団長「……おい」
団長「おい! しっかりしろ!! おい!!」
傭兵A/B「兄貴!!」
僧侶「あ……」
団長「起きろ! おい!」
僧侶「……」
僧侶は ザオリクを となえた!
しかし 副長は いきかえらなかった…… ▼
僧侶は ザオリクを となえた!
僧侶は ザオリクを となえた!
団長「もうやめろ!!」 ドンッ
僧侶「うわっ」
団長「何が『怖がらなくていい』だ! ウチでこいつほど勇敢な奴はいなかったんだぞ!」
団長「こいつほど、必死に頑張ってた奴ぁいなかったのに、最期にドロ塗りやがって!」
僧侶「違います。僕はただ」
傭兵A/B「兄貴……ううっ……」
団長「くそっ、こんなガキじゃなくてちゃんとした神父が間に合っていれば……」
僧侶「……ごめんなさい……」
主人「こ、このガキの魂胆が分かったぜ!!」
僧侶「!?」
団長「な、なんだ?」
主人「僧侶を装って、適当なまじないで助けるフリして」
主人「アンタらから小銭せびろうってハラだぜ! そうに違いねえ!」
僧侶「えっ。違います。僕はそんな」
主人「だってこいつぁ追放者なんだぜ! 人を騙すくらい平気でやるに決まってる!」
団長「何だとテメエ……その帽子どかしてみやがれ!」
バッ
僧侶「あっ」
傭兵A「こ、こりゃ王都の紋章」
傭兵B「間違いねえ! これと同じのを見たことあるぜ!」
僧侶「あの。でも僕、本当に僧侶で」
団長「死んだ仲間をダシに、乞食まがいのことをやりやがって……許せねえっ!!」
僧侶「違います、違います――」
――――――――――――――――――――
【東の村>宿屋】
勇者「みんな、おはよう」
賢者「おはようございます」
戦士「雨は止んでいるな」
勇者「うん。明け方で薄暗いけど、晴れてるみたい」
商人「……いよいよですな」
勇者「みんな、荷物の準備はできてる?」
勇者「……そう。じゃあ、また雨にならないうちに急ごう」
【村長の家】
村長「――皆様、準備はできているようですな」
勇者「村長さん、おはようございます。一人で家の前で待っててくれたの?」
村長「なに、この程度は村の長として当然のこと」
村長「着いて来なされ。すぐにほこらまでご案内しましょう――」
【東の村>ほこら】
村長「――着きましたぞ」
勇者「ここが例のほこら……」
戦士「ふむ。確かに、王都の紋章が刻まれているな」
賢者「……しかし妙ですね。通常この手のほこらは、信奉、慰霊などの目的で設けられますが」
賢者「ここには、そのいずれの方向性も見当たらない。空の台座があるだけです」
商人「見てくだされ、良く見ると天上が吹き抜けになっておりますぞ! とんだ不良物件ですな!」
勇者「村長さん、ここは一体」
村長「はい。魔王城へ向かう橋の端でございます」
勇者「はしのはし?」
村長「はい。そこに、そう、台座がございます」
村長「言うまでもなく、その窪みにオーブを捧げれば、魔王城への橋が架かるはずです」
賢者「架かる『はず』、ですか」
戦士「試したことはないということか。そもそも、本当に橋など架かるのか?」
村長「伝説では架かります。海をまたぎ、天空を駆け抜ける、七色の架け橋が……」
勇者「魔王の城まではかなり離れてるけど……本当にそうならすごいね」
賢者「これだけの距離を繋ぐのでしたら、完全に呪文の枠を超えていますね」
商人「ふうむ、虹の橋……確かに、古い書物にもあったような……」
戦士「ふん、魔王の元へ辿り行けるなら何でもいい。先を急ぐぞ」
村長「では、オーブを」
勇者「うん」
勇者は オーブを 台座にささげた!
オーブから まばゆいひかりが はなたれた! ▼
勇者「うわっ!」
村長「……時は満ちた。まもなく朝日が上る。さぁ、オーブよ」
村長「今こそ魔の城へのしるべを示せ――!」
オーブは 七色に かがやいた――! ▼
勇/戦/商/賢 「!!」
商人「は、橋だ! 橋がかかった! 上に伸びておりますぞ!」
戦士「こ、これが……魔王の城へ続く道……」
勇者「! 村長!」
村長『大丈夫です。オーブに魔力を注いでいるだけです』
賢者「魔力? やはりオーブだけでは作動しない仕掛けだったのですね」
村長『その通り。ここで魔力を供給するものがいなければ、橋は架けられませぬ』
勇者「村長さんって一体……」
村長『……この虹を通して、しばらく会話ができます。後ほどお話し致しましょう』
村長『さぁ、橋をお渡りくだされ』
戦士「うむ」
商人「おっほ、すごい。不思議な感触ですな!」
賢者「さ、参りましょう勇者様」
勇者「う、うん」
【虹の橋】
――
商人「うひょーどこまで登っていくのやら! もう眼下に海が広がっておりますぞ!」
戦士「【渓谷】のときのように柵はないのだ、あまりはしゃぐな」
賢者「いま私の足元にある橋が、伝説……今まさに、伝説を踏みしめているというのか……」
勇者「村長さん、村長さん聞こえる?」
村長『はい。聞こえております』
商人「おお! 何やら声が響きましたぞ!」
戦士「ふむ。魔力を持たない我々でも聞こえるな」
賢者「……オーブやほこらの力があるとはいえ、これだけの魔力を扱えるとは……」
勇者「ねえ村長さん。村長さんの正体って、結局何者なの?」
戦士「おい勇者よ、仮にも魔王との決戦前だぞ。下らない雑談をするのは――」
勇者「ごめん、ちょっと気になっちゃって」
勇者「だってこんなに凄いこと、どうして一番最初に会ったとき隠してたの?」
村長『……それは……』
村長『しがない身の上話になりますが……順を追ってお話ししましょう』
村長『私は元「追放者」です。その昔、王都で近衛級の魔法使いを務めておりました』
勇者「えっ?」
戦士「な、なんだと? しかし、額にその印が付いてなかったではないか」
村長『はい。北の国王により酌量が認められ、のちに印を取り除いて頂いたのです』
商人「い、一体何をやらかしたのですかな?」
村長『魔王軍と内通していたという罪に問われたのです』
村長『私は若気の至りで、国の機密を外部に漏らしてしまったことがあります』
村長『それが原因の一つとなり、魔王軍に狙い撃ちをされ、ある中隊を全滅させてしまいました』
戦士「ふむ……確かにそんな話は聞いたことがある」
村長『私はすぐに国王の元へ――当時は先代でしたが――自らの過ちを申し出ました』
賢者「それで追放罪になったと」
村長『はい。【東の村】に追放されて間もなく、先刻の事件が私だけの非ではなかったことが判明し』
村長『罪は軽減され、王都に戻る許可を得たのですが……』
村長『私は負い目が拭いきれず、帰郷を拒みました』
村長『そこで先代の国王が、極秘裏に別の命を与えてくださったのです』
村長『「ならば彼の村にて、オーブのほこらを守護せよ。来るその時、橋を架けよ」と』
村長『先の事件で、過失を名乗り出たのは私一人だけでした』
村長『きっと先代国王はその律儀な形を汲んで、私に大命を託したのでしょう』
勇者「そうだったんだ……」
戦士「待て。何が律儀だ。ならばなぜ最初に出会ったとき、その大命を果たさなかった」
戦士「最初からオーブが必要だと話していれば、この旅の目的の半分は、早い段階で消化できた」
商人「そうですぞ! まったく非効率な!」
村長『申し訳ございません……私は最初に勇者様にお目通りした際、全てを話すつもりでした』
村長『が……』
賢者「……恐れていたのですね。村が魔王軍に襲われることを」
勇者「えっ?」
村長『はい……。むかし王都で起きた出来事は、私の軽はずみな情報漏洩が発端でした』
村長『いざ勇者様方にお伝えしようとした段で、そのことが頭を過ぎり……』
勇者「……なるほど。それで、村を守る方を選んだんですね」
村長『元より私は病床に伏せておりましたが、勇者様が去った直後、容態は悪化しました』
村長『一気に高熱が出、呼吸は苦しくなり、布団から起き上がれないほどに』
村長『今から思えば笑い話ですが、私はあのとき「死」を覚悟したものです』
勇者「い、今は? 何ともないの?」
村長『はい。妻を始めとした、村の多くの者たちが介抱してくれたおかげです』
村長『私は死よりも、「使命」を果たしそびれることを恐れておりました』
村長『しかし今……私の身体は快方を極め、こうして無事に来るべき日に使命を果たせている』
村長『勇者様たちがこの瞬間に橋を渡れるのも、すべて村の者達の功でもあるのです』
村長『異郷の生まれである私の命を救ってくれた、村人たちの……』
勇者「優しい人たちに恵まれたんですね」
村長『勇者様……私はあの村を守るためならば、この老いた魔力尽きようとも構いませぬ』
村長『どうか魔王を倒し、村を……この世の人々を救ってくだされ……』
村長『なにとぞ、なにとぞお願い申し上げまする……』
戦士「ふん、聞くに値せん懇願よ。このいよいよという段階で何をいまさら」
勇者「もう、戦士さんは素直じゃないなぁ。大丈夫だよ村長さん、ボクたちに任せて!」
――
商人「……だいぶ城に近付いてきましたな。なんという禍々しい空気」
賢者「空模様も怪しくなってきましたが……この薄暗さは天候によるものではありませんね」
戦士「魔の地へと踏み入るときは近いな」
勇者「村長さん、『虹の橋』が薄くなってきたけど、大丈夫?」
村長『距離が遠く――さすがに、限界が――何とか城までは――』
戦士「おい、さっぱり聞き取れんぞ!」
賢者「限界が近付いていますが、何とか城までは届かせるそうです」
商人「そ、そんな! ちゃんと送り届けてもらわねば困りますぞ!!」
勇者「もう城は目の前だけど……この橋の行き着く先は……」
賢者「ええ、魔王城の中腹あたり……あのテラスになりそうですね」
勇者「この橋、さっきより薄くなってる……万が一のことがあっちゃあ大変だね」
勇者「よし、みんな急ごう!」
勇者たちは かけだした! ▼
村長『――ご武運を――――』――
――――――――――――――――――――
【南の港町】
僧侶「ハァ……ハァ……」
僧侶(何とか逃げられた)
僧侶(……)
僧侶(あの副長さんの御霊に、安らかな冥福あらんことを……)
僧侶(……)
*「あの棒持った小僧はどこ行った?」
僧侶「!」
*「くそ。今度見つけたらタダじゃおかねえ」
僧侶「……」
僧侶(……行ったかな)ホッ
僧侶(ああ)
僧侶(この町にも居づらくなっちゃったな)
*「ハイハイ、異国行きの船、まもなく出港するよぉ!」
僧侶「ん?」
*「チケットは200ゴールド! 無くなったら終わりの早いもん勝ちだよ!」
*「異国行きの船、片道200ゴールド! さぁさぁ、もうすぐ碇が上がるよぉ!」
僧侶「異国……」
僧侶(僕の全財産は290ゴールド。あのチケット、買えちゃうな)
僧侶(そっか。他の国なら、もう帽子を深く被らなくても済むかもしれない)
僧侶(僕の居場所も、探しやすいかもしれない)
*「はい売ったァ! あと2枚、2枚っきりだよぉ!!」
僧侶(これはきっと、チャンスなんだ)
僧侶(あのチケットを買って、船に乗れば……)
*「はい200ゴールド確かに! あと1枚だよぉ!」
僧侶(船に乗れば……)