リンリンリン、リンリンリン、
術師「噂をすれば……」
侍女「どういたしましょう?」
少女「とりあえず、応接室に通してください」
侍女「かしこまりました」
少女「術師さんも来てもらえますか?」
術師「わかった……行く」
ガチャ、
侍女「どうぞこちらへ」
特使「……」
少女「初めまして。
一応魔王代理をやってる者です」ペコリ
術師「その師匠の知り合い……」
特使「お初にお目に掛かる。
私は妖精界第二魔導工学研究室の副室長をやっている者だ」
少女「この度はわざわざどうも。
昨日は留守にしてて申し訳ありません」
特使「いや、それは一向に構わない。
それより、本題に移ろう。時間が惜しい」
少女「はぁ」
術師「せっかち……」
特使「妖精界は、人間界に対し間も無く宣戦布告を行う。
これは王室の決定であり、恐らく覆されることは無い」
少女「……いきなりですね」
術師「ね……」
特使「この宣戦布告には、勿論それなりの理由がある。
まずはそれについて簡単に説明したい」
少女「……」
特使「主には二つある。
一つは、現王権に反駁する者を黙らせる、もしくは炙り出すためだ」
術師「それ、言っちゃって……いいの?」
特使「もう一つは……人工妖精の問題がある」
少女「!」
侍女「……」
特使「妖精族、特に王家の血筋に近い者は、自らの血に大きな誇りを持っている。
実際に妖精族の中でも魔力的に特に優れた者を多く輩出しているからだ。
しかし、人間界の何名かの魔導師は、この『王家の血』に模した、
極めて精密精緻な人工妖精を生成し、これを使役する技術を持っている」
術師「……話が見えて来た」
特使「現に、そこにいる侍女もそうだ。
……素体は妖魔大戦当時の第二皇女であろう。
彼女は少し特殊な血筋ではあったが……
いずれにせよ、王家の者にはそれが許せないのだ。
王家の血が人間に隷属するなどあってはならないと考えている」
少女「……」
特使「そして、人工妖精を使役する人間、
退いては人間に隷属する全ての人工妖精を、
この上なく嫌悪し、憎悪しているのだ。
なので、今回の宣戦布告と相成った」
侍女「……」
魔女「要するに、てめぇーんとこのくっだらねぇー選民意識が原因なわけだな。
どこでも戦争の原因ってのは、暇潰しか、差別か、もしくはそのどっちもかのどれかだ」
少女「魔女さん……」
術師「大体、妖精界……にもホムンクルスの生成技術……があるはず。
それも原理的……には人工妖精の生成技術と同じ」
魔女「大方、僕らのサンプルでもこっそり持って帰って、
早速ホムンクルス作る気だったんじゃねぇーの?」
特使「……」
少女「本当に、この戦争は避けられないんですか?」
特使「……一研究者には判断しかねる」
魔女「けっ。こう言う時だけ研究者面かよ」
特使「……伝えるべきことは以上だ」ガタンッ
少女「特使さん」
特使「……なんだ」
少女「例えばですが、侍女さんには、拘束術式は施されていません」
侍女「……」
妖精「!」パタパタ
少女「この子もです。
侍女さんもこの子も、自分の意思でわたしと共に歩んでくれています」
特使「……自分も魔導研究者の端くれだ。
その位は最初からわかっている」
侍女「……では、僭越ながら申し上げます。
王家には王家の誇りがあるのかも知れませんが、
わたくし達にはわたくし達の自由意思と誇りがあるのです。
わたくしの誇りは、この城に、この方に使えることです。
何人たりとも、この誇りを陰らせることはできません」
術師「かっこいい……」パチパチ
少女「あなたにも、あなたの誇りがあるでしょう。
それをよく考えてみてください」
特使「……失礼する」
……バタン。
魔女「いけ好かねぇーやつだな」
術師「妖精界……では魔導技術の研究……は完全に王権の管理下……にある。
こちらとは文化……も価値観……も違うからある意味……しょうがない」
少女「あの人なら、きっとわかってくれますよ」
侍女「わたくしも、そう思います」
妖精「!」コクコク
魔女「ま、話が通じたところでどうしようもねぇーけどな。
僕は工房に戻るぜ。色々準備があるし」
術師「……あなた……はどうするの?」
少女「わたしは、四帝国で同盟を結ぶように説得して来ます。
人間同士で争っている場合ではないと。
……それが終わったら、妖精界に行きます」
魔女「っつーわけで、はるばる来たぜ妖精界!」ドーン
術師「工房に帰る……んじゃなかったの?」
魔女「何言ってんだよ。
『ハイパーかっこいい魔女と不愉快な仲間達の冒険・妖精界征服編』に
主人公が居ないわけにはいかないだろーが。
だからこないだの『門』だって妖精界仕様に改造してやったんだろ」
術師「自己顕示欲……のかたまり」
魔女「うるせぇー!」
少女「とにかく、とりあえず首都を目指しましょう。
あまり目立たないように……ってもう手遅れかな……」
侍女「以前より更に荘厳で巨大な造形になっていますね、あの門」
魔女「階段も13段まで減らした改良型だぜ。
妖精界にも似たようなもんはあるだろうが、
地獄にも竜界深部にも対応してるやつはそうそう無いな」
術師「すぐ張り合いたがる……お子ちゃま」
魔女「お前だけ今から地獄行くか? あ?」
少女「侍女さん、地図を」
侍女「はい。すぐに用意いたします」ガサゴソ…
バサッ、
侍女「こちらが妖精界の地図です。
書庫にあったものですが、これはかなり正確なものかと思われます」
魔女「お、僕の持ってるやつより細かいな」
術師「魔導式……が施されてる」
侍女「暦に従った回路に魔力を流せば、
その年月日時点での移動地形や浮島の座標も厳密に表示されます」ポゥ…
ジジッ…ザザザザ……
魔女「おー、地図が書き換わったな」
侍女「便利……」
少女「今いる場所もこの印を見れば一目瞭然ですね」
術師「首都は……これ?」
少女「それですね。
ここからだとそんなに距離は無いはずです」
魔女「そうなるように設定したからな。
……まぁ問題と言えば、僕が使ってた地図はそんなハイカラなもんじゃなかったから、
移動地形に乗った妖精軍哨戒基地がすぐそばに来てたってのを知らなかったっつーことだ」
術師「三方向から多数……の魔力源の移動……を感じる」
魔女「早速お出迎えか」
侍女「どういたしましょう?」
少女「ここで捕まるわけにはいきません」パリッ、パキキッ
「目標消失しました!」「機器系統は全て異常無しを示しています……」
「探せ。まだこの付近にいるはずだ」「はッ! 直ちに!」
「ここに足跡が……」「結界解析班が到着……」
魔女「なんだ、腕慣らしに一発かましてやろうと思ったのによー」
術師「目と鼻の先……なのに全然気付かれない……」
少女「『門』の構造を応用した術式です。
魔導的存在階層を僅かにずらしたことで、
わたし達は通常階層からは魔力質量ゼロとしてしか認識されません」
侍女「つまり、彼らから見れば完全に『消失』したと言うわけでございますね」
魔女「なるほどなー。術式の痕跡も残らないから追跡も難しいってことか」
術師「しかも全員分……無駄魔力垂れ流し……してるコレまで……すごい」
少女「あまり長くは保ちませんけどね」
魔女「一々喧嘩売りつけないと喋れねぇーのかてめぇーは」
少女「では、このまま首都の王宮まで行きましょう」パキッ、パリッ……
魔女「そんなに保たないんじゃねぇーのか?
あの門を連続稼働させてるようなもんなんだろ?」
少女「そうですね。
大体この人数だと三日間ぐらいかな」
術師「それでも三日……」
魔女「改めて、大概規格外だなてめぇーも」
侍女「しかし、近いとは言ってもここから首都までは大河を越えなければなりませんし、
三日で歩ききれる距離でしょうか?」
少女「大丈夫ですよ。
わたしに考えがあります」
皇帝「……わかった、下がって良いぞ」
大臣「失礼致します」
……バタン。
皇帝「やれやれ……戦争か……」
――――バキンッ
少女「どうも初めまして、皇帝さん」ペコリ
術師「ここが……執務室……すごい結界装置……」
魔女「お疲れ気味の所申し訳ねぇーけど、お茶でも淹れてくんない?」
侍女「では、わたくしめが」カチャカチャ
妖精「♪」パタパタ
皇帝「……は?」ガタンッ
術師「まさか氷竜……ごとあの術式……を施して首都まで飛ぶなんて……」
少女「さすがに半日弱しか保たなくなりますけど、間に合ったでしょう?」
魔女「都市の周りを雲の上まで貫いてた結界も完全スルーだったしな」
侍女「王宮の結界もまた同様です。
どんなに堅牢でも、そこに存在しない者の侵入は拒めない」トポポポ……
魔女「おー、いい香りだな」
侍女「携帯型魔導ティーセットでございます。
どうぞお熱いのでお気を付けて」カチャ、
魔女「ちょっと防犯対策考え直した方がいいんじゃねぇーの?
さっきここの裏庭に氷竜が着陸したんだぜ」ズズッ
術師「これが戦争……だったらチェックメイト」