僧侶「ひのきのぼう……?」 17/31

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【南の港町】

<夜>

僧侶「ふう」

僧侶(やっと着いた。南の港町。ああ、潮のいい香り)

僧侶(疲れたな。すっかり足が棒になっちゃったよ)

僧侶(結局、砂漠じゃ一度も休まなかったからね)

僧侶(もっとも、休めそうな場所は、ほとんど魔物が潜んでいたからだけど)

僧侶(その代わり一度も戦いをせずに済んだからいっか)

僧侶(それにしてももう夜中だ。早く宿屋に行こう)

僧侶(全財産は790ゴールド……さすがにこれだけあれば、一泊はできるよね)

僧侶(……!)

町民A「ふい~夜酒は最高だな!」

町民B「てめ~ヒトの分まで飲んでんじゃねえよ!」

僧侶(……)

僧侶(行ったかな)

僧侶(この間は、額のマークを見られて失敗したから)

僧侶(『かわのぼうし』は深く被っておかないとね)

僧侶(これから、あんまり人に顔を見られないようにしなきゃ)

僧侶(宿屋でも気をつけないと)

――

【南の港町>宿屋】

主人「はい、いらっしゃい。夜分遅くお疲れ様だ」

僧侶「こんばんは。部屋は空いてますか?」

主人「一晩50ゴールドだよ」

僧侶「ああ良かった。お金はあります。一晩泊めてください」

主人「金があるならいいぜ。が、その前にそのツラ見せてもらわねーとな」

僧侶「えっ?」

主人「宿をやる以上、顔を確認すんのは当たり前だろ」

主人「特に夜中とあっちゃあ、何が紛れ込むか分かんねえからな」

僧侶「でも僕」

主人「心配すんなって。ここは港町、ワケありの野郎も結構流れ着くんだ」

主人「魔物でもない限り、金さえ払えばこっちゃ文句はねーよ」

僧侶「それじゃあ……」

僧侶は ぼうしを はずした ▼

主人「おう? そのデコのマーク知ってるぜ、王都を追っ払われた奴が付けられるんだろ」

僧侶「あの、僕、魔物なんかじゃありません。悪いこともしません」

主人「なあに泊めるって言った以上、ちゃんと泊めてやるよ」

僧侶「本当に?」

主人「ただし……そんな奴を泊めるとあっちゃあ、ウチにもリスクがあるんでね」

主人「割増料金は頂くぜ。一泊500ゴールド払ってもらおうか!!」

僧侶「えっ、500……分かりました。泊めていただけるのなら」

【宿屋>小部屋】

僧侶「よいしょ。ふふ。久々のベッドだ」

僧侶(おかげで今夜はぐっすり眠れそうだ。何とか払える金額で良かったな)

僧侶(んーと……これで全財産は)

僧侶(……家を出たとき390ゴールド。雪山で手に入れたのが400ゴールド)

僧侶(後は戦闘がなかったから、ここに来た時点で790ゴールドだったんだ)

僧侶(そこから500ゴールドを引いて、今は290ゴールド)

僧侶(290ゴールドか……この町で仕事が見つからなかったら、長居できそうにないな)

僧侶「……」

僧侶(これからどうしようかな)

僧侶(明日目が覚めたら……どうすればいいのかな)

僧侶(とにかく漁港へ行って、何でもいいから仕事ができないか探して……)

僧侶(待てよ。ここは港町だから、外国に行くって手も……)

僧侶「……ん?」

僧侶「壁に何か貼ってある……」

―――――――――【北の城】―――――――――

―――【雪山】―――――――――【渓谷】―――

【西の町】――――【魔王城】――――――【東の村】

―――【砂漠】―――――――――【賢者の村】―

―――――――――【南の港町】――――――――

僧侶「地図だ。この大陸の」

僧侶(……)

僧侶(思えば僕も、次に【賢者の村】に入ったら、大陸を一周したことになるんだなぁ)

僧侶(それぞれの場所で、いろんなことがあったなぁ……)

僧侶(最後に雪山で会った勇者も、【北の城】に向かってたから、一周してるはずだね)

僧侶(もう今日にでも、魔王城に乗り込んでるかもしれないな)

僧侶(僕はこの【南の港町】から応援するくらいしか……)

僧侶(……ん? 地図でよくみると、この地点って……)

【魔王城】

【南の港町】

僧侶(やっぱりそうだ。話には聞いたことあるけど、魔王城まで細い陸続きになってる)

僧侶(地図にまで描かれるんだから、きっと本当なんだろうね)

僧侶(でも伝説だと、【東の村】のほこらから、オーブを使って魔王城に行くんだよね)

僧侶(となると、これは正規のルートじゃないんだ。きっと危ない道のりなんだ)

僧侶(……)

僧侶(一瞬、僕でも行けるかな、なんて思ったけど……)

僧侶(よく見ると、魔王城の前に険しい山がある。これを登るのは大変だろうな)

僧侶(うん。やっぱり、魔王を倒すのは、勇者に任せよう)

僧侶(いまさら僕なんかが行ったところで、足を引っ張るだけだ)

僧侶(もう今日は寝よう。寝よう――)

――

<翌朝>

ブオオオオオオ… ニャア ニャア

僧侶「……ん……」

僧侶「ふあああ……はぁぁ」

僧侶「朝か」

僧侶「うう~ん……」ポキ ポキ

僧侶「しょっと」

僧侶(ああ、よく寝た。やっぱりふかふかベッドは気持ちいいな)

僧侶(久々にぐっすり眠れた気がする。体力魔力ともに全快!)

僧侶(――波が打ち寄せてる。ウミネコの声。船が出る音。港町っていいところだなぁ)

僧侶「……あ。いい匂い」

僧侶(そうだ、ご飯もついてるんだった!)

僧侶(ここに泊まってよかったな)

【宿屋>食堂カウンター】

僧侶「いただきます」

僧侶「……おいしい!」

僧侶(取れたての魚のフライ! 貝のスープ!)

僧侶(デザートに異国のフルーツまで!)

僧侶「おいしい、おいしい」

僧侶「こんな食事久しぶりだ。しあわせ」

シェフ「な、なんだ大げさな奴だな。こんな献立、誰でも毎日食ってるぞ」

僧侶「料理人さん、こんな美味しいものを作ってくれてありがとうございます」

シェフ「はあ」

シェフ(こいつちゃんと宿代払ってんだろうな……)

*「た、大変だーっ!!」

主人「どうした!?」

僧侶「ん?」

【宿屋>一室】

副長「ヒュー……ヒュー……」

団長「副長! しっかりしてくれ!!」

傭兵A「兄貴!!」

傭兵B「兄貴ィ!!」

*「――あの傭兵団。北部を調査してたら、えらく強い魔物の群れに襲われたんだと」

*「ああ、魔王んとこに繋がる道か。やっぱあそこヤバイんだな」

*「ああ。仕事たぁいえ、あんな危ねぇ場所まで行かねえと食い扶持もないってのは気の毒だ」

*「ずいぶん深手を負ってるようだが、ありゃ助からんだろうぜ」

主人「適当なこと言ってんじゃねえ!!」

*「!?」

主人(ウチは教会じゃねえが、あの連中とはガキの頃からつるんでたからな……)

主人「おいっ! 神父はまだか!!」

僧侶「あのう……」

主人「何だ坊主、いま忙しいんだ! 早く水を!」

僧侶「僕、一応僧侶をやっています」

僧侶「もし良ければ、怪我をした人を診させてください」

主人「お前が? お前が僧侶?」

*「おい、神父は別件で忙しくて遅れるってよ!」

主人「……だったらテメエ、やれるだけやってみろってんだ!」

僧侶「はい」

団長「副長、死ぬな! おい、もう少しで神父が来るからな!」

副長「ヒュー……ヒュー……」

傭兵A「兄貴ぃ!!」

傭兵B「団長、僧侶が来やしたぜ!」

団長「そ、そうか、早く――って、こんな薄汚ねぇガキが?」

僧侶「すみません、すぐに見せてください」

団長「あ、ちょ、ちょっと何だこいつ!!」

僧侶「こ、これは……」

副長「……ヒュー……ヒュー……」

僧侶(ひどい損傷だ……もう薬なんかじゃ間に合わない……)

僧侶は ベホマを となえた!

しかし 副長の キズは 治らなかった…… ▼

僧侶(だめだ)

僧侶(瀕死状態が長過ぎてる。もう回復呪文も受け付けてくれない)

団長「おい! どうなんだよ!?」

副長「ヒュー……ヒュー……」

僧侶(……)

僧侶(……人間の使う復活呪文は、天の加護を受けている人にしか効果がない)

僧侶(『世界樹の葉』なんて高価なものも無い。第一使い方はおろか、見たことも……)

僧侶(じゃあこの人は。この人は……)

僧侶(もう……助からない……)

副長「……うう……だ、団長……」

僧侶「!」

団長「!? お前!」

傭兵A/B「兄貴!!」

僧侶(……ベホマで少しだけ身体が楽になったんだ)

僧侶(でももう、この人に残された時間は……)

団長「テメエ何ぼさっとしてやがる!」グイッ

僧侶「あう」

団長「とっととこいつを治せよ! 僧侶なんだろ! 早くやれってんだ!!」

僧侶「む、無理です。もう呪文ではどうにも」

団長「このガキがふざけんなァ!!」

副長「ハァ……ハァ……」

副長「団長……」

団長「!!」

副長「……オレ……」

団長「だ、大丈夫だぞ!」

副長「ハァ……ハァ……オレは……」

団長「お、お前の」

団長「お前のカタキは、絶対取ってやるからな!」

団長「魔王だか何だか知らねえが、必ずぶちのめして」

団長「お前の墓の隣に、その首飾ってやるからな! なぁおめえら!!」

傭兵A/B「おおう!!」

副長「ハァ……ハァ……」

副長「団長……オレは……」

副長「『オレ』は……」

僧侶「……!」

僧侶(この人は……)

僧侶は その手を両手でにぎった ▼

団長「! テ、テメェ何を――」

僧侶「大丈夫ですよ」

副長「……!」

僧侶「怖がらなくても、いいんですよ」

副長「……」

副長「ああ……」

副長「……あたたかい……」

副長「…………」

副長は

しずかに いきをひきとった ▼

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