魔王「お前の泣き顔が見てみたい」 8/18

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

父「・・・お前は化け物なんかじゃねぇ、俺の息子だ」

少年「でも!!みんなは違う!父さんは僕の事を認めて

くれてもみんなは違うんだよ父さん!!」

少年はもう目から溢れるものを止めようともしない。

少年「勇者になれば!!みんなだけじゃなくて父さんも

喜んでくれると思ってたのに!!」

父は少年を抱きしめた。

父「今だけは、今だけは我慢してくれ。頼む・・・・ッ!!!」ポロポロ

少年「今って・・・・いつまで僕は我慢すればいいんだよぉ・・・ひっく」

少年「父さんはああ言ってくれたけど・・・・やっぱり僕

にはもう耐えられないよ」

20メートルはあろうかという崖の上に少年は立っていた。

少年「ごめん、父さん」タンッ

目を閉じながら少年は願う。

少年「次に生まれてくる時は皆と同じように生まれますように・・・」ギュ

ゴチャッッ!!! その直後に鈍い音が響き渡った。

・・・もう僕は死んだのかな?

真っ暗で何も見えないよ。

天国にいけたのかな、地獄にいっちゃったのかな?

地獄かもしれないな、父さんにひどい事言っちゃったから。

あ・・・、だんだん目が見えるようになってきた。

だがその光景は地獄でも天国でもなかった。

少年「なん、だよ・・・・これぇ・・・・」

そこに拡がっていたのは血、血、血。

手足はぐちゃぐちゃに折れ曲がり、内蔵のいたる所が

飛び出している。おそらく目が見えなかったのは

頭も潰れていたからだろう。

少年は絶叫する。

少年「なんでこんなになっても僕は生きてるんだよぉおおおおおおお!!!!!!!」

べきべき、めきめき、と歪な音をたてながら少年の意に

反して体が再生する。

僕は化け物。

その絶対的な事実が少年の頭を埋め尽くす。

少年「・・・・僕は死ぬこともできないんだ」ポロポロ

少年に出来ることは・・・ただ泣くことだけだった。

少年「・・・・王国に行こう」

誰に言うでもなくぽつり、と少年は呟いた。

少年「僕みたいな化け物が皆に認められるには勇者になるしかないんだ・・・・」

ーーーーーーーーーーー王国・下町

少年「わぁ・・・・、すごいや」

目の前に広がる光景は、少年に衝撃を与えていた。

材木ではなく石材で形作られる家の数々、そしてその遠方にそびえる城は

とても言葉では言い表せない程の絢爛さを誇っている。

その門には豪華な装飾が施されており、城壁には外敵を絶対的に遮断する

魔法が無数に組み込まれている。それらの全てが王国の強大さを物語っていた。

どん、と唐突に背中に何かが当たった。

少年「うわっ」

下町女「あら、ごめんね僕。大丈夫?」

どうやら女の人の荷物が自分に当たったらしい。

少年「だ、大丈夫です」

そう、と女は笑って去っていったが、少年はそれどころではなかった。

少年「ここでなら・・・・、僕はただの少年なんだ」

その事実は少年にわずかな希望を与えた。

ーーーーーーーーーー王国・教会

教会男1「そうですか、貴方はここに勇者になる為にやってきたと?」

少年「は、はい」

教会男1「・・・・ですが、貴方は生まれたときに《神の祝福》を受けていま

せんね?もしそうなら残念ながら貴方では・・・・」

少年「・・・・やっぱりそうですよね、村生まれの僕なんかじゃ勇者になれる

わけ・・・・ないんだ」

少年は視界が絶望に染まるのを感じた。

教会男1「・・・・今、村生まれと言いましたか?」

少年「はい・・・、そうですが」

教会男1「もしや・・・・君の名前は少年というのでは?」

少年「・・・・はい。どうして僕の名前を・・・・?」

教会男1はにこり、と笑う。

教会男1「君の事をずっと待っていたのですよ」

「とうとうこの時が来たのか」

「まさか奴の方からのこのこやってくるとはな」

「これが成功すれば王は世界の全てを手に入れなさる」

「今まで10年もの間我らを欺いてきた《王国の英雄》でさえも、もはや

我らの邪魔はできんよ、くはは」

僕は勇者になれるって教会の男の人が言ってくれたんだ。

これでやっと僕もみんなに認められる。

もう僕は化け物なんかじゃない。

勇者なんだ。

教会男1「この聖水を飲みなさい、そうすれば次に目覚めた時には・・・」

少年は頷き、渡された聖水を飲み干した。

教会男1「君は《勇者》だ」

少年「あ・・・・れ」グラッ

その瞬間、少年の意識は暗転した。少年が最後に見たのは、教会の男の

魔物のように凶暴な笑みだった。

あ・・・・れ・・・・。

僕は勇者になれたのかな?

体がうまく動かないよ、どうしてだろ?目を開けなきゃ・・・・

少年「何・・・これ」

少年は何も身に纏うものは纏っていない。その上手足には強固な鎖が

繋がれており、体には血で魔方陣が描かれてる。目を動かせば

自分は30メートルもの巨大な魔方陣の中央にいる事がわかった。

遠くで教会の人が騒いでいるのがぼんやりと聴こえる。

「馬鹿なッ!!なぜ奴は起き上がっている!?」

「・・・・化け物め、奴に与えた睡眠薬は一万人分相当の量を凝縮したものだぞ・・・・!!」

「こうなってしまっては・・・・、アレを使うしかないようだ」

合図の声と共に教会の人間達は皆一斉に巨大な魔方陣に手をつけた。

少年に対する魔法が発動する。

少年の絶叫が教会の地下に響いた。

少年「あぎゃ、ぐがぁあああああぁああがががががががあああああ!!!」

崖から落ちた時とは比べ物にならない激痛が少年を襲う。

痛みに暴れまわりたくても鎖がそうはさせない。

教会男1「これでも死なないとは・・・・、やはり王の仰っていた通りだったか。

全く恐ろしい化け物だよ、お前は」

男は少年に近づく。その手にナイフとある水晶のような珠を持って

教会男1「・・・・少し大人しくしていてくれよ?」

そう言ってナイフを少年の胸に突き刺し、その傷をこじ開ける。

少年「あがっ!?ぐがぁああが・・・・ッ!!!」

教会男1「こいつをお前の中に入れればお前は《勇者》になれるんだ」

教会の男がその珠を傷口に近づける。

なんで・・・、なんでボクだケが。

なンデボクダケガ。

コンナメに遭ワナキャイケナインダ。

ボクハナニモシテナイノニ、・・・・・・ボクをイジメルのワオマエタチカ?

ぷつん、と少年の頭の中で何かが切れた。

ガキンッ!!! と何かが千切れた音がした。

教会男1「・・・・なんだ今の」グキャ

だらりと糸が切れた人形のように教会の男は倒れる。

その時、教会の人間達は何を見たのかを知るものは今はもういない。

「ば、化け物・・・・・」ガチガチ

「い、命だけは助けてくれ・・・・」ガタガタ

少年「なんだよ」

少年は呟く。血の涙をながしながら

少年「・・・・そんな目で僕を見るなよ」

少年は笑っていた。

少年「・・・・うっ」

少年のいる場所は静まりかえっている。

少年「どうして僕・・・・、確か教会で聖水ももらって・・・・うぅ、頭が痛いよぉ」

ぬるり、と急に足元に生暖かい感触を感じる。

少年「うわっ!な、何これ・・・・・、え・・・・?」

自分のいる部屋に明かりはなく、明確に判断する事はできない。

少年「これって・・・・・血?ま・・・・さ、か」

少年の顔が蒼白にそまる。すぐに明かりと灯す魔法を行使した。

だが明かりに照らされる少年の顔は赤い。

少年「・・・・・ぁ、・・・・あ・・・・・あぁ」ガチガチ

目の前の光景を信じる事ができない。

殺戮と破壊。この二つの言葉以外にこの状況を表す事はできない。

・・・・・・・・・これを僕がやったんだ。

少年「う、うぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」

少年がどれだけ後悔し、悲しみ、泣き叫んでも・・・・・一度自分が奪った

命が再び元に戻る事はなかった。

・・・・もう僕に出来る事は何もないんだ、もう何も。

死ぬこともできない、命を助ける事もできない、それどころが

多く人の命を奪ってしまった、生きるためではなく、ただ殺した。

もはや僕に勇者になる資格は、ない。

・・・・・僕は何のために生まれてきたのかな。

教会の人間が少年の下に駆けつけたのは、一時間ほど経ってからだった。

教会女1「・・・貴方が責任を負う必要はありませんよ」

やさしい声で少年を諭す。

少年「・・・・・はい」

だがその声は少年の心には届かない。

教会女1「さぁ、行きましょうか」

少年「・・・・行くって、どこに行くんですか」

教会の女は微笑む。

教会女1「・・・・王様がお待ちです」ニコ

ーーーーー王国・城

王「おぉ、会いたかったぞ、少年よ」

ゆったりとした声が応接間に響く。その端整な顔立ちに

皺が加わり、より荘厳な雰囲気がかもし出されている。

少年「お目にかかれて光栄でございます、陛下」

こんな僕なんかが会っていい方ではない、と少年は思う。

王「もう少しくだけた口調でもよい」ニコ

少年「・・・何故陛下は僕などに会おうと思われたのですか?」

王「少年の話は村から届いている」

少年「・・・・・・ッ!!」

では王は知っているんだ、本当の僕を。

王「少年の事を化け物、などとは私は思わんよ。むしろ特別な力がある

と誇るべきだろう」

少年は震える声で呟く。

少年「・・・・・本当にそうでしょうか」

少年「僕はこの力のせいで死ぬこともできないんです。先ほども教会

で・・・・・多くの命を奪いました」

王「・・・・それは、難儀であったな」

少年「・・・・・それだけ、ですか?」

王「だがそれは少年の意志でやったわけではないのだろう?」

少年「・・・殺した事は事実です。僕は死ななければならないんですよ・・・!

これ以上命を奪わないために!早く!」

少年は泣き叫んだ。

少年「でも駄目なんですよぉ・・・!僕じゃ、僕じゃ自分で死ねないんですよ!

お願いします・・・僕を殺してください、お願いします・・・・!」ポロポロ

王「・・・・そうだな。少年は多くの命を奪っただろう、そのそれぞれにこれからの

未来があった筈だ。・・・お前はそれを奪った」

少年「・・・・・はい」

王「だがそれで償いになるのか?少年が死ぬことでそれを償いきれると?」

少年「・・・・・それは・・・」

王「なら別の形で償いべきではないのか?」

少年「・・・・そんな事できるのでしょうか」

王「《勇者》となるのだ少年よ、《勇者》となり、より多くの人々の未来を救うのだ」

少年「・・・勇者にはなれません、この力がある限り・・・・!!僕はまた

命を奪ってしまうかもしれない!」

王「・・・・・・いや、その力を弱めることなら、できる」ニコ

・・・・嘘だ。

この力がどれだけのものなのかは僕が一番よくわかってる。

王「戦士長、アレをここへ」

戦士長「はっ」

少年「そんな事・・・・本当にできるのでしょうか」

王「おそらくは、な」

少年は何故かこの時の王の表情に違和感を感じた。

戦士長「お持ちしました」スッ

それは黒い首輪だった。少年は一目見てそれに異常な魔法がかかっていること

を理解する。

王「うむ、少年よ。それを首につけるのだ」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18