少女「魔王さんなら、ママを生き返せるのかな…」 15/17

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少女「あそこの人達はもういないのよ。

誰もあなたをいじめないし、閉じ込めたりしない。

あなたはもう自由なの。

わたし、嘘ついてる?」

魔竜「……ついてない」

少女「わたしのこと、怖い?」

魔竜「……怖くない。

お姉ちゃんは?」

少女「あなたのこと?

もう怖くないわ。最初はどんな子かと思って心配してたけどね」

魔竜「……お姉ちゃんと一緒にいく」

少女「ほんとに?」

魔竜「うん。あそこよりお姉ちゃんと一緒がいい」

少女「そう、ありがとう。よろしくね」

魔女「話がまとまったなら、そいつの垂れ流してる魔力をなんとかしてくれッ……!」

魔竜「くぅ……くぅ……」

魔女「暢気な寝顔だな畜生」

少女「魔力の扱いは一瞬で理解してくれましたね。

防衛本能でああやって周りを警戒してたんですよ」

侍女「嘘と真を見分ける力もあるようでござますね」

少女「幼さゆえの力か……竜王の眼の力でしょう」

魔女「竜王だぁ? そいつ竜王族の混血なのか?」

少女「おそらくは。

わたしの杖の眼と共鳴していましたし、眼の色が同じです」

侍女「その力のおかげで、説得が楽だったのですね」

少女「本当に助かりました。

まだ兵器としての開発は初期段階だったようですね」

魔女「僕はあいつと平然と喋ってたてめぇーが一番おっかねぇーよ……」

侍女「それにしても、いきなり随分懐かれてしまいましたね」

少女「……今まで誰にも優しくされたことが無かったのかも知れませんね……」ナデナデ

魔竜「……くぅ……くぅ……」ギュッ…

魔女「そんじゃあ、僕はまだ用事があるからここからは別行動だな」

少女「そうですか。それでは、お気を付けて」

侍女「あ、ちょっと待って下さい」

魔女「何だよ?」

侍女「結局、魔王様のことは――――」

魔王「私がどうしたって?」

魔女「うわぁああああああああああッ?!」ブンブンブン

魔王「おっ、よっ、危ないなぁ」ヒョイヒョイヒョイ

少女「魔王さん。どうしたんですか?」

魔王「そっちに位相跳躍できるこの体と通信強度の実験と、……

……あと、そのついでにちょっとした報告にね」

少女「報告ですか?」

魔王「そうそう。

やっとちゃんとした魔王後継者が魔界で決まったわけよ。

そう言うわけで、長い間魔王代理お疲れ様、って話をしに来たんだよな」

魔王「まぁだからって君に何か特別してもらうことも無いから、

別に気にしなくてもいいんだけどねー」

少女「はぁ。そうですか。わかりました」

魔王「そのうち次期魔王が挨拶に来ると思うけど、

適当にあしらっとけばいいさ」

侍女「お二人の見事なスルーっぷりに、

質問の答えを頂く間もなく飛び去って行ってしまわれました……」

少女「今度またちゃんと聞きましょう」

魔王「ん? 何の話?

……ところでさぁ、そのずっと君の後ろにいる子は?」

魔竜「……」ササッ

少女「実はですね……」

魔王「魔族と竜族の……

確かに私も結構長いこと魔王やってたけど、そんな話は寡聞にして聞いたことがない」

少女「そうですか……」

魔王「しかし……エグい潜在魔力量だな」

少女「魔導式演算能力もずば抜けてますね」

魔王「世の中広い。

すんごい弟子を取ったもんだな」

少女「弟子と言うか……生徒?」

魔王「どっちにしろ、これはまた世界の勢力図が書き換わるぞ」

魔竜「……」

魔王「なぁ。この子、いい人だろ?」

魔竜「……」コクン

魔王「しっかり言うこと聞けよ。

そしたらまぁ大丈夫だ」

魔竜「……」コクコク

魔王「なーんだ、ちゃんと話のわかるやつじゃないか」ナデナデ

少女「素直ないい子ですよ」

魔竜「……」ギュッ

侍女「なんとも微笑ましい図でございます」

魔王「じゃ、私はそろそろ地獄に戻るから。

戻るっつっても元々地獄に居るんだけどね」

少女「室長さんが、魔王さんの魔導人形製作技術は妖精界の何千年先を行ってるって仰ってましたよ。

地獄からの位相跳躍に耐えて、かつその精密動作性を持った人形なんて絶対作れない、って」

魔王「ベースは妖精界の魔導工学だから、無理ってことはないだろうがなぁ」

少女「どうでしょうね」

侍女「魔王様」

魔王「ん?」

侍女「魔王様は、……」

魔王「おう、なんだ?」

侍女「あの……」

少女「……魔王さんは、魔女さんのこと、好きなんですか?」

コンコン…ガチャ、

少女「只今戻りました」

室長「おお、帰ったか。

……その子が?」

少女「はい。

さぁ、挨拶して」

魔竜「……こんにちは」ペコリ

室長「あぁ、こんにちは。

……なんだか拍子抜けだね」

少女「自然放出された魔力だけで、

魔女さんと侍女さんに膝をつかせるぐらいのことはできるようですけどね。

魔導の才能も全く底も天井も見えません」

室長「君がそれを言うのか……

……ならば、君が正しくその子を導いてあげなさい。

その子が力の使い方を間違えぬように。

その子が再び闇に閉ざされた道を歩むことの無いように」

少女「はい。全力で勤めます」

魔竜「……」

少女「こちらの環境にこの子が慣れるまでのしばらくの間、休暇を頂いても?」

室長「もちろん構わない。

君に全て任せるよ」

少女「ありがとうござます。

……じゃあ、行こっか?」

魔竜「うん、お姉ちゃん」ギュッ

……バタン。

室長「魔王代理の少女に、魔族と竜族の混血児……か。

この世界はまだまだ我々には及びもつかない不可思議な法則に溢れているな」

魔竜「……これなに?」

少女「それは春告草ね。

春が来たことを最初に知らせてくれる花」

魔竜「春……?」

少女「春って言うのは、あたたかくて優しい季節のことよ」

魔竜「……春。楽しみ」

少女「ええ、そうね」

サァァァァ…

サワサワサワ…

少女「さて。

今日からしばらくここで一緒に住むことになります。

ここであなたが学校に通うための準備をしないといけません」

魔竜「準備?」

少女「って言っても、特に何か身に付けないといけないってわけじゃないんだけどね。

これはあなたが学校で何をやりたいかを一緒に考えるための時間かな」

魔竜「何をやりたいか……」

少女「魔導術式学、魔導工学、魔導史学、魔導生物学、錬金術学、術式演算学、

召還術式学、呪術学、魔法陣学、魔法学、魔法文学、……他にもたくさん。

何をやってもいいから、ゆっくりやりたいことを見付けるの。

そのための手伝いをわたしがするわ」

侍女「わたくしも微力ながらお手伝いいたします」ペコリ

少女「困ったこととか、わからないことがあったら何でも聞いてね」

魔竜「……うん」

少女「じゃあ、まずは……魔導式の書き方から勉強しよっか。

術式は魔導式と魔法陣からできてて……」

少女「……と言うわけ」

魔竜「これがこうで……こう?」

少女「そうそう。この術式は省略しても大丈夫でしょ?」

魔竜「うん、わかった」

侍女「御夕食の準備ができました」

少女「じゃあ、続きはまた後でね。

ご飯食べよ」

魔竜「うん」

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