侍女「これは……『門』の構造術式でございますか」
少女「まさか半日も経たずにここまで理解するなんて……」
侍女「……わたくしが、あなた様に魔導の手解きをしていた頃を思い出します」
魔竜「……いいにおい」
少女「今日も美味しそうですね」
侍女「ありがとうござます」ペコリ
少女「じゃあ、冷めないうちに頂きましょう」
魔竜「……?」
少女「どうしたの?」
侍女「何かお嫌いなものがあったのでしょうか?」
魔竜「これなに?」
少女「これ……ってどれ?」
魔竜「この机にあるいいにおいのするの」
侍女「……あの研究所では普段はどんなものを食べておられたのですか?」
魔竜「苦かったり変な味がするちっちゃい石みたいなの」
少女「……わたしの真似をしてみて」カチャカチャ
魔竜「うん」カチャカチャ
少女「……」パクッ
魔竜「ん」パクッ
侍女「どうでございますか?」
魔竜「……苦くない。ちゃんと味がする」
少女「明日、本格的に魔導薬依存などの検査しましょう。
保護時の報告書はあてになりません」
侍女「はい」
魔竜「これ、口の中が、いいにおい?」
少女「それは『おいしい』ってことよ」
魔竜「おいしい」パクパク
侍女「光栄でございます」ペコリ
魔竜「はぁ……」ケフ
少女「ごちそうさまでした」
侍女「いえいえ」
魔竜「明日は? 明日もこれ?」
少女「明日はまた違う、他のおいしいものよ」
魔竜「……明日の明日は?」
少女「それからもずっと、おいしいもの」
魔竜「……嬉しい」
侍女「これは、わたくしが精進しないといけませんね」
少女「わたしも期待していますよ」
魔竜「あれ、なんか……眠い」ウトウト
少女「お腹いっぱいになったからかな?」
侍女「寝室の準備はできております」
少女「じゃあ、今日はもう寝よっか」
魔竜「うん……」
侍女「こちらです」
少女「さて、わたしもこの書類の処理が終わったら寝ますね」
侍女「お疲れ様でございました」
少女「……明日があの子に取って、楽しい幸せな日であることを願います」
侍女「明日もきっといい日になりますよ」
少女「……そうですね」
侍女「はい。わたくしはそう確信しております」
侍女「改めまして、連日遅くまでお疲れ様です。
おやすみなさいませ」
少女「侍女さんも、あまり無理しないようにお願いしますね。
おやすみなさい」
……バタン。
少女「……はぁ」
ドサッ
少女「なんだかよく眠れそう……」
……コンコン、コンコン
少女「ん? どうぞ、なんですか?」
ガチャ、…
魔竜「……」
少女「あれ、どうしたの?」
魔竜「……明日も、痛いことしない……?」
少女「あぁ、……怖い夢を見たのね。
こっちに来て」
魔竜「うん……」
少女「明日も、その次の日も、誰もあなたに痛いことはしないわ。
わたしや、侍女さんが守ってあげるから」ギュッ
魔竜「……」
少女「今晩はここで寝る?」
魔竜「……」コクリ
少女「じゃあちょっとこっちに詰めて……はい、どうぞ」
魔竜「……あったかい」
少女「安心しておやすみなさい。
なにも怖くないから」ナデナデ
魔竜「……うん……」
室長「検査結果が出た。これだ」
少女「……」ペラッ、ペラッ、ペラッ、…
室長「見ての通り、やはりいくつかかなり問題のある数値が出ているな」
少女「魔導薬や実験の影響でしょうか?」
室長「それはおそらく間違い無いだろう。
……ところが、これも見てほしい」バサッ
少女「これは……」
室長「2日後に念のため行った同じ検査だ」
少女「……数値がわずかに正常に近付いてますね」
室長「魔導汚染に対する恐るべき順応力と抵抗力のなせる業だろうな。
他に要因として考えられるとすれば……君との生活だろう」
少女「……」
室長「最近はだいぶ君以外の者とも話すようになってきたようだが、
話す内容はいつも君とのことだ。とても幸せそうにしているぞ」
少女「このまま行けば……」
室長「あぁ。そう遠くないうちに、通常の授業にも参加できるようになるはずだ」
少女「……よかった」ホッ
室長「いやはや、すっかり姉か母のようだな」
少女「そう、……ですか?」
室長「しかし、一つ気になることがある」
少女「と、言うと……?」
室長「君だよ。君のことだ。
確かにあの子が今まで年相応の愛情を受けられなかったのは不運なことだった。
……だが、君もまだ世界の事情を背負い込むには……幼すぎる。
君も年相応の幸せを享受したり、時には誰かに甘えたりする権利があるはずだ。
違うかね?」
少女「……わたしは、……」
魔竜「……それで、すごく綺麗な花がいっぱい咲いてた」
侍女「それは素晴らしいですね。
わたくしが前に妖精界に行った時は、とてもそんな観光をする暇はありませんでした」
魔竜「今度、侍女さん達と一緒に来たい、って言ってたよ」
侍女「それは楽しみです」
魔竜「うん。楽しみ」
侍女「それにしても、お二人は最近ますます仲がよろしくなって来ていますね」
魔竜「あのね……お姉ちゃんが手を握ってくれるとね」
侍女「はい」
魔竜「体があったかくなってきて」
侍女「はい」
魔竜「……ドキドキする。
嬉しいんだけど、ちょっと恥ずかしくなったり……これ、なに?」
侍女「……なんでございましょう?」
魔竜「わからない?」
侍女「申し訳ございません」ペコリ
魔竜「なんなんだろ、これ」
侍女「直接聞いてみては?」
魔竜「お姉ちゃんに?
それは……だめ」
侍女「なぜですか?」
魔竜「……なんだか、恥ずかしいから……」
侍女「それは……困りましたね」
魔竜「うん……」
ゴゴゴゴゴ…
魔王「おい、話が違うじゃねぇーか。
なんでお前が魔王職後継なんだよ。
内定してたやつはどうしたんだよ」
「何百年も王子やってたら飽きるんだもの。
暇すぎてちょっと色々やっちゃった。
だってあんたのせいで第一王位継承者なのに魔王になれないとか酷くない?」
魔王「お前みたいな馬鹿を魔王にしないために決まってんだろが」
王子「ま、どーでもいいからちゃっちゃと魔力寄越してよ。
それが決まりだろ。次期魔王は前任者から魔力貰えるってやつ」
魔王「あ? んなもんねぇーよ。
195年分はすっからかんだ」
王子「……げ、ガチじゃん。
なんで? なんで? なんでそんなミイラみたいになってんの?」
魔王「さぁな。帰れ帰れ」
王子「おっかしいな……なんでだろ……んんー? ……あ、ひょっとしてアレか?
もしかして例の代理人にあげたとか?」
魔王「馬鹿は馬鹿らしく馬鹿みたいにしてりゃいいものを……」
王子「やっぱりそうか。
じゃあそっちに貰ってこよっと」
魔王「言っとくけど俺より強いからな、魔王代理」
王子「はいはいわかったわかった。
ちゃきっと貰って来てやんよ。
それから、魔王らしく魔王してやらぁ」
魔王「はん、やって見やがれってんだ」
王子「見てろよー元魔王」バシュッ、
魔王「……やれやれ。不味いことになったぞ」
少女「やっぱり竜族だけあって、竜の召還は得意みたいね」
魔竜「うん。イメージしやすいからかな」
少女「じゃあそろそろ日も暮れて来たし、そろそろ帰ろっか。
まだ夜は冷えるし」ギュッ
魔竜「あっ……うん……その、……うん、お姉ちゃん」モジモジ
少女「どうしたの?」
魔竜「……なんでもない、よ」
少女「そう?
ならいいけど……
今日のご飯はなにかな?」