僧侶「ひのきのぼう……?」 15/31

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【北の城】 <朝>

兵士A「勇者様! 勇者様に敬礼!」

兵士B「勇者様! 魔王討伐、お疲れの出ませんように!」

勇者「もう。イチイチかしこまらなくていいのにな」

賢者「そういう訳にもいかないでしょう。勇者様はこの世で唯一無二の存在なのですから」

商人「いやぁこの空気、久々ですなぁ」

戦士「……」

戦士(一夜明けたら、『伝説の剣』が微かな光を放っていた)

戦士(なんとなく抜くのは憚られたが……何か変化があったのだろうか……)

商人「戦士殿?」

戦士「ん。ああいや。賢者よ、王の間はこちらだ」

賢者「ありがとうございます」

勇者「案内ならボク一人でもできるのにっ」

商人「ガハハ。勇者様はときどき方向音痴なところがありますからなあ」

【北の城>王の間】

国王「勇者よ! よくぞ戻ってきた」

国王「これまでの長旅、ごくろうであった」

勇者「はい。ありがとうございます」

国王「戦士よ。そなたも一段とたくましくなっておる」

国王「我が王都の雄として、誇りに思うぞ」

戦士「はっ。もったいなきお言葉、光栄至極に」

国王「商人よ。そなたが城下に撒いた商いの種、見事に実っておる」

国王「この国の活況は、そなたの功労によるものも大きい。感謝するぞ」

商人「ははーっ! ありがたき幸せ!」

国王「そして……そなたが、新たに一行に加わったと聞く賢者か」

賢者「はっ、お初にお目にかかります。私は賢者と申します」

賢者「打倒魔王に向け、全霊をかけて勇者様をお守りする所存です」

国王「ふむ……怜悧ながら、この上なく意志の強い眼をしておる。今後ともに頼んだぞ」

国王「さて、早速だがそなた達に渡すものがある。では大臣」

大臣「はっ。……勇者様、これを」

大臣は 勇者に オーブを手渡した! ▼

勇者「これは? ……きれい……」

戦士「おお! 内に秘められたその極彩の輝きこそ、我が国に代々伝わる宝玉『オーブ』!」

商人「す、素晴らしい……実物は初めて目にしましたが、とても値段など付けられませんな……」

賢者「王様、このアイテムこそが、魔王城へ攻め入るためのカギとなるのですね」

国王「その通りじゃ」

大臣「王家の文献を調べてみたところ、そのオーブは遠い地に橋をかけるという伝説があった」

大臣「恐らく、その橋を渡ることで、魔王城へ乗り込むことができると思われる」

勇者「橋……」

大臣「橋をかける方法とは、とある地点にそのオーブを捧げることらしい」

大臣「我々の文献調査では、ついにその場所を特定することができなかったが……」

国王「うむ。ついぞ……知る機会を得てな。その場所は、【東の村】だという結論に至った」

賢者「【東の村】……私がいた村の一つ隣ですか。そのとき私は未加入でしたが」

戦士「村長と軽い挨拶をしただけで、あそこには特に何もなかったはず」

国王「正確には、東の村から少し西へ進んだ先にある『ほこら』じゃ」

勇者「西に? 東の村から西というと……ううん、あまり記憶にないね」

商人「ふーむ。そこまでは探索が不十分でしたなあ」

大臣「それで、至急その地点へ調査隊を向かわせたところ」

大臣「どうもそのほこらの内部に、我が王国の紋章が見られたということだ」

国王「ほぼ違いないであろう。そのほこらこそ、魔王城へ渡るための扉」

国王「オーブという鍵をもって初めて、道は開かれるのだ」

戦士「おお……そんな手段が……」

賢者「どうやら、例の陸路を使わずに済みそうですね」

商人「やあ、助かりますわい。もう山越えはこりごりですからな」

勇者「王様、ありがとうございます!」

勇者「早速、これからでも東の村に向かおうと思います!」

国王「うむ。……だがその前に、一つだけ頼みがある」

勇者「頼み? はい、ボクにできることなら是非!」

国王「うむ。これはその、余の好奇心も含まれておるのだが」

国王「ときに余は、そなたが『伝説の剣』を手に入れたと聞き及んでおる」

戦士「!」

国王「勇者のみ装備できるといわれる退魔の聖剣……」

国王「今この場で、抜き放ってみせてはもらえないだろうか」

商人「エエッ」

国王「魔を討ち果たす輝き、そして雄々しい勇者の姿を、この目に焼き付けておきたいのだ」

勇者「はいっ! お任せください!」

賢者「! ゆ、勇者様」

勇者「戦士さん、剣を」

戦士「あ、ああ……」

勇者は 伝説の剣を 手に取った ▼

勇者「……」

商人(だ、大丈夫ですかな)

賢者(さすがは勇者様……勇者であることの自覚に、何の揺らぎもない)

戦士(この自信は、すでに一度確かめている? いや、決してそんな時間はなかった……)

勇者「……」

勇者(これを抜くのは初めてだけど、ボクは勇者だ。その名を負ってここまできた)

勇者(絶対に抜ける。抜いてみせる)

勇者(……鞘が温かい……まるで昨日今日、魂が宿ったみたい……)

勇者「……」

勇者は 伝説の剣を

ぬきはなった! ▼

戦士「!!」

国王「おおっ……!」

勇者(抜けた……)

勇者(……なんて綺麗な色をしてるんだろう……)

大臣「おぉ……」

商人「す、すごい……」

戦士「ぬぅ……」

戦士(真の勇者が……今この衆目の中で、明らかになってしまった……)

賢者「勇者様……」

賢者(美しい……ここまで映えた取り合わせが、生涯の記憶にあっただろうか……)

国王「ううむ。素晴らしい」

国王「余は、魔王を打ち破る姿というものは、とかく勇猛剛毅であると夢想しておったが」

国王「今のそなたには線は細いながらも、ゆえに透くように清冽とした凛々しさを覚える」

国王「なるほど、これが勇者か……魔王を破るに、憂いなしよ」

勇者「……はい」

勇者「ありがとうございます」

国王「では勇者よ。もはやこの城に足を留める必要はない」

国王「今こそ、そのオーブと『伝説の剣』を備え――」

国王「魔の根源を討ち、この世に安寧を導くのだ!」

勇者「はいっ」

国王「そして……必ず無事に戻って参れ」

国王「余はこの玉座にて、そなたの朗報を末永く待とう……」

勇者「はいっ。ボクは絶対に魔王打倒を成し遂げ、再びこの場に帰ってきます――!」

――

賢者「素晴らしい宣誓でした。先の出来事は国史に刻まれることでしょう」

勇者「ええ、いいよそんなの。本当は結構緊張してたし」

戦士「もう後には退けんぞ。もはや一直線に魔王城に向かうまでだ」

商人「その前に! 最終決戦に備えて、城下町で身支度をさせてもらえませんかね?」

商人「ここで買い物するのも、この旅で最後になるかもしれんのですし」

勇者「そうだね。そうしよう――」

【北の城>城下町】

ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ

衛兵A「勇者様! これから魔王の城へ攻め入るそうですね!」

衛兵B「城兵一同、勇者様が世に平和をもたらしてくれることを信じております!」

衛兵C「戦士殿、城の一兵卒として心から尊敬しています! どうかご無事で!」

町民A「勇者様、必ずこの町に帰ってきてくださいね!」

町民B「これはうちの店で一番貴重なアイテムです。是非使ってください!」

町民C「あの、賢者様……必ず帰ってきてくださいね……」

町民D「おい勇者! ぜってぇ帰って来いよ!」

子供A「きた! ゆうしゃさまだ! せんしさまもかっこいい!」

子供B「ゆうしゃさま、これ、みんなでおまもり作ったの。がんばって」

子供C「ゆうしゃさま、がんばれ!」

勇者「みんな……ありがとう!」

勇者「必ず魔王を倒して、ここに帰ってくるよ!」

【勇者の家】

勇者「――すごい人だかりだったね」

賢者「窓の外にも、まだ人が集まっていますね」

戦士「ふん。奴ら、分かっているのか? 我々はまだ何の戦果も上げてないのだぞ」

勇者「上げてみせるよ。最高の戦果を」

勇者「この剣を抜いた瞬間から、どうしてか負ける気がしないんだ。絶対勝つよ」

賢者「頼もしい限りですね」

戦士「……」

勇者「ところで、商人さんは?」

賢者「あの群集にもまれる最中、最後のアイテム調整に出向いたようですね」

戦士「ふん。誰も自分のところへ寄ってこないから、いじけていたようだぞ」

勇者「そんな。商人さんは、アイテム管理も道具の鑑定・売買も、全部一人でこなしてたし」

勇者「腕っぷしもあるから戦闘もこなせるし、もう絶対このパーティーには欠かせない人だよ」

勇者「商人さんがいなければ、とてもここまで来れなかったよ」

戦士「……」

ガチャ

商人「た、ただいま戻りましたぞ!」

勇者「商人さん!」

商人「ううん……っしょ!」

ドサドサドサ

戦士「なんだこれは。明らかに旅に必要でないものも混じっているぞ」

賢者「なるほど。先の人々に押し付けられたのですね」

商人「そ、そうです! これは勇者様にと、これは賢者殿、これは勇者様――」

勇者「うわぁ。嬉しいけど、さすがにこれ全部はもっていけそうにないなぁ……」

戦士「全部持っていく気だったのか? 我々はこれから決戦の地に向かうのだぞ」

賢者「残念ですが、使えそうなアイテムだけ選別しましょう」

商人「ふうむ……売っても二束三文にしかならないものばかりですが……」

勇者「売るだなんてとんでもないよ! ボクにとっては、どれも宝物だよ」

勇者「持っていけないものは、この家に置いておこう」

戦士「……俺宛にバラを送ってる奴はどういうつもりなんだ」

――

商人「準備ができましたぞ! これでいつでも魔王城へ乗り込めます!」

勇者「!」

戦士「よし。いよいよだな……」

賢者「魔王城では何があるか分かりません。何か心残りはありませんか?」

商人「アイテムに関しては何も!」

戦士「ない」

勇者「ボクは……」

勇者「……」

勇者「うん、ないよ。ないと思う」

戦士「……」

商人「よーしっ! では、勇者様!」

勇者「うんっ! まずは【東の村】に!」

勇者は ルーラをとなえた! ▼

――――――――――――――――――――

【砂漠(西の町~南の港町)】

――

ジリ ジリ

僧侶「ふう……ふう……」 ポタ ポタ

僧侶(暑いなあ。汗が止まらないよ)

僧侶(昨日の夜は冷え込んでたのに) ポタ ポタ

僧侶(昼間の日照りがこんなに厳しかったなんて)

僧侶(どっち向いても地面が揺らいでる。落ちた汗も一瞬で蒸発しちゃうし) ポタ ポタ

ジリ ジリ

僧侶(でも大丈夫)

僧侶(どんなところに来たって、負けないぞ) ポタ ポタ

僧侶(僕はこれでも、元は勇者のパーティーの一員だったんだから)

ジリ ジリ

僧侶(パーティーの一員だった、かぁ……)

僧侶(僕はこれからもう、勇者と一緒にはいられないんだろうな)

僧侶(賢者さんに、二度と関わらないで欲しい、って言われちゃったしなぁ) ポタ ポタ

ジリ ジリ

僧侶(北の城下町から、住める場所もなくなって――)

僧侶(それどころか追放されちゃったから、もう戻れなくなったし) ポタ ポタ

ジリ ジリ

僧侶(西の町でも、追放者のマークを見られてしまって――)

僧侶(また町に入ろうものなら、きっと本当に乱暴されるかもしれない) ポタ ポタ

ジリ ジリ

僧侶(このまま先に進むたびに、追い出され続けたら) ポタ ポタ

僧侶(僕はどこに行けばいいんだろう)

僧侶「……」

僧侶「あれ?」 ポタ ポタ ポタ

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