空き地─
剣士「この辺でいいだろ。丁度あんたも剣を持ってるようだし、いざ尋常に勝負!」
息子「ああ、せいぜい手加減してやろう」
剣士「本気で!全力で!やり合うんだよバカ!!」
息子「駄々をこねるな。お前は子供か」
剣士「うるせえ!余裕かましてられんのも今のうちだ!いくぜ!!」
キン!
息子「ほう……中々の早さと、重さだな」
剣士「あんたも今の一撃を受け止めるたあ、やるじゃないか」
息子「当然だ」
剣士「やっぱり強い者同士手を組むべきだと」
ガギィンッ!!
息子「その口が、いつまで持つかな?」
剣士「言うね言うね!よっしゃ!あんた負けたら仲間になれよ!!」
息子「はっ、ほざけ」
剣士「……」
息子「……」
剣士「……どう、する?」
息子「そうだな……一時休戦といくか」
剣士「さんせーい……」
剣士「はあ……あんた強いな。こんなに長く戦って勝てないなんて初めてだ」
息子「そう言うお前こそ……何だあの動きは。人間離れしているぞ」
剣士「はっはっは。それについて来れるあんたも大概だろうよ」
息子「私は……いや、何でもない」
剣士「?」
息子(何なのだ、こいつは)
息子(手加減したとは言え……魔物である私とほぼ互角だと?)
息子(このような奴が我が軍とぶつかれば……被害は甚大だ)
息子(目を離さないようにしなければ)
息子(…………)
剣士「なーなー腹減らね?」
息子「……お前、先程までの緊張感はどこに行った」
剣士「メリハリって重要じゃね?」
息子「まあいい……何か食いに行くか」
剣士「ご馳走になります!!」
息子「……まあ、いい」
食堂─
剣士「いっただきまーす!!」
息子「……ああ」
剣士「あれ、あんたは食わないのか?残しちゃ勿体無いぞ」
息子「狙うな。食欲は失せるが、食わねばやってられん」
剣士「ちぇー。あ、追加もありだよな」
息子「勝手にしろ」
剣士「よっしゃあ!!」
息子「……お前、それほどまでに路銀に困っているのか?」
剣士「んー、まあな」
息子「お前ほどの実力があれば、金などいくらでも稼げると思うのだが」
剣士「こんなご時世だからか?」
息子「ああ。腕の立つ者を欲するのは、どの国でも同じだろう?」
剣士「そうだなあ」
剣士「どっかの国に仕えるとか、そういうの嫌いなんだよなー。たまに用心棒やったりして、小銭稼いでるけどさ」
息子「ならばとっとと働き口を探せ」
剣士「でも宵越しの金は持たない主義だからさー。すぐ無くなっいっってえ!何すんだ!」
息子「拳はお気に召さなんだか。ならば鞘が良いか?柄が良いか?」
剣士「暴力反対!」
息子「お前が言うな」
剣士「っつーわけで、今後ともよろしく!」
息子「またその話か。勝負に勝ったら、という約束だったろう」
剣士「剣を交える。友情芽生える。仲間成立。そして今は三段階目に入ったとこだ!」
息子「二段階目でその理論は破綻しているぞ」
剣士「えー……。で、でも何か生まれただろ?」
息子「腹が減っただけだ」
剣士「何でこいつこんなノリが悪いんだ……」
息子「それよりお前、少し黙れ」
剣士「ん、なんで?」
息子「周りの目が、非常に鬱陶しい」
剣士「いいじゃねえか別に。楽しく食べて飲んで騒ごうぜ!」
息子「楽しいのはお前だけだろう」
剣士「あっはっは、何言ってんだ。全く楽しきゃねえなら、とっととあんた逃げてるはずだろ」
息子「……はあ」
息子「おい」
剣士「ぐー」
息子「ああ……結局また、このパターンか……」
剣士「ぐごごごご」
息子「いびきまで。こいつはもう、本当に」
宿─
息子「とりあえず部屋に放り込んだが……ああくそ」
息子「確実にあれだ、周囲に仲間だのなんだのと認識され始めているな」
息子「あれが悪目立ちするのが悪い」
息子「私は空気と同化して余暇を楽しみたいと言うのに……」
息子「やはり声を掛けたのは失敗だったか……」
息子「しかし……そうだな、『利用』はありかもしれんな」
息子「あいつを……あの人間を使えば」
息子「どう転ぶかは分からんが、試してみる価値はある」
息子「はあ……」
息子「……一度、帰るか」
魔王城─
魔王「ほう」
息子「……如何、でしょうか」
魔王「ふ」
息子「……?」
魔王「くっ……く……くくく!!」
魔王「お前にしては愉快な企みを思いつくではないか!」
息子「は、はあ……」
魔王「良かろう。お前に全て任せる」
息子「!」
魔王「好きにしろ。そしてせいぜい、私を楽しませるがいい」
息子「は……はい」
息子「そして、あの、山の魔物の件ですが」
魔王「全てお前に任せると言ったはずだが」
息子「は。感謝します」
魔王「あれ一匹、どうなろうと構わんからな。お前の好きに使うがいい」
息子「……では、失礼します」
息子「……はあ」
息子「まさか、これだけの説明で許しが出るとはな」
息子「……他の娯楽を見出せぬまま、惰性に地獄を続けていたのか」
息子「せいぜい、か」
息子「ええ。せいぜい、舞台を整えさせて頂きますよ」
朝─
息子「ふう」
息子「一瞬で行き来出来るのは助かるな」
息子「……時間を巻き戻せればもっと助かるのだが」
息子「まあいい。昼まで寝」
バンッ
剣士「おは」
ガッキィツッン
息子「去れ悪魔」
剣士「何で朝から立ち回りせにゃならん」
息子「私はこれから寝る。さっさと出て行け」
剣士「何だよあんた。さっき来たらいなかったから、てっきり今日はちゃんと朝起きたのかと」
息子「いい加減ノックという知性あるスキルを覚えろ。この原始生命体が」
剣士「いいじゃねーかよ、部屋に見られて困るもんでも……あるのか?!」
息子「何も出て来んわ。目を輝かせるな」
剣士「ちっ……何かヤバいのが出てきたらそれをネタに脅迫も視野にいやいや冗談ですよ。怖い顔すんなって」
息子「……次はないぞ、覚えておけ」
息子「それと、私を脅迫しようとしても無駄だ」
剣士「まあ、あんた何に対しても動じなさそうだしなあ」
息子「お前の旅に、付き合ってやろう」
剣士「てことは金か女か? 用意するのがこれまためんど…………え?」
息子「期限は特になし。飽きるまで同行してやる。だから脅迫などは、最早無意味だ」
剣士「え?」
息子「分かったのであれば、今は出ていけ。昼にまた話し合おう」
剣士「え、ちょ、まっ」
バタン
剣士「………えええ?」
昼─
息子「よう」
剣士「……」
息子「浮かない顔でだんまりか。仲間の目覚めに対し、何か言うことは無いのか」
剣士「……いきなりどんな心境の変化だよ。怪しいな。あんた本物かあ?」
息子「何。これ以上付きまとわれるくらいなら、いっそ飼い慣らそうと思ったまでだ」
剣士「お、おおー……?」
息子「その上いざとなれば、高値で売り飛ばせるだろうしな」
剣士「ああ安心した。この口の悪さは本物だ」
剣士「ってことで!改めてよろしくな!」
息子「ああ。よろしく」
剣士「よしよし!リーダーをちゃんと敬うんだぞ!」
息子「……?」
剣士「おうおう、素で理解不能って顔してんじゃねえよ兄ちゃん」
剣士「リーダー挙手!はい!はい!」
息子「二人しかいないパーティーで、リーダーも何もないと思うのだが」
剣士「あったっていいじゃねえか。よろしく下っ端!」
息子「今ここでお前の首を刎ね、リーダーの座を奪ってやってもよいのだぞ」
剣士「よ、よろしく相棒!」
息子「よろしく」
剣士「じゃあ昼も済ませたところで、早速山越え行ってみようぜ!」
息子「今日か?」
剣士「早い方がいいだろー」
息子「いや、食糧や装備などを買い足さねば危険だ」
剣士「だってそんな金」
息子「ほれ」
剣士「ちーっす!」
息子「現金な」
剣士「うわー。ほんっと札束の匂いは心が安らぐな!」
息子「頬擦りするな気色悪い。何を買うかはお前に任せる。夜までに粗方用意しておけよ」
剣士「あれ、どっかに行くのか?」
息子「暮れには戻る。では、頼んだぞ」
剣士「お……おーう?」
山─
息子「よう」
魔物「土産」
息子「ほれ。城からくすねて来た」
魔物「酒か。いいねえ、偉いさんは毎日こんなもんが飲めてよ」
息子「このような物、毎日開けていては飽きがくる。お前もそのうち分かるだろうよ」
魔物「あ?」
魔物「で、昨日の今日で何の用だ」
息子「お前の異動が決まった」
魔物「けっ……まぁた妙なとこに飛ばされるんじゃねえだろうな」
息子「いや、異例の昇格だぞ」
魔物「胡散臭え。で、どこに行けばいいんだ」
息子「城だ」
魔物「はあ?!」
魔物「し、城ってまさか……」
息子「父上の住まう、魔王城だ」
魔物「嫌だね!魔王様直属なんざ、どんな無茶を要求されるか」
息子「いやいや、父上付きではないぞ。お前は今日から私の側近に」
魔物「もっと嫌に決まってんだろ道楽馬鹿息子!!」
息子「しかしここに父上の書状が」
魔物「『全て我が息子に任せる』……」
息子「つまり、私の言葉は魔王の言葉だ。異論は認めぬからな」
魔物「マジかよ……こんな紙切れ一つで俺の余生は……」
息子「まあ、楽をさせてやるから、喜んでついて来るがいい」
魔物「その『楽』ってのはどっちの意味だ……?」