勇者「・・・・いいから早くやりましょうよ」
側近「や・・・・・め、て・・・・・」ポロポロ
ぎしり、と魔王の顔が歪む。
魔王「いいだろう・・・・!!やってやる・・・・!!!」
魔王「・・・・どうした、来ないのか」
勇者「そんな言葉を吐ける程、貴方に余裕なんてない筈なんですがね」ニコ
勇者「・・・・お先にどうぞ?」
勇者は魔王に恭しくお辞儀をしてみせる
魔王「どこまでも・・・・嘗めた奴だ」
魔王の膨大な魔力が魔方陣に転換され、掌に巨大な魔弾が構築される。
魔王「・・・どうだ、これでもお前はそんな口が利けるのか?」
勇者は退屈そうに口を開く。
勇者「あはは・・・そんなに僕と戦いたくありませんか?
勇者はこんな事しない、勇者は優しい、って今でも思ってるんですか?」
勇者「・・・・側近さんでも殺してみれば貴方の気も変わるんですかね」
勇者はいつものあの笑みを浮かべた。
魔王「・・・・もう、いい」
その声には殺気が篭っている。
魔王「お前はやはり《勇者》だったのだな」
ゴッッッッ!!!!!! という音と共に唸りを上げて魔弾が
勇者に放たれた
勇者「・・・そんな顔で泣かないでくださいよ」
勇者は目の前に迫る魔弾を前にして笑みを浮かべたまま、
そうぽつりと呟いた。
側近「(・・・・ッ!まさか・・・・!)」
耳が割れるほどの轟音が城中に響いた。その魔弾の余波
で城の頂上の屋根の半分が吹き飛ぶ。・・・そして静寂が訪れた。
魔王「・・・どうせお前にはかすり傷一つついてはいないのだろう?」
魔王は自傷気味にはき捨てる。勇者の姿は巻き上がった
粉塵のせいで確認することはできない。
魔王「お前に勝てるとなどは思っていない、だが魔王として私は最後まで戦おう」
側近「魔王様!」
魔王「な、何!?拘束が解けたのか!」
側近「ああ、魔王様、貴方は何ということを・・・」
魔王「・・・どういう事だ」
側近は数時間前に勇者と王様のやり取りの件について話した。
魔王「なん・・・だと」
魔王の顔が蒼白に染まる。
側近「・・・おそらく勇者はわざと魔王様を嗾け、魔王様が自分を殺すように・・・」
震える声で側近は呟く。
魔王「ゆ、勇者・・・・、どこにいるのだ?・・・勇者ぁあああ!!」
悲痛な叫びに応える声は聞こえない。
魔王「う、・・・ぅぁああぁああああああああああ!!」
勇者「か、勝手に殺さないでくださいよぉ・・・」
弱弱しい声で勇者はそう呟いた。
魔&側「ひゃうっ!?」
そういえばよく目を凝らすと人影が見える。
魔王「お、お前よくも私を騙し・・・・・」
そこから言葉が出なかった。我が目を疑った。
服はずたずたに破れ、その服は真紅に染まり、ところ
どころがおかしな方向に曲がっている。
その血に染まった顔はあの笑みを浮かべていた。
勇者「あはは、ちょっと死ぬかと思いましたね・・・。ごほっ・・・流石魔王様です」ニコ
魔王「あ、・・・・あ・・・そん、な」ガタガタ
自分に対する嫌悪で体が小刻みに震える。これは私がやったのだ。
側近が勇者に駆け寄る。
側近「勇者!大丈夫ですか!?今、回復魔法を・・・・」
側近の手を勇者が掴む。
勇者「しなくていいですよ・・・。これは僕に対する罰です
から。回復魔法なら自分で今やってます。まあ、
ぎりぎり立てるぐらいまでで止めますけどね」
魔王「・・・なぜこんな事をしたんだ、お前ならあんな魔弾
ぐらい軽く止められるだろう?」
魔王の手はまだ軽く震えている。
勇者「元々魔弾自体はくらう予定だったんですけどね。
魔王様の泣いている顔を見たら防御魔法を使う
気になれなかったんですよ・・・・」
魔王「・・・馬鹿だな、お前は本当に・・・」
側近「・・・勇者はこれからどうするつもりなんですか?」
勇者「これから王国へ向かいます。魔王討伐の期限は明日ですから」
魔王「そんな体で行くのは無茶だ!」
勇者「大丈夫ですよ。歩いていくわけじゃないですから、
それに徒歩じゃ1日で王国に着きませんし」
夥しい数の足音が響いてくる
兵士達「一体何があったのですか!?」
側近「後で説明しますから、今は出て行ってもらえますか」ギロッ
兵士達「は、はい」
ぞろぞろと部屋を出て行った。
側近「どうして勇者はこのような事を・・・?」
勇者「王国に僕が魔王に敗北した事を知らせる為ですよ」
魔王「・・・・勇者」
勇者「人間の魔法に関する技術はもはや魔物を超えてい
ます。並大抵の事では誤魔化すことができないんですよ」
魔王「私と戦ったのもその為なのか・・・?」
勇者「ええ、そのお陰で僕の体には魔王様の残留魔力
が残ってますから、少しぐらいなら誤魔化せるはずです」
魔王「そういう事なら事前に話してくれれば・・・!」
勇者は穏やかな顔で魔王に告げる。
勇者「僕と本当に戦いましたか?」
魔王「・・・・それは」
勇者「・・・もう時間もありませんからね」
側近「それならもっと前に話していれば良かったのでは?」
勇者はすこし困ったような顔になった。
勇者「うぅ、・・・痛い所つきますね」
勇者「・・・それは楽しかったからですよ」ニコ
側近「・・・それはどういった・・・」
勇者「僕が最初に来たときの事を覚えていますか?」
魔王「ああ、見たときからおかしな奴だと思ったぞ?」
勇者「うっ、それはちょっとおいときまして・・・最初は
僕も大変だったんですよ。皆さんからボコボコに
されたり、食事五日間連続なしとかされたり」
側近「それは誰の事を言ってるんですか?」ガスッ
勇者「ぐはっ!うぅ・・・怪我してるのに容赦ないですね」
勇者「でもそれも時間が経つにつれてだんだん皆さん
も僕に対してそんなに厳しくなくなっていって
、そこからだんだんと楽しくなってきたんですよ」
側近「・・・・」
勇者「ちゃんと話ができるようになってからは皆さん
の事がよくわかるようになって・・・・仕事もちゃんと
やらせてもらえるようになって」
勇者は満面の笑みを浮かべて話を続ける。
勇者「今となっては逆に僕に話しかけてくれたりして、
毎日忙しいですけど色んな方と笑って話せて」
勇者「そんな生活が僕にとってはすごく大事になった
ですよね、魔王様や側近さんや皆さん全員がいる生活が」
勇者「村の人たちだってそうです。僕がここまでくるまで
に出会った人たちも本当に良い方達ばかりで、辛い事も多かったですけど」
魔王「勇者・・・・」
勇者「だから僕はどんなに辛くなっても限界までこの
生活を続けたかった、続けたかったんです」ニコ
勇者「でも、もうその時は来ました」
魔王「ああ、・・・・そうだな」
勇者「魔王様、お願いしたいことがあるんですが」
魔王「・・・言ってみろ」
勇者「人と、・・・・人間と協定を結んでくれませんか?」
魔王「・・・無理だな」
勇者「何故ですか?」
魔王「人間は、奴らは私達に対する敵対心が強すぎる。
それに勇者は今の人間は強い魔力を有していると
言ったな。仮に奴ら一人ひとりが勇者一行の一人
と同等の働きができるとするならば危険が高すぎる」
勇者「その為に僕がいるんです」ニコ
勇者「それに全ての人間が魔物を嫌っているわけでは
ありませんよ?」
側近「そんなことは・・・・ありえるかもしれませんね」
・・・このような人間がいるなら。
魔王「それでもだな・・・」
勇者「なら信じてください、僕の事を」
魔王「・・・魔王が勇者を信じる・・・か」
魔王「あはっ、あははは!本当にお前は面白い奴だっ」
魔王は腹を抱えて笑う。
魔王「ふふっ・・・・いいだろう、その冗談呑んでやる」ニコ
勇者「ありがとうございます」ニコ
勇者「では僕は先に王国に行ってるので後を追ってきてくださいね」
魔王「王国の下町にあるお前の家を見せる約束、忘れるなよ?」ニヤ
勇者「うっ、い、いってきますっ」ドンッ
赤く焼けた空を見上げて魔王は呟いた。
魔王「あの飛行魔法、今度教えてもらいたいものだな」
側近「そうですね・・・」
魔王「・・・それと側近、お前さっき勇者と何をを長々と話してた?」
側近は勇者のような笑みを浮かべる。
側近「・・・・些細なことですよ」ニコ
10時間後
ーーーーーーーーーーーー王国のはずれの村
村人1「ひっひっぃいいい!!!ば、化け物め、今頃何しに
きやがった!!ここには何もねぇぞ!!」
勇者「・・・すぐに出て行きますから、安心してください」ニコ
勇者が村の中を歩くたびに悲鳴があがる。
来るな、化け物。
悪魔め。どこかへ消えろ。
勇者は涼しい顔をして歩き続ける。
・・・やがてある墓標に行き着いた。
勇者「あはは、埃と雑草だらけ、ひどいね、掃除しないと」
勇者「久しぶり、父さん」ニコ
ーーーーーーーーーーーー約30年前
家の前にある少年が立っている。
その顔は暗く、沈んでいたが、やがて手で自分の顔が
モニュモニュ揉むと笑顔になった。よし、と少年はドアを開ける。
少年「ただいま!父さん!」バタン
父「おう!おかえり!遅かったなぁ、今日も友達と遊んできたのか?」ニカッ
少年「う、うん!そうなんだ!」ニコ
一人森の中で時間を潰していた、などとは当然言えない。
少年「今日のご飯は何?」
父「くくく、聞いて驚け!今日はグリズリーを使った肉鍋
だぁーーー!!!」ドーン
少年「わぁ、お肉たくさん入ってるね!」
父「おう!たくさん食えよ?」
少年「もぐもぐ・・・ねぇ父さん」
父「なんだ?」
少年「・・・僕、もうすぐ10歳だよね?」
父の顔がびきりと固まる。
父「・・・・・・・ああ、そうだな」
少年「僕、王国に行きたいんだけど・・・・」
父「駄目だ」ギロッ
少年「ど、どうして?」
父「駄目なもんは駄目だ。他の事なら何でも許してやるが
王国に行くのだけは駄目だ」
少年「・・・・どうしてさ、どうして駄目なの?理由がなきゃわからないよ!」
少年の目に涙がたまる。
父「・・・・・ッ!!お前は知らなくていい事だ。知っていい事と
知ってはいけない事があるんだ。」
少年「・・・・ねぇ、父さんも僕には言わないでくれてるけど知ってるんでしょ?」
少年「僕が化け物って呼ばれてる事」
父「・・・・・・」
少年は震える声で言葉を続ける。
少年「本当は今日一人で森にいたんだよ?それだけじゃ
ない、ずっと、ずっと!ずっと前から僕は一人で森にいたんだ!!」ポロポロ
少年「もう嫌なんだよ・・・・化け物って呼ばれるのはもう嫌なんだ」