魔王「お前の泣き顔が見てみたい」 12/18

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ーーーーーーーーーー10日後 王国・下町

魔王「・・・ここが人間の居城か、広いな」

魔王の声は暗く、沈んでいる。

側近「・・・・人間は私達にも劣らぬ魔力を有している、と勇者は言っていましたね」

勇者は自分自身のやるべき事を成したのだ。

魔王「・・・なぜ人間からごく微量の魔力しか感じ取れない。・・・本当にこれを勇者

がやったと言うのか」

人々の表情は暗い。

側近「・・・会えばわかります」

魔王「・・・そう、だな」

魔王の声は少し震えていた。

決して考えてはいけない事が脳裏から離れない。

ーーーーーーーーーーー王国・城

王「・・・来ると、思っていた」

その顔はやつれ、その眼は淀んでいる。

人間の王の様はこんなものなのか、と魔王は内心で落胆する。

魔王「・・・全てを知っているようだな」

王は皮肉げに笑い、はき捨てる。

王「ああ、そうだな。少なくとも貴様らよりはな」

魔王「・・・では早速、私達魔族と協定をむすんでもらえるか」

王「くはは、断る道理などなかろう。今の私達人間では貴様には勝てん」

魔王「・・・人の王よ、一つ聞いても良いか」

王「・・・いいだろう」

魔王「・・・勇者は今どこにいる?」

・・・勇者のあの膨大な魔力が王国で感じられない。

王は狂喜を孕んだ笑みを浮かべた。

王「くはは、そんなに知りたいか」

王「・・・勇者は死んだよ、無様になぁ。くは、くははははははははははは」

馬鹿な。

馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な。

勇者、お前が死んだだと?

・・・・そんな事があり得るわけないではないか。

体が重い、目の前が暗い、息が苦しい。

・・・・体の震えが止まらない。

魔王「・・・・嘘、だな」

王「・・・くはは、何故そう思う?」

魔王「我が城を勇者が出る前まで勇者は私など比較にもならんぐらいの

膨大な魔力を有していた。・・・お前に殺されるなど有り得ない」

王「だが勇者が私の前にやってきた時は搾りかす程の魔力しか残って

いなかったぞ?」

側近は王を睨む。

側近「・・・そうならないから勇者の魔力は膨大だと言ったのです」

王「く、くはは、くははははははははは!随分と信頼されていたようだな。

いいだろう、・・・絶望を貴様らに与えてやる」

王は懐から翡翠色の水晶を取り出した。

王「この魔具が何かは貴様らも知っているだろう?」

側近「・・・《記憶の水晶》」

王「そうだ。私の記憶の一部を貴様らに見せてやる」

水晶に内蔵された魔法が発動する。魔法陣が部屋の壁に投影され、

やがて映像を映し出す。

映し出されたのは狂気。

何千もの人々が一人の人間を囲み、罵声、呪い、憎しみを浴びせている。

・・・その中央に位置する人間を魔王は知っている。

魔王「・・・・勇、者」

ーーーーーーーー10日前

王「ぐっがっ・・・・あがぁっ」

力が消える。私がこれまで二千年もの間ずっと蓄えてきた力が。

戦士長「ぐっはぁ・・・うぐ」

護衛達「「ち、力が・・・」」

おのれ、おのれ、おのれ・・・・!!

王「貴、様ァ・・・・私に何をした?」ギロッ

勇者「・・・勇者はもう生まれない。・・・・その意味はわかるな?貴方の

計画の全ては潰えたんだ、これからは貴方達一人ひとりが

自分で運命を切り開いていく」

王「綺麗事をッ・・・・抜かすなぁッ!!!!!」ドガッ

王「貴様は!!自分が何をしたかわかっているのか!?われら人間を窮地に

追い詰めたのだ!!勇者の本分を忘れたか!!!」ドガッドスッバキッガスッ

勇者の血に濡れた唇が動く。

勇者「勇、者が人間を助けるって・・・・一体誰が・・・決めた」

王「・・・・ッ!!・・・・貴様はただでは殺さん!!貴様の慕う下僕共の前で!!!

全ての憎しみを身に受けながら死ぬがいい。・・・・連れて行け!!」

戦士長「・・・はっ、立て」

戦士長、護衛と勇者が部屋を出て行く。

王「・・・・もう全て、全て終わりだ。おそらく魔王共がこちらにやってくる・・・!!

協定を申しだされれば断ることはできん」

王は歪んだ笑みを浮かべている。

王「・・・だがただで終わるつもりはないぞ?・・・・勇者よ。貴様の努力の

全てを帳消しにしてくれるわ」

勇者「あはは・・・申し訳ないです、負ぶってもらっちゃって」

戦士長「このぐらいの事は何でもありません」スタスタ

暫しの沈黙が流れる。

戦士長「・・・・勇者様、折り入って申し上げたい事があるのです」

勇者「・・・僕は勇者なんかじゃありませんよ、人々を窮地に追い込んだ化

け物なんですから」

戦士長「貴方を助けたい。貴方様は私の、いえ、私達兵士の恩人なのです」スタスタ

勇者「・・・」

戦士長「この城の兵士のほとんどは子供や妻などの人質をとられていました。

・・・・貴方はそれを救ってくれた。あの邪悪な力があるかぎり私達

に未来はなかった・・・・」スタスタ

戦士長「だからこそ大恩ある貴方様を私達の命にかえてもお返しに救って

差し上げたいのです」スタスタ

勇者「・・・駄目ですよ。貴方達が死んだら、家族はどうするんですか」

戦士長の足が止まる。

戦士長「・・・・きっとわかってもらえます」

勇者「・・・それでも駄目なんですよ」

戦士長「・・・それはどういう意味でしょうか」スタスタ

勇者「僕は世界に存在するオーブを消しました。詳しく言えば一つの

肉体に魂は一つ、という定義を定めたんですけど。それは

世界全体の人間の弱体化を示唆します、当然人々は混乱に陥るでし

ょう。何せ自分の魔力がある日突然ほとんどなくなってしまうの

ですから。寿命も元の人間の平均に戻る」

戦士長「・・・・」スタスタ

勇者「当然人々は何故そうなったのか、誰がこんな事をしたのか、と

憎しみ、恨みを持ちます。それが誰かわからなければ人間は

前に進めない、乗り越える事ができない」

戦士長「まさか・・・・貴方様はそこまで」スタスタ

勇者「僕には勇者として化け物としてその役目を受ける義務がある。

僕がやった、という事実は変わりませんから。・・・こんな悲しい真実を

人々が知る必要なんてないんですよ」

戦士長「・・・その為に死ぬおつもりなのですか」スタスタ

勇者はあはは、と笑う。

勇者「そんなわけないじゃないですか。死んだふりでもして誤魔化したら、

さっさと逃げますよ。・・・化け物ですから殺されたって死にません」

戦士長「いえ、貴方様は世界を救う勇者様なのだと私達は思っております。

必ず死なないというお言葉・・・・信じますぞ」スタスタ

勇者「まかせてください」ニコ

ーーーーーーーーー3日後

勇者「この前はあんな事言っちゃったけど・・・・もう逃げるだけの魔力、

残ってないんだよなぁ」

勇者「・・・・僕が死んだら悲しむ人とか魔族っているのかな」

脳裏に浮かぶのは父の笑顔、魔王の笑顔、側近の笑顔、近境の村のみんな

の笑顔、これまで出会ってきた魔族、人々の笑顔。

勇者「・・・・申し訳ないなぁ」

勇者「まあ人は僕の事を憎むに決まっているけどね」

あはは、と笑う声が空しく響く。

勇者「・・・・あれ?」

自分の手を見ると微かに震えている事に気づく。

勇者「そっかぁ・・・・やっぱり死ぬのは怖いなぁ。昔はあんなに死にたがっ

てたのになぁ・・・・でも今は死にたくないや」

僕ってわがままなのかなぁ、とぼやきながら窓のない天井を見つめる。

勇者「・・・・でも僕は勇者だから・・・化け物だから」

ガチャリ、と扉の開く音がした。

戦士長「・・・・時間です、勇者様」

勇者「・・・今行きます」

見渡す限り人で埋め尽くされている。

「「そんな・・・・勇者様が私達を騙してたなんて」」

「「畜生。よくも俺達に呪いを・・・・!!」」

「「魔力を返せーーーーーーー!!!!」」

「「なんて悪魔なの・・・」」

「「早く死んでしまえーーーーーー!!!」」

幾千もの憎悪の塊が勇者に突き刺さる。

・・・僕はこんなにも多く、いやもっと多くの人をここまで苦しめたのか。

ジクリ、と心が焼ける。

王「静まれいっ!!!」

「「「・・・・・・・・」」」

王「・・・既に知っている者もいるだろう!!!」

増音の効果を持つ魔具を使って王は民に言葉を投げかける。

王「今から三日前、我らに卑劣なる呪いをかけた者がいた!!!そのせいで

我らの寿命は三分の一の減り、魔力をほぼ失った!!!」

王「だが我らは屈しはしない!!!その元凶たる者と捕らえる事に成功した

!!!それがこの男、勇者だったのだ!!!この化け物は我らにとって魔族

などよりも遥かに危険な存在だ!!!」

王「この場にてこの化け物を討ち、前に進もうではないか!!!」

「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」

地鳴りのように人々の咆哮が響き渡った。

魔具を外し、王は勇者に語りかける。

王「・・・どうだ勇者よ、貴様が自由にした者達に憎まれ、蔑まれる気分は・・・・!」

謝りたい。

勇者「・・・・嫌だ」

王「・・・どうした?死ぬのが怖くなったか」

王の顔が笑顔で歪む。

でも駄目だ。僕は最後まで人々に危害を加える化け物でなければならない。

勇者「死ぬのは嫌だ!!死ぬならお前らが死ねばいい!!離せえええええ!!!」

勇者は喚きながら、拘束から逃れようとする。

王は狂喜に歪んだ表情で吼える。

王「見るがいい!!!これがこの勇者の本性なのだ!!!民の事など何も考えて

はいない!!!取り押さえろ!!!」

護衛「「・・・・っは」」

護衛と戦士長の裏切られたような顔を見るだけで心が張り裂けそうに

なるよ。でもこうしなきゃ憎しみは受けきれない。

勇者「何をするんだ!!離せ!!離せよっ!!!」

「「この期に及んで命乞い?ふざけないでよ!!」」

「「こんな奴に期待してたのか私達は!!!」」

王「くははっはははっははははっはは!最後に貴様の本性が見れて嬉しいよ!

・・・・だがさようならだ」

勇者「やめろっ!!撃つなぁあああああああああああああああああ!!!」

これでいい。これでいいんだ。

王は叫ぶ。

王「撃てぇええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

泣くのは死んでからでいい、・・・だから今を精一杯生きるんだ。

勇者「・・・命ある限り、生きる事を諦めてはいけない」ニコ

そうだよね、皆。

王国に十数発もの銃声が鳴り響く。

それと共に民の歓声が轟き、黒い首輪は勇者の血で濡れた。

ーーーーーーーーー7日後

やめてくれ、と何度も願った。でも、銃撃は止まなかった。

勇者は・・・死んでしまったのだ。

王「くははははは!どうだ・・・・?何とも不様な最後だろう?」

魔王「不様などではない・・・・ッ!あいつは・・・・勇者は最後に笑っていた!

全てを背負って笑って死んでいったのだ!!」

王「全て、だと?・・・貴様にその全てがわかるとでも?」

魔王「・・・・何だとッ!」ギロッ

王「わからんよ!貴様は勇者を知っているだけで何も理解などしていない

!!なんなら教えてやろうか!?」

側近「やめなさいッ!!」

いけない。今の状態で全てを知ってしまったら魔王様は・・・・!!

王「ほう・・・、お前は何か勇者について知っているようだな」

側近「・・・・ッ!!」

魔王「そう、なのか・・・・?側近」

側近「それは・・・」

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