少女「お疲れさま」ナデナデ
魔女「まさか丸1日飛び続けるとはな。
ケツが痛ぇー」
侍女「この氷竜でなければ、途中で力尽きていたでしょうね」
妖精「!」パタパタ
魔女「で、壁の上に着いたわけだが……霧が掛かっててよく見えないな」
少女「少し歩いてみましょう」
侍女「足元にお気をつけくださいませ」スッ
魔女「……オイ、見ろよこれ」
少女「足跡……ですね。わたし達のじゃない」
侍女「そんなに古くないもののようでございます」
魔女「っつーことはよぉ、人が居るってことか?」
少女「人かどうかはわかりませんが……とりあえず『何か』は居るんでしょう」
侍女「予想通り、ここは気温も極端ではありませんし、魔獣の気配もしません。
何者かが定住していても不思議ではないですね」
魔女「とりあえず足跡に沿って行ってみっか」
少女「風もないし、わたし達の他の音も何も聞こえませんね……」
魔女「こんな所に住むやつはよっぽどの物好きに違ぇねぇーよ」
侍女「これだけ徹底して何もありませんと、
これはこれでやはり地獄なのかも知れません」
少女「そうですね……」
魔女「全くだ。
……それより、さっきりより霧が晴れて来てないか?」
侍女「確かに視界がよくなって来ていると思われます」
少女「足跡はこのまま真っ直ぐ続いてますね」
魔女「そろそろ、なんかありそうだぜ。
気を抜くなよ」
少女「……あれは……?」
侍女「建造物……のようですね」
魔女「異常にでかいようだが……城か?」侍女「……何者かの気配がします。
強力な魔力もあの建造物から感じます」
少女「足跡はやっぱりあのお城に向かってますね」
魔女「こんな何も無いところにあんなもんおっ建てたんだ。
相当むちゃくちゃな魔導師か何かだろう」
少女「……もしかして、と言うか、
多分いま全員同じ人を思い浮かべてると思うんですけど……」
魔女「……多分な」
侍女「恐らくは」
魔女「……全員あの城に近付けてる気がしねぇーな」
侍女「認識系に作用する結界の一種が張られている可能性がございます」
少女「どうしましょう?
魔導式を逆算して部分的に破りましょうか?」
魔女「そんなまどろっこしいのはいらん。
そいつに一発派手に撃たせりゃいいんだ」
氷竜「ヴルル」バサッ
少女「そんな乱暴な……」
魔女「魔王だったらそのくらいあっさり何とかするだろ。
そら撃てッ! 凪ぎ払えッ!」
氷竜「ヴォアアッ!!」ドンッ
……バキィィイイインッ!!
魔女「そーれみろ、やっぱり結界だ。
これで呼び鈴にはなっただろ」
少女「もし魔王さんじゃなかったらどうするんですか?」
魔女「その時はその時だ。
ピンポンダッシュってことにすれば問題ねぇーよ」
少女「問題無くはないでしょ、それ……」
侍女「! 今結界が解除されたようです」
魔女「おー、やっとお出ましか?」
少女「……誰か歩いて来ますよ」
侍女「結界や幻覚の類ではなさそうですね」
魔女「もう一発ぐらい撃っとくかぁ」
氷竜「ヴルルァ」
少女「ダメですってば!」
魔女「オイ忘れたのか? 僕は魔王をぶっ殺しに地獄まではるばる来たんだぜ?
地獄で死んだらどうなるのかってのを今ここで実験して、
冥界七不思議を六不思議にしてやんよ」
「相変わらず物騒なやつだ。
そんなだから単細胞言われるんだぞ」
少女「――――!」
侍女「この声は……」
魔女「よし決めたッ撃てッ! 今すぐ撃てッ!」
氷竜「ヴォヴルァアァアアァッ!!」ドーンッ
妖精「っ! っ!」パタパタ
――――この小競り合いの衝撃波で、
冥界では神殿が傾くわ地獄の釜の蓋は開くわの大騒ぎになった。
その時の魔女は、まるで女の子が父親に走り寄って飛びつくような、
とびっきりの笑顔で魔王を殺しに掛かってていたと言う。
これは、相変わらず壊滅的にぶっ飛んだ魔女と、
少し成長した魔法使いの少女の冒険の物語。
終わり。
まさかの二部完。
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妖精「♪」パタパタ
侍女「お祭りのようだ、と言っているようです。
確かに、もし今この付近にいる人間がみな町民なら、
ここ一帯は人間界最大規模の城下町になりますね」
術師「しかも人間界……で一番多国籍……かつ多文明……の魔導都市」
魔女「どっちかっつーと、今すぐ世界大戦がおっ始まりそうな雰囲気だけどな。
っつーかなんでてめぇーがここに居んだよ」
術師「屍霊術師……としては地獄と言う場所に興味……がある」
魔女「あーそーかい。じゃあ今度連れてってやんよ」
術師「……わくわく」
少女「あぁ、もう……なんでこんな事に……」ガクッ
侍女「! どうやら外で動きがあったようです」
魔女「おおッ、ドンパチか?」
術師「ここで大戦勃発……したらコレが仕掛け人……歴史に残る。汚点として」
魔女「うッせぇー。戦場のど真ん中に投げ込むぞ」
術師「そもそもコレ……があっちこっちで弟子自慢をしたせい……
どの国も魔王の後継ぎと同盟……を結びたいのが本音」
侍女「勇者派遣協約もすっかり形骸化しつつありますしね」
少女「協約?」
侍女「東西南北の四帝国で結ばれた一つの国際協約でございます。
魔王討伐による世界平和の維持のため、
定期的に各帝国から有能な戦士や魔導師を派遣して、
この任務に当たらせると言うものです」
魔女「まぁ表向きはそうなってるが、実際は魔王退治で人材を『消耗』させて、
それぞれの帝国が互いの戦力が強くなりすぎないようにするための一種の軍縮協約だな。
もし討伐に成功したら、それはそれでえれぇーアドバンテージになるから
どこも文句は言わねぇーけどよー」
術師「派遣されるパーティー……はたまったものじゃあ……ない」
魔女「しかしそう考えると、あの勇者は結構骨のあるやつだったんだなぁ」
侍女「しかし……魔王様がお亡くなりに……
と言うより地獄に移住されたので、事情が変わったのでございます」
魔女「人間のてめぇーなら同盟交渉の余地があるって思われたんだろ」
少女「……同盟交渉って、いきなり軍隊を派遣してするようなものなんですか?」
術師「それがコレ……のせい。
四帝国での『魔王後継者』の評価……これ」ペラッ
【魔王後継者について】
……人間族の少女であるが、魔王の魔力を受け継いでおり、
魔王以上の比類無き才覚を有し、魔導・魔術・人外外法に通じ、
一国を易々と滅ぼす地獄の氷竜を従え、
しかもその氷竜を一瞬で葬り去るほどの力を有する……
少女「頭が痛くなって来ました……」
術師「……誉めすぎ」
魔女「その方が師匠の僕に箔が付くだろうが」
侍女「だから使節団ではなく、軍隊を派遣して来たのですね」
魔女「しかも四帝国が同じタイミングで来たもんだから、
睨み合いになってるわけだ」
術師「それで小競り合い……が起きてる……」
少女「はぁ……とりあえず、様子を見て来ますよ」
侍女「お供致します」
魔女「ちゃんと全面衝突の総力戦に持ってけよな」
侍女「どこから交渉に行かれますか?」
少女「まずはあの小競り合いを止めます。
まったくもう……」パリッ、バチチッ
バキィィイイインッ!
氷竜「フュウゥウヴ……」ズゥウウゥン
ウ……ウワァアアアアアア
侍女「両国の兵士が散り散りに逃げて行きましたね。
争っていたのは西の帝国と北の帝国のようです」
少女「これでよし。
別にどこからでもいいんだけど、西の帝国から行ってみようかな……」
ガチャ
少女「ただいま帰りました」
術師「おかえり……どうだった?」
魔女「全面戦争かッ」
少女「同盟を結ぶとすれば、四帝国それぞれと同時だと言っておきましたが……
どうにも頭の固い人達ばかりでしたね」
魔女「なんだつまんねぇーな。
見た目で舐められてんじゃねぇーの」
術師「わかる人……にはわかる……もの」
少女「はぁ。ありがとうございます」
妖精「!」パタパタ
魔女「ん?
あ、そうそう。てめぇーらが出かけてる間に、こっちにも客が来たぜ」
少女「そうなんですか?」
魔女「妖精界対人間界、全面戦争のお知らせだ。
そっちでバトらねぇーならこっちを頑張ってくれよ」
侍女「妖精界……でございますか?」
魔女「おうよ。連中の特使が来てな。
さすがに目ぇ付けられてるよ、僕らは。
そこらの帝国よりよっぽど危険な障害だと思われてるらしいぜ。
留守だっつったら、また来るってさ」
術師「前途多難……がんばって」
魔女「てめぇーも僕らの勢力の一人として数えられてただろうが」
術師「……満更でもない」
魔女「そーかい。そりゃ結構」
少女「また頭痛の種が増えた……」ガクッ
妖精「?」サスサス
侍女「どうかお気を確かに」
少女「……今日はもう休みます」
侍女「今すぐ寝室の準備を」
魔女「多分明日また来るだろうから、徹底抗戦、見敵必殺の旨をきっちり伝えろよ」
術師「相変わらず……魔王より魔王っぽい……」
……バタン。
術師「……でも、どうして……妖精界が?」
魔女「さぁ。暇だったんじゃねぇーの」
少女「おはようございます」
妖精「!」パタパタ
術師「おはよう……よく眠れた?」
少女「おかげさまで、それなりには……」
術師「昼前には特使……がまた来る」
少女「あぁ、そんな話でしたね……」
侍女「おはようございます。
朝食の準備ができました」ペコリ
少女「魔女さんは?」
術師「昨日夜更かし……してたからまだ寝てる」
少女「そうですか。
じゃあ先に食べちゃいましょう」
術師「いただき……ます」
侍女「どうぞこちらの部屋へ」
少女「特使って、どんな方でした?」
術師「少しの間……しか居なかったからよくわからない……
……けど、かなり強烈な魔力……を纏ってた……つまり臨戦態勢」
少女「やっぱり警戒してたんでしょうか?
軍隊で来られなかっただけよかったのかな……」
術師「妖精界の軍隊……は滅多に妖精界から外に出ない……
……大概の場合、魔導砲術団……が妖精界から一発……打ち込むだけで、
戦争……は終わる。防御結界に特化した要塞……でもないと、
一瞬で辺り一帯が灰……になるから」
少女「物騒ですね……」
術師「妖精は魔導工学にも、魔導そのもの……にもずば抜けて秀でてる……強敵」