僧侶「ひのきのぼう……?」 9/31

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勇者「とりあえず戦士さんの言うとおりにしよう」

戦士「!」

勇者「戦士さんがいなければ、この剣は手に入らなかったもん」

勇者「だから今回は、戦士さんの言い分を尊重したいな」

賢者「……勇者様がそう仰られるのであれば」

戦士「ならばその日が来るまで、この剣は俺が預かっておこう。構わんな?」

勇者「うん、構わない」

賢者「勇者様、それはさすがにどうかと。商人殿に預かってもらうべきです」

商人「ワ、ワシがですか」

勇者「ううん、いいよ。この剣はそもそも、戦士さんが手に入れたものでしょ」

勇者「何だかボクがそれをほいほい受け取っちゃうと悪いし、すっきりしないんだ。ね?」

賢者「……勇者様がそう仰られるのであれば」

戦士「勇者よ。感謝する」

勇者「そんな、お礼を言われるようなことは何にもないよ」

賢者「……」

商人「ところで、次の目的地はどこですかな。明日の行き先は」

勇者「うん、それなんだけど、すでに賢者さんと決めてあるんだ」

賢者「はい。我々は次に、【北の城】へ向かう途中にある、雪山へ向かおうと考えています」

商人「ふむ。構いませんが、ご説明願えますかな」

賢者「はい。伝説の剣を入手してしまえば、この旅の目的は残り一つ」

賢者「すなわち、【魔王城】への侵入経路の発見です」

戦士「そういえばもうじき大陸を一周するが、結局道らしき道は見つけられず仕舞いだったな」

商人「辛うじて南の港町からの陸続きのルートがありましたが、ありゃ無理ですもんな」

賢者「どこにも道が見つからなかった場合、そのルートを使うことになりますが」

賢者「まだ足を踏み入れていない地域があります。それが次の雪山です」

賢者「万一そこにも手がかりが無かったなら、そのまま雪山を越えて【北の城】に向かいます」

賢者「大陸の王都であれば、今なら何らかの新たな情報が集まっているかもしれません」

勇者「うん、ちょうどみんなの故郷だしね! ボクも魔王と決戦の前に、一度家に帰りたいし」

商人「えっ。ああー……」

戦士「むう……それは……」

賢者「僧侶殿のことなら、心配いりませんよ」

商人「!? ちょ、ちょっと」

戦士「賢者、どういうつもりだ?」

勇者「?」

勇者「僧侶って、誰のこと?」

商人/戦士「!?」

賢者「あぁ勇者様、ちょっとした知人です。我々のパーティーには関係ありませんよ」

勇者「ふうん……? 誰だろ……」

戦士「……」

商人「……ほ、ほほう。さすがは賢者殿。何やらうまくやりましたな」ボソ

賢者「いえ。これは魔王打倒のためにも、必要な処置だと思ったまでです」

戦士「ふん。まぁ、確かにそうか」

賢者「とにかく、これで何の気後れもなく、北の城まで向かえるということです」

勇者「……? ねえ、何の話?」

賢者「大したことはありませんよ。それでは最後に、地図でおさらいをしましょう」

―――――――――【北の城】―――――――――

―――【雪山】―――――――――【渓谷】―――

【西の町】――――【魔王城】――――――【東の村】

―――【砂漠】―――――――――【賢者の村】―

―――――――――【南の港町】――――――――

賢者「我々は今まで、【北の城】からぐるりと時計回りに旅をしてきました」

賢者「もっとも私がパーティーに参入したのは【賢者の村】からですが」

勇者「今いるのがこの【西の町】でしょ。だったら雪山を越えたら、ちょうど一周するね」

商人「魔王城の周りは高い山、そして海……もはや空から乗り込むぐらいしかありませんな」

戦士「ルーラやキメラのつばさを応用して、乗り込めないのか」

賢者「不可能ですね。少なくとも、一度足を踏み入れなければ」

勇者「……うん、分かった。明日雪山に行って、そのまま北の城に行って」

勇者「いずれにも魔王城に乗り込む糸口が見つからなければ、南の港町からの陸路を使おう」

勇者「それじゃ、今日はもう暗くなってきたし、解散――!」

――

勇者(……何だか熱を出してから、やけに胸の中がすかすかする気分。変なの……)

勇者(ううん、そんなこと気にしてる場合じゃない。明日は山越え、しっかり休まなくちゃ……)

――

戦士(この『伝説の剣』……やはり抜けぬ……)

戦士(ふん……仮に最後まで抜けなかったとしても……魔王を倒すのはこの俺だ……)

――

商人(いまの軍資金はこれだけ。魔王を倒しさえすれば、これを元手にもっと増やせる)

商人(その時の商戦はすでに考えてある……ぐふふ、世界一の大商人になる日は近いぞ……)

――

賢者(勇者様の、私を見る目が変わった……私に、確かな機会が与えられたのだ……)

賢者(あとは何があろうとも必ず勇者様を支え、お守りし、魔王を倒す)

賢者(それだけの箔がつけば、何者も口は挟めないだろう……そして、その暁には……)

――――

――――――――――――――――――――

【北の町>城下町>外れの小屋】

<夜>

僧侶「ふう……ただいま」

僧侶「おなかすいたな。パンを食べよう」

僧侶「パンふた切れにバターを塗って……あと少し野菜も」

僧侶「いただきます」

僧侶「ん……おいしい。しあわせ」

僧侶「ごちそうさま」

僧侶「さて……寝よっかな」

僧侶(……今日もたくさん特訓したぞ。僕、結構強くなったかも)

僧侶(そろそろギルドに登録してもいいかもしれない。そしたら、勇者も驚くかな)

*「――!」

僧侶「……ん? なんだろ」

僧侶(外が騒がしいな……行ってみよう)

ガチャ

僧侶(なんの騒ぎだろう……)

盗賊「だからオレは何も盗ってねえって!」

兵士B「くそ……おかしいな、荷物には何もないぞ」

兵士A「おい、ボディチェックだ!」

盗賊「くっ……待て!」

盗賊「お前ら、そこまでオレを疑うってことは覚悟はできてるんだろうな!」

兵士B「何ぃ」

盗賊「この国は、ヨソ者の亡命にも慈悲深いと聞いてやってきたが――」

盗賊「夜中の出入りは禁止だなんて話、昨日の今日で知る機会がなかったんだ!」

兵士A「こいつ何日も隠れてた分際でよくもそんなデタラメを……」

盗賊「いいか、もしオレの身体を調べて何も出てこなかったら、お前たちを……」

盗賊「国を訴えてやる! 訴訟だ! それなりの賠償を要求してやるぞ!」

兵士B「お、おいどうする?」

兵士A「こんな露骨なその場しのぎにたじろいでお前がどうする! さぁ服を改めろ!」

僧侶「あのう……」

盗賊/兵士A/B「!?」

僧侶「もう夜中ですし、ケンカはやめませんか?」

兵士A「な、なんだお前は」

僧侶「僕は近くの小屋に住む者です。こんな時間に言い争うのは、つまらないからやめましょう」

盗賊「あっ! お、お前!」

兵士A「ま、待て! 逃げる気か!」

盗賊「違う! こいつだ、こいつがアレを盗んだんだ! そうに違いない!!」

僧侶「えっ?」

兵士B「何をでたらめを……」

盗賊「でたらめなんかじゃねえさ、見ろ、こいつのポケットの膨らみを」

盗賊「オレが証明してやる!!」

盗賊は 僧侶に かけよった!

盗賊は 僧侶のポケットから オーブをとりだした! ▼

僧侶「えっ……?」

兵士A「そ、それは!」

兵士B「そいつを早く渡せ!!」

盗賊「も、もちろんだ」

兵士は オーブをうけとった ▼

兵士A「間違いない……この珠の美しい色合い! 紛れもなく国宝のオーブ!」

兵士B「ああ、助かった……一時はどうなることかと思った……」

盗賊「そ、そんなにスゲーもんだったのか? お、お前もよく盗る気になったなぁ」

僧侶「えっ? 僕はそんな玉なんて知らないよ」

盗賊「嘘をつけ! 現にお前のポケットから出てきたのを、このお二人も見てたんだ!」

兵士A「うむ……まぁ、確かに」

兵士B「そこの少年、お前を城へ連行する! さぁ大人しくするんだ!」

僧侶「えっ? 今のは、そこの人がもともと持ってたのを、僕のポケットに入れたんだよ」

盗賊「出まかせを! どうせオレがヨソ者だから、濡れ衣を着せやすいって魂胆なんだろ!?」

兵士B「ええ……ど、どうする?」

兵士A「とにかく、二人ともひっ捕らえるんだ!」

――

【北の城>地下牢】

衛兵「ここでしばらく大人しくしてろ!」

ガシャン

僧侶「あいたた」

僧侶(……うーん。僕はオーブなんて盗んでないんだけどな)

僧侶(でもそれより、いいことを知ったぞ)

僧侶(【東の村】の村長さんが寝言で言ってたオーブは、多分これのことだ)

僧侶(【東の村】から少し西へ進んだ位置にほこらがあって、そこにオーブを持っていくんだ)

僧侶(そうしたら、魔の城へ続く道が開ける……多分、何かが起こるんだ)

僧侶(魔王城は山と海に囲まれてるから、多分この方法で乗り込めるんだ)

僧侶(勇者に会ったらすぐに伝えないと)

僧侶(……ここを出られたら、だけど。……いつ出してもらえるのかな……)

僧侶(……)

僧侶「」 Zzz…

――

兵士B「ふい~。オーブが見つかって良かった良かった」

兵士A「なあ兄弟」

兵士A「あのとき、尋問してた男の方の服は、まだ改めてなかったよな」

兵士B「そうだったか? まぁそんなこと覚えちゃいないが」

兵士A「オーブが見つかって俺も動転していたが、よくよく考えてみると」

兵士A「あの男がガキの方に無理矢理オーブを押し付けたってのも、普通に在り得るんじゃないか」

兵士B「さぁ、俺が知るもんか。オーブは見つかったんだ、あとは野となれ山となれだ」

兵士A「とはいっても、判決が下される際に、参考人として呼び出されるかもしれんぞ」

兵士B「ええ、面倒くさいなぁ」

兵士A「……ま。その時は俺たちが見たままのことを伝えればいい」

兵士A「『あの僧侶のポケットからオーブが出てきた』ってな」

兵士B「僧侶?」

兵士A「ああ。あいつは例の『ひのきのぼう』だよ。勇者様にリストラされた奴」

兵士A「身の程知らずに魔王討伐についていきやがって、俺は前から気に食わなかったんだ――」

――

ガチャガチャ ガシャン

衛兵「おい、起きろ」

僧侶「Zzz」

衛兵「……こいつ、よくこんな固い床で眠っていられるな……おい、起きろ!」

僧侶「ん……ふぁい?」

衛兵「沙汰が決まった。牢から出ろ」

僧侶「ふああ……ふぁい……」

衛兵「のんきなものだな。国宝窃取は大罪なのを分かっているのか?」

衛兵「場合によっては、明日の日の目はもう拝めないかもしれんのだぞ」

僧侶「そうは言っても、僕は盗んでないですし……」

衛兵「まぁいい。早く立て、これからお前を王の間に連れていく」

僧侶「王の間……?」

衛兵「そうだ。盗品が盗品だからな。国王みずから直々に判決を下すとのお達しだ――」

【北の城>王の間】

――ザッ!

衛兵「ただいま容疑の者をお連れしました!」

国王「よい。下がれ」

衛兵「はっ」

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