僧侶「ひのきのぼう……?」 29/31

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竜王(なっ)

竜王(これは)

竜王(エルフの飲み薬の)

空きビンは 竜王の キバに あたった!

空きビンは こなごなに 割れた!

破片が 竜王の のどに ばらまかれた! ▼

竜王『ガハッ!? ガフッガッカッ!!』

僧侶は 竜王の あたまに しがみついた!!

僧侶は 片腕を 竜王の 目につっこみ――

僧侶「うわああああああああぁぁぁ!!」

赤い眼球を ひきぬいたっ!! ▼

竜王『グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

竜王『貴様アアアアアアアァァァァァァッ!!』

竜王は くるったように 頭を ふりまわした!

しかし 僧侶は しがみついて はなれない! ▼

竜王の 爪が 僧侶を おそう!

僧侶は 背中に ダメージを うけた!

しかし 僧侶は しがみついて はなれない!! ▼

僧侶(……心臓は分厚い皮で守られてて、突いた所でダメージにならない)

僧侶(首を切り落とすのも、『ひのきのぼう』じゃ無理だ)

僧侶(僕が狙える致命的な急所……それはもうここしかない)

僧侶(ドラゴンの頭の内部と直結している、ここしか!)

僧侶「――あああああああああぁぁぁッ!!」

僧侶は 竜王の 眼窩の 奥深くに

ひのきのぼうを 突き刺した!! ▼

竜王に 大ダメージを あたえた!! ▼

竜王『グガァアアアアアアアアァァァァァッ

アアアアア アアア ァァァァ ァ

アアア…… ア…… アアアア…… 』

ズズズズズズ

ドオォンン……

竜王を たおした!

僧侶は 経験値を 獲得した! ▼

僧侶「ハァ……ハァ……ハァ……」

僧侶は ベホマを となえた!

しかし MPが たりない! ▼

僧侶「ハァ……ハァ……危なかった……」

僧侶「勝負に出て……げほっ……正解だった……げほっげほっ!」

僧侶「……!」

竜王の からだが 縮んでいく――

竜王は 魔導士の すがたに なった!

竜王『ウググ……お……おのれ……ググ……』

竜王『我の……「眼」を……返せっ……!』

竜王『グググガ……』

僧侶「返さないよ……」

僧侶「これを返したら……ごぼっ……魔力を回復されちゃう……」

僧侶「僕は……げほっ……このまま、先の扉に進むよ……」

ザッ… ザッ… ザッ…

竜王『ま……待て……!』

僧侶は 力を ふりしぼって

【魔界樹の間】への とびらを 押し開けた――! ▼

【魔界樹の間】

僧侶「!」

魔界樹の根が うごめいている

魔界樹の根が うごめいている

魔界樹の根が うごめいている

魔界樹の根が うごめいている

魔界樹の根が ―― ▼

僧侶「これ」

僧侶「この……ダンジョンみたいなもの全部が……『根』?」

竜王『ハァ……ハァ……ク……ククク……』

竜王『ハハハハハッ……! どうだ……己の浅はかさが分かったろう』

竜王『魔界樹の「幹」は我が居城を支えるに過ぎんが』

竜王『「根」は、この魔大陸そのものを支えているのだ!』

竜王『歳月を詰めた我が結晶! 例えメガンテを放ったとて、びくともせんわッ!』

僧侶「……」

竜王『その満身創痍では、もはや根一本、断つこともできまい』

竜王『苦難の果ての絶望を、その身に思い知ったか! クククク……』

僧侶「……」

僧侶「メガンテなら……さっき覚えたよ……」

僧侶「お前との戦いに勝ったときに……ちょうど習得した」

竜王『!?』

僧侶『そして……僕の魔力も、まだ完全に尽きたわけじゃない。メガンテは唱えられる」

竜王『……ハッ。それがどうしたというのだ』

竜王『貴様がその身を懸けて玉砕しようと、魔界樹の規模に勝りはせん!』

竜王『例え十発、百発のメガンテに包まれようとも、この魔界樹は滅びぬ!』

竜王『それがたった一人の僧侶の、たった一度のメガンテなら、不発も同然よッ!』

僧侶「……」

僧侶「僕はね」

僧侶「『ひのきのぼう』なんだ」

竜王『何……!?』

僧侶「この『ひのきのぼう』は」

僧侶「僕が一人旅を始めた頃、お店で買ったただの棒だけど」

僧侶「この過酷な旅で、いつも手元にありながら」

僧侶「結局最後まで」

僧侶「折れることはなかった」

僧侶「魔物を攻撃するときも、そうじゃないときも、真っ直ぐを貫いたからだよ」

僧侶「周りから見たらただの棒だけど、僕を数え切れないくらい、助けてくれた」

僧侶「『ひのきのぼう』はこんなにも強いんだ」

僧侶「……そんな『ひのきのぼう』である僕が」

僧侶「すべての生命力をかけた呪文を、唱えるんだ」

僧侶「十も、百もいらない」

僧侶「一撃だぜ」

竜王『 やめろ』

竜王『やめろおおオオォォォォッ!!』

竜王『貴様の死に、何の価値がある!?』

竜王『貴様の挺身を知る人間は、誰一人いないのだぞ!?』

竜王『礼を言う者も、称える者も、この世界中を巡っても誰一人いない!』

竜王『それどころか、貴様がもたらそうとする平和で得をする者は、』

竜王『貴様を嘲笑し、唾棄し、忌避してきた、愚かな民草なのだぞ!?』

竜王『真実を知った者が命を賭し、何も知らない者がのうのうと平和を享受する――』

竜王『貴様はそんな理不尽が許せるのかッ!?』

竜王『そんなことのために死に絶えて、本当に満足なのか!?』

僧侶「満足だよ……」

竜王『!?』

僧侶「この世界に居場所を失った僕に……価値はないと半ば諦めかけていた僕に……」

僧侶「最後に、こんな大役が与えられたんだ」

僧侶「ちゃんと僕の命に、使い道があって良かった……」

僧侶「今まで……ここまで生きてきて、本当に良かったよ……」

竜王『こ、この……この狂人めがアアアアァァァァ!!』

僧侶は ひのきのぼうを むねに あてた ▼

僧侶(これで僕の旅は終わり)

僧侶は ▼

僧侶(幸せな一生だった。嘘じゃない)

メガンテを ▼

僧侶(ただ心残りは)

となえた ▼

僧侶(勇者に

まばゆい ひかりが あたりをつつみこむ――!

竜王(な、なんだあの……異常な魔力の収束は!)

竜王(馬鹿な。馬鹿なっ。まさか本当に、魔界樹が破壊されてしまうというのか!?)

竜王(こ、こんな……こんなはずではなかった。何故だ? どこで誤った?)

竜王(天界の奴らには、読み勝っていたはずだった。計画もすべて周到、かつ順調だった)

竜王(それをこの小僧が)

竜王(天の加護もなければ大した血筋でもない、我も天も慮外の存在であった、この小僧が)

竜王(毒沼を渡り、この【間】まで辿り付け、エルフの飲み薬、メガンテ、ヒノキの棒――)

竜王(すべての遇が折り重なったために――)

竜王(我のすべてが――)

竜王『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』

竜王は くだけちった!

魔界樹は くだけちった!

ひのきのぼうは

くだけちった――! ▼ ――――

――――――――――――――――――――

<夜>

【北の城・宴席】

*「では、魔王討伐を祝して」

*「カンパーイ!!」

*「「「カンパーーーイ!」」」

勇者「はは……」

勇者(もう何回目だろ……いい加減疲れちゃった……)

商人「――そこでワシは、その般若の面をつけたのです!」

商人「迫り来る魔物の影を、破竹のごとくバッタバッタと薙ぎ倒し――」

勇者(商人さんは元気だなぁ。魔王を倒す前より活気付いてる)

賢者「勇者様、大丈夫ですか? お顔が優れないようですが……」

勇者「えっ? あぁ、うん、平気だよ」

賢者「無理に付き合うことはないのですよ。何かあったらすぐに仰ってくださいね」

勇者「うん、ありがとう」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

勇者「!」

*「な、何の音だ?」

*「ゆ、揺れてる……地震だーっ!」

商人「あひぃ!!」

賢者「この振動……ただの地震にしては……」

勇者「みんな、落ち着いて!」

……ダッダッダッ ダンッ

戦士「勇者、来い!」

勇者「戦士さん!? 何があったの?」

戦士「すぐに高台へ! 魔大陸に変化が!」

勇者「えっ……!?」

――

【高台】

戦士「あれだ! 暗くて見えづらいが……何かが起きている!」

商人「何かってなんですかな!?」

勇者「あれは……」

勇者「大陸が……沈んでいっている?」

賢者「……そのようですね。険しい山々が、次々に陥没していきます」

賢者「恐らく」

賢者「魔王城が陥落した影響で、大陸を支えていた魔力が途切れたのでしょう」

戦士「そうなのか?」

商人「……ということは、完璧に魔王の圧力がなくなるということですかな!」

*「魔物が減るってことか!?」

*「こ、これで、船も内海に出せるんじゃないか!?」

*「やった、ばんざーい!」

*「ばんざーい!!」

戦士「新たな脅威の誕生とでも思ったが……どうやら真逆だったようだな」

商人「賢者殿が、魔王城を崩壊してくださったおかげですぞ!」

賢者「いえ、そういうことを言いたかった訳では」

*「賢者様ばんざーい!」

*「勇者様、ばんざーい!!」

*「よーし、ここに酒を持ってこい! あれをサカナに今夜は飲み明かすぜーっ!!」

勇者「……」

戦士「? どうした勇者。ぼんやり眺めて」

勇者「えっ? う、ううん、別に……ただ……」

勇者(どうしてだろう。あれを見ていると……)

勇者(何だか、哀しい気持ちになってくる……)

*「「「ばんざーい! ばんざーい!!」」」

勇者「!」

勇者(そ、そうだ。今のうちにここから抜け出そう……)

――

勇者「……」コソコソ

戦士「勇者」

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