魔王「お前の泣き顔が見てみたい」 14/18

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ーーーーーーーーーーー王国・城

おのれ、おのれ、おのれ

私の全てを台無しにした、憎き勇者め。

魔王城から逃げ帰る兵士団から連絡を受けた王は拳を台座に

打ちつけ、叫ぶ。

王「死して尚、この私の邪魔をするか勇者ぁあああああああああああああ!!!!!!」ガンッ

もはや人ならざる表情を浮かべ、呻く。そしてよろよろと

歩き出す。一体どこに向かっているのかは誰にもわからない。

王「ゴミ虫以下の腰抜け共め・・・!!くは、くはははははっははは

は戻ってきたら全員縛り首にしてくれる!!くはははは」

王「くはは、私がこの眼で魔族共の滅亡を見なければ意味などないのだ

・・・・・ッ!!どいつもこいつも使えぬ!!!」

口が裂けるかのような笑みを顔にはりつけながら王は一人歩き続ける。

王「くはは、そうだ。使えぬ下僕共などに価値などないではないか、

くはは、ははははは。私だけが至高の存在であれば良いのだ。

私こそが神に選ばれた存在なのだ」

王はやがて漆黒の扉の前にたどり着いた。そしてその扉を開ける。

ぞわり、と闇があふれ出す。

王「くは、くははははは、貴様らが無能だから高貴なる私が前に出て

やるのだ。貴様らが無能だから無能だから無能無能くはははははは。

誰が愚図共に勇者などまかせるか」

王の目前にあるのは漆黒の武具。正気であれば決して触れなかったで

あろう手をそれに触れる。

闇が、呪いが、苦痛が、悲しみが、憎悪が、憤怒が、力が王の体を包んだ。

王「くがッ!?がぎゃぁがっがぁああああああ!?く、くぎゃ、はははははは

ハハハはははハはあはははははは!!!!!!!」

求めるはゴミ共の血のみ。

王「・・・・我こそが至高の存在なのだ」

一人の人間の狂気の末に一匹の化け物が誕生した。

ーーーーーーーーー魔界・辺境の村

勇分「・・・魔王様と側近さんは先に城へ向かっててくれますか?

まだやるべき事ができたみたいなんです」

魔王「・・・なら私も行くぞ」

側近「魔王様が行くのなら私もご一緒します」

勇分「あはは、本当に大した事じゃないので一人で大丈夫

ですよ」ニコ

魔王「嘘だな」

勇分「・・・・嘘なんかじゃないですよ」

魔王「・・・お前はいつもそうだ。全てを自分で抱えて全てを

自分で解決しようとする」

魔王「その嘘が私達魔族を傷つけているのがわからないのか。

お前がもし前もって話してくれていたら何かが変わった

かもしれんなかった。・・・お前は死ななかったかもしれなかったんだぞ」

勇分は困ったように笑う。

勇分「・・・本来なら全て僕が終わらせるつもりだったんですよ?

魔族さん達を巻き込んでいるというだけで謝っても謝り

きれないぐらいなんですから」

側近「そうです。貴方は私達魔族に多大な迷惑をかけました」

魔王「・・・・側近?」

側近「だから全てが終わってから、思う存分謝ってください」ニコ

勇分「・・・あはは、厳しいのか優しいのかわかりませんね」

勇分は眼を閉じ、暫しの間の後口を開いた。

勇分「・・・王国の方角に強大な魔力が感じとれました、恐らく

王が何かしたんでしょう。それも異常な事を」

魔王「・・・奴めまだ何かするつもりなのかッ!?」

勇分「だから僕はそれを止めに行ってきます」

魔力がほとんど余ってて良かったです、と勇分は笑う。

魔王「・・・止めてもお前は行くのだろう?」

勇分「・・・はい」

勇分「民の方々にはもうお別れはいってあるので、

鳥族1さんからはなんと剣を一本もらっちゃいましたよ」ニコ

勇分が魔法を発動させる。

魔王「・・・お前にはまだ言ってやりたい事が山ほどあるんだ。・・・必ず戻って来い」

勇分はあの笑みを浮かべて答えた。

勇分「もちろんですよ」

大気を震わす衝撃とともに勇分の姿は消えた。その軌道を見上げながら魔王は呟く。

魔王「・・・・嘘つきめ」

力が満ちる。

何でもできそうだ。

体が軽い、最高の気分だ。

力を持つ者の気持ちが今ならわかる。

我が下僕と呼んでいた物はもはや蟻ほどの存在感も感じない、

どうでもいい。

そんな事よりもはやくこの力を振るおう。

ゴミ虫共を皆殺しにしてやろう。

我ならできる。

・・・・その為には我が国からでなければ。

王「・・・くはは」

自らの足に軽く力を込める。

ゴッ!!!! 轟音と共に地面が爆ぜる。

その跳躍を眼で追える者は、いない。

王「・・・良い眺めだ」

闇夜に月が輝いている。

我の上に存在する者はいない。

我は全てを見下ろしているのだ。

漆黒の鎧から鮮血が滴り落ちる、そんな事はどうでもいい。

・・・我は満たされている。

「そうはさせない」

何だ、コレは。我が国から飛んできた。

我と同じ高さに位置している。

邪魔だ、邪魔だ。頂点に君臨するのは我のみでいい。

消せ、消せ。

勇分2「さて、時間稼ぎをさせてもらうよ」

化け物は一人、呟く。

王「ああ、コレは・・・・邪魔だな」

王国の夜に閃光が迸った。

ーーーーーーーーーーー7時間後

何だ、コレは。

消しても消しても沸いてくる。

ゴミ虫程の力しか感じない筈。しぶとい、邪魔だ。

腕を振るう。

ゴミ虫の首がひしゃげ、消える。

またゴミ虫がやってくる。我が剣を横に払う。

ゴミ虫の胴体が二つに分かれ、消える。

「・・・なんとか間に合いましたね、他の分身はほとんど消され

てしまったようですが」

なんだ、またゴミ虫か。

王「・・・コレで、最後、か」

勇分は静かに王を見据える。

勇分「・・・そうだ。・・・僕の事は忘れられてるみたいだな、

それとももう見えないのか」

いや、違う。

コレはゴミ虫などではない。

危険だ、危険だ。

こいつの力量は我に届く。

何だ、こいつは、消せ、消せ。

勇分は気負いなく刃を抜き放ち、刃に無数の魔法陣が展開される。

勇分「・・・王、貴方は人として未来を生きるべきだった」

刃を我に向けるだと、無礼な。

黒が鎧の全てを塗りつぶす。全てを消す。・・・・そうかお前は。

王「・・・勇、者ッ!!!」

勇分「これが《勇者》としての最後の戦いだ」

王「我こそがッ!!勇者なのだッ!!!!!!」

光と闇がぶつかった。

その衝撃は人知を超える。

雲は掻き消え、空は割れる。その轟音は全ての生物に畏怖を与えた。

地上の全ての生物には、それが世界の終焉に見えた。

《補足》 なぜ多くの分身が王の足止めをしたのか、という事について

当然、勇者が王の兵士から辺境の村のみを守ったわけではありません。

辺境の村は魔王城への通り道に位置している為に他の村のように気配を

消すだけでは対応できなかったという事です。

要するに勇者は魔王城の通り道周辺全ての村に分身を置いて気配を消していた

というわけですね。

あとは魔脈の使用が終了した分身が王に向かえば筋は通っているかな?

と思います。

ーーーーーーーーーーーーーー魔界・魔王城

魔王「遂に始まったのだな」

大気は震え続けている。

側近「・・・では行きましょうか」

魔王「そ、側近?」

側近「もしかしたらもう勇者とは会えなくなってしまう

かもしれないのでしょう?行かなくても良いのですか?」

側近は穏やかな笑みを浮かべている。

魔王「ふふっ、そうか・・・・側近も変わったのだな。勇者に会って」

側近「ええ、本当の本当に不本意ですがね。認める他ないでしょう」

民幼女「あ、あのっ」

魔王「どうした?」

民幼女「勇者様は戻ってきてくれるんですよねっ?」

魔王「・・・・きっと私が連れ戻してこよう」ニコ

エルフ少女「私からもお願いします!!・・・まだ何もお礼してないのに

もう会えないなんて嫌だよぉ」ポロポロ

厨房室の魔物1「そ、そうだ!!雑用がいねぇと毒味できなくてよ!!」

鳥族1「・・・・俺達が行っても足手まといになっちまうからな」

「「「「そうだ!勇者はいい奴なんだ、あいつを連れ戻せるのは魔王様しか

いない!!あいつはこの城に必要なんだ!!」」」」

「「「「お願いします!!魔王様!!」」」」

魔王「ふふ、・・・とんだ他力本願もあったものだな」

側近「それでいいのでは?貴方様は今間違いなく人間との協定を超えて

城の者全員から慕われてる、それが貴方の目指す《魔王》だったのだから」ニコ

魔王「・・・そうだな」

・・・これもお前のお陰なのかな。

魔王「勇者、わかるか?お前はこんなにも多く、いやそれ以上の者達に慕われている。

・・・・化け物としてではなく」

魔王「お前は一人じゃないんだ、勇者」

ーーーーーーーーーー王国・下町

「・・・なんだアレは」

「も、もう世界は終わりだ・・・」

「魔力もほとんど失って・・・、寿命も半分以上も失って・・・俺達はもうどうすればいいんだ」

戦士長「ふざけるんじゃないッ!!!何故命がある事を喜ばない!!前に進もうとしないんだ!!!」

私は知っています。勇者様、貴方がわざとあのように振舞われた事を。

貴方は私に何を託したのでしょうか。

「何言ってんだ!!今の状態で魔物共に攻められたらもうお仕舞いだぞ!!」

「魔物なんかに殺されるなんて嫌!!」

民の命でしょうか、王国の未来でしょうか。

戦士長「生きる為ならどんな手段でも使えば良いだろう!!魔族と協定を

結ぶ事だって!!!私達は先人の為に生きている限り生きる希望を捨ててはいけないのだ!!!」

私は貴方様のようにはなれないかもしれない。

でも、それでも私は私なりのやり方で生きる希望を育てていきたい。

戦士長「私達が生きている限り!!希望は潰えない!!私達こそが希望なのだ!!」

貴方様の意志を、私は守り続けると誓います。

ーーーーーーーーーー上空

強い、本当に強い。

本来なら一個体を対象に振るってはいけない僕の力が押されている。

王がどれだけの犠牲を払ってこんな力を得たのか想像もできない。

命だけでなく魂までも捧げたのか。

いや、それだけでは代償として足りない。

まだ人の体の中に入っていない全てのオーブの中に入っている

何万もの魂を代償として捧げたのかもしれない。

ただわかるのは王が自分だけを代償にしただけでこの力を得た

わけではないという事か。

勇分「・・・それを見逃すわけにはいかないな」

莫大な魔力を刃に込め、同時に飛行魔法の加速を最大に挙げる。

それに対し王は大気を蹴り、勇者に勝る速度で向かってきた。

王が剣を振るう度に、勇分が剣を振るう度に大気が割れる音が

何度も響き渡る。

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