魔王「お前の泣き顔が見てみたい」 4/18

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側近「それをあの人間が・・・」

村長「はい。私は心から後悔していました。ああ、もし

最初から勇者様とちゃんと接していれば村を

主から守ってくれたかもしれないのに、と都合の

良いものですね。私達は勇者様にこれまで何を

してきたのかを考えれば希望などない筈なのに」

村長は自嘲的な笑みを浮かべる。

村長「ですが勇者様は私達の村を助けてくださりました。

疾風の如き速さでその場に駆けつけ、主を打ち倒したのです。」

村長「私達は勇者様に言いました、そいつを殺してしまえ

、と。ですが勇者様は何と言ったと思いますか?」

村長「この魔物おいしそうじゃないですよね、と言ったんですよ」

くっく、と村長は堪えきれずに笑う。

村長「つまり勇者様はこう言いたかったのでしょう。

生きる糧にする為に殺すのはかまわないが、私情の為に殺す事はできないと」

村長「その時からでしょうか。民の勇者様に対する態度

が徐々に徐々にゆっくりと和らいでいったのは」

村長「今から半年前にここを出る頃にはもうすっかり

私達の家族のようになりました。できれば

ずっと村にとどまってほしかったのですがね」

未だに祈りを続けている勇者に目を向ける。

村長「・・・このような事をあの方は何度繰り返して

きたのでしょうか・・・。どれだけの魔物の心

を救ってきたのでしょうか。私などでは想像もできません」

魔王「・・・」

村長「・・・さて私の長話もここまでです。お付き合い頂いて有難うございました。」

魔王「・・・いや、有意義な時間だったよ」

村長「ただ、これだけはわかっていただきたいのです」

魔王「・・・何だ?」

村長「勇者様は魔王様にとって危険な存在などでは決して

ありません。必ず貴方様のお力になるということを・・・」

ーーーー魔王城

勇者「いやぁ、本当申し訳ないです。遅くなっちゃって」

あはは、といつもの笑みを浮かべて勇者が戻ってきた。

側近「全くもってその通りですね。雑用という立場とちゃんと弁えて下さい」

勇者「うっ・・・、ご、ごめんなさい・・・」

側近「謝るだけなら誰でもできます。態度で示してください」

勇者が小さくなった。

魔王「まあ今日くらい良いではないか、何をイラついているんだ?」

側近「魔王様も魔王様ですよ!あの首飾りがどんなに

貴重なものがわかってるんですか!?」

魔王「ええと、マくやらなんとかだな」

側近「魔具ですよ!魔具!魔法が籠もっている装飾品な

んてそうそうないのに・・・!」

魔王「いいんだ、あれは私の誓いの証なのだからな」

その声は静かだが、確かに熱が篭っていた。

側近「・・・なんだか魔王様変わりましたね。この人間のせいですか?」

魔王「ち、違う」

勇者「・・・・何がですか?」

魔王「勇者!お前は雑用だろう!さっさと行け!」クワッ

勇者「は、はいぃ!」ダッ

側近「・・・」ジトー

魔王「・・・な、なんだその目は」

「あいつが勇者か・・・」

「まさかあの雑用が勇者だとはな・・・」

「いますぐ殺してやりてぇが・・・」

「ああ、辺境の村を救ったらしいじゃないか」

「くそっ、敵なのか味方なのかハッキリしてほしいもんだな・・・」

勇者「な、なんかいつもより皆さんの視線が鋭いような・・・」

後ろから声がかかる

鳥族1「よう」

勇者「あっ、鳥族1さん!この前はどうも・・・」

鳥族1「前置きはいいからよ、ちょっと話そうぜ」

勇者「でも僕仕事が・・・」

鳥族1「こんな状況で仕事なんかできねぇよ。お前雑用

なんだから兵士に付き合うのも仕事の内だろ?」

勇者「そうですか・・・、ばれちゃいましたか・・・。

あっ、わざわざ伝えてくれてありがとうございます!」

鳥族1「ああ、別にかまわねぇ」

鳥族1「正直な所、荒れてるな。お前が敵なのか味方なのか判断もつかねぇ状態だ」

勇者「あはは、それは当たり前ですよね~」

鳥族1「見たところ余裕そうだが・・・お前これからどうするつもりだ?」

勇者「いや、どうもしませんけど・・・・」

鳥族1「・・・本気か?」

勇者「ええ、こういうのは慣れてますからね」ニコッ

鳥族1「はは・・・お前はそういう奴だったな」

鳥族1「・・・一ついいか」

空気が少し張り詰める。

勇者「・・・なんなりとどうぞ?」ニコ

鳥族1「なんでお前はこの城の者達の中に知ってる奴が

何人もいることを隠してる。・・・お前が口止め

したんだろ?僕の事を知らない振りをしてくださいってな」

勇者「あはは・・・みなさんしゃべっちゃったんですか」

困ったように勇者は笑う

鳥族1「馬鹿が、俺は目を見れば大抵の事はわかるって

言っただろうが。あいつらは絶対に口を割らなかったぜ」

勇者「・・・貴方は怖いですね」

鳥族1「前から疑問に思うことがあった。たまにお前と

他の奴を見かけるとき明らかにお前の相手の目つきが

お前を嫌っている物じゃなかったからな。」

鳥族1「お前はここに来るまでに多くの村や集落を訪れた

んだろ?そんだけ知り合いが多くて城の中にはだれ

も僕の事を知りませんなんて事はありえねぇ」

勇者「・・・」

鳥族1「・・・そもそもこの状況も元からお前が城の者と知り合

いがいることを隠さなければ起きなかったんじゃねぇか?」

勇者「・・・それじゃ駄目なんですよ」

鳥族1「あ?」

勇者「確かに鳥族1さんの言う通りにしていたら城の方々

が僕を見る目は今ほど厳しくなかったかもしれません」

勇者は穏やかに言葉を続ける。

勇者「ですが城の友人が勇者は危険ではない、と

聞かせれても本当に納得できますかね?納得した

としてもそれは表面上だけで、心の底には僕に対する

不信感は消えない筈です」

鳥族1「・・・だったら初めからお前の事を知らない方が

いいってか」

確かに俺だったら聞いただけじゃ納得なんかできねぇ。

勇者「ええ、自分で感じた事以上に信じられるものはあり

ませんから」ニコ

鳥族1「・・・そりゃその通りだ」

勇者「僕が危険なのか危険じゃないのかは城の方達に

自分自身で判断してほしいんです。・・・危険かどうか

なんて事は僕にもわからないんですからね」

鳥族1「・・・そうかい、じゃぁせいぜい城の奴らにボコボコにされるこったな」

鳥族1が手を振りこの場を離れて歩き出す。

勇者「あっ、鳥族1さん!」

鳥族1「・・・何だ」

勇者「話してくれて、ありがとうございました。

やっぱり貴方は優しい方です」ニコ

鳥族1「・・・お前に言われたくねぇってんだ、ボケが」スタスタ

勇者はその後ろ姿を見送り、静かな声で呟いた。

勇者「・・・僕は優しくなんかない、ただの臆病者なんですよ」

魔王「で、またそうなったか」

勇者「・・・ふぁい」

勇者の顔は約1,5倍に膨らんでいる。

側近「そんな馬鹿げた姿晒してないでさっさと回復魔法でも

使えば良いでしょうに」

勇者「へふれふぁほふぉおわつかへいたくないんえすよ」

側近「何を言っているのか全然わかりませんね」

それから勇者は話せるようになるまで30分ほど要した。

勇者「・・・ええと、何を言ってたんでしたっけ?」

側近「その腫れた顔をさらに倍の大きさにしますよ?」

勇者「そうでした!魔法の話でしたねっ!」キリッ

魔王「そういえば前から疑問に思っていたんだ・・・」

言葉を続ける。

魔王「どうしてお前は魔法をあまり使わないのだ?」

魔王「城から飛び降りた際の飛行する魔法といい

あの村で使って見せたという高度な回復魔法、

それだけではお前は並ならぬ魔法使いだろう?」

勇者「いやあ、照れますね~」テレテレ

側近「ふざけないでください」ガスガスガスガス

勇者「・・・ッ!!腿にヒザは勘弁してくださいよぉ!」

魔王「・・・こほん、だがお前はそれを日常で使う事はな

いな。自分の怪我の時、修復の為に村へ向かうときも徒歩だったではないか」

勇者「ああ、それは魔力がもったいないからですよ?」

魔王「・・・魔力なら休めば回復するではないか」

勇者「あれ、言ってませんでしたっけ?僕の魔力が回復する事はないって」

そんな事あるわけがない、と思ったが思い直す。

魔王「・・・お前に有り得ないなんて事は通用しないか」

勇者「あはは、そんなにすんなりわかってもらえるとは

思ってませんでしたけどね」

側近「・・・その首輪が原因ですか?」

側近は勇者の首につけられた黒い首輪に目を向ける

勇者「ぉお!流石側近さんです!ご名答ですよ!・・・なぜわかったんです?」

魔王「私はわからなかったのに・・・」

側近「首輪から幽かな違和感を感じられますから。」

まぁそこまで気にするほどではありませんが、と付け足す。

勇者「う~ん、じゃあこれでどうです?まだ違和感は感じますか?」

側近「・・・・!いえ、全く・・・」

先ほどの違和感は嘘のように掻き消えていた。

勇者「あはは、やっぱりまだ完璧には押さえ込めていな

かったんですね~。詰めが甘かったなぁ」

魔王「その首輪は何時から着けているんだ?」

勇者「う~ん、大体30年前ぐらいですかねぇ」

魔&側「・・・・・・ッ!!!」

魔王「ど、どういう事だ?人間の寿命は100年と聞いていたが・・・・」

勇者の外見がおかしい。人間は20歳を超えたら肉体が衰え始

めると聞いていた。勇者はどう考えても30歳を超えていない

、肉体が全く衰えていないのだ。

勇者「それはすっごく前の事ですよね?」

側近「それは・・・そうですが」

確かに人間に関する情報ははるか昔から伝えられてきた

もので、確実に信憑性があるわけではない。

勇者「変わったんですよ、人も。今の人間の寿命は300歳を超えていますから」

魔王「3倍だと・・・・!?」

生物の寿命を決めるのはその肉体と魔力の許容量だ。

人間の肉体自体は今も変わっていない筈だ。

魔王「・・・それほどの魔力をもつようになったのか」

勇者「ええ、そうです」

魔王「・・・なあ勇者よ」

勇者「・・・・なんですか?」

魔王「・・・何故そんなにお前は辛そうな顔をしている」

何故お前は辛くて、悲しくて、悔しくて、痛くてたまらないかの

ような顔をしているんだ。人間が力を持つようになった

んだ、お前は喜んでも良いのではないか?

勇者「えっ、今そんな顔してました?」ニコ

・・・その笑みの下に何を抱えているんだ?

魔王「まあいい、・・・で、お前もその影響でその若い姿のままなのか?」

勇者「・・・」

勇者の笑みがわずかに強張るのがわかった。

魔王「頼む、教えてくれ・・・」

お前の事が知りたい。

側近「魔王様・・・」

勇者「・・・・あはは、僕の事が知りたいなんて言われたのは

生まれて初めてですよ」

その笑い方は今までで見たことがなかった。その笑い方

は子供のように無邪気で、だがとてもぎごちない。

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