勇者「とりあえず戦士さんの言うとおりにしよう」
戦士「!」
勇者「戦士さんがいなければ、この剣は手に入らなかったもん」
勇者「だから今回は、戦士さんの言い分を尊重したいな」
賢者「……勇者様がそう仰られるのであれば」
戦士「ならばその日が来るまで、この剣は俺が預かっておこう。構わんな?」
勇者「うん、構わない」
賢者「勇者様、それはさすがにどうかと。商人殿に預かってもらうべきです」
商人「ワ、ワシがですか」
勇者「ううん、いいよ。この剣はそもそも、戦士さんが手に入れたものでしょ」
勇者「何だかボクがそれをほいほい受け取っちゃうと悪いし、すっきりしないんだ。ね?」
賢者「……勇者様がそう仰られるのであれば」
戦士「勇者よ。感謝する」
勇者「そんな、お礼を言われるようなことは何にもないよ」
賢者「……」
商人「ところで、次の目的地はどこですかな。明日の行き先は」
勇者「うん、それなんだけど、すでに賢者さんと決めてあるんだ」
賢者「はい。我々は次に、【北の城】へ向かう途中にある、雪山へ向かおうと考えています」
商人「ふむ。構いませんが、ご説明願えますかな」
賢者「はい。伝説の剣を入手してしまえば、この旅の目的は残り一つ」
賢者「すなわち、【魔王城】への侵入経路の発見です」
戦士「そういえばもうじき大陸を一周するが、結局道らしき道は見つけられず仕舞いだったな」
商人「辛うじて南の港町からの陸続きのルートがありましたが、ありゃ無理ですもんな」
賢者「どこにも道が見つからなかった場合、そのルートを使うことになりますが」
賢者「まだ足を踏み入れていない地域があります。それが次の雪山です」
賢者「万一そこにも手がかりが無かったなら、そのまま雪山を越えて【北の城】に向かいます」
賢者「大陸の王都であれば、今なら何らかの新たな情報が集まっているかもしれません」
勇者「うん、ちょうどみんなの故郷だしね! ボクも魔王と決戦の前に、一度家に帰りたいし」
商人「えっ。ああー……」
戦士「むう……それは……」
賢者「僧侶殿のことなら、心配いりませんよ」
商人「!? ちょ、ちょっと」
戦士「賢者、どういうつもりだ?」
勇者「?」
勇者「僧侶って、誰のこと?」
商人/戦士「!?」
賢者「あぁ勇者様、ちょっとした知人です。我々のパーティーには関係ありませんよ」
勇者「ふうん……? 誰だろ……」
戦士「……」
商人「……ほ、ほほう。さすがは賢者殿。何やらうまくやりましたな」ボソ
賢者「いえ。これは魔王打倒のためにも、必要な処置だと思ったまでです」
戦士「ふん。まぁ、確かにそうか」
賢者「とにかく、これで何の気後れもなく、北の城まで向かえるということです」
勇者「……? ねえ、何の話?」
賢者「大したことはありませんよ。それでは最後に、地図でおさらいをしましょう」
―――――――――【北の城】―――――――――
―――【雪山】―――――――――【渓谷】―――
【西の町】――――【魔王城】――――――【東の村】
―――【砂漠】―――――――――【賢者の村】―
―――――――――【南の港町】――――――――
賢者「我々は今まで、【北の城】からぐるりと時計回りに旅をしてきました」
賢者「もっとも私がパーティーに参入したのは【賢者の村】からですが」
勇者「今いるのがこの【西の町】でしょ。だったら雪山を越えたら、ちょうど一周するね」
商人「魔王城の周りは高い山、そして海……もはや空から乗り込むぐらいしかありませんな」
戦士「ルーラやキメラのつばさを応用して、乗り込めないのか」
賢者「不可能ですね。少なくとも、一度足を踏み入れなければ」
勇者「……うん、分かった。明日雪山に行って、そのまま北の城に行って」
勇者「いずれにも魔王城に乗り込む糸口が見つからなければ、南の港町からの陸路を使おう」
勇者「それじゃ、今日はもう暗くなってきたし、解散――!」
――
勇者(……何だか熱を出してから、やけに胸の中がすかすかする気分。変なの……)
勇者(ううん、そんなこと気にしてる場合じゃない。明日は山越え、しっかり休まなくちゃ……)
――
戦士(この『伝説の剣』……やはり抜けぬ……)
戦士(ふん……仮に最後まで抜けなかったとしても……魔王を倒すのはこの俺だ……)
――
商人(いまの軍資金はこれだけ。魔王を倒しさえすれば、これを元手にもっと増やせる)
商人(その時の商戦はすでに考えてある……ぐふふ、世界一の大商人になる日は近いぞ……)
――
賢者(勇者様の、私を見る目が変わった……私に、確かな機会が与えられたのだ……)
賢者(あとは何があろうとも必ず勇者様を支え、お守りし、魔王を倒す)
賢者(それだけの箔がつけば、何者も口は挟めないだろう……そして、その暁には……)
――――
――――――――――――――――――――
【北の町>城下町>外れの小屋】
<夜>
僧侶「ふう……ただいま」
僧侶「おなかすいたな。パンを食べよう」
僧侶「パンふた切れにバターを塗って……あと少し野菜も」
僧侶「いただきます」
僧侶「ん……おいしい。しあわせ」
僧侶「ごちそうさま」
僧侶「さて……寝よっかな」
僧侶(……今日もたくさん特訓したぞ。僕、結構強くなったかも)
僧侶(そろそろギルドに登録してもいいかもしれない。そしたら、勇者も驚くかな)
*「――!」
僧侶「……ん? なんだろ」
僧侶(外が騒がしいな……行ってみよう)
ガチャ
僧侶(なんの騒ぎだろう……)
盗賊「だからオレは何も盗ってねえって!」
兵士B「くそ……おかしいな、荷物には何もないぞ」
兵士A「おい、ボディチェックだ!」
盗賊「くっ……待て!」
盗賊「お前ら、そこまでオレを疑うってことは覚悟はできてるんだろうな!」
兵士B「何ぃ」
盗賊「この国は、ヨソ者の亡命にも慈悲深いと聞いてやってきたが――」
盗賊「夜中の出入りは禁止だなんて話、昨日の今日で知る機会がなかったんだ!」
兵士A「こいつ何日も隠れてた分際でよくもそんなデタラメを……」
盗賊「いいか、もしオレの身体を調べて何も出てこなかったら、お前たちを……」
盗賊「国を訴えてやる! 訴訟だ! それなりの賠償を要求してやるぞ!」
兵士B「お、おいどうする?」
兵士A「こんな露骨なその場しのぎにたじろいでお前がどうする! さぁ服を改めろ!」
僧侶「あのう……」
盗賊/兵士A/B「!?」
僧侶「もう夜中ですし、ケンカはやめませんか?」
兵士A「な、なんだお前は」
僧侶「僕は近くの小屋に住む者です。こんな時間に言い争うのは、つまらないからやめましょう」
盗賊「あっ! お、お前!」
兵士A「ま、待て! 逃げる気か!」
盗賊「違う! こいつだ、こいつがアレを盗んだんだ! そうに違いない!!」
僧侶「えっ?」
兵士B「何をでたらめを……」
盗賊「でたらめなんかじゃねえさ、見ろ、こいつのポケットの膨らみを」
盗賊「オレが証明してやる!!」
盗賊は 僧侶に かけよった!
盗賊は 僧侶のポケットから オーブをとりだした! ▼
僧侶「えっ……?」
兵士A「そ、それは!」
兵士B「そいつを早く渡せ!!」
盗賊「も、もちろんだ」
兵士は オーブをうけとった ▼
兵士A「間違いない……この珠の美しい色合い! 紛れもなく国宝のオーブ!」
兵士B「ああ、助かった……一時はどうなることかと思った……」
盗賊「そ、そんなにスゲーもんだったのか? お、お前もよく盗る気になったなぁ」
僧侶「えっ? 僕はそんな玉なんて知らないよ」
盗賊「嘘をつけ! 現にお前のポケットから出てきたのを、このお二人も見てたんだ!」
兵士A「うむ……まぁ、確かに」
兵士B「そこの少年、お前を城へ連行する! さぁ大人しくするんだ!」
僧侶「えっ? 今のは、そこの人がもともと持ってたのを、僕のポケットに入れたんだよ」
盗賊「出まかせを! どうせオレがヨソ者だから、濡れ衣を着せやすいって魂胆なんだろ!?」
兵士B「ええ……ど、どうする?」
兵士A「とにかく、二人ともひっ捕らえるんだ!」
――
【北の城>地下牢】
衛兵「ここでしばらく大人しくしてろ!」
ガシャン
僧侶「あいたた」
僧侶(……うーん。僕はオーブなんて盗んでないんだけどな)
僧侶(でもそれより、いいことを知ったぞ)
僧侶(【東の村】の村長さんが寝言で言ってたオーブは、多分これのことだ)
僧侶(【東の村】から少し西へ進んだ位置にほこらがあって、そこにオーブを持っていくんだ)
僧侶(そうしたら、魔の城へ続く道が開ける……多分、何かが起こるんだ)
僧侶(魔王城は山と海に囲まれてるから、多分この方法で乗り込めるんだ)
僧侶(勇者に会ったらすぐに伝えないと)
僧侶(……ここを出られたら、だけど。……いつ出してもらえるのかな……)
僧侶(……)
僧侶「」 Zzz…
――
兵士B「ふい~。オーブが見つかって良かった良かった」
兵士A「なあ兄弟」
兵士A「あのとき、尋問してた男の方の服は、まだ改めてなかったよな」
兵士B「そうだったか? まぁそんなこと覚えちゃいないが」
兵士A「オーブが見つかって俺も動転していたが、よくよく考えてみると」
兵士A「あの男がガキの方に無理矢理オーブを押し付けたってのも、普通に在り得るんじゃないか」
兵士B「さぁ、俺が知るもんか。オーブは見つかったんだ、あとは野となれ山となれだ」
兵士A「とはいっても、判決が下される際に、参考人として呼び出されるかもしれんぞ」
兵士B「ええ、面倒くさいなぁ」
兵士A「……ま。その時は俺たちが見たままのことを伝えればいい」
兵士A「『あの僧侶のポケットからオーブが出てきた』ってな」
兵士B「僧侶?」
兵士A「ああ。あいつは例の『ひのきのぼう』だよ。勇者様にリストラされた奴」
兵士A「身の程知らずに魔王討伐についていきやがって、俺は前から気に食わなかったんだ――」
――
ガチャガチャ ガシャン
衛兵「おい、起きろ」
僧侶「Zzz」
衛兵「……こいつ、よくこんな固い床で眠っていられるな……おい、起きろ!」
僧侶「ん……ふぁい?」
衛兵「沙汰が決まった。牢から出ろ」
僧侶「ふああ……ふぁい……」
衛兵「のんきなものだな。国宝窃取は大罪なのを分かっているのか?」
衛兵「場合によっては、明日の日の目はもう拝めないかもしれんのだぞ」
僧侶「そうは言っても、僕は盗んでないですし……」
衛兵「まぁいい。早く立て、これからお前を王の間に連れていく」
僧侶「王の間……?」
衛兵「そうだ。盗品が盗品だからな。国王みずから直々に判決を下すとのお達しだ――」
【北の城>王の間】
――ザッ!
衛兵「ただいま容疑の者をお連れしました!」
国王「よい。下がれ」
衛兵「はっ」