槍兵「竜騎士になりたいんです」 役所「無理です」 8/16

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徐々に近づいてくる、複数の気配が訪れるまでは・・・・・・。

陽炎のように一人、二人と増えていくローブの人影。

その気配を察して、腰の道具入れに風竜の心臓をしまい込む。

銀騎士「(司令直轄の精鋭部隊・・・・・・)」

銀騎士「なかなかの大所帯ですね。 皆さんでピクニックですか?」

魔術師「竜との契約は国の許可無く行えば重罪となります」

魔術師「銀騎士の称号を与えられたあなたが、知らないはずがない。 さぁ、我々と共に帰還いたしましょう。 司令も、こ度の件は不問として下さるでしょう」

銀騎士「やっぱり、あんた達は司令に言われてきたんだね」

銀騎士「・・・・・・いつから、僕達のことを?」

魔術師「その質問にお答えする権限を私は持っていません」

銀騎士「・・・・・・不問も何も、どうせ見ていたんじゃないですか? 風竜から竜の心臓を受け取った僕が、そうそう見逃されるなんてことはないと思うけど」

魔術師「過ぎたことは仕方ありません。 それに、心臓なら明け渡して下されば、こちらとしては問題ありません」

銀騎士「素直に渡すと?」

魔術師「思いません。 しかし、そうして頂ければ、事は穏便に済ませることができます」

銀騎士「・・・・・・また、三年前の焼き直しをしようっていうのか? 先輩・・・・・・竜騎士の時と同じようにっ」

魔術師「悲劇は繰り返させません。 そのために、我々はあなたの元に現れたのです」

銀騎士「・・・・・・もし、竜の心臓を渡す事も、一緒に帰る事も拒んだら?」

魔術師「多少の怪我は覚悟していただきます」

銀騎士「大した自信だね」

魔術師「数的有利はこちらにあります」

銀騎士「それじゃあ、魔法が僕の持っている竜の心臓に直撃して、暴走するとは考えないんですか?」

魔術師「全盛期の竜ならいざ知らず、老いた竜の魔力程度では、大した影響はありません。 それでも、我々人間にとっては膨大な魔力量を保持しているでしょうが・・・・・・」

銀騎士「・・・・・・」

魔術師「それに、あなたにとって大切な心臓なら、それこそ“身を挺してでも守って下さいますよね?”」

銀騎士「・・・・・・っ」

銀騎士「(確かに、言う通りだ・・・・・・。 結果、この体に魔法攻撃を受けることになろうとも・・・・・・)」

魔術師「いかがいたしますか? どう考えても、状況的には銀騎士様が不利だと思いますが」

銀騎士「・・・・・・そうだろうけど、僕だって、いつかこうなることを覚悟して行動してきたんだ。 何の準備もないまま、この場に立ってるわけじゃない」

銀騎士は装備している鎧の背部にマウントされていたシールドを取り外し、腕に構える。

魔術師「魔力を遮断するシールドですか」

銀騎士「あんた達にとっては天敵でしょ?」

魔術師「もちろんです。 ですが、我々とてバカではありません。 何の対抗策も持たないまま、長年魔法部隊を名乗っているわけではないのです。 対魔法防御手段を持つ相手の戦闘は、初めてではありませんよ」

銀騎士「・・・・・・」

魔術師「・・・・・・」

洞窟内の壁から、一欠片、小石程度の土塊が欠け落ちた。

それが、戦闘開始の合図となった。

魔術師たちの眼前には魔法陣が展開し、銀騎士は左手に構えた魔法防御のシールドを展開し、右手の大長槍を半身で隠す様に低く構える。

魔術師「手加減など考えるな!! 銀騎士様の鎧は魔法防御に特化していると聞く。 あの盾だけが防御の要じゃないぞ!!」

銀騎士「とっくに調査済みか・・・・・・。 そういう事なら、こっちも手加減してる余裕はなさそうだ」

魔術師達の手から連続して紫電が走り、瞬きする間もないほどの速度で銀騎士の元へと収束し、着弾する。

土塊と土煙が巻き上がり、銀騎士の姿がそれによって隠れる。

魔術師「・・・・・・上だ!!」

魔術師たちの直上、洞窟の天井に両足を着け、銀騎士の眼光は魔術師を捉えている。

銀騎士「いくぞ!!」

銀騎士は直下にいる魔術師の一人に向かって天井を蹴り、シールドを前面に出しながら懐に飛び込む。

叩きつけるようにして繰り出した銀騎士のシールドバッシュが直撃した・・・・・・かのように見えた。

銀騎士「何!?」

霧のように銀騎士の目の前から実体が消えた。

銀騎士「(ダミー!?)」

それに一瞬で気がついた時、銀騎士の足元で既にトラップとして設置されていた魔法陣が発動していた。

起動したその効果により、青白い光が稲光の様に銀騎士の全体を包む。

魔術師「対象を拘束する為の術式を用いてあります。 目には見えないだけで、あたり一面この魔法陣を設置してありますよ」

銀騎士「(相対した時に、既に呪文を唱えていたのかっ)」

魔術師「雷系統の式を利用していますから、筋肉が痙攣して身動き一つ取れないでしょう。 本来であれば、大型の魔獣相手に使うようなものですからね」

銀騎士「・・・・・・どうかな?」

魔術師「むっ!?」

銀騎士が本来であれば動けないはずの足を膝の高さまで上げ、踏みつけるようにして魔法陣へとその足を叩きつける。

ガラスの割れるような音を立てて、容易く魔法陣の束縛から脱した銀騎士。

銀騎士「そうとうお粗末な魔法なんですね。 足踏みだけで壊れちゃうなんて」

魔術師「・・・・・・その鎧、並みの抗魔力ではありませんね」

銀騎士「腕のいい職人がいるんですよ。 最高の相棒がね」

銀騎士「(それでも、若干手足の痺れは残るか・・・・・・流石精鋭部隊の魔法だ。 やはり、極力シールドで魔法を受けるのが賢明だな」

魔術師「・・・・・・流石は、王国一の騎士です。 どうやら、戦闘能力をここできちんと改めないと、こちらが早々に壊滅してしまいそうですね」

銀騎士「引くという選択肢はないんですか?」

魔術師「それは、勝算の無い状況に陥った時のみ考慮されます」

銀騎士「・・・・・・言ってくれますね」

魔術師「これでも、精鋭部隊で通っていますので」

―――城内 水路

技師「いや~。 城内潜入って、なかなかスリルがありますね。 特に、見つかったら極刑ってところに・・・・・・」

副官「ああ。 だから、綿密な巡回スケジュールや、適切な潜入ルート、もしもの時の対応策の準備が要となる」

技師「一応、小細工程度のアイテムは用意しましたけど、それを使わないようにしていきたいですね」

副官「全くだ。 そんな事態には、陥りたくないものだ」

技師「・・・・・・俺達も、頑張らなきゃな」

副官「銀騎士のことか。 そうだな。 彼は彼で、我らのために時間を稼いでくれていることだろう。 城内に司令の精鋭部隊がいないことが、何よりの証拠だ」

技師「それに、もしかしたら念願かなって、竜騎士になってるかもしれないっすからね」

副官「技師と銀騎士の仲は、随分と長いようだが・・・・・・」

技師「ええ、まぁ。 ガキの頃からずっと一緒でしたからね。 どこに行くにしても、何をするにも・・・・・・あいつと一緒だった」

副官「なるほど、兄弟のように、常に共にあったというわけだな」

技師「兄弟か・・・・・・そうっすね。 確かに、言われてみればそうかもしれない。 ただ、銀騎士とは上下関係なんて無く、常に同じ立場、同じ関係で、本当で気の合うやつってのはあいつ以外にいないっすね」

副官「羨ましい限りだ。 そんな君がいたから、彼も銀騎士という称号を得ることができたのかもしれないな」

技師「いやいや、それは違いますよ」

技師「あいつが銀騎士になれたのは、あいつの頑張りがほとんど。 俺の手助けがなくたって、いずれ立派な騎士になっていたでしょう」

副官「・・・・・・」

技師「それも・・・・・・。 竜騎士の旦那がいなくなってからは、病的だったんですよ。 オーバーワークでぶっ倒れるまで槍を振ってた時もあるし、俺や、妹の言うことも聞かずに満身創痍のまま魔物の討伐に出かけようとしたり。 まるで、強迫観念に取り憑かれたように、自分を顧みずに、ただ己を高めようとしていた」

技師「それが落ち着くのも、大体一年くらい経った後だったかな」

技師「それからだったなぁ、俺があいつに鎧を作ってやろうと思ったのは・・・・・・」

副官「ん? それまでにも、色々と作ってあげていたんじゃなかったか?」

技師「今の鎧は、妹の調合した薬剤を、戦闘中にダメージや精神状態に応じて自動的に投与できる新型も新型。 魔法防御の能力なんて、正直オマケみたいなものなんですよ」

副官「そうだったのか・・・・・・」

技師「もちろん、抗魔力に対して手を抜いたってわけじゃないんで、魔法を使ってくる相手にも有効な鎧なんですけどね。 それこそ、シールドは完全に魔法防御に特化してます」

副官「(・・・・・・恵まれてるな、銀騎士は)」 ボソ

技師「え、何か言いました?」

副官「いや、独り言だ。 気にするな」

副官「・・・・・・ところで」

技師「はい?」

副官「その、薬師は・・・・・・銀騎士と・・・・・・その・・・・・・」

技師「薬師?」

副官「いや・・・・・・何でもない。 忘れてくれ」 ///

技師「ニヤァ・・・・・・」

技師「副官殿・・・・・・もしかして・・・・・・」

副官「な、何でもないんだ。 本当にっ」

技師「はいはい。 先は長そうですし、じっくり聞きましょう」

技師「(あいつ、なんだかんだで結構モテるからなぁ)」

技師「(まぁ、結局は銀騎士のことだけしか見てないだろうけど・・・・・・)」

―――深淵の洞窟

銀騎士「(個々の能力も然ることながら、連携の取り方が抜群に上手いっ)」

銀騎士「(こちらの一挙手一投足を見極め、先読みして適時的確な魔法を放ってくるとは・・・・・・)」

銀騎士「薬師の作ってくれた回復薬と状態異常を治す薬の残量をきっちり把握しながら戦わないと・・・・・・」

魔術師「これ程やりにくい御方とは思いませんでした。 その身体能力、鎧の性能・・・・・・驚愕に値します」

魔術師「このままでは決着がつくのは相当先になってしまいますね」

銀騎士「確かに・・・・・・」

魔術師「(間違いなく、場を乱すことの出来る技の一つや二つは持っているはず)」

銀騎士「(それを、どちらが先に仕掛けるか・・・・・・)」

魔術師「(勝算で言えばまだこちらに分がある。 数的有利を確保しているうちに、畳み掛けるのが得策か)」

銀騎士「(今作戦、自分の役目はあくまで時間稼ぎ。 なら、まだここで自分から大きく動くのは早いか・・・・・・)」

薄暗い洞窟内、互の心意を探り戦闘の主導権をどのようにして動かしていくかを模索している時、まったく感知していなかった方角から心臓を鷲掴みされるような殺気を二人は感じた。

―――ぐああああああ!!

ぐはぁっ!!

魔術師「何だ!?」

銀騎士「・・・・・・っ!?」

突然洞窟内に響く叫び声。 重複して聞こえてくるのは魔法を発動した時の独特な音。

魔術師「誰だ、何者だ!?」

―――「何者だと・・・・・・? この個体を知らないとは、貴様モグリか?」

薄らと、徐々に二人の方へと歩み寄ってくるその人影に、魔術師は警戒心を高める。

魔術師「何?」

銀騎士「・・・・・・ぇ」

その声色を最後に聴いたのはいつのことだったか・・・・・・。

銀騎士「そんな・・・・・・馬鹿な・・・・・・」

銀騎士「(この声は・・・・・・いや、そんなはずがない!!)」

魔術師「銀騎士様、ご存知なのですか!?」

―――「ほう。 どうやら、勘違いではなさそうだ」

銀騎士「・・・・・・!?」

銀騎士「(やっぱり、この声・・・・・・っ)」

―――城内 地下牢 特別房

副官と技師は地下牢に辿り着き、牢のカギを技師のピッキングツールで難なく開ける。

その先にいたのは、一人頭を抱え、蹲っている男。 鎖に繋がれているといった様子はない。

技師「こいつが・・・・・・そうなんですか?」

副官「そうだ。 調査隊の先見隊として島に上陸した内の一人。 しかし・・・・・・」

技師「しかし?」

副官「上陸者名簿には、こいつの名前は無いんだ」

技師「偽名を使った・・・・・・」

副官「その可能性はある。 だが、今問題なのは、こいつが一体誰の指示でそんな事をしたのかだ・・・・・・」

囚人「・・・・・・」

副官「おい、起きろ」

囚人「・・・・・・ぅ、・・・・・・ぁ」

副官「さっさと目を醒ませ。 溶かした鉛を喉に流し込まれたいか」

技師「(キャラ変わってるぜ)」

副官「技師さん、薬師の作ってくれた精神安定剤を」

技師「お、おう」

技師は肩から下げた道具入れから薬を取り出し、囚人に投与する。

囚人「あん、たは・・・・・・」

副官「それを知る必要は貴様にはない。 私の質問にだけ答えろ。 いいな」

囚人「お、俺は何も知らない。 本当だ、知らないんだ」

副官「聞こえなかったのか? 私の質問だけに答えろ。 それ以外は口を開くな」

囚人「本当に・・・・・・知らないんだ。 助けてくれ、嘘じゃないんだ」

副官「・・・・・・」

技師「まだ若干錯乱してるな。 もう一本いっときます?」

副官「いえ、これ以上の投与はもう少し様子を見てからにしましょう」

技師「ういっす」

囚人「・・・・・・知らないんだ。 ・・・・・・知らないんだよ」

副官「・・・・・・竜を恐れているようだな? それは何故だ」

囚人「復讐しに来たんだ。 間違いない。 けど、知らないんだ。 本当に」

技師「復讐・・・・・・」

副官「・・・・・・よし、質問を変える。 お前は、何を知らないんだ? 知らないことで、何を恐れているんだ?」

囚人「教えないと、焼かれる。 いや、焼かれた・・・・・・。 家も、家畜も・・・・・・。 けど、知らないんだよ」

副官「・・・・・・竜に焼かれるのか?」

囚人「あの竜が、黒い竜なんだよ・・・・・・全部だ、全部焼いていった」

副官「黒い竜・・・・・・」

囚人「死んだと聞いていたのに・・・・・・」

囚人「どうして、今になって・・・・・・なんで・・・・・・っ」

副官「仕方ない、もう一本安定剤を打ちましょう」

技師「わかった」

狼狽え始めた囚人の首筋に精神安定剤を打ち込む。 すると、直ぐに囚人は落ち着きを見せた。

副官「二年前、調査隊消失事件の際、お前は誰の指示で、何をしに洞窟に行ったんだ? なぜ先見隊は巣穴の調査を率先して行っていた?」

囚人「・・・・・・あの時、私は、魔法陣を解呪しに・・・・・・」

副官「何の魔法陣だ?」

囚人「・・・・・・風景を歪める、幻術・・・・・・」」

副官「やはり、前もってカモフラージュ用の準備がなされていたか・・・・・・」

技師「用意周到だな」

副官「一体、誰の指示でやったんだ。 お前にその命令を下した者の名を言え」

囚人「それは・・・・・・」

司令「それ以上は、私から説明しましょうか。 お二方」

―――深淵の洞窟

淡い光が灯る中、その人影が振るっている“長物”のシルエットが微かに見て取れた。

魔術師「・・・・・・まさか!?」

魔術師「っく、もうこの場所を嗅ぎつけてきたというのかっ!!」

銀騎士「え?」

魔術師「全員!! 銀騎士様を守れ!!」

銀騎士「な、に!?」

魔術師「拘束魔法陣展開!! まずは距離を取れ!!」

銀騎士「(なぜ、魔術師達が僕を守ろうとする!?)」

魔術師「銀騎士様、説明は後で!! この場は・・・・・・がはっ!?」

目の前で魔術師達の体が木の葉の様に舞い上がり・・・・・・吹き飛んでいく。

そして、光源の少ない洞窟内に、ようやくその姿を現した人物。

銀騎士「・・・・・・」

有機的な鎧をまとい、身の丈ほどの槍を構える救国の英雄。

それは・・・・・・。

竜騎士「槍兵、久しぶりだな」

三年前に死んだと言われていた、竜騎士その人だった。

だが、銀騎士は喜びに打ち震える精神を歯を食いしばりながら自制して、警戒心を強める。

目の前の男が本当に自分の知っている竜騎士ならば、自国の人間を傷つけるような真似をしないからだ。

しかし、それでも・・・・・・。

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