魔王「お前の泣き顔が見てみたい」 16/18

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勇分「・・・・もちろん怖いに決まってるよ、でもそんな事よりも

魔族の皆が死んでしまう方が・・・・・・よっぱど、怖かった」

魔王「やはりお前は勇者だよ、臆病者などではない」

勇分「そういってもらえるなら・・・・嬉しいよ」

勇分の体が透け始める、魔力が尽きかけているのだろうか。

魔王「・・・・なぁ勇者、一つか二つ最後に言っておきたい事があるんだ」

勇分「うん」

魔王「まず一つ目だが、お前は勘違いしているよ」

勇分「・・・・勘違い?」

魔王「ああ」

魔王「・・・お前は魔族が優しい、お前が勇者でも笑いかけてくれた。

そう言ったな?」

勇分「そうだね」

魔王「魔族が《勇者》に気を許すと、本当にそう思うのか?」

魔王「お前は気づいているのではないか?私達魔族は《勇者》にでは

なくお前に気を許したのだと」

勇分「・・・・」

魔王「私も城の者も、お前が来るまでは人などに心など許していなかった。

お前がいつも浮かべていた笑みは本当の笑みではない、とお前は

言っていたな。・・・・だが私達はお前の笑顔に救われたのだ」

魔王「お前が城に入り込んできてからは、予想もできない事ばかりが

起こったなぁ、楽しかったなぁ・・・・あれほど笑う事はもう二度

とこないのだろうな。ふふ、お前の所為で私の城はとんだ腑抜け

の集まりになってしまったよ。皆常に笑っているのでは示しが

つかないだろう?」

魔王「お前のいた一年半は・・・・これからも永遠に続くかのように心地よかった」

魔王「・・・・全部、お前のお陰だ」

勇分「・・・・・あは、は、もし僕が泣ける体だったら泣いてましたね」

魔王「次で最後だ」

魔王は勇分の体を抱きしめる。

魔王「・・・お前に会えて良かった、今まで助けてくれて、笑ってくれて

・・・傍にいてくれて、ありがとう」ギュ

魔王「・・・お前の事が好きだ、勇者」

魔王「む、・・・返事はどうした」

勇分「・・・僕が返事をしても、君は僕の事を忘れると約束してほしいんだ」

魔王「・・・何を言っている」

魔王は腕に力を込める。

勇分「・・・《勇者》はもう生まれない、未来に《勇者》はいらない、

僕は忘れ去られるべきなんだ。・・・・皆には笑ってて欲しいんだよ、僕の最後の願いだ」

魔王「・・・わかった」

勇分「こんな事は本当の僕だって死ぬまで言わない筈だった

んだけどなぁ・・・」

勇分「君と一緒に城で過ごした時間は楽しかったよ、初めて

太陽の下に生きているようだったよ。・・・・そしてできるなら

ずっと・・・そのまま皆で暮らしていたかった」

勇分の体が淡い光に包まれる。

魔王「・・・どうしてお前だけが死ななければならないのだろうな」

勇分「そんな顔をしないでほしいな、僕は君の笑顔を見て消えていきたい」

魔王「ああ、・・・・そうだな」ニコ

勇分「何も僕だけがこういう運命をたどっているわけじゃないよ。僕なんかより

もっと苦しい運命を背負っている人や魔族だっているんだ」

勇分「なのに僕はなんて幸せなんだ・・・色んな出会いが会って、仲良くなって

、未来を創れて・・・・最後には君が笑っててくれる、僕の本体も

そう思っていた筈だよ」

勇分は魔王が今まで見たこともない程、ぎこちない笑顔を浮かべた。

勇分「大好きだよ、魔王」

魔王は勇分が確かにいた空間を、ゆっくりともう一度抱きしめる。

魔王「・・・知っているか、勇者」

魔王「私は・・・嘘つきなんだ」

側近「・・・・魔王様」

魔王「・・・」

側近「今は城の方も貴方がいなくて忙しい筈です、辺境の村の復興だって

まだ手がついていないのですよ?そろそろ向かッ」

側近「・・・・魔王様?」

魔王「・・・・・・察しろ」ギュ

側近「もう、勇者が目を覚ます前にあんなに泣いていたのにまだ泣き足りない

んですか?」

側近は優しく魔王の頭を撫でた。

側近「もう少し・・・だけですよ?」

魔王「・・・・ぅ・・・ひっく・・・う、うあああああああああああああ!!」

側近「・・・・今は悲しくても、苦しくても、少しずつ乗り越えてい

けばいいんです。・・・どんなに時間がかかっても」

----―----―----3年後 辺境の村

エルフ少年「ちょ、ちょっと待ったぁっ」

少年はもはや半べそ状態だ。

エルフ少女「もうっ、情っけないわね!もっとちゃんとしないと

相手にならないじゃない!」

エルフ少年「だ、だってお前もう魔王城の兵士より強いじゃないか!

俺には荷が重いって!!」

エルフ少女「ほら立って!今日は大事な日なんだから、もう一回よ。

私の成長ぶりを見てもらわなくちゃ!」

エルフ少年「何だよ・・・もう3年も経っているのに」ボソッ

エルフ少女「・・・何か言った?」ギロッ

少年は空気が間違いなく冷たくなったのを感じた。

エルフ少年「な、何でもねぇよ畜生ぉおおおおお!!!!」ダッ

エルフ少女「・・・そんな事、私にだってわかってるわよ」

ーーーーーーーーーーーーーー魔王城

「魔王様、お伝えしたい事が」

魔王「何だ、今日城の者達は皆休暇をとっている筈だが」

「・・・それか今年は人間の中に我らと一緒に祈りを捧げたいとい

者がおりまして」

魔王「・・・良い、許す」

「承知いたしました」

その者は一礼をして去って行った。

魔王「そうか・・・、真実を知った人間もいるのだな」

側近「魔王様、・・・そろそろお時間です」

魔王「ああ、行こうか」

魔王は穏やかな微笑を浮かべた。

――――――――辺境の村・墓

魔王は村にある他となにも変わらない一つの墓の前に立っていた。

村は数え切れない程の魔族で埋め尽くされていて、中には

人もまぎれている。

・・・あらゆる種族の壁がこの場ではなくなっていた。

魔王の凛とした声が村を通る。

魔王「今日この場に足を運んでもらい、勇者の友として感謝する」

魔王「皆・・・祈りを」

お前は皆に忘れろと言ったな。

・・・勇者、見えるか。

これがお前にはどう見える?

私には光に見える、きっと未来を照らしてくれると確信できる光だ。

だから私達はお前の事を決して忘れない。

あと今年はすごかったんだ。なんと数は少ないが、人が

辺境の村へ移住してきた、すごいだろう?

この一年もまたお前の願う未来に少しだが近づけたのか?

・・・私は私なりのやり方で来年も頑張ってみるよ。

だから次の年にもう一度お前に会いにくる事だけは許して欲しい。

側近「・・・」

かつて《勇者》と呼ばれた化け物。

村長「・・・」

その化け物は魔族に災厄をもたらす筈だった。

エルフ少女「・・・」

だが魔族は誰も命を落とすことはなく、

鳥族1「・・・」

今を生きている。

戦士「・・・」

ならばその化け物は人を滅ぼしたのか。

僧侶「「・・・」」

だが人は生きている。

王国の女「・・・」

両者の大切な命を一つずつ失う事で、私達は今を、未来を生きている。

王国のはずれの村人「・・・」

その尊い犠牲の為は私達は祈り続ける。

魔王「・・・」

勇者の為に私達は祈り続ける。

------------3日後 辺境の村・墓

民幼女「ねぇねぇ!何してるの?」

「・・・ん?お墓参りかなぁ・・・」

民幼女「わっ、わっ、人間なのにお兄さんすごくかっこいいねぇ!」

「あ、あはは・・・、お礼とか言った方がいいのかな・・・?」

民幼女「ってあれ!?どうしたの?・・・どっか痛いの?」

「どうして?」

民幼女「だって・・・お兄さん泣いてるよ?」

「えっ、・・・・・あは、は・・・本当だね」

民幼女「すっごい泣いてる!すっごい涙出てるよ!?すごく痛いの?」

民幼女その男の頭を頑張って撫でようとする。

「・・・・あ、はっ・・・・いや・・・っ、これは・・・そういう涙じゃ、ないんだ」

民幼女「・・・じゃあ痛くないのに泣いてるの?・・・ふふっ、おかしいねっ」

「あはっ、は・・・・僕もこういう涙は生まれて初めてだよ」

民幼女「あれ?どっか行くの?」

「うん、・・・ある魔族さんに会いに行くんだ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー魔王城

側近「・・・魔王様、貴方様に会いたいという人間がいるのですが」

魔王は忙しなく筆を動かしている。

魔王「・・・む、悪いが今は忙しい、今日の所は帰るように伝えてくれ」

側近「・・・忙しくても会う価値はあるかと」

魔王「・・・・何かあったのか?」

側近「そうですね・・・・、今までで最大の危機かもしれません」

魔王「何だと!?」

魔王が慌てて椅子から立ち上がる。

側近「今回の機会を逃せば魔王様は間違いなく大切な物を失うでしょう」

魔王「・・・・そいつは何者なんだ」

側近「さぁ、私では正体がわかりませんでした。ただ、貴方様にとって

重要な意味を持っている事は確かです」

側近「その人間はこの城の庭園にいます。いますぐお会いに行かれた方がよろしいかと」

魔王「・・・わかった!」ダッ

側近「・・・まだ気づかないなんて、世話が焼けるんだから」ニコ

そんな事があってたまるか。

私が、私達がどれだけの犠牲を払ってここまで来たと思っている。

私が止めてみせる、邪魔などさせん。

魔王は毛皮のフードを被った人間を見つける。

・・・・あいつか。

魔王「お前が側近のいっていた人間かッ!!!」ギロッ

勇者「はっ、はいっ!?」ビクッ

えっ、えええええええええええええええ!?

なんか魔王すっごい怒ってるよ!?あれ?なんか想像してた再会と違う!!

というか魔王の魔力凄い!殺気凄い!今の僕だと一瞬で消し炭だよ!?

側近さん一体何言っちゃったのかなっ!?

魔王「・・・お前はようやく手に入れた平穏を壊したいらしいな」

勇者「えっ・・・、いやぁ・・・・そんな事するつも」

魔王「はっきりと話さないか!!!」

勇者「はいっ!すみませんっ!」ビシッ

どうしよう、すごく怖い。

きっと殴られたら当たった部分どっか飛んで行っちゃうよ。

魔王「・・・ん?なんかこの小物みたいな感じ・・・どこかで見たか?」

もうせっかく会ったのに心がズタズタだよっ!?なんて言った瞬間、

僕は粉々になっちゃうんだろうなぁ。

勇者「・・・・はい、まぁ一応は」

魔王「・・・・・んん!?その声・・・・、おい、ちょっと顔見せろ」

魔王は勇者が被っていたフードを上げた。

勇者「あは、は・・・・どうも、久しぶりだね魔王・・・」

魔王「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

魔王「・・・悪ふざけにしては度がすぎるのではないか?」

勇者「・・・・・え?」

魔王「・・・勇者はもう死んだ、この世にはもういない。

お前は何だ、変化の魔法でも使っているのか」

魔王の声は震えている。

勇者「・・・この首輪を見れば僕だってわかるかな」

魔王「それは・・・・ッ!」

勇者は魔王を抱きしめる。

勇者「僕はちゃんと戻ってきたよ」

魔王「・・・本当に・・・お前なのか・・・・ッ!」

一粒の滴が魔王の眼から落ちる。

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