魔王「お前の泣き顔が見てみたい」 13/18

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魔王の顔が悲痛に歪む。

魔王「ふふ・・・・なんだ、何も知らなかったのは私だけか」

魔王「・・・人の王よ、勇者について知っている事を話してほしい。・・・全て」

王は笑みを崩さずに口を開いた。

王「・・・いいだろう」

王「・・・これで勇者に関する話は終わりだ。どうだ?壮絶な生涯だろう?」

魔王「・・・・お前のせいで勇者は死んだのだな、この首輪も・・・」

王「ああ、あの呪いの首輪がなければ勇者をこの手で殺す事は叶わなかった

だろうな、それはそれ程に強力な魔具なのだ。込められた魔法を壊す事など

勇者にすらできはしなかっただろうよ、まさに最凶の魔具と言える」

王はにたり、と口を歪める。

王「・・・・だがそれを選択したのは勇者自身だ」

側近「・・・・何をいっているのですか」

王「・・・《元始の魔王》の魔具は何も使用者から代償だけを奪い取るもの

ではない。非常に強力な力を与えてくれるのだよ」

王「この首輪の代償は生命力の全てだ、人間には使えん。勇者は強大な魔力で代用したがな、

・・・・・まるで《神の子》の為に創られたかのような魔具だろう?」

魔王「・・・代わりにどんな力を得たのだ?」

王「自分が触れた者から命を奪う・・・・いわばライフドレインだよ。

これで勇者は正真正銘の化け物となったわけだ」

側近「・・・・まさか」

王「くはは、貴様らの思っている通りだ、勇者は自身の魔力が半分に低下した

だけで回復する事はできる。奴はその恐ろしい力を封じるために魔力の

回復力分を常に消費し続けていたのだよ!!死ぬまでずっとなぁ!!!」

王「なんという愚かな奴よ!首輪の力さえ使えば死ぬ事は無かったという

のに!!・・・・だからこそ首輪を奴に着けたのだがなぁ!!」

側近「・・・・これが人間なのですね」

側近は右手に魔力を集め、魔法陣を展開する。

だがその魔法が発動する事は無かった。・・・・魔王によって魔法陣が砕かれたのだ。

魔王「・・・うむ、勇者の見様見真似だがうまくいったな」

側近「・・・魔王、様?」

魔王「お前は私を守るのだろう?ちゃんと自分を保て」

静かな声が側近の耳に届く。

側近「・・・申し訳ありません」

魔王「・・・悪いがそのような安い挑発に乗る程、私は愚かではない」

王「・・・・ッく!!」

魔王は顔を憎憎しげに歪める王を静かに見据えた。

魔王「・・・・人の王よ、お前は私達魔族の協定の申し出をお前の一存で断る

ことはできない、そうだろう?」

魔王「・・・だからお前は考えたのだ、私にこの王国を落とさせれば良いと。

そうなれば人間との協定など結ぶ事はできなくなる。・・・なぜそこ

まで我らを憎む?どうして共に生きる事を拒むのだ」

王「だ・・・・まれ、黙れ黙れ黙れぇええええ!!!このゴミ虫共がぁ!!!貴様ら

がこの世界に存在している事自体が異端なのだッ!!!貴様らが

消えなければこの世界に平和は訪れない!!」

魔王「・・・そうか、だが私はこの国を落とすつもりはない。勇者のした

選択が正しかったと証明する義務が私にはある」

王はまだ狂気を失わない。

王「くはは、・・・・・それはできん。貴様は必ず人を憎み、殺す」

側近「・・・・魔王様、いきましょう。次の王国へ」

王「・・・魔族の王たる者として城を空けるというのはどうなのだ?」

魔王「・・・・何が言いたい」

王「・・・7日前から我が王国の兵士団が貴様の城に向かっている。本当に

思ったか?魔力が使えなくなった程度で本当に我が兵士の牙が抜ける

とでも?・・・・魔法が使えなくとも魔具がある。まさか我ら人間が

魔法の研究だけど続けてきたと思っているわけではあるまいな?」

側近「・・・・ッ!!」

魔王「・・・・・行くぞ」

ーーーーーーー王国・下町

魔王と側近は最初にここを通った時に目に付いた一軒の家の前にいた。

家とは言っても焼け落ち、おそらく町人達が投げ込んだであろう土や石で

その原型はほとんどとどめていない。

魔王「・・・・ふふ、勇者め、こんな所に私達を招待しようとしていたのか。

失礼な奴だ」

魔王が浮かべるのは勇者がいつも浮かべていた、あの笑み。

側近「・・・・貴方は強く・・・なられました」

魔王「さて、・・・・こんな場所で時間を割いているわけにはいかん。急ぐぞ」

側近「・・・はい」

魔王は静かな笑みを浮かべて呟く。

魔王「・・・泣くのは死んでからでいい。勇者・・・・そうだろう?」

ーーーーーー8日後 魔界・上空

魔王「・・・・あれは」

数百人単位の王国の兵団の軍勢が、魔王城とは反対の向きに

引き返しているのが見える。

側近「・・・・・人間ッ!」

側近の殺気が急激に膨れ上がる。

魔王「よせ、それよりもするべき事がある筈だ」

魔王「・・・私達の民の命が奪われたから殺すのか?それでは

何も解決しない、・・・何も変わらない。勇者はそんな事を望んではいない」

側近「・・・貴方様は勇者のように振舞おうとしてらっしゃるのですね」

魔王「・・・楽ではないがな。それよりもどうやら私達がいなくとも

城は守られたようではないか、急ぐぞ」

側近は飛竜の手綱を握る魔王の手が血で滲んでいるのを見て、

側近「・・・はい」

そう答えることしかできなかった。

ーーーーーーーー2日後 魔界・辺境の村

側近「・・・・」

魔王「・・・こうなるのはわかっていた事だ、行くぞ」

村だったその場所には木材と瓦礫だけが散らばっていた。

民の姿は見えない、いや見えなくて良かったというべきか。

土に紛れる程に八つ裂きにされたのか、それとも魔具で

灰にされたのか、それを考える意味はもはや存在しない。

ただわかるのは、人間による暴虐の嵐によって民の命が

全て奪われた、という事だけである。

魔王「・・・・駄目だ」

魔王の脳裏に村の民達の優しい笑顔が浮かぶ。

魔王「泣いては駄目だ。・・・私は勇者の意志を継ぐのだから」

側近「・・・魔王様」

魔王は逃げるように飛竜の元へ向かおうとする。

魔王「・・・む」

足が何かを踏んだ。どうやら石でも木材でもないらしい。

側近「・・・・それは」

側近の目が見開かれる。

『えっと、私達みんなを助けてくれて、ありがとうございました!』

魔王「・・・違う」

『やっぱりお母さんの言った通りだった!魔王様

は私達魔物の事をいつも考えてくれていて、いつも

助けてくれる凄い御方だって言ってたもん!』

魔王「違うんだ」

魔王の声は震えている。

『魔王様はこれからも私達が危ない時は助けてくれるんだよね!』

『ああ、そうだな』

魔王「・・・・私は大嘘つきだ」

涙を頬を伝う。

『その首飾りにかけて誓おう。私は必ず皆を守ると』

魔王「・・・・私は約束を破って、しまった」

魔王は青い空を見上げ、呟く。

魔王「・・・・やはり私はお前のようにはなれないよ、勇者」

魔王の眼からあふれ出す滴は、絶えず土で汚れた首飾りに落ち続けた。

勇者、お前が死んだとあの人間の口から聞いた時、

私は何を思ったと思う?

憎い、殺してやりたいと思ったんだ。

あの人間のにやついた顔を潰してやりたい、

お前を死に追いやった人間共を皆殺しにしてやりたいと思った。

私を笑ってくれ、勇者。

私はあの人間と何も変わらない、自分の感情に振り回される大馬鹿者だ。

・・・・だが私には勇者、お前のした事が間違っていただなんて

何よりも耐えられなかったんだ。

魔王「・・・・だが勇者、私はそれさえも・・・・できやしない」

・・・お前の意志を継ぐ事さえも

魔王「・・・私を許してくれ」

側近の震える声が耳に届く。

側近「・・・・魔王、様」

魔王「・・・馬鹿な」

魔王の眼はある一人の人間を捉えていた。

・・・この膨大な魔力に何故気づけなかったのだろうか。

その人間はあの懐かしい笑みを浮かべている。

勇者?「・・・お久しぶりですね、魔王様、側近さん」ニコ

かろうじて自我を保ちながら魔王はその人間に問いかける。

魔王「・・・・お前は勇者だか勇者ではないな。何者だ」

勇者のように見える男は満足そうな笑みを見せる。

勇者?「流石魔王様ですね」

魔王「・・・その顔で笑うんじゃない」

勇者としか思えないその笑顔が、その言葉が魔王の心を深く抉る。

勇者?「・・・魔王様の言っている事は正しいです。僕は

勇者の分身ですから」

側近「分身魔法・・・ッ!?」

魔王「・・・では」

魔王は震える声でぽつり、と呟く。

魔王「では勇者は生きているのか・・・・?」

魔王自身、自分がどんな顔をしているのかはわからない。

だが代わりに勇者の分身の顔が苦渋に歪むのがわかった。

勇分「・・・・いえ、僕の本体、勇者はおそらく王国で死にました」

勇者分身→勇分 でお願いします

魔王「・・・お前は確かにここにいるではないか」

魔王は震える手で勇者分身の服を掴む。

魔王「なのにお前は既に死んでいるというのか・・・ッ!」

勇分「・・・はい」

側近の顔は悲痛に染まっている。

側近「・・・・本当に死んでしまったのですね」

勇分「それでも貴方達は前に進まなければいけません。

僕に出来る事は、もう全てやりましたから」

村に魔王の拳が勇分をとらえる音が響く。

魔王「お前は何を言っている・・・?」

魔王は自分の溢れる感情を吐き出す。

魔王「どうやって前に進めというのだ!?私は大勢の民を

失ってしまった!!お前も死んでしまったのだぞ!?」

勇分は静かに口を開く。

勇分「・・・・前になら、進めますよ」

勇分「ここの辺境の村の方々は誰も死んでなんかいません。

王国の兵士の人々には一つも命を奪わせてなんかないですから」

側近「では民達はどこに・・・?」

勇分「申し訳ありませんが魔王城にまで来てもらいました。

その方が守りやすかったので」

魔王「・・・まさかお前は」

勇分「・・・そうです。僕の魔法としての役目は『自身の魔力が

尽きるまで魔族を守ること』なんですよ」

勇分「・・・王が魔王様のいない隙に、兵を魔王城に攻めさせる

だろうという事ぐらいは容易に想像できましたからね」

側近「・・・だから勇者は貴方にそれほどの魔力を託したのですね」

勇分「ええ、僕の本体は役目を確実に果たさせる為に自身の魔力

のほとんどを僕に与えました」

魔王「・・・城を守りきった割りには随分と魔力が余っているようだな」

勇分は困ったように笑みを浮かべる。

勇分「あはは、でも守れたんで良かったですよ」

魔王が激情に顔を歪ませる。

魔王「そうではない!!その余った魔力が少しでもあれば!!・・・勇者の

命は助かったのではないのか・・・・・・ッ!」

勇分は穏やかに答える。

勇分「・・・・でもそうしたら守りきれないかもしれなかった。違いますか?」

魔&側「・・・・・・ッ!!」

勇分「ほんの少しでも危険性が存在している限り、それを見逃すわけに

はいかないんですよ」ニコ

魔王「・・・・お前はッ、どう、して・・・・そこまで」ポロポロ

勇分「・・・僕を信じてくれたからですよ。信じてくれる事、それは僕に

とって何よりも大切な物だから」

魔王は勇分を抱きしめる。

魔王「お前は・・ひっく・・やはり馬鹿だッ!!」ギュッ

側近「・・・今回は見逃してあげます」

まぁ本人だったらぶっ飛ばしますけど、これはノーカンですよね、

と側近はぶつぶつ呟いていた。

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