵”よ、今日までよくぞ国のために尽くしてくれた。 魔を退け、民を助け、その働きは誰もが知るところとなり、その精神は尊く気高いものと誰もが感じている」
国王「今では貴君は王国になくてはならぬ存在になった。 故に、貴君の働きを称え、本日を持ってその身に纏いし鎧に因み、“銀騎士”の称号を授ける」
銀騎士「・・・・・・光栄です。 銀騎士の称号、有り難く頂戴致します」
―――その日、王国に新たな騎士が誕生した。
―――酒場
技師「お? 今日は城で称号授与の後に、盛大なパーティーがあったんじゃなかったのか?」
銀騎士「まさか。 いちいちそんなことの度にパーティーなんて開いてたら、この国は財政破綻しちゃうよ」
銀騎士「それに・・・・・・」
技師「ん?」
銀騎士「僕は、場で酔いたいんだ。 マスターの出してくれる酒が飲める、ここでね」
マスター「ありがとうございます。 昇進祝いに、今日は奢りです」
技師「マスター、俺は?」
マスター「ツケを払っていただけたら、かまいませんよ?」
技師「はっはっは!! いや~、本当にめでたい日だな兄弟!!」
銀騎士「まったく・・・・・・。 ああ、お前といるといつでも宴をひらいてるみたいなもんだよ」
技師「しっかし、あの槍兵が銀騎士にね~」
銀騎士「僕が一番驚いてるよ」
マスター「研鑽を重ね、魔物の討伐でも、多大なる成果を上げているとお客さん達もよく話していますよ。 頑張っている姿というのは、必ず誰かが見ているものです」
銀騎士「そう、だね・・・・・・」
技師「おうよ。 あの人も、きっと喜んでるさ」
銀騎士「うん。 そうなら、うれしいよ」
技師「本当なら、もう竜騎士になっていてもおかしくない実力だっていうのにな・・・・・・」
銀騎士「いっこうに竜騎士転向の試練どころか・・・・・・役所からは選考の話すらあがってこない」
技師「このままじゃ、あと数年で竜騎士って称号すら無くなりそうだな」
マスター「・・・・・・まるで、あの方の存在を忘れてしまいたいかのようです」
技師「実際そういうことなんだろう。 魔法部隊の地位はあのころと比べて大きく変わった。 今では、この国を代表する程の力を持っているわけだし」
銀騎士「それを率いているのが、あの司令だしね」
マスター「しかし、本当なのでしょうか・・・・・・。 司令が調査隊を意図的に壊滅へとおいやったというのは」
技師「俺たちが助けた調査隊の副官は、確かにそう言ってた。 司令から渡された首飾りが、最後の引き金を引いたんだって」
銀騎士「崩落のタイミング、先見隊として動いていた魔法部隊の不可解な動き・・・・・・」
技師「ま、表向きは公表されていないことだらけで、確かな確証はないんだけどな」
マスター「悲しいことです。 あの方は、誰よりも国のことを思い、魔物との戦いに赴く際には、戦陣を切って戦いの中に身をおいていたというのに」
銀騎士「僕も信じられない。 信じたくない。 国を思い、民のために戦ってきた人達が、殺しあうなんて。 だけど・・・・・・」
技師「俺たちは、そこで終わりにはしない。 絶対に」
銀騎士「今の平穏が、先輩の犠牲の上にあるというのなら、なおさら僕らはその真実をつかんでみせる」
技師「納得できないままっていうのは、我慢できないからな」
マスター「そう、ですね。 ですが、これはいうなれば、国の暗部にふれることですよ」
技師「やろうとしてるのが綱渡りだってのは十分承知してるさ」
銀騎士「普通に調べてただけじゃ、まず到達できないだろうからね」
技師「もちろん危険なことだって承知してるよ。 でもなマスター。 俺たちはこの三年間、何もしてなかったわけじゃないんだぜ」
銀騎士「今日こうしてマスターに話してるのは、行動に移せる準備ができたからなんだよ」
マスター「・・・・・・っ!? おやおや」
その時、酒場の両開きのドアを開けて入ってくる二人が、店内を見渡しながら銀騎士と技師のもとへと歩み寄ってきた。
副官「いいお店ですね。 長く王国にいますが、初めて来ましたよ」
薬師「私達はよくここを利用するんです。 ご飯もお酒も美味しいから、何かあればいつもここに来てますね」
技師「ゲストの登場だな」
薬師「お待たせしました。 副官さんは何を飲みます?」
副官「では、オススメがあればそれを」
薬師と副官が席に着き、飲み物が運ばれてきたところで乾杯を済ませ、話は本題へと進む。
副官「調査の結果、あの日の少し前に、調査区域近くで他国との共同模擬演習が行われていたのは確かなようだ」
副官「詳細が不明瞭なのは、当時の我が国にあった訓練記録や日誌が無くなっているか、改竄された痕跡があるからなんだ」
技師「随分手が凝ってますね・・・・・・」
副官「当時記録係を担当していた者も、人伝に遡って調べようとしたが・・・・・・」
銀騎士「・・・・・・したが?」
副官「あの日の一月以内に死亡しているのが判明した」
技師「・・・・・・消された?」
副官「その可能性は否定できないが、断定するには証拠不足だ」
薬師「それだけじゃないんです。 これも噂なんですが、その訓練で行軍訓練中に体調不良になった人も・・・・・・」
銀騎士「・・・・・・」
技師「死んだのか?」
副官「もしくは、行方不明になったかだな」
銀騎士「だが、その体調不良になった人達ってのは、今の話にどう関係があるんだ?」
副官「訓練記録にはその者達の事は書いてなかった。 だから、もしかしたら医療班として当時同伴していた城下の医者数人から調書とった。 いや、取ろうとした」
技師「取ろうとした?」
副官「・・・・・・医者が覚えてないんだ。 いや、そうじゃないな。 体調不良によって運ばれたものは確認していない。 と、いうことらしい」
銀騎士「確認していない・・・・・・。 運び込まれてないっていうこと?」
副官「正直に考えたらそうなる。 だが、大勢の人間が、体調不良となった兵を見てるんだ」
薬師「部隊からは離れた・・・・・・。 でも、医療テントには、誰一人として向かわなかった」
副官「途中までは向かったかもしれない。 ただ、部隊内の訓練記録などが改ざんされているところを見ると、協力者が皆無だったとは、言い切れない」
技師「随分といい加減なんだな軍隊の管理って」
副官「魔王も居なくなって、軍縮も進んでいた時期だし。 気が緩んでいたと言われても仕方がないのかもしれない」
副官「それに、綿密に練られた上での行動となれば、よほどの警戒心を持たなければ、気づくことなんて出来ないものだ」
銀騎士「じゃあ、そのいなくなった体調不良者達は・・・・・・」
副官「あの洞窟に向かったのかもしれない。 確証がないのは残念だけどな」
副官「それに、あの時に見た竜の心臓。 あれがどのようにして運び込まれたのか・・・・・・」
薬師「・・・・・・運び込まれたわけじゃ、ないのかもしれません」
銀騎士「運び込まれたんじゃないんだったら、元からあったってこと?」
技師「んなことがあるのかよ。 竜の心臓ってのは、竜が死ぬ時に生まれる希少アイテムなんだろうが。 元々竜のコロニーだったかなんか知らねぇが、道端の石ころみたいに転がっている代物でもないんだろ」
副官「まず、ありえないでしょう。 竜の心臓は発見次第、国が回収して厳重管理し、持ち出しや使用にはいくつもの許可が必要なんです」
技師「だろうよ。 なら、やっぱり運び込まれたって方が真実味としては硬いだろう」
銀騎士「ああ。 司令が絡んでれば、出来ないこともないだろ。 軍の最高司令官だからね」
薬師「私もはじめはそう思っていました。 ですが、頭の回る司令が、そんな書類ごとの多いことに手を出して、足跡の残る危険性を冒してまで竜の心臓を持ち出すのでしょうか?」
技師「・・・・・・それこそ、職権が活きてくるんじゃないか?」
薬師「いくら司令でもそこまでおおっぴらに動けば、痕跡の一つでも残しそうなものですけど・・・・・・」
銀騎士「薬師は、何か別の考えがあるの?」
薬師「・・・・・・」
薬師「魔法部隊の中でも、攻撃専門の部隊は、戦闘に出る時も、魔法を使用する時も、いろんな制限がつくんです」
技師「・・・・・・それで?」
薬師「それは、強力な魔法を有事の際以外には使わないようにするための決まりであり、国が管理する上での最重要項目に属されます」
薬師「魔法部隊の、その中でも攻撃専門部隊は、どちらかといえば、国の有する兵器に近い存在なんです」
薬師「私、その部署にいる人と話す機会があって・・・・・・」
銀騎士「・・・・・・魔法部隊の人間が、簡単に情報を漏らしたの?」
薬師「そこは、女ならではの裏技です」
技師「(・・・・・・薬か?)」
槍兵「(・・・・・・裏技?)」
副官「(・・・・・・女体の神秘か?)」
薬師「禁呪法に近い魔法を研究したり、失われた魔法の復元を試みたりもしてるって」
薬師「その中には、各生物に特化した魔法も・・・・・・研究してるって言ってました」
副官「生物・・・・・・」
薬師「海洋生物から森の動物たち、魔界の生き物・・・・・・異相から生まれ出るもの。 そして、竜」
技師「マジかよ」
銀騎士「竜を倒せるだけの魔法を・・・・・・魔法部隊は有しているって事?」
薬師「そういう事みたいです。 詳細な効果はわかりませんが、きっと完成している魔法なんだと思います」
薬師「それに、皆さん覚えていますか? 竜の個体数管理は、司令の直轄部署が行っているんですよ」
技師「て、ことは・・・・・・」
副官「模擬演習の時にはまだ・・・・・・」
銀騎士「竜は、あの地で生きていた・・・・・・?」
薬師「竜の洞窟には、当時、間違いなく竜が存在していた。 コロニーを形成していたというくらいですから、少なく見積もっても三体以上は・・・・・・」
技師「そこに、魔法部隊が対竜種の秘策を引っさげて、演習中に離脱」
副官「・・・・・・洞窟内でどのような攻防があったかは分からない。 演習中に誰も気がつかなかったくらいだから、攻防という名のやりとりがあったかすら不明瞭だが・・・・・・」
銀騎士「確実に・・・・・・何体かの竜は、その場で倒された」
薬師「そして、その場で結晶化された竜の心臓をその場に残す」
技師「誰にも干渉されないように魔法で竜の巣穴付近の場を整える」
副官「・・・・・・そうか、三年前に調査隊が発見する前に先見隊が動いていたのは、もしかしたら先に発見されないように施していた幻術かそれらの類の魔法を解呪するためだったのか・・・・・・」
薬師「体調不良の名目で演習時に抜け出していた者たちは、何食わぬ顔で、演習終了後に合流」
銀騎士「時が経ち、資源調査で再び訪れた先輩達を、何食わぬ顔で竜の巣穴最深部に誘い込む」
副官「崩落のタイミングも、首飾りが竜の心臓に近づき反応を示すタイミングで始まるように仕組まれたものだろうな」
銀騎士「竜の心臓が暴走する頃には、先見隊は王国に向けての帰路についていた。 もしかしたら、船を使うまでもなく、転送魔法で暴走前には安全圏に退避していたかもしれない」
副官「確かにな・・・・・・」
技師「ともかく、大筋としてはこんなところか」
薬師「今持ちうる情報からだと、ここまでが限界ですね」
副官「ただ、今私たちが議論していたことは仮定でしかない。 証拠は、何一つない」
薬師「・・・・・・はい」
技師「いや、何も分からなかった頃に比べたら、雲泥の差だぜ」
銀騎士「うん。 本当にありがとうございます、副官さん。 薬師も、潜入調査なんて危ない真似をさせて、ごめんね」
薬師「い、いいんですよ。 私も、片手間でやってた治癒魔法の勉強はとても参考になりましたし・・・・・・」
技師「ま、勉強だけならな~。 魔法の才能は関係ないからな、お前」
薬師「もう、兄さん!!」
銀騎士「大丈夫だよ。 薬師の処方する薬に、治癒魔法の知識が加わるんだから。 無駄になるなんてことは、絶対にないさ」
薬師「槍兵さん・・・・・・ありがとうございます」
技師「おいおい、今は銀騎士だろ」
薬師「そ、そうでしたね。 あ、しょ、称号授与おめでとうございます! ごめんなさい、言うのが遅れちゃって・・・・・・」
銀騎士「ありがとう。 別に、呼び方はどちらでもいいよ。 好きなように呼んでくれて構わないから」
技師「で、だ。 これからどうするよ。 もうちょっと深いところに踏み込んでみるか?」
銀騎士「・・・・・・そうだね。 これで終わる僕たちじゃない」
技師「だな」
副官「もちろんだ。 そこで、ウズウズしている君たちに朗報がある」
銀騎士「さすがですね」
技師「あの人の副官をやってただけはあるな」
マスター「皆さん、料理が出来ましたよ」
技師「おお! そんじゃ、料理でも食いながらその朗報っていうのを聞きましょうかね」
副官「突破口となるのは、やはり竜騎士制度という問題だ。 竜の個体数を管理し、国で取り決められた竜騎士の選抜制度。 ここに、勝負をかけるポイントがある」
技師「その制度も、今となっちゃあってないようなもんですけどね」
副官「まぁそうだな。 だが、これはある意味君にとっても重要な問題だ。 銀騎士」
銀騎士「僕、ですか・・・・・・」
副官「・・・・・・これから言う作戦は、一番銀騎士に負担がかかる。 最悪の事態も考慮しなくてはいけない」
技師「・・・・・・随分ともったいぶるんすね」
銀騎士「僕たちはこの問題に立ち向かうと決めた時から、危険とは隣り合わせだと覚悟していました。 今更ですよ」
薬師「・・・・・・」
副官「そう言ってくれるだろうと思ったよ。 私も危ない橋を渡った甲斐がある」
技師「で、渡った先にはどんなネタが待ってたんすか?」
副官「うむ・・・・・・」
銀騎士「副官さん?」
副官「・・・・・・銀騎士。 実は一体だけだが、個体数管理に登録されていない竜の存在が確認された」
銀騎士「・・・・・・っ!?」
技師「マジっすか!?」
副官「ああ。 厳重にその情報は管理されていたけど、何とか調べることができた」
銀騎士「・・・・・・それで、その竜はどこに?」