魔王「どうか、***」 12/27

息子「ちっ……では、行ってくる」

剣士「へいへーい。夕飯までには帰って来るんだぞー」

息子「お前は私の親か。くれぐれも大人しくしていろよ」

剣士「親か! 気を付けてなー!」

息子「余計なお世話だ」

剣士「へっへっへー……」

剣士「何かいい感じじゃね? 今までの中で一番って言うかさ」

剣士「うんうん。あいつも自分のこと喋ってくれたし……悪くないねえ、こういうの」

剣士「よーし!」

剣士「あいつに美味いもん食わしてやるため、ちょっくら徘徊頑張るか!」

一時間後─

剣士「…………嘘だろおい」

剣士「腹を空かせたガキはいいとしよう。お使いの最中に財布を落としたどっかのメイドもいいとしよう。あの爺ちゃんもいいし、それを言うならさっきのおっちゃんだって」

剣士「でも……何だって困ってる奴らに遭遇しまくるんだよ……」

剣士「くっそー……軍資金は残り僅かだ……評判聞いて回るだけならタダだが、実際舌で確かめるのが一番だし……」

剣士「うー……今から日雇いの仕事探すのは面倒だし」

剣士「…………おお?」

剣士「なんかすっげー人だかりだな」

剣士「ああ? 闘技場ねえ……こりゃ賭博の匂いがプンプンするな」

剣士「…………仕方ねえ。いっちょ勝負に出るか」

剣士「べっ、別に人の金でやるギャンブルって心がときめくよねって訳じゃないんだからねっ!」

剣士「……ツッコミいねえとやりづれえ」

剣士「おー、近くで見るとやっぱでっけーな」

剣士「こりゃ絶対賭け事関連だね。でなきゃこうまでデカく出来るかよ」

剣士「さーてと、どこで券買えるのかなー」

剣士「……ってかどこから入るんだろ」

剣士「えーっとえーっとうーん……あ、すんませーん」

?「は…………はい?」

剣士「ちょっといいっすか?」

?「……何、でしょうか」

剣士「博打ってどこで受け付けてます?」

?「……は?」

?「博打?」

剣士「いやー、こんだけ広いんだしやってるんでしょ?」

?「……ここは、博打場などではありません」

剣士「へ?」

?「己の腕を試すためにと戦士や魔法使いが集う、れっきとした闘技場です」

剣士「……マジです?」

?「はい。賭け事の類は一切禁止されております」

?「国が経営しておりましてね。兵のスカウトなどに役立てておりますよ」

剣士「はー……なるほどね。ありがと。しかし残念だなあ……一発勝負に、と思ったのに」

?「……それほど金子に困っていらっしゃるのですか?」

剣士「いや、ちょっと一時的にね。あ、因みにもう一つ聞きたいんだけど」

?「はい」

剣士「この闘技場って飛び入り自由?」

?「は、はい? 一応、どなたでも参加できますが……」

剣士「じゃあさ……これは結構重要な質問なんだけど……勝ち上がったら賞金出る?」

?「ランダムに十人勝ちぬきで……この程度の額が」

剣士「参加料は!?」

?「これ程」

剣士「っっしゃあ払える! ギリギリ払えるぞー!!」

?「あはは……お連れの方でも参加させるおつもりで?」

剣士「いや、連れは今いないんだ。自分でばーっと出てぱーっと勝ってこようかと」

?「はあ貴方が……貴方が!?」

剣士「あはは。言いたいことは分かるけど、これでも剣は心得てるんでね」

?「いやしかし」

剣士「あ、申し込みはあっちかな? ありがとなー親切な兄ちゃん!」

?「…………」

?「まさか……な」

魔王城―

息子「おい、入るぞ」

魔物「ぶっ!?」

息子「何だ、思った以上に暇そうだな。良いご身分だ」

魔物「お前にだけは言われたくはねえぞ! あとノックくらいしろってんだこのボケが!」

息子「ああ……忘れていた……忘れさせられたと言うか」

魔物「ごちゃごちゃ分からんことを……」

息子「第一突然の訪問くらいで、別に困ることもないだろうに」

魔物「女連れ込んでよろしくやってる時にすっげー困る」

息子「ますます良いご身分で」

魔物「お前もそんなもんなんだろうが。城出て好き勝手。大義名分翳しつつ女なんて食い放題なんだろ畜生」

息子「言い掛かりにも程がある」

魔物「けっ、本当かねえ……」

魔物「でもまあ、そろそろ帰って来るんじゃないかと思ってたよ」

息子「?」

魔物「用件はあれだろ?竜共だろ?」

息子「は?」

魔物「ああ? しらばっくれるんじゃねえ。お前に住処を世話するって言われたってのが昨日来たんだ」

息子「……」

魔物「ったく……こちとら城に来たばかりだってのに、お前絡みの案件だからって厄介事を押し付けられて……」

息子「で、どうしたんだ?」

魔物「静かな所が良いって言うから、今調査中。本決まりまでは城に住んでもらってる。会っていくか?」

息子「……いや、構わん。是非とも良くしてやってくれ」

魔物「わーってるよ。仲間だしな」

魔物「で、そっちはどうなんだよ」

息子「特に進展はないが……少し頼みがあって来た」

魔物「面倒なことじゃなけりゃ、何でもいいぜ」

息子「それは何でも、とは言わぬのでは……まあいい。私と同行している、あの人間がいるだろう」

魔物「ああ? あいつか……それがどうかしたのか?」

息子「何、簡単な話だ。経歴を少し調べてもらいたい」

魔物「あーくそ面倒くせえ!」

息子「いや何、粗方は本人の口から聞いたのだが。裏が取りたくてな」

魔物「はー……お気に入りだねえ。ま、加担するって約束したし、やってやるよ」

息子「礼を言う」

魔物「じゃ、あいつの名前は?」

息子「名は×××、出身国は◆◆◆。容姿はあの通り。お尋ね物らしいので、その手配書でもあれば見てみたいな」

魔物「……あれで極悪人かよ、見かけによらねえもんだな」

魔物「で、用はそれだけか。もう戻るのか?」

息子「いや……もうしばらく休んでいく」

魔物「何が“休む”だよ。万年休暇の癖しやがって」

息子「分からんのか……あれと一緒にいると、こう、気の休まる暇が無い」

魔物「被害者面出来る身分かてめぇ」

息子「こう言っては何だが、被害者だ。色んな意味で」

魔物「……ま、いいけどよ」

魔物「あの実力持ちだぜ? 何か目を離した隙に、面倒なことになるんじゃねえの」

息子「平気だろう。小金を持たせて、大人しくするように言ってある」

魔物「はー……あれが従順になるタマかねえ」

息子「……一度戦ったのみのお前に、あれの何が分かると言うのだ」

魔物「分かるさ。分かるとも」

息子「……まあいい。日が沈む頃までは、いる」

魔物「勝手にすればー? お前の城だし」

息子「まだ、私の物ではないよ」

闘技場─

「おいおい……何だよありゃ」

「もうこれで五人目だぞ……化物か?」

「……何て名前だっけ?」

「ああ……確か」

男「くっ……そ!」

剣士「あーダメ駄目全くもってダメすぎるね!!」

男「ぐぁ!?」

剣士「太刀筋も足裁きも身体の捻りもまるでなってない! 動きを読むまでもなく避けれるね!」

男「な、な」

剣士「んだよもー……十人相手にすんのは結構時間ヤバ目かな?とか思っちゃってたけど、こんなの続くんなら余裕じゃーん」

男「な、何なんだよお前は!?

剣士「ああ?」

男「お前みたいなヤツ、聞いた試しがねえぞ!?」

剣士「そりゃまー、無名ですし?」

男「この俺が……戦場で千もの人間を斬った俺がこんな奴にコケにされるなど……!」

剣士「うっわ何か恥ずかしい事言いだしたよー……引くわあ」

男「何だと!?」

剣士「人を斬るなんてなあ、それこそ刃物さえありゃその辺のガキにだって出来る事なんだよ」

剣士「なぁのーに。んなこと自慢気に言われてもへー暇なんだなとしかこちとら言いようがねえっての」

剣士「人斬りの数なんか数えちゃいねえ。負けた勝負の数だけは覚えちゃいるがな」

剣士「うははははー……何でかって?」

剣士「そっちの方がえらく数も少なくて……覚えておきやすいものでねえ!」

宿─

息子「さてと……」

息子「丁度夕餉時だな」

息子「私の調べ物は適当に誤魔化すとして」

息子「まあ、あいつのことだ。下らない喧嘩の一つや二つ巻き込まれていることだろうが」

息子「その程度ならば妥協出来ないこともない」

宿主「おっと、あんたは確か……」

息子「む?」

宿主「あんた、あの人のお連れさんだったよな? あの金髪の」

息子「あ……ああ。それが、どうかしただろうか?」

宿主「いやいや。世の中凄い人がいたもんだなあって」

息子「は?」

宿主「そんな謙遜すんなって。ま、上手くやるんだな!」

息子「は……はは、は?」

宿・息子の部屋─

息子「おい……」

剣士「……よーっす」

息子「何故お前が、こちらの部屋にいる」

剣士「えっと……話は長くなんだけどさー……とりあえず、それ」

息子「……何だこの札束は、ああ? 何だ貴様は本格的にお尋ね者になり下がりたいということか?」

剣士「あははお前そうやって凄むとチンピラみたいだぞ。落ち付け。な。剣も収めよう。平和にいこうぜ平和に」

剣士「えーっと実はな。この街にゃでっけー闘技場があってだな」

息子「博打か?」

剣士「いや、十人勝ちぬいたら賞金が出るんだって言われて」

息子「…………参加、したな?」

剣士「ああ!」

息子「勝ちおったな……?」

剣士「あったりめえだろ! あんな弱いヤツら十人まとめてかかって来たって余裕でって冗談じゃないけど冗談です」

息子「貴様は私をお尋ね者にでもしたいのか? 殺し等の罪で」

剣士「……勘弁でーっす」

息子「……大人しくしていろと言ったはずだろう?」

剣士「いやだってさー……こう、血が滾って?」

息子「まあいい……その程度であれば、別に構うまい。十人勝ちぬく奴など、それほど珍しくも」

剣士「ぎくっ」

息子「よしお前、洗いざらい全て吐いてもらおうか」

剣士「いや十人抜きよりな……なんか色々教えてくれた親切な兄ちゃんがさ」

息子「ああ」

剣士「十人勝ち抜いた後に来てさ……人気の無い場所で一勝負頼む、って」

息子「それがどうしたんだ」

剣士「で、結構強かったけど……勝っちゃったんだよ……」

息子「お前に敵う奴など、やはりそうはいないと証明されたではないか。良かったな」

剣士「それがさ……そいつ……この国の将軍なんだって」

息子「…………はあ?」

息子「お前は……バカか?」

剣士「勝ってから名乗られて慌てて逃げたんだよぉぉおおおおお! やだもう見ろよこの運の悪さ!!」

息子「泣くな気色悪い……ああ全く頭痛が酷い……」

剣士「くっそ人事だと思いやがって……! やっべーだろどう考えてもこの状況は!!」

息子「どうせ出回っているのは似ていない手配書なのだろう。本名がバレる可能性は皆無だ」

剣士「……そうだけど」