[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

僧侶「ひのきのぼう……?」 7/31

12345678910111213141516171819202122232425262728293031

【北の城>城下町>小屋】

僧侶「ただいま」

僧侶「さてさて、今日のお楽しみ。お食事の時間」

僧侶「今日は運動もしたからお腹がぺこぺこだ。ぺこぺこー」

僧侶「パンふた切れにバター塗って……あと、お野菜も少し添えて……できあがり!」

僧侶「いただきます」

僧侶(パンは朝にふた切れ、夜にふた切れで我慢すれば、一ヶ月はもつ)

僧侶(昔に比べたら、毎日朝晩食べられるから幸せだ。バターも野菜もあるからご馳走だし)

僧侶(……そういえば旅してたとき、あそこの宿屋で食べたご飯はおいしかったなぁ)

僧侶(頑張って働けば、毎日あんな食事ができるかもしれない。そう考えただけでやる気が出ちゃう)

僧侶(でもだめだめ、今は我慢して、自分をもっと鍛える時期なんだ。そもそも現状でも満足だしね)

僧侶「ごちそうさま」

僧侶「おいしかった」

僧侶(じゃあやることもなくなったし、寝よう)

僧侶(考えてみれば安心して眠れる場所があるのも、幸せなことだねぇ)

僧侶「よいしょ」

僧侶「ふう」

僧侶(これから毎日鍛えて、ルイーダさんの酒場のギルドに登録して)

僧侶(護衛や採集なんかの仕事をたくさん引き受けて)

僧侶(お金を稼いで、一人で安定した生活を送れるようになって)

僧侶(……それからどうしようかな)

僧侶(導師さんにでもなろうかな。回復呪文と薬だけは得意だし)

僧侶(うん、世界中を旅して回る大僧侶ってのも、かっこいいかもしれない)

僧侶(そうしたら、少しは勇者の知り合いとして、恥ずかしくない人間になれるかな)

僧侶(……いまごろ勇者たちは元気にしてるかな。病気になったりしてないかな)

僧侶(ううん、僕なんかよりすごい賢者さんがいるから、きっと大丈夫だよね)

僧侶(勇者と、戦士さんと、商人さんと、賢者さんが無事でありますように)

僧侶(おやすみ……)

僧侶(……)

僧侶「Zzz……」

――――――――――――――――――――

【砂漠(南の港町~西の町)】

商人「ううう……日差しが厳しい……」

勇者「地面から熱気が揺らいでるね……頭がクラクラするよ……」

戦士「ふん。これしきのことで参るようでは、打倒魔王などもってのほかだぞ」

賢者「……戦士殿も少し足がふらついてますよ……」

商人「ううむ。よりによって荷を溜め込んだ直後に、こんな砂漠が広がっていようとは……」

勇者「みんなこまめに水分取るんだよ」

戦士「ぐびぐびぐび」

賢者「……戦士殿、結構飲まれますね……」

商人「ああしんど! 次の日陰を見つけたら、少し休憩させてくだされ」

勇者「商人さん、ボクが少し持ってあげるよ。だから頑張ろう」

戦士「当然だ。一刻も早く西の町に向かわねば、伝説の剣が消えてしまうかもしれん」

賢者「……屈強な戦士たちの町の、伝説の剣。すんなり手に入るとは……」

勇者「必ずボク達が手に入れよう。そして一刻も早く魔王を……」フラフラ

まものの むれが あらわれた! ▼

戦士「なにっ! 岩陰から!?」

勇者「!! みんな、モンスターが――」

魔物のむれは こちらが 身構える前に おそってきた!

魔物Aの こうげき! ▼

商人「ひいっ! いてぇ!」

商人は ダメージを うけた! ▼

魔物Bの こうげき!

つうこんの いちげき! ▼

賢者「うわあああっ!!」

賢者は 大ダメージを うけた! ▼

勇者「賢者さん!」

戦士「くそっ、まずは一体集中で数を減らせ!」

商人「に、荷物だけは死守しますぞ!」

賢者「敵に奇襲を許すとは……不覚……」

勇者(……こんなこと、今までなかった……)

――

勇者「賢者さん、うしろ!」

魔物Bの こうげき!

賢者は ダメージを うけた! ▼

賢者「ぐっ。ここは回復が無難……!」

賢者は ベホマラーを となえた!

パーティーのキズが 回復した! ▼

商人「どおりゃあ!!」

商人の こうげき!

魔物Cに ダメージを あたえた!

魔物Cを たおした! ▼

戦士「そいつで最後か!」

戦士の こうげき!

魔物Bに ダメージを あたえた!

魔物Bを たおした! ▼

魔物の むれを たおした! ▼

勇者「ふう……やっと片付いたね……」

商人「すかさずゴールドを多めに回収!」

商人「いやあ、思わぬ苦戦を強いられましたなぁ……」

勇者「そうだね。でも、みんな無事でよかった」

戦士「……しかし、勇者と賢者の魔力は、無駄に浪費させられたな」

賢者「浪費だなんて。私の魔力はまだまだ豊富に残っていますよ」

戦士「これが魔王城だったらどうする。とても後がもたんぞ!」

勇者「ご、ごめん……」

賢者「勇者様の責任ではありませんよ。あの時、誰も奇襲に気付けなかった」

戦士「俺が言いたいのは、我々が奇襲を受けたことなど記憶になかった点だ」

戦士「つまり前と比べて、明らかに危機感が薄らいでるのだ! 無論、俺も含めて!!」

勇者「そ、それは違うよ。それは全部……僧侶のおかげで……」ボソ

商人「ま、まぁ、一度や二度の奇襲じゃ、我々はびくともしませんて」

賢者「それに、気配が悟れぬほど魔物のレベルが高くなっている、という見方もありましょう」

戦士「ふん。ならばなおさら、兜の緒を締めねばならん。さぁ、もう行くぞ。時間が勿体ない」

勇者(……たった一度の戦闘で、一気にパーティーの空気が乱れてしまった)

勇者(ああ……ボクはなんて頼りないリーダーなんだろう……)

――

勇者「……」 ザッ ザッ

戦/商/賢「……………………」 ザザッ ザッザ ザッザッ ザザッ

勇者(……思えば……)

勇者(今までパーティーに揉め事があったら、最終的に僧侶が責められることで解決していたな)

勇者(戦士さんも商人さんも……そしてごくたまにボクも……)

勇者(イライラの捌け口があったから、パーティーのバランスが取れていたのかもしれない……)

勇者(……今は僧侶はいない。もし、お互いのイライラがぶつかり合ってしまったら、どうしよう)

勇者(パーティーが解散するようなことになってしまったら、どうしよう)

勇者(やっぱり、僧侶がいないと不安だよ……僧侶……)

勇者(……魔王と戦う前に、一回くらい、会いに行ってもいいんじゃないかな)

勇者(もしボクが死んじゃうようなことがあれば、おみやげも手渡しできなくなっちゃうし……)

勇者(……おみやげの『いのちのゆびわ』……)

勇者(……宿屋で賢者さんが迫ってきたとき、怖かったな。何でだろう。今でも分かんない)

勇者(……年頃の女の子はレンアイをするものだって聞いたけど……それと関係あるのかな……)

商人「お。見えてきましたな――」

戦士「――」

賢者「――」

勇者「……」

勇者(……賢者さんは、顔立ちもカッコいいし、呪文にも長けてて頼もしいし)

勇者(……いつもボクに気を遣ってくれて優しいし。絶対、悪いヒトじゃないんだけど……)

勇者(ボクには……)

勇者(……ボクには? あれ? なんだろ?)

勇者(……違う、だめだ。ボクは勇者だ。意識を切り替えて、みんなを引っ張っていかなきゃ……)

勇者(魔王を倒せるのは、選ばれし勇者だけ……ボクしかいない……)

賢者「――? ――?」

勇者(……なんだか頭がぼうっとする……賢者さんが……何言ってるのか分からない……)

勇者(賢者さん……ゆびわ……ボクは勇者で……)

勇者(……僧侶……)フラフラ

ドサッ

賢者「!? 勇者様!? 勇者様――!」

――

【西の町>宿屋】

賢者「……ただの熱中症のようです。大事には至らないとはいえ、安静にしておかねば」

戦士「ふっ。みなが同じ条件にも関わらず、情けないな」

商人「戦士殿は、ワシの荷物を持ってくれませんでしたぞ……」

賢者「それにこれは、知恵熱のようなものも混じっているかもしれません」

賢者「勇者として、パーティーを率いる責務や……その他に悩みがあった可能性も」

戦士「俺達の最終目標は何だ? 負うものの大きさを考えろ。甘ったれたことは一切言ってられん」

戦士「行くぞ、商人よ」

商人「ど、どこへ……?」

戦士「伝説の剣の在り処を探すのだ。一刻でも早く、この町での目的は完遂させる」

賢者「戦士殿、お願いします。――ただし」

賢者「いつの歴史も、勇者は唯一。ゆめゆめお忘れなきよう」

戦士「ふん。何が言いたいのか分からんな」 バタン

商人「ああちょっとワシも着いていく話では!」 ガチャ バタン

勇者「」 スー スー…

賢者「勇者様……」

賢者(寝顔だけ見れば、戦いとは無縁な年頃の少女そのもの)

賢者(『勇者』という責は、この小さな体躯にどれだけの重圧をかけていることだろう……)

賢者(……)

勇者「」 スー スー…

賢者(……美しい。勇者様のすべてが愛おしい。ああ、運命とは残酷なものだ)

賢者(色恋沙汰にはまるで無関心だった私が、はじめて恋に落ちた相手が……)

賢者(天に選ばれし勇者だとは。しかも……すでに想い人がいるなど……)

賢者(……)

賢者(やはり、決行しよう。今こそ好機だ)

賢者(恋愛とて修羅の道。であれば、私がやろうとしていることにも正当性はある)

賢者(徳の道からは外れようとも、代わりに私にも『機』が得られるならば、安いもの)

賢者(さぁ、愛欲にまみれた下賎な魔術師の汚名を被ろう。私の価値は、私自身が決めるのだ――)

宿の女「……あら賢者様。お連れの方のお加減は……」

賢者「すまない、今から薬を作る。厨房をお借りする」

宿の女「……お薬でしたら、わたくしがご用意いたしますが……」

賢者「急を要するのだ、ご厚意だけ感謝する。また私が薬を作る間、立ち入らないでもらいたい」

宿の女「……はい。さようでしたら、そのように……」

賢者「……」

賢者(行ったか。誰もいないな)

賢者(これは私が好奇心で研究していた呪薬の一つ。調剤過程はまだ秘匿だ)

賢者(まずは普通の解熱剤を作る)

賢者(これは聖水と薬草を使って、簡単に作ることができるが――)

賢者(さらに、時期を見計らって回復呪文をかけることで、効果が増強される――)

賢者は ベホマを となえた! ▼

賢者(……完成だ。さて、私の下心が芽生えなかったなら、この時点で切り上げるところだが)

賢者(ここからが本番だ)

賢者(ベースは同じ聖水だが、主成分は『きえさりそう』を使う)

賢者(よく煮込み、かき混ぜる――)

賢者(次に――これを使う。以前、あの僧侶が装備していたローブだ)

賢者(これの切れはしを使う。心の臓に近い、胸の部分がよかろう)

賢者(……『ひのきのぼう』との判を押された、憐れな少年よ)

賢者(勇者様のおそばに寄ったのは、余りにも早すぎたのだ……!)

賢者は ローブを きりさいた!

賢者は メラを となえた!

ローブの切れはしは もえあがり 灰になった! ▼

賢者(……。罪悪感は押し殺す。私はすでに決断した)

賢者(……灰となったローブを、『きえさりそう』の混ざった聖水に加え、よく混ぜる――)

賢者(そして一定のタイミングを見計らい、最大魔力でこの呪文をかける)

賢者は メダパニを となえた! ▼

賢者(……ふう……。仕上げに、あらかじめ作っておいた解熱剤と混ぜ合わせる)

賢者(……完成だ。あとはこれを、勇者様に飲んでいただくことで……)

賢者(私の望む状況が生まれる)

ガチャ

賢者「……勇者様。目を覚まされたのですね」

勇者「あ……賢者さん」

賢者「窓の外になにか?」

勇者「うん、ここの宿の女の人が、麦を運んでて。この町、女性もよく働くんだなって」

賢者「ここ西の町は戦士の町。女性も気丈でなければ、荒くれ者の伴侶もままならないのでしょう」

勇者「ふうん……ボクも頑張らないとなぁ……」

賢者「それより、ご容態は」

勇者「もう、平気。心配かけてごめんね」

賢者「正直に仰ってください。まだ鈍痛が続いているのでは」

勇者「……うん。賢者さんに嘘をついてもしょうがないね。ホントは、まだ少し……」

賢者「今しがた、解熱剤を作りました。こちらをお飲みください」

勇者「ありがとう。賢者さんは、優しいね。まるで僧侶みた……あ、いや、何でも……」

賢者「……」

賢者「お早いうちに、お薬を召し上がりください。どうぞ……」 コトン

勇者「分かった。じゃ、ありがたく……。……!」

賢者「? どうかされましたか?」

勇者「……このお薬……何度も似たのを飲んだことがある……」

賢者「!」

勇者「……その、今まで飲んできた薬は、びっくりするほどよく効いたけど……」

勇者「これは、ちょっと香りが違う気がする……」

賢者「……僧侶殿が作った解熱剤の話ですか?」

勇者「……」

賢者「なぜ」

賢者「なぜ私を信用して下さらないのですか?」

勇者「えっ」

賢者「私とて専門外とはいえ、薬に関してはそれなりの自負はあります」

賢者「恐縮ながら私は……魔王打倒を目指す同志として……」

賢者「すでにパーティーには、勇者様には信用を勝ち得ていたものと思っておりました……」

勇者「そ、それは……そんなつもりは!」

勇者「ボクは、賢者さんを疑ったりなんかしないよ!」

賢者「勇者様」

勇者「賢者さんは、仲間だ。仲間の作ってくれた薬を飲めないリーダーなんかいないよ」

勇者は くすりを 手に取り

いっきに のみほした! ▼

12345678910111213141516171819202122232425262728293031