僧侶「ひのきのぼう……?」 25/31

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【北の城】

兵士A「勇者様、ありがとうございます!」

兵士B「戦士様、良くぞご無事で!」

戦士「国王様に御注進である! 控えよ、控えよ!」

勇者「すごい……あっという間に広まってる」

賢者「城下町の民は、高台から魔王城の様子を窺っていたようですね」

商人「早く国王への報告を済ませましょうぞ! 商魂がうずいて仕方ありませんわ!」

戦士「不謹慎な奴め、そこまで商売が大事か」

商人「商人から商いを取ってしまえばただの人ですぞっ!」

勇者「はは、何ソレ」

勇者(……本当に、終わったんだなぁ)

勇者(本当に、魔王との決戦に勝って……これからボクたちの平和が始まるんだな……)

賢者「勇者様、いかがされました?」

勇者「えっ? わっ、ちょっと顔近いよっ、もう!」

賢者「ふふっ、これは失礼しました」

【北の城・王の間】

――

勇者「王様、ただいま戻りました!」

国王「うむ。勇者よ、よくぞ帰ってきた」

国王「伝令にてすでに顛末は知り得ておるが、改めてそちの口から報を聞かせてもらおう」

勇者「はいっ! ええっと……正しい口上を知りませんが、とにかく」

勇者「この伝説の剣にて、魔王は討ち果たされました!」

\ ワ――――――――――ッ ! /

国王「静粛に! ……勇者よ、よくやってくれた」

国王「そちの働きは、我が国の歴史に、永劫刻まれることであろう」

勇者「ありがとうございます。でも――」

勇者「魔王にとどめの一撃を与えたのは、戦士さんです」

戦士「!」

勇者「魔王城を落としたのも、賢者さんの大呪文によるものなんです」

賢者「勇者様……」

勇者「商人さんだって、持ち前のアイテムでボク達を助けてくれました」

商人「おおっ、忘れられてると思いましたぞっ」

勇者「この旅で無事に魔王を倒せたのも、全ては仲間がいてくれたからです。だから……」

勇者「どうかボクだけでなく、ボクの仲間も、等分に労ってください」

国王「おう。何という謙虚さよ」

国王「良かろう。連れの三名にも、存分に慰労を、そして褒章を賜ろうぞ!」

勇者「ありがとうございます」

国王「して、他に望みはあるか? 余にできることならば、何事でも聞き届けよう!」

勇者「えっ……と、それじゃあ」

勇者「パーティーを休ませてあげてくれませんか?」

勇者「魔王との戦いを終えたばかりで、ボク達クタクタで……」

国王「おう、それは済まなかった。ただちに休息を与えよう」

国王「……しかし申し訳ないが、その前に一つだけやって欲しいことがある」

国王「お主たちを待ち侘びていた者は、余だけではないのでな――」

勇者「えっ? ……ああ!」

【北の城・バルコニー】

勇者「わぁ……すごい群集!」

商人「うひょー大迫力ですな!」

戦士「おお……全ての視線が、こちらに向けられている……」

賢者「歓びの声で溢れ返っている……凄まじいカリスマですね、勇者様」

勇者「ええっ、ちょっと緊張するなぁ。戦士さんに代わって欲しいよ」

戦士「馬鹿を言うな。主役はあくまで勇者、お前一人だ」

賢者「何も緊張することはありませんよ。言葉を発したとて、聞こえはしません」

商人「前に出て、構えを取るだけで良いのですぞ!」

勇者「……分かったよ。それじゃあ」

勇者は 群集の前に すすみでた!

勇者は 伝説の剣を ぬきはなち――

そらたかく かかげた!

――――――――――――――――――――

【魔王城・B1F】

僧侶「いてて……」

僧侶(やっと揺れが収まった……)

僧侶(それにしてもよく助かったなぁ、僕。持ち物も全部無事だったし)

僧侶(途中で放り出されて、あちこち振り回されて、転がって……)

僧侶(あ、でも、まだ助かったわけじゃないか)

僧侶(あっちこっち瓦礫の山で道が塞がってる。もうこの城からは出られないかも……)

僧侶(勇者たちは、ちゃんと脱出できたかな)

僧侶(そうだ、勇者は魔王を倒したんだった!)

僧侶(良かったなぁ、ホントに良かった。勇者は、見事平和な世の中を取り戻したんだよ)

僧侶(それに比べて僕はダメだなあ)

僧侶(ここまで駆けつけときながら、結局何の役にも立てずに右往左往だよ)

僧侶「よっと」 パッ パッ

僧侶「とにかく、出口を探さなきゃ」 ――

――

僧侶「ふう。ダメだ。出れない」

僧侶(どこも通路が崩れちゃって先に進めないや)

僧侶(残ったのは……)

ヒュオオオオオ…

僧侶(この……地下へ続く、長い階段だけかぁ)

僧侶(偶然見つけたけど、これ、きっと隠し階段だよね。狭いし、暗いし)

僧侶(城壁が崩れた影響で、階段口が表に晒されちゃったんだ)

僧侶(気は進まないけど……僕がこの城から出るには、降りるしかないか)

僧侶(この先に、外に繋がる『旅のとびら』があることを期待して……)

僧侶(外に……出て……)

僧侶(……)

僧侶(まあ後のことはいいや。今はとにかくここを降りてみよう)

カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン ……

【魔王城・B10F】

――カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン

僧侶(結構長いなぁ……先も暗くてよく見えないし……)

・ カツーン

・ カツーン

・ カツーン

【魔王城・B20F】

僧侶(大きならせん状になってる……いったいどこまで続くんだろう)

・ カツーン

・ カツーン

・ カツーン

【魔王城・B50F】

僧侶「――ちょ、ちょっと休憩」

僧侶(まさかこんなに長いなんて……もう、何階分ぐらい降りたんだろ……)

僧侶(行き止まりが待ってたら、心が折れそうだな)

僧侶(ううん、僕は簡単に折れないぞ。何たって僕はこの、『ひのきのぼう』なんだから)

僧侶「……よし、休憩終わり! 行こう!」

――

【魔王城・B75F】

――カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン

僧侶(……階段を降り始めて、何時間くらい経ったかな)

僧侶(今ごろ勇者は、王様に会って、町の人たちから祝福されてるのかな)

僧侶(僕もその中に混じって、勇者たちみんなを労いたかったな)

僧侶(『おめでとう』『おつかれさま』『ありがとう』。かけたい言葉は盛りだくさんだ)

僧侶(でも僕は追放されちゃったから、もう城下町には入れないんだ)

僧侶(……だから勇者に会うチャンスは、もうここ、魔王城しかなかったけど……)

僧侶(間に合わなかったなぁ。急いだんだけど、仕方ないよね)

僧侶(ううん、僕が出しゃばったら、かえって皆を危険な目に合わせたのかもしれない)

僧侶(魔王は倒されたんだ。ってことはつまり、僕が間に合わなくて良かったんだ)

僧侶(僕って肝心なところでドジ踏んじゃったり、運が悪かったりするけど)

僧侶(今回だけは運が良かった。最後に間違えなくて、よかったよかった)

カツーン カツーン カツーン カツーン カツーン ――

【魔王城・B99F】

――

僧侶(うーん……行けども行けども、同じ風景ばかり)

僧侶(そろそろ疲れてきたかも……ん?)

僧侶「あっ!」

僧侶(明かりだ! しかもこの青白い明かりは……!)

ズズズズズズズズズ……

僧侶「やっぱり!」

僧侶「『旅のとびら』だ!」

僧侶(やっぱり抜け道はあったんだ。ここまで降りてきた甲斐があったよ)

僧侶(……でも)

僧侶(こんな地下深くにあるなんて……一体どこに繋がってるんだろ)

僧侶(ううん、ここまで来たら、どのみち僕に選択肢はないんだ)

僧侶「……行こう!」

僧侶は 旅のとびらに 飛び込んだ! ―― ▼

――

――――

――――――

僧侶「うわああっ!」

ドシャッ

僧侶「いてて……」

【??の間】

僧侶(腰を打っちゃったよ……とびらの先が底抜けになってたなんて……)

僧侶「……あれ? ここは?」

僧侶(外じゃないな。まだ室内みたいだけど)

僧侶(……やけに広い……?)

**『何者だ』

僧侶「!?」

僧侶(広間の奥に、大きな扉――)

僧侶(その前に、何かが座っている!)

僧侶(あれは……魔導師系の魔物?)

僧侶(ローブに覆われてて、顔がみえないけど……)

僧侶(いま思念波で話しかけてきたのは、あの魔物?)

**『何者だと問うておる』

僧侶「! 僕は」

僧侶「僕は僧侶。ここには、迷った果てに行き着いたよ」

**『僧侶? 人間か!?』

**『なぜ人間がこのような場所に』

**の そばに 二つの 赤い水晶が 浮かび上がった! ▼

僧侶「!」

僧侶(何をする気だ……?)

**『……』

**『……なるほど』

**『ここへは、確かに偶然迷い込んできたようだな』

僧侶「!」

僧侶「お前はいったい――」

**『!? 南の陸地から渡ってきたのか!?』

**『あそこには、魔王軍の精鋭を配置していたはずだが……』

**『出し抜かれたというのか……こんな小僧一人に……』

僧侶「!」

僧侶(僕の過去が見通されてる? しかも魔王軍ってことは、やっぱり敵?)

僧侶(とにかく、このままやらせたらまずい気がする)

僧侶「お前は!」

僧侶「お前は一体、何者なんだ。僕はちゃんと名乗ったよ」

**『……良かろう、他に聞く者もなし……人の子よ、傾聴するが良い。我こそは』

**『我こそは、真なる魔王である』

僧侶「な……なんだって」

僧侶「だって魔王は、勇者が倒したはずだよ!」

**『それは誤りではない。確かに魔王は最上階での決戦にて、勇者に敗れた』

僧侶「……魔王は、二人いたってこと?」

**『是とも否ともいえる。ただ真なる魔王は、我にして唯一』

**『我の他に魔王と称されるものがあったとて、それは虚偽なる写し身に過ぎぬ』

僧侶「じゃあ、勇者が倒した魔王は、偽物だっていうの?」

**『いかにも。あの魔王は、長きに渡る時を経て、我が育んだ究極の生物』

**『幾多の同胞を糧とし、驚天動地の成長を遂げた我が軍の切り札――その名は「魔界樹」である』

僧侶「『まかいじゅ』……? でも魔界樹って、『じんめんじゅ』の上位亜種じゃ……」

**『左様な下等の魔物とは別種のものだ。そも、規模の桁が数段異なる』

**『あの魔界樹は数十年前、我みずからの手で種子より育て上げたものだ』

僧侶「魔王が偽物の魔王を育てる? いったいどういう……」

**『……ククク……退屈しのぎには丁度よい。一幕の下りに人の子と語らうも、また一興』

**『良かろう。貴様には、全てを話してやろう――』

**『我は魔界にて生を与えられし時、伝説の宝具「ラーの鏡」と同質の力を備えられた』

**『すなわち数多の過去、そして真実を見通す、赤き眼睛である』

僧侶「真実を見通す……眼?」

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