ラダトームの町 宿屋
『……さま』
賢者「…………ん」ピク
『けんじゃさま!』
賢者「…………ん。ううん。」モゾ
賢者「はっ!?」ガバッ
賢者「わ、私。どうして...」
武闘家「賢者さまっ!よかったぁ~」ヘタ
賢者「武闘家...私は一体。魔物たちと戦って...」
勇者「気を失ってたんだよ、賢者。」ツカツカ
賢者「勇者。まさかあなたが助け」
パンッ!
部屋にかわいた音が響いた
武闘家「あっ!ゆ、勇者さま...」
賢者「ゆうしゃ?」
勇者「バカッ!すっごく心配したんだよ!私が行かなかったら賢者死んでたんだぞ!」
勇者「私は今日、ずっと胸騒ぎがしてた。理由はわからなかったけど。でも昨日の賢者の浮かない顔がずっと心の中で引っ掛かってた。」
勇者「起きてからあなたは何も言わずにそそくさと先に出てった。私も賢者は修行を沢山積んで強くなったから大丈夫かなって思ってたんだよ。」
勇者「でもまさか戦いの場に行ったなんて思わなかった。メルキドに着いて倒れたあなたを見た瞬間、背筋が凍ったみたいに心臓がバクバクしたよ!」
賢者「……………」
勇者「私達は単なる友達なんかじゃない!お互いに命を懸けて魔王を倒すために支え合って頑張ってきた仲間でしょ!」
勇者「私に、ううん武闘家や戦士でも構わない。どうして一言も相談してくれなかったの!」
勇者「私は勇者だ。魔王を倒す使命を背負ってる。だけど1人じゃ怖くてなんにもできないよ!だからみんなが一緒にいてくれて本当に嬉しかった。」
勇者「みんながいてくれたおかげで私はここまで来れた。そんな大切な仲間を絶対に死なせたくないよぉ。」グズ
武闘家「(勇者さま...)」グス
勇者「なのに....私....えっぐ、うう、うわぁぁん」ポロポロ
賢者「(私はなんてバカなんだ...1人で勝手にしょいこんで、心配してくれてた勇者を....)」
賢者「(あの時となんら変わらないじゃない。くそっ。)」
勇者「………でも。」グス
賢者「?」
勇者「賢者が無事でよかったぁ、ほんとにほんとによかった。」ニコッ
賢者「あっ。勇者っ!」ダッ
ガシッ
賢者「心配してくれてありがとう!助けてくれてありがとう!ごめんね勇者!」ポロポロ
勇者「へへへ。どういたしまして。」
賢者は勇者を抱きしめた。
武闘家は涙をこぼした。
ガチャ!
戦士「ただいまー!温泉最高だったわよーみんな。」
戦士「お肌なんてこんなにツルツルに....ってあれ?どうしたの?勇者と賢者で抱き合っちゃって?」
武闘家「………バカ。せっかくの感動のシーンなのに。」ジロリ
戦士「え?バカ?なんのシーン?」ポカン
勇者「おかえり~戦士。お風呂よかったみたいだね!ほんとだ、肌ツルツルだね~、
触らせて触らせて~!ほら賢者も触ってごらんよ。」プニプニプニプニ
戦士「あ、こら。必要以上に触らないっ!」
賢者「うん!触る~(ありがとね勇者。)」
勇者は賢者を背負い、ラダトームに帰ってくると、ちょうど図書館から忘れ物を取りに戻ってきた武闘家と鉢合わせた。
すぐに賢者を宿屋のベッドに寝かせ、魔力回復のため魔法の聖水を飲ませながら2人で回復魔法を施したのだった。
戦士がマイラから戻り、バカと言ったか言わないかで武闘家と一触即発になるも、勇者と賢者の仲裁により事なきを得た。
そして間を置いた後、賢者が今日の出来事を話し始めた。
武闘家「そ、そんなことがあったなんて。私全然...」
戦士「なんか私だけバカみたいにくつろいでたワケね。」
武闘家「本当にバカだからでしょ...」ボソ
戦士「なんですってぇ...」
勇者「はいはい、や~め。」ギロッ
賢者「(あ、ははは。)」
武闘家「あの、賢者さんがホープバークにいた時に会ったという男と今日会った男は同一人物なのですか?」
賢者「そうだよ、見間違うことなんてないよ。」
武闘家「その男は背が高く、いかにも商人風の格好なのに黒いロングコートを着ていますか?」
賢者「そうだけど。武闘家、その男を知ってるの?」
武闘家「いえ、私はこの宿屋の食堂の掲示板に不審者に注意を促す貼り紙をしてあったのを見たんです。」
勇者「そうなんだ。えらく異様に目立つ格好だよね、そいつ。」
賢者「あの男、各地で怪しい動きをしてるみたいね。メルキド以外じゃ被害は出てないみたいだけど....」
戦士「いや、賢者の言う被害はマイラでも出てるかもしれないわ。」
賢者「え?マイラで?」
戦士「私がある男から聞いた話だと、その男の知り合いが最近
薬物でもやってるんじゃないかってくらいおかしくなってるそうよ。」
武闘家「怖いですね、それは。」
戦士「近所の子供からなにやら菓子をもらって、それを食べるようになってかららしいわ。」
賢者「やっぱり。子供を巧みにそそのかしてチョコを渡していたんだ。」
勇者「チョコ?それってチョコレートのこと?」
賢者「そう。勇者達がポルトガで食べたことがあるって言ってたあれのこと。」
武闘家「すごく甘くて美味しかったですよねぇ~。また食べたいです私。」
戦士「私はあれ、苦手。甘いのダメなんだ。」
賢者「(あ!そうだ。)」ガタ
ガサゴソ
勇者「どうしたの賢者?」
賢者「(あった!)」サッ
賢者はチョコレートが入った箱を取り出した。
武闘家「あ。チョコレートじゃないですかー!賢者さまが持ってたなんて。」ダラ
賢者「だーめ。これは私がドムドーラの女の子から預かってるの。しかもチョコの中には何かしらの薬物が入ってる。」
武闘家「へっ?こ、この中にですか!」ゾク
賢者「インパスで視てみたら赤く光ったからね。戦士、どう思う?」
戦士「間違いないと思う。インパスは人間が編み出した魔法。故に人間に悪影響を及ばすものに反応して赤く光るのよ。」
賢者「そんなものを子供達に食べさせて、それを見て取り上げた親や大人が食べる。」
戦士「知らず知らずに禁断症状が出はじめるってわけね。それを利用して人々を意のままに。」
勇者「絶対に許すわけにはいかないね、その男。」
賢者「ただ...」
武闘家「ただ?」
賢者「あの男、あろうことか魔物と契約したみたい。現にドラゴンの背に乗っていたし。」
賢者「『ゾーマの城で待っているぞ』って言ってた。」
戦士「なんですって!!」バッ
勇者「私が賢者の所に着く、ほんの少し前だね。あれほどの数の魔物を呼び寄せるのはたぶん...」
武闘家「かなりの位の、もしかするとゾーマ直属の配下クラスの魔物と契約したのではないでしょうか?」
戦士「その可能性はかなり高そうね、厄介な話だわ。」
賢者「……………(それでも)」
賢者「それでもやるしかないよね。どのみちゾーマを倒さないと世界が滅んでしまう。」
勇者「そうだね。私達の使命を果たす時がやっと来たんだ。みんな!やってやろう!」
武闘家「はい。最後の戦いになるんですね。私もすべての力を出して戦います!」
戦士「もうここまで来て後悔はないわ。ゾーマを倒して世界に平和を取り戻す。」
賢者「失敗だらけだったけど、それを糧に私は振り向いたりはしない。私の今をすべてを賭ける。」
賢者「(旅人...あなたは今どこにいるのかな?ゾーマを倒してあなたに会いに行くからね。)」
賢者「(おじいちゃん、青年さん...生きて、今度は胸を張って町に行くよ。)」
賢者「(お父さん...何度も家を開けてごめんね。これが終わったらちゃんと帰るから。)」
勇者達は明日の最終決戦に向け眠りについたのだった。
翌日
勇者達はまだ町が寝静まっている時間に町を出て、リムルダール南にある聖なるほこらに行った。
そこで太陽の石と雨雲の杖とが合わさることで作られる虹の雫を手に入れた。
リムルダール最西端の海岸で虹の雫を垂らし、出来た橋を渡り、ついにゾーマの城にたどり着いた。
闇の力が一段と強く感じられるが、4人は臆することなく城内に入っていった。
ゾーマの城 入口
ギィー
バタン!
勇者「中は明るいみたいだね。空気は半端なく重いけどさ。」
戦士「案外見た目は普通の城みたいだけど、油断しちゃだめよみんな。」
武闘家「了解。」
賢者「後ろはまかせて!」
バルログA『キシシシシシ。貴様らニンゲンか?何しに来たんダ?』
勇者「ん~と。ゾーマを倒しにね。あんたが道案内でもしてくれるの?」
バルログB『ゾーマさまを?キシシシ、愚かな。貴様らニンゲンにそんなこと...オ』
バシュ!
ズバッ!
戦士の攻撃
武闘家の攻撃
バルログAを真っ二つにした
バルログBを一突きした
魔物達をやっつけた
勇者「魔物のくせに口が達者だね。嫌われるよ。」
武闘家「先手。取らせてもらいました。」
戦士「雑魚ね。」スッ
賢者「先制攻撃、すごいわ二人とも。」
勇者達はそれまで付けた実力をいかんなく発揮し、次々と現れる魔物達を倒していった。
武闘家が持ち前の素早さで爪の武器を振りかざし先制すると。
賢者がルカナンやバイキルト、マヌーサといった魔法で補助役に徹し。
勇者と戦士が各々の最強の剣で魔物にとどめを刺す。
時折、攻撃魔法も使い、戦いを優位に進めていった。
しかし、下に降りる階段がどこにもない。勇者達は一番奥の王座の間を調べていた。
ゾーマの城 1階 王座の間
勇者「おかしいなぁ。この部屋が一番奥なのに階段ひとつないなんて...」
賢者「他の間も全部見たけどね、ここもないのかな。」
武闘家「困りましたね。全部見れそうなところは見ましたけど。」
戦士「玉座の回りはバリア張ってあるしね。危ないわ。」
賢者「(バリア?まさか。)」ダダッ
賢者「ねえ、戦士。ここのバリアなんとかならない?」
戦士「え?ちょっと待ってて。」ブツブツ
戦士「聖なる光よ我らを包め『トラマナ』」パァ
賢者「ありがとう。もしかしたら玉座の後ろあたりに...」サワサワ
ガチャ
玉座の裏に階段があらわれた。
勇者「おお~!賢者ナイス!」
武闘家「なんでわかったんですか?」
賢者「企業秘密です。えへへ。」ニコ
戦士「じゃあ早く降りましょう。」
勇者「うん。行こう行こう!」
ザッザッザ
城を次々に下に降っていくたびに闇を伴った空気が濃くなり、
人間である勇者達は息苦しさを感じている反面。
魔物達は強さが増し、数も増える一方になっていく。
そんな状況にも4人は助け合い、魔物を倒してさらに進んでいく。
ふと勇者達の前にそれまでにない巨大な扉が立ち塞がる。
ゾーマの城 地下3階
賢者「大きい扉...今までにないくらいの憔気を感じるね。」
戦士「そうね。みんな用意はいい?」
武闘家「大丈夫よ、戦士。」
勇者「よく開けるよ」グッ
ガゴン
ゴゴゴゴゴゴ
賢者「あっ!!」
巨大な扉を開けると、そこには紫のローブを纏った魔物アークマージが3匹こちらを見据え立っていた。
『くっくっく。よく来ましたねぇ、商人いや、賢者さま。』
そしてアークマージの後ろにある大きく悪趣味な装飾を施された
椅子に黒いロングコートを羽織った人間の男がひとり座っていた。
賢者「私はあなたを許せないっ!」キッ