体が重い、熱い、息ができない。
そう感じる事ができるという事は、まだ生きているという事は
僕が最低限の防御に成功したという事か。
王「くはは・・・・、まるでぼろ雑巾のようだな。おい」
戦士長「・・・・っは」
王「このゴミは死体置き場にもっていけ、・・・決して首輪を外すなよ。
完全に腐って粉々になるまで首輪は回収しなくていい」
戦士長「承知しました」
戦士長は僕を背負い死体置き場に向かう。
すすり泣く音が聞こえる。
僕は生きている、そう伝えなくては。
僕に触れてはいけない。
そうしなければ僕はこの人の命を奪ってしまうかもしれない。
絶対に意識を失ってはいけない、抑えている首輪の力が発動してしまう。
僕が生きようとしたせいで殺したくはない。
渾身の力を絞れ。
勇者「・・・・・ぁ・・・・」
戦士長「・・・・・勇者殿?まさかまだ生きておられるのですか!?」
ああ、気づいてくれた。ありがとう。
勇者「ぁ・・・・・・・・ぅ」
戦士長「・・・ッ!!こうしてはおられん!」ダッ
・・・・ぁあ、駄目だ。意識を保たなければ。
戦士長「早く!!回復用の魔具をありったけ持って来るんだ!!」
僧侶達「は、はい!」ダッ
どうして僕から離れてくれないんだ。
戦士長「くそっ・・・・!!我らの恩人を死なせてなるものか!!」
人々は魔具に込められた回復魔法を展開させる。
僧侶1「・・・なんて傷の深さなの・・・・!!お願いだから耐えてッ!!」
僕の首輪の事ぐらい知っている筈なのに。
僧侶2「ここを止血します!」
銃弾の摘出が開始される。
・・・・こんな僕の為にこんなに多くの人が頑張っているのか。
僕は人々から寿命と魔力を奪ったというのに。
泣くのは死んでからって決めた筈なんだけどなぁ。
------------約一週間後
勇者「・・・・・」
戦士長「御体の具合は?」
お陰で僕は生きているよ。
勇者「ぉ・・・ぃ・・・・・」ニコ
戦士長「・・・・本当に良かった」
戦士長「・・・勇者様には申し訳ありませんが、人目に触れなれない為
このような粗末な病室になってしまいました」
戦士長「安心してください、今度は私達が貴方様を必ず守ります」
勇者「・・・・」ニコ
・・・ありがとう。
ーーーーーーーーーーー約二週間後
戦士長「・・・貴方様に面会したい方がいらっしゃいます、よろしいでしょうか。
危険はないと思われます」
勇者「は、い」
病室の扉が開かれる。
そこに現れたのは、二週間前に僕を殺そうとした人間だった。
だがその顔にもはや狂気はなく、重い罪を背負っている囚人のように見えた。
王「・・・こんな私などの言葉では意味などないかもしれない、だが言わせてほしい」
王「申し訳ない・・・・ッ!!」
顔を見ればわかる、どんなに後悔して、どんなに苦しんでいるかって事ぐらいは。
勇者「顔、を・・・・上げ、てくださ、い。一国の、王なん、ですから」
勇者「今の、貴方なら、魔族とも・・・・未来、を築いて、いける」ニコ
王「・・・・貴方の分身にも同じことを言われました」
王「貴方さえ良ければ・・・人の眼のつかないもっと環境の良い病室に移りませんか?」
勇者「いえ、ここで、充分です、よ」
勇者「また、体が自由、に動く、ようにな、ったら、ここを出て、行きますから」
王「・・・貴方の居場所はここではないのですね」
勇者はそれに笑顔で答えた。
ーーーーーーーーーーーーーーー約1年後
戦士長「失礼します」
勇者「ああ、どうも。いつも尋ねてきてくれてありがとうございます」
戦士長「・・・・勇者様、一つ聞いてもよろしいでしょうか」
勇者「ええ、いいですよ?」
戦士長「貴方様は・・・・魔族の皆さんに会わなくても宜しいのですか?
必ず悲しい思いをしている筈です」
勇者「・・・・だってまだ僕ロクに歩けませんしね、どうせ会うなら
元気な状態で会いたいじゃないですか」
勇者は穏やかな笑みを浮かべる。
戦士長「・・・・貴方というお方は」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー約2年後
王「流石は勇者様か、本来なら普通に歩けるようにはならない
筈の物をたった3年でここまで回復させるとは」
勇者「あはは、3年も長い間お世話になりました」
戦士長「・・・本当に魔王城までご同行する者がいなくても宜しいのですか?」
勇者「ええ、これでも勇者だったんですからね、確かに僕の使える魔力は
もうごくわずかですが・・・・体技とかでは負けないですから」
戦士長「いえ、貴方様は今でも私達にとって勇者様なのです。
この御恩は・・・・・一生忘れませんぞ」
僧侶1「本当に元気になって良かったです・・・!」
王「・・・・勇者様」
勇者「何ですか?」
王「・・・本当に王国の者達、そしてその他の人々に真実を伝えなくて
宜しいのですか?私はいつでも罰を受ける覚悟はできています」
勇者「あはは、そんな事しなくていいって言ってるじゃないですか。
知らないほうが幸せですよ」
王「・・・私は人間は決して貴方様が勇者として世界を救ったという事を
忘れません。かならず王家に語り継いでいきましょう」
勇者「・・・それは光栄ですね、それでは皆さん」
勇者「またお会いできたら」ニコ
元気になるまで3年もかかっちゃったなぁ。
魔王や側近さんや村の方々・・・・皆元気かなぁ。
早く皆に会いたいなぁ・・・・。
僕が生きてるって知ったら魔王はどんな顔するんだろう?
できたら笑ってほしいな。
側近さんは相変わらず厳しそうだなぁ。
村のエルフの女の子とかはどうなってるのかな?
村長さんも元気かな。
会いたい人がたくさんいるよ。
勇者「まぁ、自分で見に行けばいいよね」
その笑顔はぎこちない。
上を見上げると空は青く、透き通っている。
勇者「今、会いに行くよ」
本当に終了