魔王「お前の泣き顔が見てみたい」 10/18

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

勇者「これは・・・・・ッ!!」

王「・・・お前にこの魔法を破壊する魔力がもう残っていないことなどもう

わかっている」

勇者「・・・・ッ!!ぐっあっ・・・・がっ!?」ビキビキ

勇者はこの激痛を知っている。何故かはわからないが体が覚えている。

王「くはは、どうだね。30年振りの激痛の味は」

勇者「それは・・・どういう、事だ・・・・ッ」

王「ああ、そうだった。お前は覚えていないのだったなぁ、30年前の

あの事を」

王「しかしこの20年間のお前の《勇者》としての働きは素晴らしいもの

だったよ」

心底愉快ような笑みを浮かべて王は言葉を続ける。

王「・・・お陰で今度こそ魔族を一匹残らず殲滅できる」

勇者「・・・・王、貴方は・・・・ッ!!」

王「何も私が知らなかったとでも?お前がこの20年間何をしていたかを、

私がそこまで無能だとでも思ったか」ドカッ

勇者「ぐっ・・・・」

王「いやはや、この20年間お前がずっと魔族に媚を売ってくれたお陰で

随分と奴らの守りが薄くなった。その点については感謝している」

王は勇者の血に濡れた金色の髪を掴みあげる。

王「だがそんな事はどうでも良いのだよ」

王の笑みが一層深まる。

王「私にとって重要な事はお前に《勇者》として奴らとの壁を薄くする

ことではない。その20年という期間こそが必要だったのだ!!」ガスッ

王「そうだ。・・・・全てはお前を殺す為だ、勇者」

勇者「ごほっ・・・・殺すなら30年前に殺せば良かっただろう」

王「ああ、ああそうだな。できるならそうしていた。」

王の表情が狂喜から憤怒に切り替わる。

王「だが殺せなかったのだよ!!お前は!その力を半減させたとしても

この私でさえ!殺す事ができなかったのだ!・・・ああ、なんという化け物だろうな」

王「逆に殺そうとすれば、その力が暴走しこちらが皆殺しにされる可能性

があったのだよ。・・・だから私はお前に楔を打ち込んでおいたのだ」

勇者は激痛に脂汗を滲ませながらかすれた声を漏らす。

勇者「・・・・それがこの首輪、か」

王「ああ、そうだ。その首輪はただの魔具ではない。呪われた魔具なのだよ。

なにせお前ほどの存在にその力が届くのだからな。それを創り出した

存在はある意味お前と同様の存在と言えるだろう」

王「・・・・その魔具は《元始の魔王》が創り出したものなのだよ」

痛みを驚愕が上回る。

勇者「《元始の魔王》と僕が・・・・同じ・・・だと?」

王「・・・そうだ。お前がただの化け物だとでも?笑わせるな。・・・

私はお前以上にお前の事を知っている」

王「そうだな、冥土の土産に教えてやろう。大昔の伝承だ、もっとも

この事を事細かに知っているのは今では私ぐらいしかいないだろうがな」

王「・・・この伝承ではお前という存在は《神の子》と呼ばれている」

勇者「《神の子》・・・・?」

王「そうだ。真に《神の祝福》と《神の加護》を受けた者のことと記さ

れている。私から見ればただの呪いにしか見えんがね、・・・簡潔

に言い直してやろうか」

王「生まれでたその時から世界を改変するほどの魔力を有している存在、

それを《神の子》というのだ」

王「魔法を行使するという事はその一定空間における事象改変を行う事

と同義だという事はお前も知っている筈だ。そしてその規模はその

対価として消費される魔力量によって左右される」

勇者「・・・・」

王「・・・初めて《神の子》がこの世に生まれ出たのは遥か昔の事だ。

そのときの世界には・・・・・魔族などというおぞましい存在はいなかった。

もちろん魔界もな」

勇者「・・・・そん、な」

王「・・・もうわかる筈だ。元々魔族など存在しなかったのだ、本来

この世を支配するべきは人間なのに!!それを《神の子》は邪魔をした!!

魔物を、魔界を作り出したのはその《神の子》なのだ!!!!!そしてその

《神の子》は自身の存在を創りかえ、・・・・《元始の魔王》となった」

王「当時我ら人間が有していた技術は奴らが生み出した魔法の前に

完膚なきまでに叩きのめされた。そのせいで我らは世界の半分に

追いやられたのだ。その世界の半分を人間界、その片割れを魔界

と今では呼ばれるようになったがな」

王「奴らが人間界に攻めてくる事はなかった。脆弱な魔物を除いてな。

それは強い魔力を持つ者は魔界の赤い空の下でないとその力を

充分に発揮できないからだ、と今ではわかっているが。だがたとえ

脆弱な魔物であっても、ごく僅かな魔力しか持たない我ら人間に

とっては恐怖の対象である事に変わりはない・・・・!!我らは常に

恐怖にさらされて生きていたのだ」

王「だがそこで我らの救世主になったのも新しく生まれた《神の子》

だったのだ。人間共はほんの一部を除いてその《神の子》を

救世主だと信仰した、私は違うがな」

王「そして《元始の魔王》に一人で立ち向かう《神の子》の勇気溢れる

その様を見て人間は奴を《勇者》と呼ぶようになった」

王「《元始の魔王》と《勇者》元々同じ存在だ。結果はおのずとわかるだろう?」

勇者「・・・・相討ち」

王「・・・・そうだ。そこから魔族と人間の力は徐々に均衡を保つようになり今に至る」

勇者「・・・今では人の方が勝る、か」

王は狂喜に顔を歪める。

王「・・・そうだ。今では我らの方が強く、賢い」

バリンッ と何かが壊れた音がした。

王「・・・ほう、その残り少ない魔力でこの巨大な魔法陣を壊すとはな。力

だけではないようだ」

勇者「・・・でもそれは幾万もの魂を縛ってまでやる事じゃない」

勇者は立ち上がる。

王「・・・・やはり知っていたか」

王がその笑みを変える事はない。

ーーーーーーーーーーーー11時間前

勇者「側近さん、すこしお時間よろしいですか?」

側近「・・・別にかまいませんが」

魔王が話に割り込む。

魔王「なんだ、何を話すのだ?」

勇者「本当に、くだらない事なんです」ニコ

魔王は口をへの字に変えた。

魔王「むむ、くだらない事ならここで話せるだろう?」

勇者「・・・魔王様は僕を信じてくれないんですか?」

魔王「うぐ・・・なんだかお前はずるいぞ!」

もういい!と言って魔王は歩いていってしまった。

側近「・・・・これは」

側近は防音魔法が張られていることに気づく。

勇者「ええ、これから話す事は本当に聞かれたら困る事なので・・・」

一息入れて、勇者は口を開く。

勇者「側近さん、貴方には全てをお話します」

勇者はいつもの笑みを浮かべてはいない。

勇者「まず貴方には今の人間の実態をお話したいと思います」

側近「・・・・はい」

勇者「側近さんは疑問に思ったことはありませんか?勇者一行はなぜ

30年周期で攻めてくるのか、・・・なぜたった4人だけなのか」

側近「・・・そういえば勇者は一人でしたね」

勇者「この役目は僕一人で充分ですからね」

側近「確かにそれについて考えた事はあります。ですがいくら考えても

それを知る方法がないので。・・・あと一つ質問してもいいですかね」

勇者「どうぞ」

側近「どうして貴方はここに来るのが他の勇者よりも20年遅かったの

ですか?」

勇者「・・・どう言えば良いでしょうか、そうですね。魔王討伐の任務期間

は本当は20年なんですけど僕以外の勇者は皆2年もかからないで

魔王城に到達してるんです、だからでしょうか」

側近「なっ!?・・・で、ではなぜ30年周期なのですか」

側近は言葉を続ける。

側近「だっておかしいじゃないですか。《神の祝福》と《神の加護》を

受けた人間が30年に一人ずつ都合良く生まれるなんて」

勇者「・・・その認識自体が間違ってるんですよ」

側近「それは、どういう・・・・?」

勇者「本当の勇者なんて、この世にはいないんですよ。これまでの勇者は

全員・・・・人工的に作られたんですから」

側近「・・・嘘」

勇者「残念ながらこれは真実ですよ、これはその《勇者》本人から聞いた事なんですから」

側近「・・・それは」

勇者「ええ、僕の父です」

勇者「人は強欲ですから、今までずっと魔法と強い魔力を手に入れる研究を

続けてきたんでしょうね。・・・・どんな手段を使っても」

勇者「まず最初に始めたのは魔族の肉体の移植です。これも長年の間

人体実験を繰り返してきたみたいですが、結局拒否反応が強すぎて断念したらしいです」

側近「なんてひどい事を・・・・」

勇者は表情を変えずに言葉を続ける。

勇者「次に人は魔具を集め始めたんです。その魔具を元にして研究設備も

一気に段階が進んだらしいですよ?その成果もあって遂に肉体的な実験

から魔力への実験へと移行できるようになりました」

勇者「そして人は弱い魔物ぐらいなら魔具を使って殺せるようになった

んですよ。そのお陰で人は恐ろしい事を発見しました」

側近「何が・・・わかったんですか」

勇者「魔物の肉体が死んでも魔力の反応が少しの間残ってたんですよ。

そこから人はこう結論づけました」

勇者「魔物には肉体と魔力を繋ぎとめる何かの源が存在しているのでは

ないか、と。・・・・それを人は《魂》と呼びました」

勇者「人はすぐに《魂》を抽出する研究を進めました。そして長年の

研究の結果、ついに《魂》を抽出し結晶化する事に成功したんです」

側近「・・・その結晶が体内に入っている者が《勇者》なのですか?」

勇者「・・・その結晶を人は《魂のオーブ》と呼びましたが、《魂のオーブ》

が体に入っている人間全てを《勇者》と呼ぶわけではありません。

当然拒絶反応は存在しますからね、肉体の移植と比べると危険度は

下がりますが」

勇者「適正があるんですよ」

側近「適正・・・・?」

勇者「はい、ずっと研究をしてきた人々、《教会》は新しく生まれる

子供に《神の祝福》という名の実験を始めました。《魂のオーブ》

のほんの一欠けらをその赤子の体内に入れるんですよ。ほんの

一欠けらなら拒絶反応はほとんどないので」

側近「・・・・」

勇者「その欠片が体内に入った赤子達は欠片の中の何百もの魔物の魂

と適応しながら育っていきます。ある子は肉体の強い魔物の

魂と反応して戦士の素質を、また魔法に長けた魔物の魂に

反応して魔法使いとしての素質を、という風に」

勇者「それを適正といいます。そしてごくまれに複数の魔物との適正が

ある子がいるんです」

側近「・・・それを調べるのが《神の加護》なのですか」

勇者はにこりと笑う。

勇者「・・・流石側近さんです。そしてその審査に受かった子は

《魂のオーブ》の珠を新たに体に埋め込まれます」

側近「・・・・それが」

側近の声は震えている。

勇者「はい、その子供は《勇者》と呼ばれます」

側近「本当に勇者の言うとおりなら・・・・・」

勇者「そうです。今生きているほとんどの人間の体内には欠片が入って

いるんですよ。考えれば当たり前の事ですよね、勇者一行の勇者

だけが特別だったとしたら他の3人はとてもついてこれるわけ

ありませんから」

側近「・・・なら私達魔族を簡単に滅ぼせるのでは?人間全体が手を組めば

私達を上回る戦力になる筈です」

勇者「・・・人間だからこそできないんですよ。力を持った人間は人間界の

弱い魔物にもはや恐れる事はありません、言い換えれば協力

する必要がないんですよ」

勇者「初めは手を取り合っていた国々も、個々に力を持つにつれて

他の国を押しのけて我が我がと国の頂点に立とうとしました」

勇者「そしていつしか人間界には十つの巨大な王国が君臨していました。

でも人間同士の殺し合いを嫌った国々はある提案をしたんです」

勇者「30年に一度、順番に王国から勇者を含めた4人を魔王城に送り出す。

そしてその王国の勇者が魔王を討ち取ったならば次に魔王が

倒されるまでその王国が全ての主導権を得ることにしよう

じゃないか、と」

・・・・勇者は何を言っているの?

嘘よ、嘘に決まってるじゃない、そんな事。

人間の内輪もめの為に、私達魔族は苦しめられてきたというの?

側近「・・・・・ふざけないで」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18