魔王「しっかし、因果なもんだなぁ。
母親を奪われた娘、か。
昔を思い出すぜ。
……あいつら上手くやってるかな?」
――――ガシャン
魔女「お、帰って来たな」
勇者『……』
魔女「どうだったよ、試運転の方は? ん?
ちゃんと『動いてるものを見ると、憎悪がメラメラ湧いて止まらなくなった』か?」
勇者『……なぜ、俺をあんな所に飛ばした?』
魔女「あんな所?
それはつまり、『戦争もなく、魔族もいない、
豊かで穏やかな平和そのものの王国の首都』ってことか?」
勇者『……』
魔女「そりゃお前、決まってんだろ。
そっちのが面白いからだっつーの。
あの国じゃお前、魔王として語り次がれるぜ。
はははははははははッ」
勇者『……魔王……』
魔女「こいつはいよいよ傑作だなー発明品的な意味でよぉ。
平和ボケした国一個ぐらいなら、問題無く皆殺しの血祭りに出来る、と。
そんじゃこの調子で、次行ってみよう!」ガチャン
勇者『魔王……魔王……』ブツブツ……
――――バシュッ
ザワザワ……
少女「ここは……?」
侍女「ある辺境の貧しい小さな国でございます。
もうすぐここは、あの赤い軍隊によって滅ぼされるでしょう」
少女「どうして……」
侍女「理由はいくらでもありますし、理由など必要ありません。
彼らは、彼らの国の赤い紋様を持たないものを全て敵だと判断し、憎悪しています」
少女「……」
侍女「じっとしていれば、あなた様も何人もの兵に犯され、殺されてしまうでしょう。
ここにいる国民たちも同じです。
……これ以上、わたくしから申し上げることはありません」
少女「……わかり……ました」バキッ……バリリッ……
侍女「御武運を」ペコリ
――――ヴゥン
魔王「おっと、お帰りー」
侍女「ただ今戻りました」
少女「……」
魔王「……まぁ、無事で何よりだわな。
とりあえず飯にしよう」
侍女「今すぐ」
少女「わたしは……疲れたので……眠ります」
魔王「そうか。
じゃあ、飯は部屋まで付き添った後で」
侍女「かしこまりました。
さぁ、こちらへ」
少女「……」フラフラ……
魔王「うーむ。
ああなるのは、やはり人間と魔族の違いか」
侍女「それでは、おやすみなさいませ」
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……きっと、魔王様があなたに魔導の力を託されたのは、
いずれあなたが母君と再開した時に、あなた様の手で、
守りたいものを守れるためだと……わたくしは考えております」
少女「……」
侍女「……失礼いたします」
……バタン
少女「……ママ……」
魔女「よぉーしよしよし、連続試運転も問題無さそうだな。
メンテナンスで問題無けりゃ、もう何機か量産ラインに乗せて見るか。
棺の中身はもう確保してあるし」
勇者『……』
魔女「すっかり無口になったなぁ、オイ。
まぁ別にいいけど。
魔王城攻略まで秒読み開始だ」
勇者『……魔王……』ギギッ…
魔王「いただきまーす」
少女「いただきます」
侍女「ごゆっくりどうぞ」
魔王「調子はどうだ?」
少女「はい、だいぶ慣れました」
魔王「そうか。そりゃ重畳。
多分そろそろだと思うんだよなー、連中が来るの」
少女「……」
魔王「だから、そろそろ仕上げに行こうかと思う。
実は冥界と竜界から、それぞれ結構ヤバい頼まれ事しててな。
うっかり地獄からはみ出たでっかい怨霊の退治と、
どっかで変なもん食ってイかれた狂竜の討伐だ。
これがこなせたらもう怖いもの無しだろう」
少女「はい。頑張ります」
魔王「これをキミに……って早いな。
まぁ、そう言うことだ。
今回は私が付いてくから、お前は留守番頼んだぞ」
侍女「かしこまりました。
道中お気をつけて」ペコリ
魔王「最近、すっかり凛として来たな」
少女「そうですか?」
魔王「大魔導師の風格だ。
実際、人間界ではもう上から両手で数えられるぐらいの能力はあるだろう」
少女「杖とドレスのおかげです」
魔王「いや、キミ自身の資質。
でなきゃどんなに道具が良くても、ここまで使いこなせない」
少女「そう……なんでしょうか」
魔王「違いない。術式中の警備はもう安心して任せられる」
少女「……」
魔王「緊張してるのか?」
少女「いえ……
……一つ、聞いてもいいですか?」
魔王「ん?
構わんよ」
少女「このドレス……前は、どんな方が着ていたんですか?」
魔王「……」
少女「夢で会ったんです。
このドレスを着た、綺麗な女の子と……
その子が、わたしに語り掛けてくれました」
魔王「……なんて言ってた?」
少女「『あの人はとても優しいから、周りで誰かが支えてあげないといけない』って。
そう言ってました」
魔王「そう、か」
少女「……」
魔王「……」
少女「……」
魔王「……それを着てたのは、妖精界第二皇女。
そのドレスは、その子が私の所に預けられた時に、魔界由来の障気から守るために私が仕立てたものだ」
魔王「昔々、魔界がもっと野心的だった頃、魔界と妖精界は戦争していた。
でもそのうち互いに疲弊して、停戦協定が結ばれることになった。
その時に……まぁ魔界が優勢だったもんだから、
人質として第二皇女が私の城に来ることになったんだ」
少女「……」
魔王「あの子の母親は、戦いの中で死んだ。
私が殺したんだ」
少女「!」
魔王「妖精界ではその時、どうも王権あたりで揉めてたらしくてな。
第二皇女の母親と第一皇女の母親が違うのが原因だったりしたらしいが……
とにかく、第二皇女の母親が最前線に立っていたのも、その辺りの問題なんだろう。
彼女は自分が死ねば戦争が収束に向かうことも解っていたようだった。
だから、わざわざ私に直接頼みに来たんだ。
『娘をお願いします』ってな。
人質として私の所に第二皇女を差し出すまでが、その母親の描いたシナリオだったんだろう。
って言うのも、実は私とその母親はちょっとした知り合いでな。
色々と因縁があったりしたんだが……まぁとにかく、そう言うわけだ」
少女「……」
魔王「それで、私の城に来たあの子は、開口一番私にこう言ったんだ。
『お母様を返して』ってな」
少女「……それで、魔王さんは……?」
魔王「私は『わかった』と答えた。
かなり面食らってるみたいだったな。
ははは、今でも覚えてる」
少女「……」
魔王「ところが、ちょっと邪魔が入って、結局上手く行かなかったんだよな。
それに、その第二皇女も結局は……死んだ。
これはまぁ、事故みたいなもんだが……私が不甲斐なかった結果だ」
少女「魔王さん……」
魔王「死ぬ直前には、それなりに私を信頼してくれているようだった。
死ぬ瞬間も、私の身を案じてくれていた。
優しい子だったな……
……って、なんか辛気臭い話になっちゃったな。ごめんごめん」
少女「……わたし、わかります。
その子の気持ち」
魔王「そうかい?」
少女「難しいことはよくわからないけど……魔王さんは、いい人だと思います」
魔王「魔王がいい人なんて言われたら、面目丸潰れだなぁ」
少女「わたしは、魔王さんの役に立ちたいです。
今はまだ未熟ですけど、きっといつか、侍女さんみたいに……」
魔王「はは、そりゃいいや。
期待してるよ」
少女「はい!」
魔王「とか言ってる間に、もうすぐ城だな。
着いたら丁度飯の時間だ」
少女「そうですね。楽しみです、侍女さんのご飯」
魔王「な。うまいよな、あれ」
【留守みたいだからまた来る
魔王なんだから城に居ろっつーの!
追伸:邪魔な茨とメイドは燃えるゴミに出しておきました。
僕って優しい!
追伸2:メイドの首が「申し訳ありませんでした」
「今までありがとうございました」だってさー】
少女「……これ……」
魔王「あっちゃー。
城壁にでっかい落書きしやがってあの馬鹿」
少女「侍女さん……」
魔王「うーむ。
あいつとも結構長い付き合いだったんだが……仕方ないな」
少女「……」
魔王「次、連中が来た時は、熱烈歓迎パーティーだ。
なぁ?」ビキッ…バキンッ…バチチッ…
少女「はい」バギギッ……ビリッ…バチンッ…
魔王「とは言え、準備はもう出来てるんだよなー。
あとはいつ連中が来るかなんだが」
少女「こちらから行くのは?」
魔王「誰かが面倒見てないと、蘇生術式の魔法陣が壊れちゃうんだよね。
だからそれはちょっと不味い。
術式の性質的に、一回壊れると組み直しに何百年も掛かる」
少女「そうですか……」
魔王「いっそ、ママさんをさっさと蘇生しちゃうってのもありかもな。
元々その間を警護してもらうって話だったし。
あー、でもあの腐れ魔女が相手となると、キミだけじゃちょっと不安かなぁ。
あいつがあっさりやられるぐらいとなるとさすがに……」
少女「……」
魔王「でも、二人で戦いに出ると、魔法陣が無防備になるのが問題だし。
こりゃ弱ったな」
少女「なんとかわたしに出来る範囲で――――」