約2週間後
老人と商人の集落
よろず屋「よっしゃ。おおよそこんなもんかな。どうだい商人ちゃん?」
商人「ああ、お疲れさま。そうね、だいぶ綺麗になったね。初日から比べたら全然違うトコロにいるみたい!」
よろず屋「へっへー!久々の大仕事、任されたからにはこんくらいは当然よ。」
老人「よろず屋殿、ありがとう。これで町作りますます良くなってく。」
商人「ごめんね、突然お願いしちゃって。でもすごく助かったよ~、ありがとう。」
よろず屋「そんな二人してそんなに頭下げんなよ。俺だって楽しそうな話だから喜んで乗ったんだぜ。」
アリアハンからよろず屋、庭師。スーからの大工らが協力して町作りの基礎を作りはじめて2週間。
最初は草木だらけの集落は小さな村レベルへと進化した。土地は整備され、商人の店をはじめ、宿屋、教会、一般家屋が数軒とどれも小さいながらも立派に建てられた。
ただ土地はまだまだ広く、空地の面積の方がだいぶ広いのだ。
そんな中で商人は自分の家兼道具屋を開業しようと、模索していた。
老人「そういえば商人は店を開きたい言ってたが、どうだ?」
商人「ええ、店を開いてみたいんだけどお客さんが来てくれないと無意味だから、ここの事を知ってもらわないといけない。」
老人「たしかにそうじゃな。」
商人「だからここの宣伝をするために広告を作って各地域に配ってもらおうかな、と思ってるんです。」
老人「おお、そいつはいい考え!世界中の人にここの事を知ってもらわんとな。」
商人「基礎ができたから、次の段階は『人』ね。どういう理由でもいいからここを知ってもらうのが大切です。」
商人「ねえ、おじいさん。この場所を知ってもらうのに『名前』が必要です。」
老人「名前?この場所のか?」
商人「そう。ここはいずれ大きな町になるはずです。だから名無しのままじゃだめ。良い名前を付けましょう。」
老人「ふむう。そうだな。かっこいいのがええの。なにか良い名前あるか?」
商人「おじいさんが特にないのなら私が考えた名前でもいいですか?」
老人「お?なにか良い名前あるか?ワシはかまわんぞ。この町作りはおぬしに一任してる。」
商人「ええと、笑わないでくださいね。その名前は.....」
ランシールの町
賢者「まさか、それにしても町の裏にこんな大きい神殿があるなんて思いませんでしたね、勇者さま。」
勇者「うーん、そうだね~。最初に来たときは全然わからなかったし。」
武闘家「私達、まんまと騙されちゃったってことだよね~。町の人も神殿のことなんにも話してくれないもんね。」
僧侶「でも無事に勇者が戻ってきて安心したわ。」
勇者達はオーブを求め、南の大陸のランシールに再び訪れていた。
ランシールの神殿では勇者1人で地球のへそと呼ばれる洞窟に入り、最深部でブルーオーブを手に入れたのだった。
勇者「僧侶なんて私1人でしか行けないっとわかったらすんごい心配してたもんね。」
武闘家「『心配だわ。無事に帰ってきてね』なんて感じだったね、涙浮かべてさ。」
僧侶「あ、当たり前じゃない。一番年下の勇者がいきなり1人で行くってなったから。心配で心配で」
賢者「ふふふ、それだけ勇者さまが僧侶にとって可愛いんですよ、きっと。」
道具屋の主人「あっ!おーい勇者ちゃんたちー!」
ふと宿屋に戻ろうとした一行に、店先から道具屋の主人が声をかけた。
武闘家「ん~?道具屋のおじさん、どうしたの?」
道具屋の主人「いやなに、つい最近な、チラシが配られててさ。なんでも東の大陸に新しい町ができたらしいんだよ。」
勇者「新しい町?」
賢者「あ、もしかしてそれって。」
道具屋の主人「ほら、これさ。」ヒラッ
道具屋の主人「世界を廻ってるあんたらならなにか知ってるんじゃないか?」
新しい町《ホープバーク》を作っています
場所は東の大陸スー村の東側にあります(わかりやすいよう大きい看板も作りました)
ただ人が足りません。
そこで世界中からいろんな人を募集しています。
町作りをやってみたい方いませんか?
新しい土地に住んでみたい人大募集!
海辺に近く緑も多く空気も綺麗です。
宿屋を始めてみたい方も大募集!
教会の神父さまも同時募集中。
とにかく少しでも興味のある方、来てみてください!
来てくれた方には全員に特製のキメラの翼をプレゼント!
詳しくは町内の入り口にある小さな青い屋根の小屋をお尋ねください。
町の名前は 《ホープバーク》 といいます。今世の中は魔王の出現により希望を失いかけています。だからその希望を失わないよう、希望という意味を持つ言葉を使いました。みなさんがたくさん希望を持って来てくれる
ホープバーク 商人&老人
広告を流してから約1ヶ月
ホープバーク 青い屋根の小屋
ガチャ
商人「おじいちゃんおはよう~!」
老人「おうおはよう。昨日よく眠れたのか?」
商人「うん。大丈夫だよ、疲れでぐっすり。」
老人「昨日大変だったからな、でも広告流してから一月、やっと形なってくれた。」
商人「宿屋をやってくれるって人と、教会の神父さまをやってくれる人が決まってよかったね。」
老人「まったくじゃ。ここに移住したいとやってくる者けっこうな数になったしの。」
町の名前を商人の発案から《ホープバーク》とし、それに伴い世界中へ広告を流してから1ヶ月。
少しずつではあるが、広告を見てここを訪れる人間が増えはじめた。
大方が新しい場所に住みたいという理由でが多かったが、国内が荒れているサマンオサ、閉鎖的な国エジンベア、砂漠の土地イシス、アッサラームなどから移住してくる人もいた。
ただ宿屋の経営者(決まるまでは商人が自分の店と兼任した)と教会の神父はなかなか希望する人間がおらず、二人が頭を悩ませていたところ、昨日両方とも決まったのであった。
宿屋経営者にはポルトガで宿屋見習いをしていたという若い青年が。
教会の神父にはロマリアで城内の教会で長年働いていた年配の尼が、それぞれ決まった。
商人「じゃあ今から昨日決まったお二人のところに顔出して来ようかな。」
老人「そうか、行ってきな。ワシはいつも通りここにいる。」
商人「うんおじいちゃん、よろしくお願いね。たぶん今日も住民登録とかで何人かは来ると思うよ。」
老人「あいわかった。まかせてくれ。」
ガチャ
商人は宿屋と教会に向かった。
商人は小屋を出て、自分の家兼店のすぐ裏手に建てた、真新しい宿屋に向かった。
道も石畳で整備され、最初は集落だった面影は町外れに多く立つ大木数本くらいだった。
町の中心には小さい池もあり回りには申し訳程度の花壇もある。
しばらく歩いていくとその宿屋に着いた。1階立てだが、中は広く部屋数もありけっこうな人数が泊まれるよう大工と一緒に設計したものだった。
ホープバーク 宿屋
トントン
「……はーい!どうぞ~」
ガチャ
商人「おはようございます!お邪魔してもいいですか?」
宿屋の青年「あ、商人さん。おはようございます。どうぞ入ってください。」バタバタ
青年はロビーの待合スペースに椅子を用意して商人を促した。どうやら早起きしてロビーの掃除をしていたようだ。
商人「よいしょ、と。お掃除中だったんですね、忙しいところ急にごめんなさい。」
青年「ああ、いいんですよ。たまたま早起きしちゃったから掃除してただけでね。」
青年「昨日はありがとうございました!まさかいきなり宿屋を任せてもらえるなんて思わなかったからびっくりして。」
商人「ううん、私達こそなかなか人が来なくて困ってたから、青年さんが来てくれて大助かりです!」
青年「よかった~。僕はてっきり門前払いくらうかと思ってたからなぁ、ははは。」
商人「あの、いつから始められそうですか?食堂のコックはすでに準備できてますが。」
青年「そうだなぁ。明日には始められると思います。今日一日で準備しますよ。」
商人「明日ですね、了解しました!じゃあ青年さんのポルトガの宿屋で鍛えた手腕、楽しみにしていますね。」
青年「はい、おまかせください。精一杯やらせてもらいます。」
宿屋の青年に挨拶を済ませたあと商人は町外れに建てた教会に向かった。
町外れの方にはまだ空地の場所もあり、緑もまだ多く残り、一般家屋も増えてきていた。各地から移住してきた人々も新しい暮らしを満喫しているようだった。
しばらく歩くと教会のシンボルである十字架が見えてきた。宿屋同様に、大工と商人とで設計したものだ。アリアハンにある教会のデザインを踏襲しており、アリアハンの教会をそのまま小さくしたような大きさだ。
商人が教会の入り口にさしかかると、後ろからすっとんきょうな声が響いた。
ホープバーク 教会の入口
「あっら~!昨日の商人ちゃんじゃないのさ~!」
商人「へっ?(び、びっくりしたー)」
尼僧「お、は、よ、う!どうしたのよ、こんなに朝早く。」
商人「おばさん!おはようございます。ちょっと顔を出しに来てみ...あっ!」グイッ
尼僧「あ~ら~そうだったんだねぇ!じゃあほら、遠慮しないで早く入って入って!」
尼僧は商人の挨拶もよそに一気に捲し立てて、商人を教会内に引っ張っていった。
教会内は尼僧の剣幕とは真逆の雰囲気を醸し出しており、静まりかえっていた。
尼僧は商人を祭壇前の席に座らせて、お茶を持ってくると行って奥の部屋に入っていった。
ホープバーク 教会内
尼僧「はい!お待たせ~。お茶とお菓子どうぞっ!」
商人「あ、わざわざすみません。(教会内は声響くな~)」
尼僧「さっきはごめんなさいね~!町の外まで朝の散歩に行ってたのよ~!健康のためねっ。」
商人「お散歩してたんですね。町の外は大丈夫でしたか?魔物とかは出ませんでした?」
尼僧「ああ~、何匹か出てきたけど、風でぶっ飛ばしちゃったから大丈夫よ~!あっはっは。」
商人「え、風で?」
尼僧「そう、バギクロスでねバーっとね。どこまで飛んでったかな~あいつら。」
商人「…………」
尼僧「ん?あれ?昨日言わなかったかしら。私は元僧侶で魔法も全部使えるって。」
商人「言ってませんでしたよ。(なにげにとんでもない経歴のおばさんね...)」
尼僧「まあ、ずっとロマリアにいて、マンネリだったしね~。そんな時にたまたま城下町に出たときにここの広告見て、これだ!って。」
商人「そうだったんですか、でもそんな凄い経歴を持つ方が来てくれてよかった~!教会をおまかせします!」
尼僧「うん!事故で誰か死んじゃってもいつでもザオリクかけまくってあげちゃうからね~!」
商人「あ、はははは...(飛んでるなぁ。まあでも頼もしい人でよかったな)」
商人はそそくさとお茶と菓子をたいらげ、教会をあとにした。
商人自身も店を開けようと自宅に戻ろうと町を歩いていると、一軒の家から出てきた、男に声をかけられた。
男「あ、商人さん。おはようさん。ちょっといいか?」
商人「おはようございます。えと、あなたはたしかイシスから来たんでしたよね?」
男「おう、そうそう。あそこは年中蒸し暑くていけねえや。それに比べてここは気候もちょうどいいやな。」
商人「それはよかったです。なにかご用ですか?」
男「ああ、俺はイシスで一時期酒場をやってたんだ。ここじゃ、飯食うのは宿屋の食堂が宿泊者以外にも使えて不便はねえが、みんなでわいわいできる酒場がない。」
商人「あっ!(たしかに、私もおじいちゃんもお酒弱いし、考えなかったな~)」
男「だからよ、町の中心にでも酒場を作ってくるねえか?マスターは俺がやるし、手伝いは嫁さんや娘がやってくれる。どうだ?」
商人「いいですね!正直、私もおじいちゃんもお酒に弱くて、思い付かなかったです。ホープバークはみんな移住者だから酒場なんて親交を深めるにはもってこいだし。」
男「なっ?だろ?じゃあ頼むよ。酒なんかのツテはあるんだ。実際の買い付けはアンタに任せるしさ。」
商人「わかりました、早速取りかかります。良いアイデアありがとう!」ダッダッダッ
男からの提案で、町の中心部の空いたスペースに住民が楽しめる酒場を作るという話になった。商人から相談を受けた老人もその提案を受け入れ、早速大工を呼び寄せ建設が始まった。
そんな間も少しずつではあるが、各地からの移住者が増えていた。商人の店も最初こそマイペースに経営できていたが、店自体より町全体についての仕事が増えてきておりなかなか自分の店についてはおざなりになってしま
そして、約1ヶ月が経ったある日
ホープバーク 青い屋根の小屋
商人「ふぅ。やっと終わったぁ~」
老人「やれやれお疲れさま。どれ休憩にするか。」
商人「まったく、書類が増えて増えて困ったな。住んでくれる人が増えて嬉しいけど、私達の仕事が増えちゃうね。」
老人「ま、仕方ない。それが町作るということ。気楽にやればいい。」
商人「ん~まあそうだね(仕方ないか...)」
コンコンッ
商人「?はーいどうぞ~(誰かな?また移住申込みかな)」
ガチャ
「こんにちは~!」
商人「あっ!勇者?」
勇者「商人~!久しぶりだね!元気だった?」
賢者「商人さんっ。」
商人「賢者も。相変わらず可愛らしいな~。みんなこそ元気?」
勇者「うん!元気元気。」
商人「?あれ、武闘家と僧侶は?」
賢者「お二人は今、宿屋に部屋を取りに行ってるんです。」
勇者「それにしても、商人はすごいね~!こんなに大きい町になっちゃうなんてさ。」
賢者「ホントですね。《ホープバーク》なんて名前も素敵です!」キラキラ
商人「ありがとう。そういえばみんなはどこでここの事知ったの?」
勇者「ああ、ランシールでねブルーオーブを手に入れた時に道具屋のおじさんが広告を見せてくれたんだよ。」
賢者「あの広告もよかったです、あれは商人さんの手作り?」
商人「そうなんだ。オーブも手に入れたんだー凄いね!広告は私とおじいちゃんの競作なんだ。」
突然の勇者達の訪問を受け、商人は老人に詫びを入れ、武闘家と僧侶が待つ、宿屋へと勇者、賢者と向かった。
ホープバーク 宿屋 ロビー
武闘家「あ!商人、久しぶり!元気だった~?」
僧侶「しばらくぶりね、こんなに立派な町になっててびっくりよ。」
商人「二人とも会いに来てくれてありがとう!私も元気でやってるよ。」
勇者「たまたま、スーの村に立ち寄る用事があったからね。広告も見てたし、じゃあ行っちゃおうかって感じでね。」
武闘家「オーブもいくつかゲットしたからね、小休憩も兼ねてさ、えへへ~。」
青年「商人さんて、勇者様たちのお知り合いなんですね。何気に凄いんだなぁ。」
商人「え?」
宿屋の主人となった青年は、ロマリアの宿屋で見習いとして働いていた当時、宿屋に勇者達一行が泊まりにきたという。
その時に、若い見習いの青年に対して悪戯をした武闘家のことを強く印象に残しており、そのため先ほど武闘家が宿屋に来た時に驚いたという。
勇者達は今日はここで一泊し、翌朝再び旅立つらしい。
旅の途中で彼女らはランシールでブルーオーブ、テドンという呪われた村でグリーンオーブ、ジパングでパープルオーブ、ホープバークのはるか南にある海賊の屋敷でレッドオーブをそれぞれ手に入れていた。
残すはイエローオーブ、シルバーオーブの2つである。
商人「じゃあ、あとオーブは2つだけなんだ?」
僧侶「そうなんだけど、まったくと言っていいほど情報がないのよねー。」
賢者「商人さんは職業柄いろんな方と接するでしょうから、なにかご存知ないかなと思って。」
商人「シルバーオーブにイエローオーブかぁ、う~ん今のところ私の耳にも入ったことがないんだよねぇ。」
武闘家「そっかー残念。」ガクン
勇者「まあ気を落とさないで~そのうち見つかるって!」
商人「力になれずにごめんね。なにか情報が入ったら知らせるよ。」
商人「ねえ、武闘家。ちょっとちょっと」ヒソヒソ
武闘家「ん?なになに?」コソコソ
商人「ねぇ、あなた青年さんにどんな悪戯したわけ?」
武闘家「う...そ、それは。」
商人「言いなさい!」ズイ
武闘家「あ、あの。王様のふりをして『おぬしはクビじゃあ!』ってやりました...」
商人「....はぁ。まったくもう。もうしないこと、いいわね。」
武闘家「はい、もうしません」