少女「魔王さんなら、ママを生き返せるのかな…」 8/17

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……バタン。

少女「ちょっと久しぶりですね、お城に戻るのも」

侍女「そうですね。

すっかり埃がたまってしまって……」

少女「誰かが住んでないと、どんどん廃れてしまいますね。

冥界から帰って来たら大掃除しましょうか」

侍女「名案にございます。必ずやいたしましょう。

……ところで、そちらの方は?」

少女「え?」

妖精「……」ジー…

少女「あれっ、私が一番最初に召還した人工妖精だ。

拘束魔導式は解除してたし、てっきりどこかに飛んでったと思ったのに」

妖精「……」パタパタ

侍女「……付いて行きたい、と言っているようですね」

少女「うーん……別に好きなところに行っていいんだよ?」

妖精「……」フルフル

侍女「あくまで、自由意志だと」

少女「そうなんですか?

じゃあ……仕方ないですね」

妖精「……」ペコリ

侍女「よろしくお願いします、だそうです」

少女「こちらこそ」ペコリ

妖精「♪」パタパタ

少女「……ちょっとこの妖精さん、最初の頃の侍女さんと似てますね」

侍女「そう……でしょうか?」

番犬「ガウッ!」「ヴヴーッ」「ガオンッ」ガツガツ

冥王「あーっ!

『まて』って言ってるのにーっ!」

少女「あのー……」

冥王「あ、魔王の後継ぎちゃんと侍女ちゃんだ」

少女「はぁ。少しお伺いしたいことがありまして……」

冥王「いいよ。上がっていきなよ。

久しぶりのお客さんだ」

少女「お邪魔します」

侍女「失礼致します」

番犬「「「ヴルル……」」」

冥王「地獄にねぇ……」

少女「はい」

冥王「魔王のことだから、多分地獄ででもそれなりに快適に過ごしてるとは思うけどね。

会いに行くとなると……」

少女「やっぱり厳しいですか?」

冥王「そもそも地獄って無茶苦茶広いし、どこにいるやら」

侍女「地獄の地図と言うのはございませんか?」

冥王「あるにはあるけど、8000年前の誰かがほとんど空想で書いたやつだよ」

少女「それでもいいんで、見せて貰えますか?」

冥王「えっとね……どこに直してあったかな」

妖精「!」パタパタ

冥王「ん? あぁここか。

よくわかったね」ガサゴソ

妖精「♪」エッヘン

侍女「どうやらちょっとした魔術を無意識のうちに使ってるようです」

少女「すごいね……」

冥王「そもそも地獄では空間の連続性がこことは全く違うし、

自然法則も魔導法則もめちゃくちゃになってるから地図なんてあてにならないんだけど……」バサッ

少女「これが地獄……」

侍女「……」

冥王「真ん中に小さい正方形が書いてあるよね?」

少女「はい」

冥王「この四角が、人間界と冥界と魔界と妖精界を全部足した面積なんだって。

その地図だと、地獄全体の1024分の1ぐらいってことになってるのかな」

少女「はぁー。すごい広さですね」

侍女「想像がつきません」

冥王「しかも、地獄はどんどん大きくなってるって話らしいよ。

それだけ地獄に堕ちるやつが多いってことなんだろうけどさ」

少女「8000年前でこれなのに、今はどんなことになってるんだろう……」

冥王「さっぱりだね」

侍女「この赤い部分と青い部分は何なのでしょうか?」

冥王「それはそれぞれ炎獄と氷獄を表してるんだって。

その間には、地獄の端っこからでも見えるすんごい高い壁がそびえてるそうだよ」

侍女「なるほど……」

少女「……」

侍女「この北の方の黒い山は?」

冥王「『灰の山』としか書いてないね。

ものすごい悪臭がする風が吹き下ろしてるらしいから、

多分地獄のゴミ捨て場か何かじゃないかな?」

侍女「ゴミの山ですか……それだけでこの正方形の200倍以上あるのですね」

冥王「何にせよあんまり行ってみたくない所だね。

大体地獄はその灰の山と炎獄と氷獄の三つのエリアに分かれてるって噂だよ」

少女「魔王さんだったら……この中のどこに行くでしょう?」

冥王「そうだねぇ。寒いのは苦手らしいよ」

侍女「暑いのもお嫌いのようでございました」

少女「だからって臭いところに行くような人でもないし……」

妖精「!」ツンツン

少女「え? そこは壁……あ、そっか。

灰の山から一番離れた所で、炎獄と氷獄の丁度真ん中の壁の上なら、

暑くも寒くも臭くもない……のかな?」

冥王「うーん……どうだろうね。

そもそも、そう言う不届き者が出ないように高い壁になってるんだろうし」

侍女「しかし、魔王様ならあるいは……」

冥王「……うん。なんか十分ありえる気がする」

少女「ですね」

少女「この辺に当たりを付けて探せば見つけやすいかも知れませんね」

冥王「まぁ、この地図の信憑性にも拠るけどねぇ」

侍女「そう言えば……冥界から地獄を調査しに入った方と言うのは、

どう言うルートで入られたのですか?」

冥王「冥界のずっと西の方に、むちゃくちゃ深い谷があって、

その谷底が地獄に通じてるって言う伝説があるんだよね。

確かに底から火柱が上がったり、吹雪が吹き出したり、

なんかよくわかんない化け物が漏れ出したりはしてるけど、

実際の所どうなってるのかはわからないままなんだ。

谷を降りてる途中でそう言うのに出くわしたらアウトだし」

少女「むしろこの地図を書いた人がどうやって行って帰って来たのかが気になりますね……」

冥王「それが冥界七不思議の一つなんだよねー」

少女「……あれ?

じゃあ、死んで地獄に堕ちる人はどうやって地獄に行くんですか?」

冥王「それも冥界七不思議の一つだよ。

一応、ここを通ってるのは確かなんだけどね。

たまに虹みたいに亡者の橋が掛かってるよ。

でも、それこそ虹の根元を探せないみたいに、

亡者がどこに行くかもわからないんだ」

少女「そうなんですか……」

冥王「まぁあえて魔導の論理で考えるなら、この世界そのもの、

森羅万象すべてが巨大な魔導式と魔法陣によって運営されてるもので、

その設定された書式の中に『死んだらどこに行くか』って言うのも組み込まれてるのかもね」

少女「では、お忙しいところお邪魔してすみませんでした」ペコリ

冥王「いいっていいって。冥王って意外と暇だし」

少女「いえ、そんな……」

冥王「またいつでも来なよ。

あ、これお土産ね」ヒョイ

少女「これは……?」

冥王「炎獄から拾って来た水晶のかけらだってさ。

本物かどうかはわからないけど、大概の炎ならそれが吸い込んでくれるから、

もしかしたら役に立つかもしれないよ。

はい、侍女ちゃんにもあげる。あなたにもね。あと魔女ちゃんの分も」

妖精「♪」ペコリ

侍女「よろしいのですか? そんな貴重なものを頂いてしまって」

冥王「ここにあってもしょうがないからねぇ。

まぁ、もし地獄から帰って来れたらまた色々教えてよ」

少女「はい、必ずまた来ます」

冥王「ばいばーい」ヒラヒラ

番犬「「「ガウッ」」」

魔女「ほー。それがこの水晶か」

少女「はい。

まだ試してませんけど、かなり強力な魔力を秘めてるみたいですね」

魔女「まぁなかなか有意義な話を聞いて来たみたいだし、

とりあえずはよしとするか」

少女「装置の方は?」

魔女「九割方完成してる。あとは試運転と、細かい調整だな。

それは明日やるか」

少女「わかりました。

じゃあ今日はもう休みますね」

魔女「おう」

侍女「おやすみなさいませ」ペコリ

妖精「……」パタパタ

ドッドッドッドッ……

フシュゥウーッ……

魔女「よっしゃ、準備出来たぞ。

魔導回路は可能な限り最適化してるが、必要に応じて適当に術式足してくれ」

少女「わかりました。

では、魔導式詠唱入ります」

侍女「……」

妖精「……」パタパタ

少女「――――我を過ぐれば憂いの都あり、

我を過ぐれば永遠の苦患あり、

我を過ぐれば滅亡の民あり」

ゴゴゴゴゴ……

少女「義は尊きわが造り主を動かし、

聖なる威力、比類なき智慧、第一の愛我を造れり」ポゥ…

ゴゴゴゴゴゴッゴッゴッゴッゴッ

少女「永遠の物のほか物として我よりさきに造られしはなし、

しかしてわれ永遠に立つ――――」バチッ…バチバチッ…

ゴッゴッゴッガギッゴッゴッガッゴッゴッゴッギギッゴッ

少女「――――汝等ここに入るもの一切の望みを棄てよ」

…ゴギンッ!

ズドォォォオオオォオオンッ!!

ゴォオオオォオォォ……

魔女「……こいつか地獄の門か。

まさか一発で成功するとはな」

侍女「凄まじい魔力を感じます」

少女「術式には門の形に関する指定はなにも無かったのに、

ずいぶん仰々しいデザインと言うか……」

魔女「そりゃまぁあんな魔導式読んだらこうなるのが当然だろ。

それっぽくていーじゃねぇーか」ザッ

少女「えっ、今から行くんですか?」

魔女「当たり前だろ。なんで今行かないんだ?」

少女「……それもそう……なのかなぁ」

侍女「わたくしは地獄の果てまでお供致します」

妖精「!」コクコク

魔女「決まりだな。

『ハイパーかっこいい魔女と不愉快な仲間達の冒険・地獄篇』だ」

カツン、カツン、カツン、カツン、……

魔女「この139段の下り階段の一段一段には、

生身の生き物を可能な限り極限環境や魔力汚染から防護する術式が埋め込んである。

飛ばすんじゃねぇーぞ」

少女「はい」

侍女「かしこまりました」

妖精「っ、っ、っ」ピョンッ、ピョンッ、ピョンッ

魔女「とは言っても、冥王の言に従えば、

そんな小細工がどこまで通用するかもわからねぇーがな」

少女「魔導法則が乱れた世界、ですからね……」

魔女「どうなってんのか皆目見当もつかん。

まぁなるようになるだろ。

見ろ、言ってる間に出口が見えて来たぞ」

少女「……」

侍女「……」

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