魔女「……くぅ……くぅ……」
少女「よく寝てるなぁ魔女さん。
このところ歩き詰めだったし、疲れてるのかな。
寝てたら普通の女の人……ん?
この人、一体何歳なんだろ……」
ガサッ、ガサガサッ
少女「!」バッ
魔女「んん……」ポリポリ
ガサガサッ
キキッ、キー
少女「な、なんだ……リスか。
ほら、魔女さんのローブなんかにちょっかい出してたら、
手足千切られて変な箱に入れられるよ。しっしっ」
キキー
タタタタッ…
少女「あーあ、こんなぐちゃぐちゃに……」バサッ
……ポロッ
少女「あれ? これは……」カサ…
チュン、チュンチュン…
少女「魔女さん、わたしに何か隠し事してるでしょ?」
魔女「はぁ? 何のことだ?」
少女「別にいいんですけどね。
ただ、腐らせておくには勿体無い魔導装置の設計図を見掛けた気がしただけです」
魔女「……てめぇー……」
少女「悪戯なリスさんが見付けてくれたんですよ。
わたしは落ちたものを拾っただけですからね。
条件次第で手伝ってあげますよ」
魔女「こんのクソガキ、なんでそんな偉そうなんだよ」
少女「魔女さんじゃこのレベルの高魔力放出と書式の精密再現が
安定しないからお蔵入りにしちゃったんでしょうが、
わたしならギリギリなんとかなるレベルです」
魔女「チッ……誰がてめぇーになんか頼むかよ」
少女「いいんですか?
会いたいんでしょ、魔王さんに」
魔女「……」
少女「地獄の果てまで会いに行く、って魔女さんらしいじゃないですか」
魔女「馬鹿にしてんの?」
少女「まさか」
魔女「……条件次第ってのは?」
少女「ギブアンドテイクってやつですね。
わたしのは魔女さんに取ってはそんなに難しいことじゃないですよ」
魔女「なんだよ、言ってみろ」
少女「わたしは地獄の門を開く魔導装置の起動を手伝う。
魔女さんは侍女さんを蘇らせるのを手伝う。
悪い話じゃないでしょ?」
少女「侍女さんって魔導人形だったんですね。
って言ってもゴーレムや魔導傀儡じゃなくて、
人工妖精を魔導装置に宿すタイプのですけど……
記憶はお城にあったメンテナンス機材から復元できます。
でも、わたしがこの水準の魔導工学を自由に扱えるようになるには、
まだまだ果てしない時間が掛かってしまいます」
魔女「はん。それで僕の出番ってわけか」
少女「そう言うことですね」
魔女「なにが『そんなに難しいことじゃない』だ。
そこらへんの魔導工学と、妖精界でも最高峰の技師レベルだった
魔王の謹製魔導人形を同列に並べるんじゃねぇーよ」
少女「でも、魔女さんならできるんですよね?」
魔女「……当たり前だ」
少女「じゃあ交渉成立ってことで」
魔女「クソ胸糞悪ぃーが、妥協しといてやるか……
言っとくけど失敗したら許さねぇーからな」
魔女「何にせよ、一旦僕の工房に戻らないといけないな」
少女「侍女さんの方がなんとかなったら、わたしと侍女さんで冥界に行ってきます」
魔女「冥界? なんでだ?」
少女「地獄って冥界の地下深くにあるんですよね?
前にお城の書庫で、魔王さんの友達だった冥王さんが編纂した、
地獄に関する書籍を読んだことがあるんですが……」
魔女「そんなんがあるのか」
少女「冥界でも地獄についてはほとんど把握できてないみたいで、
最後に地獄に行ったっきり戻って来なかった人がいたのが1000年前、
最後に地獄から戻って来た人がいたのは8000年前だそうです」
魔女「……やべぇーんじゃねぇーの、それ」
少女「魔王さんも『あんなの死ぬ前に行くとこじゃないね』って言ってました」
魔女「……」
少女「なので、とりあえず魔女さんが行く前に、
出来る限りの情報を集めておこうかと思いまして」
魔女「なるほどな。
その間に僕は装置の方を組み上げる、と」
少女「はい。どうですか?」
魔女「まぁいいだろう。それで行くか」
魔女「しっかし……これが設計図か。
設計図自体が一つの魔法陣になってんな。
複雑過ぎて普通の魔導師にはまず読めん」
少女「それも偶然書庫で見つけたものです」
魔女「よく残ってたな。
作図されたのが妖精界の二つ前の王権の時だぞこれ」
少女「結構無造作に置いてあったんですけどね……
それで、その、なんとかなりそうですか?」
魔女「んー……正直これは想定外の難易度だが、とりあえずやってみっか。
資材自体はここのあり合わせで間に合いそうだしな」
少女「よろしくお願いします」ペコリ
――――ガシャッ
魔女「ふー。
素体の方はこれでパーペキだな」
少女「……どう見ても侍女さんですね」
魔女「問題は人工妖精の方なんだけどよー。
魔導工学に召還魔術と錬金術をブレンドした技術が要るんだわ。
これに必要な水準の召還魔術は基本的に専門家でないとキツいぞ」
少女「どうするんですか?」
魔女「知り合いに丁度いいのがいるから、軽く殴ってコツを聞くか」
少女「はぁ」
魔女「墓の下に住んでて、いっつも死体いじくり回して、
毒虫やらよくわからん木の根っこやらで遊んでるやつだ。
一緒に来るか? 最近はすっかり希少種になった屍霊術師だぜ」
少女「……遠慮しておきます」
魔女「あっそ。
じゃあ僕はちょっと行ってくるから、留守番頼んだぞ」
少女「お客さん来たらどうしましょうか?」
魔女「客ぅ?
滅多に来るやつはいねぇーが、まぁもし来たら待たせとけ。
そのうち帰って来るってな」
少女「はぁ」
魔女「勝手にそこらへんのもんいじったらぶっ殺すからな」
……バタン
少女「……何してよう」
少女「工房の中は掃除もできないし……
……召還魔術か。ちょっと試してみようかな」ガタン、
ガリガリガリ、ガリガリ…
少女「えーと、魔法陣はこんなもんかな?
とりあえず、ちっちゃい火蜥蜴のにしてみよう。
んー……」ポゥ…
……パキッ
パキンッ…ギギッ……ボッ!
蜥蜴「……」ノソノソ
少女「おー、できたできた。
案外なんとかなるものなのかな?
他も試してみようっと」
……バキンッ
シュウゥ……
少女「うーん、またダメか。
ある程度複雑な魔導式と魔法陣の組み合わせになると、途端に難しくなる……
多分何かコツがあるんだろうなぁ。
魔導式はある程度回路を自動化して……これでどうだ」ガリガリ
ポゥ……
少女「んんん……えいっ」バリッ
バキッ
ビリビリッ……バチンッ!
天馬「ヴルル……」バサッバサッ
少女「やった!
この方向性で魔導式を書き換えて行けばもうちょっと上階層のもできるかな?」
……バギ……ギギッ
……シュウゥ
少女「ダメだー。
魔導式の自動化にも限界があるね。
根本的な術式の組成を考え直さないといけないのかな……
でも魔法陣は基本的にいじれないし、魔導式はこれ以上複雑には出来ないし……
どうすればいいんだろ……」
……バチッ、バチンッ、
バギギッ……バギンッ!!
翼竜「ゴァアァッ!」バサァッ
少女「?!」バッ
術師「複雑な……魔導式と魔法陣……を組み合わせる術式……では……
……魔導式と魔法陣……の間に回路を対応……させる変換式……
……を置けばいい……回路の自動化……までは正解」
少女「……あなたは?」
術師「ここ……の工房の魔女……の知り合い……屍霊術師……をやっている」
少女「え? 魔女さんの?
……ってことは、魔女さんと入れ違い?」
術師「アレと話す……のは疲れる……すぐ叩くし……怒鳴るし……
次の満月……にアレが来る……のを守護霊が暗示……したから……
……入れ違いになる……ようにこっち……に来た。
要件……は知ってるあなたに……人工妖精の召還……を教える」
少女「あはは……わざわざありがとうございます」ペコリ
術師「あなたは才能……がある資質……がある。
独学……で幻獣族の召還……は普通無理……あなたに教えたいそれに……
……アレになにか教える……のが嫌」
少女「酷い言われようだ……」
術師「人工妖精……は厳密……には召還物……じゃあない。
錬金術の人工精霊……に近いけどより魔導的……な存在。
魔力から生成……されるもの……その生成術式……にたくさん召還術……
……との共通……する手順……がある」
少女「ふむふむ」
術師「人工妖精にも上級種……から下級種……まで色々な種別がある。
今回必要……なのは最上級の人工妖精……だから難しい」
少女「難しいと言うと、どのくらい……?」
術師「……魔王を倒すぐらい」
少女「それは難しいですね……」
術師「とにかく……下級種の生成……から始める。
魔導式と魔法陣……はこれ」ペラッ
少女「うわっ、下級種でこの複雑さですか!」
術師「中間変換式……の使い方がわかれば簡単……になる多分。
……やってみて……見てる」
少女「が、頑張ります。
まずは魔導式……」ガリガリ、ガリガリガリガリ……
ポゥ……
……パキッ、パリッ!