ホープバーク 商人収監の牢屋
勇者達は牢屋の前に来た。目の前の冷たい牢屋の中には、商人がいた。膝を抱え座っている姿は以前の商人とは別人に見えた。目は虚ろ、頬はこけており真っ先に声をかけようとした武闘家を躊躇させた。
足音に気が付いた商人が顔を上げると、目の前に懐かしい顔ぶれが並んでいた。
商人「あ、みんな。きてくれたの?」
武闘家「商人………」
商人「ごめん、なさい。みんながきてくれたのに、わたしが、こんなことに、なって」
勇者「驚いたよ、こんな事になっていて。」
賢者「私達が来なかった間に革命なんて...」
商人「わ、たしのせいなんだ、ぜんぶ。わたしがいいきぶんに、なってまちのみんなを、くるしめたから」
僧侶「ねえ!商人。ちゃんと食べ物はもらってるの?体が弱ってるわ。」
商人「う、ん。いちおうね。でも、わるいこと、したから、しかたないね」
賢者「(商人さん、あちこちに傷が...傷だけでも)僧侶。」
僧侶「(わかってる。)」
賢者・僧侶『ベホマ!』パァー
商人の体にある傷がすべて治った。
商人「あ、きずが。ふたりともありがとね。」ニコ
勇者「食べるもの食べなきゃダメだよ、死んじゃうよ!」
商人「あまり、たべた、くないよ。はんせいしなきゃ、わたし。」
武闘家「………グズ」ヒクヒク
賢者「武闘家さん?(泣いてる?)」
僧侶「本人が食べる気がないのはよくないわ。なんとかしないと....」
商人「お、じいちゃん、にもあやまらなきゃ。つらく、あたったりしたから」
賢者「!そうだ。おじいさんは今どこにいるんでしょうか?」
勇者「小屋にはいなかったよね。」
僧侶「青年さんに聞いてみましょう!知ってるかもしれない。」
勇者「よし。ひとまずすぐに行こう!ホラ、武闘家泣いてないで行くよっ!」
武闘家「………グイ」コクッ
賢者「商人さん、待っていてくださいね。すぐに戻ってきます。」
商人「あり、がとう、みんな。」
スーの村 老人の家
牢屋を出たあと、宿屋の青年に聞いたところ老人は革命後に、故郷のスーに療養のために戻ったという。
勇者「おじいさん、大丈夫?良くなった?」
老人「皆久しぶり、体はなんとか大丈夫じゃよ。」
僧侶「無理しちゃだめよ。歳なんだし。」
老人「ふん。まだまだ若いモンには負けん。」
賢者「あの、おじいさんは商人さんが今、町の牢屋にいることは....」
老人「あ、ああ。知っとるよ。すごく心配。あいつも少しやりすぎてしまった。」
武闘家「あの子、食べ物をほとんど口にしないままなんだよ!あのままだと弱くなって死んじゃうよ...」
老人「なに?そこまで弱くなってるか?まずいの。」
僧侶「だからおじいさんや青年さんが会えばと思ったんだけど、おじいさんがまだ動けないしね。」
老人「おお、あの宿屋の青年でもダメか?」
賢者「青年さんは自分のことを責めていました。もっと自分が力を貸せていれば、と。」
勇者「今は商人に合わせる顔がないって言ってたね。」
老人「それはワシも同じ。商人にもっとしっかり言ってやるべきだった。」
武闘家「おじいちゃん...」
老人「あの青年は、もしかすると商人の事を好いているのかもしれんな。」
僧侶「青年さんが?商人さんを?」
老人「ただのジジイの想像だがの。あの青年の商人を見る目が、商人が徐々にに変わっていく度に悲しそうになっていた。」
勇者「そう、なんだ。だったら余計に商人を助けなくちゃ。」
賢者「ええ。なんとかしないと。あまりにも商人さんが痛々しくて。」グス
老人「そうじゃのう………あ!そういえば!」
武闘家「おじいちゃん、どしたの?」
老人「大切な事忘れとった!商人にな、手紙届いてたんじゃ!」
勇者「手紙?いつ?」
老人「あの革命が起きた日じゃよ!手紙が来た時はあいついなかったからワシが預かってた。」
老人「そのあとあいつが戻ってきた時は1人にしてくれって突っぱねたから渡せなかったんじゃよ!」
僧侶「そうだったのね。でその手紙は誰からなの?」
老人「あいつの父親じゃよ。」
武闘家「!?(おじさんが?)」
老人「ちょっと待っとれよ。たしかここに....」ガサゴソ
老人「おお、あったあった。こいつがそ....」
ヒュン
バシッ
武闘家「ありがとう!おじいちゃん!もらっていくね~!」
老人「うお!い、いつの間に?」
武闘家「ほらほら、みんな早く町に戻るよ!早くしないと置いてくぞ~!」
賢者「あ、待ってくださいよ~!」タッタッ
僧侶「急に元気になったわね、あの子。」タッタッ
勇者「じゃあおじいさん。ありがとね、また!」タッタッ
バタン
武闘家「(これで絶対大丈夫!商人の目を覚ましてくれるはず)」
武闘家「(おじさん、ありがとう)」
武闘家「(今行くよ。待っててね商人!)」
ホープバーク 商人収監の牢屋
商人「あ、れ?みんなもどって、きたの?」
武闘家「うん!商人に渡したいものがあって急いで来たんだ。」
商人「わた、したい、もの?わたしに?」
武闘家「そう。ほら、渡すからちゃんと受けとるんだぞ。」スッ
商人「う、ん」カサッ
商人「これ、はなんだ、ろう?てが、み?」カサカサ
武闘家「うん、手紙だよ。あなたのお父さんからのね。」
商人「お、とうさん?」バサ
商人は父親からの手紙をゆっくり読み始めた。
拝啓 商人さま
お元気ですか?
私は元気でやっています。
んーやっぱりだめだ。堅すぎるな。娘に出す手紙じゃねえな。すまんな、もう一度。あ~ゴホン
商人よ、元気でやってるか?
親父は元気でやってるぞ。
お前がアリアハンを発ってどれくらいになるだろうな?なんか随分経ってるような気がするけどな。そんなこと考えるのは俺が歳くったって事かな。
こちらはなにも問題なくやれてるよ。店の皆も時折、お前の事を話題にしてるぞ。ちゃんとやれてるか、とか。風邪引いてないか、とか。どうなんだ?
それはそうと、アリアハンにもお前がもうひとりのじいさんと作ってる町の広告が届いたぞ。《ホープバーク》か、自分の名前を付けたりしないのはお前らしいよな。あの宣伝文句もよかったと思うな、つい読みふけっちま
よろず屋と庭師にも協力要請したんだってな。よろず屋の兄ちゃんが言ってたよ。「娘さんは立派にやってた。親父さんは心配しすぎだ」って、はっはっは。でもな親としても鼻が高いぜ。
ただな、気をつけてほしいのはな、町作りに限らずな、なんでもそうだが、なにかを始める時は最初はなんでもかんでも意気込んで頑張っちまうだろ?それはいいんだ、お前もそうだろう。
ただある程度、成果が出てくると人間ってのは油断や慢心が顔を見せる。これが怖いんだ。俺もそうだったからよくわかる。
お前にはそうなってほしくないんだ。一度その深みにはまるとなかなか脱け出せないからな。自分が正しいと思い込んで、周りが見えなくなっちまう。他人を思いやることもできず、信頼を失う。こんなに恐ろしいことはな
そうなる前に、心を落ち着けて、最初のころの気持ちを思い出すんだ。よくお偉いさんが言うだろ?『初心忘れべからず』ってな。常にそれを心がけてりゃ心配することはないぜ。
とまあ、長々と説教みたくなったな、すまん。
あと改めて18歳おめでとう。いつかお前と酒を呑めたらいいな。武闘家ちゃんたちも世界中回って頑張ってるんだ、お前もほどほどに頑張れよ。
じゃあこの辺でペンを置くとするか。誤字脱字はないとは思うが、あったらスルーしてくれ。では、体に気をつけて、ちゃんとメシ食べて、たっぷり寝てやってくれ。
追伸:じいさんとかにはセクハラされたりしてないか?男には気をつけるよーにな。
アリアハンより 父
商人「……………」カサ
武闘家「読んだ?どうだった?」
商人「……とう。」
武闘家「ん?」
商人「……ありがとう。お父さん。えっぐえっぐ、ぐすん」
商人「武闘家、手紙ありがとう!うわあぁぁん~」
武闘家「えへへ!どういたしまして~。」パアッ
勇者「よかったね。」
僧侶「うんうん、父は強しね。」
賢者「ぐすっ、ううう。商人さんよがっだ、よがっだです~」ポロポロ
商人は自分をとりもどした。
その後、商人は食欲を取り戻し、勇者達の差し入れをペロリと平らげた。商人は町作りを始めた頃のまっすぐな瞳に戻り、いつもの柔らかな物腰に戻っていた。
しかし勇者達は牢屋の鍵を手に入れていた最後の鍵で開けたが、商人は出ることを拒み、牢屋に残ると決意した。まだここで反省しなければならないこと、町の皆に謝って受け入れてもらえるまでは精一杯に努力すると勇者
商人「あっ!そうだ!あなた達が来たら渡そうと思ってたんだけど。」
勇者「なにをくれるの?」
商人「オーブよ、オーブ!イエローオーブ!」
賢者「え~っ!?しょ、商人さんが持ってるんですか?」
商人「うん、いつだったかな~。この町に旅のキャラバン隊が来たことがあったんだけど、滞在中の寝床とか食事を提供したら、お礼にってキラキラした黄色い玉をもらったんだよね。」
武闘家「それだー!商人グッジョブ!」グッ
商人「もしもの時を考えて私の家の庭に埋めてあるんだ。掘り出して持っていってね。」
僧侶「やったわね。これで全部のオーブが集まったことになる。」
勇者「苦労した甲斐があったよね~!よっしレイアムランドに行って伝説の鳥を復活させよう!」
商人「こんな私でもみんなのお役に立てたかな?...よかった。」
勇者「ありがとう商人、私達のために。」
武闘家「そうそう、あのね商人。あとで宿屋の兄ちゃんが顔出しに来るってさ」ニコニコ
商人「青年さんが?そっか嬉しいな、彼にもすっごく迷惑かけたし謝らなきゃ。怒ってるんだろうな...」
賢者「ふふふ、怒るどころか優しくしてくれますよ、きっと。」ニコッ
商人「え?なんで?」
僧侶「まあまあ細かいことはいいから、ね。」
武闘家「(案外鈍いんだな。)」
勇者達は商人の家の庭に埋められていたイエローオーブを無事掘り出して、その足で再び旅立っていった。
そしてさらに1ヶ月あまりが過ぎた。
革命発生より約40日
ホープバーク 教会の裏の畑
商人「よいしょっ!」ザクッ
商人「よいしょっ!」ザクッ
商人「ふう~、こんな感じかな~。だいぶいい感じになってきたね。」
尼僧「商人ちゃ~ん!そろそろお茶にしましょう!こっちへどうぞ!」
商人「あ、おばさんありがとうございます!」
尼僧「お疲れさま~!まあ~若いから仕事が早くて助かるわぁ~!」
商人「いえいえ。今の私にできることを精一杯やるだけですから。」
尼僧「ふ~ん、頑張ってるんだね。えらいえらい!」ジー
商人「な、なんですか?じーっと見つめて。なにか顔に付いてます?」
尼僧「そうじゃないのよ~!あの頃の商人ちゃんと顔が全然違ってるな~と思ってねぇ。」
商人「え、顔ですか?」
尼僧「アナタが町長をしていた時と比べて、よ。あの頃のアナタはなにかにとり憑かれたような険しい顔だったからね。」
商人「そうですよね...あの頃は自分を完全に見失ってたような気がします。とにかく利益になるためになんでもしようとしていました。」
尼僧「私はアナタが革命で牢屋に入れられちゃった時は心配もしたけど、安心もしたのよね」
商人「安心?」
尼僧「そう、あのまま革命も起きずにいたらアナタは今どうなってるんだろう、って考えたらよかったんじゃないかってね~」
商人「そうですね、私も考えるとすごい怖いですね。」
尼僧「でしょう?だからアナタが釈放されて、町の皆のために働くって言ってたのを聞いて。強い子だね~!って感心しちゃった!」
商人「私も牢屋から釈放された時に、あの革命を起こした人たちがすでに町から追放されていたのはびっくりしました。」
尼僧「あの男達がいい事を言っていたのは最初だけさ。完全に詐欺まがいの奴らだったわね!」
商人「カジノを完全に私物化しようとしていたそうですね。税金も私の頃のさらに倍以上を町の皆さんから取っていたとも聞きました。」
尼僧「とんでもない奴らよね。結局、アナタの資産をただ横取りして追放されたけど。」
商人「…………」
尼僧「あの時に町のみんなの先頭にたってあいつらを追放しようと、頑張ってたのが、おじいさんと青年くんね。」
商人「もう私はあの二人には一生頭が上がりません。本当に感謝してもしきれないくらいに。」
尼僧「そうよ~!感謝しないとねぇ。あっ、この後は青年くんのところでお手伝いでしょ?」
商人「はい、しっかり働いてきます!」ニコ
商人が牢屋から釈放されてから2週間。商人はこれまでの愚行を町の皆に詫びると共に、毎日町のいたるところで仕事を請け負い、働くことで失った信用を再び得ようと必死だった。
日に日に、その商人の誠実な仕事ぶりを見て、町民からも以前のように、話掛けられるようになり、その度に嬉しさで涙を流した。
商人のあと、ホープバークを仕切っていた男達はすぐに馬脚を現し、さらなる重税を課したり、カジノを私物化するなどやりたい放題だった。
そんな中、スーより戻った老人と宿屋の青年が先頭になり、男達を追放することに成功した。その時に商人の蓄えていた資産を半分持ち去られてしまったが。
この資産は商人が町長時代の利益分を密かに蓄えていたもので、本来は不正だが、商人の意思により町のために使用されることとなり事なきを得ていた。