僧侶「ひのきのぼう……?」 18/31

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団長「……おい」

団長「おい! しっかりしろ!! おい!!」

傭兵A/B「兄貴!!」

僧侶「あ……」

団長「起きろ! おい!」

僧侶「……」

僧侶は ザオリクを となえた!

しかし 副長は いきかえらなかった…… ▼

僧侶は ザオリクを となえた!

僧侶は ザオリクを となえた!

団長「もうやめろ!!」 ドンッ

僧侶「うわっ」

団長「何が『怖がらなくていい』だ! ウチでこいつほど勇敢な奴はいなかったんだぞ!」

団長「こいつほど、必死に頑張ってた奴ぁいなかったのに、最期にドロ塗りやがって!」

僧侶「違います。僕はただ」

傭兵A/B「兄貴……ううっ……」

団長「くそっ、こんなガキじゃなくてちゃんとした神父が間に合っていれば……」

僧侶「……ごめんなさい……」

主人「こ、このガキの魂胆が分かったぜ!!」

僧侶「!?」

団長「な、なんだ?」

主人「僧侶を装って、適当なまじないで助けるフリして」

主人「アンタらから小銭せびろうってハラだぜ! そうに違いねえ!」

僧侶「えっ。違います。僕はそんな」

主人「だってこいつぁ追放者なんだぜ! 人を騙すくらい平気でやるに決まってる!」

団長「何だとテメエ……その帽子どかしてみやがれ!」

バッ

僧侶「あっ」

傭兵A「こ、こりゃ王都の紋章」

傭兵B「間違いねえ! これと同じのを見たことあるぜ!」

僧侶「あの。でも僕、本当に僧侶で」

団長「死んだ仲間をダシに、乞食まがいのことをやりやがって……許せねえっ!!」

僧侶「違います、違います――」

――――――――――――――――――――

【東の村>宿屋】

勇者「みんな、おはよう」

賢者「おはようございます」

戦士「雨は止んでいるな」

勇者「うん。明け方で薄暗いけど、晴れてるみたい」

商人「……いよいよですな」

勇者「みんな、荷物の準備はできてる?」

勇者「……そう。じゃあ、また雨にならないうちに急ごう」

【村長の家】

村長「――皆様、準備はできているようですな」

勇者「村長さん、おはようございます。一人で家の前で待っててくれたの?」

村長「なに、この程度は村の長として当然のこと」

村長「着いて来なされ。すぐにほこらまでご案内しましょう――」

【東の村>ほこら】

村長「――着きましたぞ」

勇者「ここが例のほこら……」

戦士「ふむ。確かに、王都の紋章が刻まれているな」

賢者「……しかし妙ですね。通常この手のほこらは、信奉、慰霊などの目的で設けられますが」

賢者「ここには、そのいずれの方向性も見当たらない。空の台座があるだけです」

商人「見てくだされ、良く見ると天上が吹き抜けになっておりますぞ! とんだ不良物件ですな!」

勇者「村長さん、ここは一体」

村長「はい。魔王城へ向かう橋の端でございます」

勇者「はしのはし?」

村長「はい。そこに、そう、台座がございます」

村長「言うまでもなく、その窪みにオーブを捧げれば、魔王城への橋が架かるはずです」

賢者「架かる『はず』、ですか」

戦士「試したことはないということか。そもそも、本当に橋など架かるのか?」

村長「伝説では架かります。海をまたぎ、天空を駆け抜ける、七色の架け橋が……」

勇者「魔王の城まではかなり離れてるけど……本当にそうならすごいね」

賢者「これだけの距離を繋ぐのでしたら、完全に呪文の枠を超えていますね」

商人「ふうむ、虹の橋……確かに、古い書物にもあったような……」

戦士「ふん、魔王の元へ辿り行けるなら何でもいい。先を急ぐぞ」

村長「では、オーブを」

勇者「うん」

勇者は オーブを 台座にささげた!

オーブから まばゆいひかりが はなたれた! ▼

勇者「うわっ!」

村長「……時は満ちた。まもなく朝日が上る。さぁ、オーブよ」

村長「今こそ魔の城へのしるべを示せ――!」

オーブは 七色に かがやいた――! ▼

勇/戦/商/賢 「!!」

商人「は、橋だ! 橋がかかった! 上に伸びておりますぞ!」

戦士「こ、これが……魔王の城へ続く道……」

勇者「! 村長!」

村長『大丈夫です。オーブに魔力を注いでいるだけです』

賢者「魔力? やはりオーブだけでは作動しない仕掛けだったのですね」

村長『その通り。ここで魔力を供給するものがいなければ、橋は架けられませぬ』

勇者「村長さんって一体……」

村長『……この虹を通して、しばらく会話ができます。後ほどお話し致しましょう』

村長『さぁ、橋をお渡りくだされ』

戦士「うむ」

商人「おっほ、すごい。不思議な感触ですな!」

賢者「さ、参りましょう勇者様」

勇者「う、うん」

【虹の橋】

――

商人「うひょーどこまで登っていくのやら! もう眼下に海が広がっておりますぞ!」

戦士「【渓谷】のときのように柵はないのだ、あまりはしゃぐな」

賢者「いま私の足元にある橋が、伝説……今まさに、伝説を踏みしめているというのか……」

勇者「村長さん、村長さん聞こえる?」

村長『はい。聞こえております』

商人「おお! 何やら声が響きましたぞ!」

戦士「ふむ。魔力を持たない我々でも聞こえるな」

賢者「……オーブやほこらの力があるとはいえ、これだけの魔力を扱えるとは……」

勇者「ねえ村長さん。村長さんの正体って、結局何者なの?」

戦士「おい勇者よ、仮にも魔王との決戦前だぞ。下らない雑談をするのは――」

勇者「ごめん、ちょっと気になっちゃって」

勇者「だってこんなに凄いこと、どうして一番最初に会ったとき隠してたの?」

村長『……それは……』

村長『しがない身の上話になりますが……順を追ってお話ししましょう』

村長『私は元「追放者」です。その昔、王都で近衛級の魔法使いを務めておりました』

勇者「えっ?」

戦士「な、なんだと? しかし、額にその印が付いてなかったではないか」

村長『はい。北の国王により酌量が認められ、のちに印を取り除いて頂いたのです』

商人「い、一体何をやらかしたのですかな?」

村長『魔王軍と内通していたという罪に問われたのです』

村長『私は若気の至りで、国の機密を外部に漏らしてしまったことがあります』

村長『それが原因の一つとなり、魔王軍に狙い撃ちをされ、ある中隊を全滅させてしまいました』

戦士「ふむ……確かにそんな話は聞いたことがある」

村長『私はすぐに国王の元へ――当時は先代でしたが――自らの過ちを申し出ました』

賢者「それで追放罪になったと」

村長『はい。【東の村】に追放されて間もなく、先刻の事件が私だけの非ではなかったことが判明し』

村長『罪は軽減され、王都に戻る許可を得たのですが……』

村長『私は負い目が拭いきれず、帰郷を拒みました』

村長『そこで先代の国王が、極秘裏に別の命を与えてくださったのです』

村長『「ならば彼の村にて、オーブのほこらを守護せよ。来るその時、橋を架けよ」と』

村長『先の事件で、過失を名乗り出たのは私一人だけでした』

村長『きっと先代国王はその律儀な形を汲んで、私に大命を託したのでしょう』

勇者「そうだったんだ……」

戦士「待て。何が律儀だ。ならばなぜ最初に出会ったとき、その大命を果たさなかった」

戦士「最初からオーブが必要だと話していれば、この旅の目的の半分は、早い段階で消化できた」

商人「そうですぞ! まったく非効率な!」

村長『申し訳ございません……私は最初に勇者様にお目通りした際、全てを話すつもりでした』

村長『が……』

賢者「……恐れていたのですね。村が魔王軍に襲われることを」

勇者「えっ?」

村長『はい……。むかし王都で起きた出来事は、私の軽はずみな情報漏洩が発端でした』

村長『いざ勇者様方にお伝えしようとした段で、そのことが頭を過ぎり……』

勇者「……なるほど。それで、村を守る方を選んだんですね」

村長『元より私は病床に伏せておりましたが、勇者様が去った直後、容態は悪化しました』

村長『一気に高熱が出、呼吸は苦しくなり、布団から起き上がれないほどに』

村長『今から思えば笑い話ですが、私はあのとき「死」を覚悟したものです』

勇者「い、今は? 何ともないの?」

村長『はい。妻を始めとした、村の多くの者たちが介抱してくれたおかげです』

村長『私は死よりも、「使命」を果たしそびれることを恐れておりました』

村長『しかし今……私の身体は快方を極め、こうして無事に来るべき日に使命を果たせている』

村長『勇者様たちがこの瞬間に橋を渡れるのも、すべて村の者達の功でもあるのです』

村長『異郷の生まれである私の命を救ってくれた、村人たちの……』

勇者「優しい人たちに恵まれたんですね」

村長『勇者様……私はあの村を守るためならば、この老いた魔力尽きようとも構いませぬ』

村長『どうか魔王を倒し、村を……この世の人々を救ってくだされ……』

村長『なにとぞ、なにとぞお願い申し上げまする……』

戦士「ふん、聞くに値せん懇願よ。このいよいよという段階で何をいまさら」

勇者「もう、戦士さんは素直じゃないなぁ。大丈夫だよ村長さん、ボクたちに任せて!」

――

商人「……だいぶ城に近付いてきましたな。なんという禍々しい空気」

賢者「空模様も怪しくなってきましたが……この薄暗さは天候によるものではありませんね」

戦士「魔の地へと踏み入るときは近いな」

勇者「村長さん、『虹の橋』が薄くなってきたけど、大丈夫?」

村長『距離が遠く――さすがに、限界が――何とか城までは――』

戦士「おい、さっぱり聞き取れんぞ!」

賢者「限界が近付いていますが、何とか城までは届かせるそうです」

商人「そ、そんな! ちゃんと送り届けてもらわねば困りますぞ!!」

勇者「もう城は目の前だけど……この橋の行き着く先は……」

賢者「ええ、魔王城の中腹あたり……あのテラスになりそうですね」

勇者「この橋、さっきより薄くなってる……万が一のことがあっちゃあ大変だね」

勇者「よし、みんな急ごう!」

勇者たちは かけだした! ▼

村長『――ご武運を――――』――

――――――――――――――――――――

【南の港町】

僧侶「ハァ……ハァ……」

僧侶(何とか逃げられた)

僧侶(……)

僧侶(あの副長さんの御霊に、安らかな冥福あらんことを……)

僧侶(……)

*「あの棒持った小僧はどこ行った?」

僧侶「!」

*「くそ。今度見つけたらタダじゃおかねえ」

僧侶「……」

僧侶(……行ったかな)ホッ

僧侶(ああ)

僧侶(この町にも居づらくなっちゃったな)

*「ハイハイ、異国行きの船、まもなく出港するよぉ!」

僧侶「ん?」

*「チケットは200ゴールド! 無くなったら終わりの早いもん勝ちだよ!」

*「異国行きの船、片道200ゴールド! さぁさぁ、もうすぐ碇が上がるよぉ!」

僧侶「異国……」

僧侶(僕の全財産は290ゴールド。あのチケット、買えちゃうな)

僧侶(そっか。他の国なら、もう帽子を深く被らなくても済むかもしれない)

僧侶(僕の居場所も、探しやすいかもしれない)

*「はい売ったァ! あと2枚、2枚っきりだよぉ!!」

僧侶(これはきっと、チャンスなんだ)

僧侶(あのチケットを買って、船に乗れば……)

*「はい200ゴールド確かに! あと1枚だよぉ!」

僧侶(船に乗れば……)

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