妖精「?」キョロキョロ
少女「ふー……できました!」
術師「……」
少女「あれ? ダメ……ですか?」
術師「一回目で成功……するとは思わなかった……
さすがに魔王……の後継ぎか」
少女「し、知ってるんですか?」
術師「あなたこの界隈……では割と有名人。
『竜王の眼』と『妖精の衣』……と『魔王の才覚』……を持った幼い……魔女って」
少女「そうなんだ……」
術師「アレ……が『そんなヤツが僕に弟子入りした』……って言いふらしてるから」
少女「あはは。
……これは喜んでいいのかな?」
術師「実際あなたの才覚……はすごい。
それはアレ……も認めてる。
ねぇ……この際うちの研究室……に来ない?」
少女「えーと……考えておきますね」
術師「是非……じゃあ次、これ……」ペラッ
少女「はい」
術師「ここから一気……に難しくなる……頑張って」
シュウゥ……
少女「手応えはあるんですが、さすがになかなか上手く行きませんね……」
術師「まだ始めてから数時間……充分な成果。
アレが帰って来る前……には術式は完成する」
少女「だといいんですけどね。
そろそろ暗くなって来たし、ご飯にしましょうか?」
術師「これ……飲むから平気。
食事の代わり、これ」スッ
少女「お薬ですか?」
術師「霊薬……タウリン入ってる。元気……になるよ。いる?」
少女「……遠慮しておきます」
術師「元気……になるのに……」グビッグビッ
ガチャッ、
少女「お休みになられるなら、こちらでどうぞ」
術師「これあなた……のベッド?」
少女「ごめんなさい、この工房には魔女さんのとわたしのしか無いんです」
術師「それは全然……問題無い……けどあなたはどこで……寝るの?」
少女「わたしはもうちょっと練習してから、工房で寝ます。
慣れてるんで平気ですよ」
術師「……そう、ありがとう。
じゃあ……また明日」
少女「はい。おやすみなさい」
……バタン。
術師「……あんな助手……本当にほしいな」
少女「……よし、これだ」ポゥ…
パリッ…パキンッ……ギギッ……
……バチンッ!
妖精「……」シュウゥ…
少女「できた!
術式を安定させる補助魔導式を足せばいいんだ……」カキカキ
妖精「……あの」
少女「えっ?」ビクッ
妖精「あなたがわたくしの主ですか?」
少女「あっ、うわっ、びっくりした。
えーと、はい、まぁそう……かな?」
妖精「わたくしは何をすればいいですか?」
少女「あ、えと、……練習で召還したと言うか、えーと……」
妖精「わたくしは何をすればいいですか?」
少女「困っちゃったな……どうしよう」
術師「拘束魔導式を解除……すればいい。
術式には最初……からそれが組み込まれてる」
少女「あ、おはようございます。
拘束魔導式……これかな。えいっ」パキンッ
妖精「!」
少女「はい、これであなたは自由ですよ。
わたしの命令に従う必要はありません」
妖精「……どこに行っても、いいのですか?」
少女「もちろん。……大丈夫ですよね?」
術師「その魔力水準……なら十分自然界……でも独立できる。大丈夫」
少女「だ、そうです。
練習に付き合ってくれてありがとうございました」ペコリ
妖精「……」ペコリ
フワッ……
少女「うわー、飛んでいっちゃった」
術師「驚いた……一晩中やって……たの?」
少女「いえ、寝てたんですけど、ちょっと今朝方に試してみたい方法を思いついて」
術師「……お疲れさま」
少女「いえいえ、なんのこれしきです」
少女「ところで、術師さんの研究室までどのくらい掛かるんですか?」
術師「ルートに……よるけど大体片道……5日から10日ぐらい……かな」
少女「結構掛かるんですね、やっぱり」
術師「アレがあんまり早く……戻ってこないように結界……
……いっぱい作ったから……往復2ヶ月は掛かる……ふふふ……ふふ」
少女「あはは……」
術師「でも1週間も掛からなさそう……あなた、飲み込みが早すぎる。
そうなると……暇になっちゃうな……」
少女「んー、多分ですけど、もう言ってる間に魔女さん帰ってくると思いますよ」
術師「……そんな気がする。
早いうちにお暇……しよう」
ガリガリ、ガリガリガリ……
術師「もう上級種の妖精……も呼び出せるよう……になってるはず。
中級種と特別種……は上級種と同じ手順……で大丈夫」
少女「はい」
ガリガリガリ、ガリッ
術師「でも、特別最上級種……しかも精密魔導装置の機関……として呼び出す人工妖精は……
……普通の術師にはまず扱えない……色々条件……がある」
少女「条件、ですか?」
術師「そう、条件……」
術師「……まず魔力水準……使う魔力は僅か……
……でも膨大な魔力保有量の後ろ盾がない……とこの術式は使えない……
これはあなた……なら問題無い」
少女「はい」
術師「それから……魔導式の超高速演算……魔法陣の超精密展開……
……これを同時にできる……術師としての資質……これもあなた……なら大丈夫」
少女「ありがとうございます」
術師「最後に……呼び出す人工妖精……の強固なイメージ……
内在的な象徴……を媒体にして……人工妖精を召還……する」
少女「イメージ……」
術師「最上級の人工妖精……は知性も魔力……もずば抜けて高い……
つまり……個性がある……しかも安定している……
……この矛盾すら内包……する魔力運用のイメージ……
……できそう?」
少女「……はい。大丈夫です」
術師「そう……じゃあやって……みて。
ここで見てる……これは手伝えない」
少女「わかりました。やってみます。
えと、魔導式を書き足して……」ガリガリガリ……
ペラッ
【ごゆっくり。】
魔女「あの腐れ死体マニアめぇぇぇええええッ!!」ビリビリビリ
少女「召還媒体はこの侍女さんのメンテナンス機材の中枢と……それからこのドレス」
術師「その……ドレス?」
少女「はい。
魔王さんも多分、このドレスを媒体にしたはずですから」
術師「……そう」
少女「よし、魔導式、魔法陣、補助術式全て準備できました」ポゥ…
術師「集中して……イメージを強く……」
少女「はい……」
…キィィ…ィイイイイインッ
バキッ…ギギッ……バチンッ……
少女「……侍女さん……戻って来てください……!」カッ
バリバリバリッ――――
――――バァン!!
魔女「今帰ったぞッ」
少女「あ、お帰りなさい」
魔女「留守中に死体みたいな見た目の死体みたいな喋り方する死体マニアが来なかったか?」
少女「すごく綺麗で優しい人でしたよ」
魔女「あぁそうだよ、ムカつくぐらい顔はいいよあいつは!
だから黙ってても勝手に馬鹿な貴族が研究費用出すんだろうよ!」
少女「……」
魔女「僕を見てボロい工房を見回してしかも納得した顔すんなクソガキッ!
で、あいつはどーした? 一発絞めないと気がすまねぇーッ」
少女「ついさっき出発されましたよ。
『絶対アレに見付からないルートで帰る。ばーかばーか』って言ってました」
魔女「うがぁあああああ腹立つぅううううう」
魔女「それで召還の方はどうなったんだ?」
少女「あぁ、それなんですけど――――」
侍女「夕食の準備が整いました」ペコリ
少女「はい、今行きますね。
……と言うわけです」
魔女「お前がやったのか? 術式は?」
少女「一応これなんですが……」ペラッ
魔女「どれどれ……
……なんじゃこりゃあ!
こんなもん人間にできるわけないだろ!」
少女「あの、裏面に術師さんの注意書きがありますよ。
この術式を使うにあたっての」
魔女「あぁ?」ペラッ
【単細胞には一生無理。ばーかばーか】
魔女「あいつ殺す。絶対殺す。
百回ぶっ殺す」
少女「とりあえず夕食にしましょうよ。
侍女さんの料理、すごく美味しいんですよ」
侍女「恐悦至極でございます」
少女「それじゃあ、わたしと侍女さんは冥界に行って来るんで」
魔女「あー、そう言う話だったな」
少女「冥界はお城の地下から行けるから、そんなに時間は掛からないと思います」
侍女「およそ2日の旅路でございますね」
魔女「はん、そうかよ。
じゃあ精々役に立つ話聞いて来いよな」
少女「はい。装置の組み上げは任せました。
行って来ますね」
魔女「おう。土産忘れんなよ」