勇者「うん」
魔王「ひっく・・・分身では、ないんだよな・・・・ッ?」ギュ
ぽろぽろと涙が落ち続ける。
勇者「そうだよ」
魔王「・・・・信じるぞ?いいのか?」
勇者「うん。だからさ、せっかく久しぶりに会えたんだから笑ってよ。
君の笑顔が見たい」
魔王「ふふ、なんだ・・・・お前だって泣いているじゃないか」
勇者「・・・・うん」
魔王「まったく・・・せっかくお前の泣き顔が見れると思ったのに、
・・・お前は泣く時も笑っているのか?」
勇者「・・・たぶん嬉し涙じゃないかな」
魔王「ふふっ、それにしてはぎこちない笑い方だな」
勇者「・・・これからはきっと自然な笑い方になるよ」
勇者「ねぇ、魔王・・・・、僕さ・・・君に伝えたい事があるんだ」
魔王「・・・ああ」
勇者「君の事が好きだ」
魔王「なんだ・・・・そんな事はとうの昔に知っている」
勇者「ばれてたのかぁ・・・・、じゃあ返事はッ・・・・・・・」
二人の時間が止まる。
魔王「・・・・・・・・・・・・・・これで返事にはならないか?」
勇者「・・・・・・本当に、君には敵わないよ」
魔王「・・・いや、やはり言葉にしておこう」
勇者「どうして?」
魔王「察しろ・・・言いたい気分なんだよ」
その笑顔は僕が今まで見た中で最も輝いていた。
魔王「私はお前の事が大好きだっ!勇者っ!」
fin
----―--------約4千年前 王国
唐突に銃声が鳴り響いた。
男「・・・・」
男がうつ伏せに倒れている。
どうやらこの男が撃たれたようだ、その頭から血がじわりと流れ出る。
男「・・・・・またか」
重く冷たい声がその男の口から漏れ出た。
「・・・・くそっ!化け物め・・・・!!」
男「・・・邪魔をするな」
男はのそりと立ち上がり、また歩き出す。
王「またお前か・・・・ッ!!」
王は憎憎しげに呻く。
王「お前が何度ここに来ようとも何も変わりはしない!さっさと消えろ!」
男「・・・・お前達人間がこのまま木々を殺し続ければこの星は滅ぶ」
王「星?・・・星とは何だ」
男「人間にとって星とは世界だ」
王「世界を滅ぼす程の力を持った我ら人間ならば恐れる事など何もない!
私は間違ってるとでも言うつもりか?」
男「・・・間違っては、いないな」
―----―----王国のはずれの荒野
男「・・・ここも昔は木々が生い茂っていた筈だ」
男「このままいけば恐らくこの星の命は絶たれるだろう」
王国での会話が脳裏に浮かぶ。
男「・・・王の言い分は確かに正しい、力を持つ者だけがこの世を思い通りにできる」
男「人間全体にその概念が植えつけられている限り、人間にとってそれ
が正論、正義となる。またそうである限り星は蝕まれ続けるのだ」
『この化け物はどうして死なないんだ!』
『・・・なんておぞましい存在なの!?』
『そんな化け物は谷へ突き落としてしまえ!危険だ!』
男「人間は・・・・・危険だ」
男「このままにはしておけない」
ならば使え、お前の力を、全てを思い通りにできる力を。
使い方はわかるだろう?
男「ああ」
やっとその燻っていた力を思う存分に振るえるぞ、喜べ、喜べ。
男「星を守ろう」
そして男は《元始の魔王》となった。
―----―----約千年後 魔界・魔王城
魔王「・・・来たか」
勇者「お前を倒し、世界に平和を取り戻させてもらうぞ」
勇者は無数の魔法が込められた剣を鞘から抜いた。
魔王「・・・やはり人間に力を与えたのはお前か、物に魔法を込めると
はな・・・・・どうりで我が同胞が人間に殺されるわけだ」
勇者「そうだ・・・・!もう人間は魔族などに屈しはしない!私の魔具が皆に力を与える」
魔王「・・・お前も気づいている筈だ、我とお前は同じ力を有していると」
勇者「・・・・ッ!!」
魔王「ならばわかるな?共に消え去る以外にこの戦いの終結はない」
魔王「どうせ消え去るのなら尋ねておきたい事がある」
勇者「・・・・・」
魔王「何故お前は魔族を殺す?」
勇者「・・・・魔族がいれば人間は滅亡してしまう、お前達の存在は異端だ。
世界に破壊をもたらす」
魔王「・・・そう人間に教えられて生きてきたのか?」
勇者「・・・お前達は平和を乱す、魔族が人間を襲っているのは事実だ」
魔王「逆に問おう、魔族は人間に危害を多少だが加えているかもしれん。
だが強力な魔族が攻め込んで来た事はあったか?」
魔王「何故数少ない魔族の侵攻を槍玉にあげる、その程度の事に比べれば
人間同士の争いの方が遥かに卑劣なのではないか?」
勇者「・・・黙れ」
その声はかすかに震えている。
魔王「なぜ魔界が世界の半分で収まっているのか考えた事はないのか?
全ては一つの答えを出している」
勇者「・・・そんな、の理解できないな」
魔王「人間は危険だ、我らは人間の破壊に対する抑止力なのだよ」
魔王「勇者、お前の言う平和とは人間にとっての平和なのだ。
・・・・決してこの世界の平和を指すわけではない」
勇者「黙れッ!お前の言葉などッ!私には届かない!」
魔王「本当は既にそんな事はわかっていたのだろう?」
勇者「黙れぇえええええええええええええ!!!!!」
一瞬の内に魔王の周囲に無数の魔法陣が構築され、魔法が発動する。
魔王城の大半が消えた。
魔王「その化け物たる力を振るいたかったからだ!お前は平和など何も
考えてはいない!その力を行使する理由が欲しかっただけだ!」
勇者「うあああああああああああああ!!!!」
勇者が作り出す無数の魔法の全てに魔王は同じ魔法で応じる。
紅い空が閃光に包まれた。
魔王「ならば質問を変えてやろうか!何故お前は地に向かって魔法を行使しない!?」
勇者「・・・・やめろ」
魔王「それはこの星を守る事が我らの宿命だからだ!お前は宿命に背いている!
力をただ振るえば世界は狂う!」
魔王「ならば何故《神》は我らに心を与えた!?何故我だけでなくお前を創りだしたのだ・・・!
心があるからこそ我らは狂う、内なる力に侵される!
だが我らは宿命に従わなければならない!」
勇者「・・・・私は宿命など信じない、自分で運命を切り開いてやる・・・!
魔王、お前は殺す!世界に平和をもたらしてみせる」
魔王「人間に埋め込まれた概念こそがお前を蝕んでいるのがわからないのか」
勇者「私はッ!!《勇者》だッ!!」
魔王「・・・残念だ」
勇者「ぐっ・・・・かはっ・・・」
魔王「我とお前との戦いにおいて肉体的損傷は意味をもたない」
勇者「・・・その・・・武具は・・・ッ!?」
魔王「お前にできる事が我にできぬとでも?」
勇者「・・・・・ッ!」
魔王の鎧が、剣が、無数の禍々しい魔法に蠢いている。
魔王「我が黒剣に込めた魔法は身をもってわかる筈だ」
勇者「消滅魔法か」
魔王「そうだ、我が剣ならお前を殺せる。この魔法は我が千年かけて創りだした、
お前では扱えぬ」
魔王「・・・・この魔法でお前の力ごと消し去ってくれる」
魔界の紅い空には一人の漆黒の騎士のみが存在している。
魔王「・・・・やはりこうなったか」
自分の体が徐々に消えてゆく。
魔王「・・・勇者、わかるか?最後に我を消し去る事象改変を起こした時」
魔王「・・・お前は笑っていたよ」
誰に言うわけでもなく言葉を続ける。
魔王「・・・・この過剰な力がお前を狂わしたのか、我と同様に」
魔王「千年前の我にもう少しばかりの理性が残っていれば、・・・・世界は
明るく変わっていたのだろうか、千年前の我の選択は・・・・」
魔王は眼を静かに閉じた。
魔王「・・・・《神》よ、未来にまた我らと同様の存在が生まれて
しまうのだろうか、その度に我らのような選択を迫られるのだろうか」
首輪に手を触れる。
魔王「ならば我はその者に新たな選択肢を与えたい」
魔王の残る全ての魔力を使い、魔法を首輪に込める。
魔王「命を奪いつづけ世界を破壊するも良し、抑えられた力で
《理性ある選択》をするのも良し」
魔王「《理性ある選択》は我らとは異なる未来を見せてくれるのか、
・・・・・本当の平和を見せてくれるのか」
魔王「お前に全てを託そう」
その千年後に王によってその運命の首輪は発見される。
《理性ある選択》は魔王の望む未来を見せる事はできたのだろうか。
わかる事はただ一つ。
その未来では全ての生物が前を向いて生きている、という事だけだ。
fin