魔王「お前の泣き顔が見てみたい」 6/18

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魔王「お姉さんが私のお世話をしてくれるの?これから

よろしくお願いします!って言ったほうがいいのかな?」

・・・・こんな小さい子が、魔王だなんて。

側近「・・・・はい、こちらこそ宜しくお願い致します」

側近「・・・・一体どういう事ですか!?」ダンッ

「・・・何がだ?」

側近「・・・・あんな小さい子が次期魔王だなんて聞いていません」

その声が震えている。

「はは、魔王に同情するつもりか?・・・そんなものは無駄

にしかならん。魔王がいなければ我らは滅ぶ、必要な犠牲

なのだ。お前が一番良くわかっているのではないのか?」

側近「・・・・ッ!!」

「それにあの小娘は充分に魔王たりえる魔力を有している。

・・・・・300年ぐらいは城を守れるのではないか?」

側近「・・・・・このッ」

「お前が無駄に事を計ることはないのだ、側近よ。・・・ただ

お前はあの小娘に魔王の意義を与えていれば良いのだ。

魔王は戦い、我らは事を計るのが役目なのだからな」

魔王「ねぇねぇ側近さん!」

側近「・・・何でございましょう」

魔王「すっごく暇なんだけどなぁ?」

魔王が上目遣いで側近を見つめ、小首を傾げて尋ねる。

いわゆるカワイイ攻撃である。

側近「そうですか」

側近には効果がないようだ・・・・。

魔王「・・・うぅー、暇暇暇暇ーーーー!!!なんか一緒にやろうよ側近さんっ!」

側近「その言葉遣いの矯正、魔法の訓練、掃除などでしたらかまいませんよ」

魔王「うぇっ、そんなの楽しくないよっ!?」

魔王はくしゃっと顔をしかめた。

魔王「うう、やっぱり村の方が楽しかったなぁ・・・・」

側近「・・・・」

魔王「・・・・ねぇ側近さん」

側近「なんでしょうか」

魔王「・・・・魔王になることって、悲しい事なのかな」

ぽつり、ぽつりと魔王は言葉を続ける。

魔王「私が次の魔王になるってきまって・・・・・お父さんとお母さん、泣いてたんだ」

魔王「どうして泣いてたのかな?城の人たちは誇らしい事って言ってたのになぁ・・・・」

側近「・・・それは、」

私は何もこの子に感じてはいけない。

側近「・・・・・とても誇らしい事なのだと思います」ニコ

だが自分の胸にささる痛みが止むことはなかった。

ーーーーーーーーー1年後

魔王「どうして外に出ちゃ駄目なの!?」

その目は涙で赤く腫れている。

側近「・・・貴方様は魔界にとって重要なお方ですから」

魔王「そんなのわからないよ!」

側近「貴方様を危険にさらすわけにはいかないのです」

魔王「だったら魔王なんかやめる!言葉遣いだって直さない!

魔法の練習だって、全部、全部止める!!」

側近「・・・それはできません。・・・・・もう決まった事ですから」

魔王「・・・・・もういい、出てってよ」

側近「・・・・わかりました、失礼します」バタン

魔王「お父さん、お母さん・・・・もう会えないの?」ポロポロ

側近「・・・・いつまでこんな事を続ければいいのよ」

側近「・・・落ち着きましたか?」

魔王「・・・うん」

側近「・・・貴方様は一年前、私に魔王になる事は良い事な

のか、と聞きましたね」

魔王「うん」

側近「正直、私は誇らしい事などとは少しも思っておりません」

魔王「・・・・えっ」

側近「私の兄は・・・・・現代魔王なのです」

魔王「・・・・じゃあ今の魔王って側近さんのお兄さんなの?」

側近「・・・そうです。兄とは言っても、200歳程年上ですが」

側近は静かに言葉を続ける。

側近「兄は魔王として城を、魔界を約300年守り続けました。

そして魔王である事を今も誇りに思っています。

・・・・今ではもう立つ事さえできないのに」

側近は唇を血が出る程かみ締める。

魔王「側近さん・・・」

側近「誇りと引き換えに命を失うなどこんなにも馬鹿げた事

はありません、そう私は思います」

魔王は力なく笑う。

魔王「じゃあ・・・・私もいつか勇者に殺されちゃうんだね」

側近「そうはなりませんよ」

魔王「・・・どうして?」

側近「私が守りますから」

ーーーーーーーーーーーーーー2年後

「魔王就任、おめでとうございます」

魔王「うむ」

「これからの魔界は貴方様にかかっています。

貴方様の御力で勇者一行を幾度もはねのけて

いただける事を期待していますぞ」

魔王「・・・わかっている」

魔王「・・・・少し一人になりたい、下がれ」

「「はっ」」

城の者達が部屋を出て行く。そしてやがてその扉は

また開かれた。

側近「魔王様、就任おめでとうございます」ニコ

魔王「側近っ!久しぶりっ」ダッ

魔王は側近に抱きつく。側近はクスリと笑った。

側近「もう、言葉使いはどうしたんですか?」

魔王「うぅ、あの話し方、年寄りっぽくてちょっと・・・・」

魔王は急に沈痛な面持ちになった。

魔王「側近の兄さんの事は残念だったね・・・・」

側近「・・・・・兄は最後まで笑って逝きました」

魔王「・・・すごいお方だね、私なんか全然だよ」

側近「・・・兄のようになってはいけないのですよ?」

魔王はにっこりと笑う。

魔王「わかってる」

ーーーーーーーーーーーーーーーー3年後

魔王「やはり私では力不足、か」

魔王は自傷気味に笑う。

側近「辺境の村に森の主が来るのを事前に止められなかったのは

貴方の責任ではありませんよ」

魔王「だが側近もわかるだろう?城の者全員が私を信じている

わけではない」

側近「これから皆に慕われるような魔王になれば良いのですよ」ニコ

魔王「・・・・側近」

側近「何でしょうか」

魔王「・・・・本当に皆から慕われる魔王とは何なのかな?死ぬまで

勇者一行から城を守り続ける魔王がそうなのか?」

側近「・・・それは」

魔王「他の道はないのか?人と魔物が手を取り合って共に平和を

得る事は本当にできないのか・・・?人と話し合うことは本当にできないのか?」

側近「・・・・それはこの魔界の歴史が示していますよ」

その声は重く、冷たい。

魔王「・・・私は魔族の為に本当に必要な事をしたいんだよ、側近」ニコ

側近「・・・魔王様」

・・・なんて優しい魔王。

でもその道は最も辛く、苦しい道。

純粋すぎる貴方一人では耐え切れないかもしれない。

だから私は貴方様を命を懸けて守ろう。これからもずっと、いつまでも。

ーーーーーーーーーーーーーーーー2年後

側近「もうっ!あの人間はどこにいったのですか!?」スタスタ

「・・・・・・・・す」

側近「これはあの人間の声・・・・?」

今は城の中で誰も使っていない筈の部屋から勇者の声がしたのだ。

側近「一体何を話しているの・・・・?」

勇者「ええ・・・・、もうすぐです」

側近が聞いたこともないほど冷たく鋭い声。

「そうか、だが期限は明日までだ。」

勇者「・・・・申し訳ございません」

「良い、律儀にお前が王国を出てから20年も待った甲斐が

あったというものだ」

勇者「はい。必ずや貴方様のお望みに応えられるような

戦果を持ち帰りましょう」

勇者「・・・・必ず王様に魔王の首を」

王「うむ」

側近「・・・・・・・・・・嘘・・・・よね」

側近「はっはっ」タッタッ

・・・早くこの事を魔王様に伝えなければ

勇者は嘘をついていた。

魔物を救う気などなかったのだ。

ここにくるまで村に立ち寄ったのは今度攻める時に

警戒心を根こそぎ奪う為。

この城に来たのも魔族の戦力の要を潰す為。

いつも浮かべていたあの笑みさえ嘘だったのか。

1年前に魔王様に対して浮かべたあの表情さえ・・・

早く、早くこの事を・・・

ぽたり、と床に滴が落ちる。

側近「はっ・・・・はっ・・・・・・・・・・どう伝えればいいのよ・・・・うっ」ポロポロ

言えない。

言える訳がない。

なぜ私が泣いているのかはわからない。

こんな事などわかっていた事ではなかったのか。

それとも私もあの人間を心の底では・・・

側近「うっ・・・ひっく・・・・・・もう・・・・勇者を信じる

しかないじゃないのよ・・・・・」ポロポロ

側近「・・・・勇者」

勇者「うぇっ」ビクッ

勇者「ど、どうも側近さん・・・本日はお日柄も良く」ビクビク

側近「・・・・」

勇者「・・・・あれ?今日は殴らないんですね。ってぇえ!?

今僕の事勇者って・・・・」

側近「・・・・私は貴方の事を信じますよ、・・・・勇者」スタスタ

勇者「・・・・ありがとうございます」

勇者はその後姿を見送る

勇者「・・・そっかぁ・・・見られちゃったんだな・・・」

勇者「それでも僕の事を信じてくれたのか・・・」

魔王「ううむ、暇だな」

側近「・・・・・そうですね」

勇者「どうも」

魔王「む、なんだか結構久しい気がするぞ・・・、仕事は良いのか?」

側近「・・・・・ッ!」

勇者「・・・・・はい、仕事は今日全て休んできましたから」ニコ

・・・・その笑みに何が含まれているのか

側近「・・・・・」

勇者「少し、お話したい事があるんです」

魔王「・・・・話とは何だ?」

勇者「はい、今日をもってここを辞めさせていただこうと思いまして」ニコ

魔王「・・・・どういう事だ」

勇者「言葉通りの意味ですよ?だからですね・・・・」

勇者「記念作りに魔王様と一度戦ってみたいなぁ、と」ニコ

側近「信じてるって・・・・言ったのに・・・・ッ!!!」ダッ

側近「勇者ァアアアアアアアアアア!!!!!」

魔王「そ、側近?!」

側近は城の歴戦の兵士とは比べ物にならないほどの

早さで魔方陣を組み立てる。

勇者「遅すぎですよ」ブン

勇者が軽く手を横に振るっただけで魔法陣がこなごなに

砕け散った。

側近「なっ・・・!?」

勇者「少し大人しくしててください」

一瞬にして側近の自由が拘束される。

側近「・・・・・・ッ!・・・・・・魔王様・・・!!逃げ、て・・・・・・ッ!!」

勇者「そんな状態でよく喋れますねぇ・・・・・」

魔王「・・・・・勇者、貴様本当に何のつもりだ?」ギロッ

勇者「・・・やっとですか、戦闘態勢に入るの遅すぎですよ?」

勇者「言ったじゃないですか、これはただの記念作りだって、遊びですよ遊び」

魔王「遊びで側近にこんな事まで・・・・・!!!私はお前の事

を誤解していたようだな」

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