魔王「どうか、***」 15/27

将軍「剣士殿。どうか私からも」

剣士「ええー……普通に頭下げられても困りますよ、この場合も」

将軍「私は……貴方と戦いたくはありません。出来ることなら、その……共に我が国を守っていきたいと……」

剣士「いやほんと、そんなこと言われても」

息子「……」

姫「ふふ……ではこうしましょう。返事は明日までお待ちします」

剣士「はあ」

息子「良かったな」

剣士「いいのかねえ」

将軍「……よろしく、お願いします」

剣士「だからそれこっちが悪者みたいだからやめてくれって!!」

姫「では宿まで兵をお付けしますわね」

剣士「ん?道案内とかなら平気だから」

姫「お荷物をまとめて、城まで戻って来て下さいね」

剣士「……え?」

姫「今宵は城でお過ごし下さいませ」

剣士「……」

姫「逃げられては、私少し困ってしまいますから……ふふ」

将軍「その……すみません。本当に」

夜─

剣士「はー……飯はまあ豪華だったし……うまかったなあ」

息子「……ああ」

剣士「でも何か食った気がしねえんだよな……やっぱりあれかな、気持ちの問題かな」

息子「……そう、だな」

剣士「あーあー勿体ねえことをした……ってお前ずっとテンション低いよなあ。どうした」

息子「何故……」

剣士「ああ?」

息子「何故……お前と同室なんだ……っ!!」

剣士「はあ? 姫さん言ってたじゃねえか。急なことで、使える部屋が空いてなかったって」

息子「そんなわけがあるか! これ程広大な城だぞ!?」

剣士「言われても知るかよ。まあまあ、折角なんだし仲良くやろうじゃないか……てもう寝るのか? 待てよ」

息子「離せ! 床にでも入らねばやっていれるか!!」

剣士「そんなにイヤかおい。傷付くなあ」

剣士「まあまあ待て待て。積もる話もあるだろうよ。今後のこととか」

息子「……それはお前に任せると、何度も」

剣士「言われてもなあ。選択肢なんてあってないようなもんじゃね? 無理に蹴っても利益なんてねえし」

息子「まあな。しかし考え方を変えてみろ」

剣士「どんな風に?」

息子「今名乗っている方の名前を売り出す好機だと」

剣士「うーん」

剣士「程ほどに、食っていくのに困らないくらいが目標なんだけどなあ……話が大きくなったよなあ……」

息子「お前、魔王を倒すのが目的だの、大きなことを言っていただろう」

剣士「あれはその……なんつーかなあ」

息子「お前ならば、案外いけると思うのだがな」

剣士「まぁたお前は適当なことを言う」

剣士「そりゃまあ魔王なんざいない、平和な世の中でのんびり生きたいよ? 魔王なんざ倒したとあっちゃ、掛けられた手配書が無かったことになるかもしんねえし」

息子「まあ、世界を救えば、当然な」

剣士「剣の腕には自信がある。大概負ける気はしねえな」

息子「ならば話は早いだろう」

剣士「そうかなあ」

息子「この国に居つき、大きな功績を立てる。お前であれば、そのようなこと造作もないはずだ」

剣士「何その無茶振り」

息子「その上で魔王を倒すと名乗りを上げる。小国とはいえ、サポートが得られるのは大きいぞ」

剣士「いやでも強いつってもさー、それで世界をどうこう出来るかって聞かれれば無理だと答えるぜ?」

息子「……ふむ」

息子「お前は何の根拠も無く、強さに胡坐を掻いて猛進する奴だと思っていたが」

剣士「んな生き方命がいくつあっても足りねえよ。見極めが肝心だわ」

息子「そのようなものかな」

剣士「魔王に辿り着くにはえらい数の魔物を蹴散らさなきゃなんねえ。その上今まで出会った魔物共には余裕で勝てたが、それ以上の規格外が出てこないとも限らない。数で圧倒されちゃ、それこそ話にもなんねーよ」

息子「まあ……その通りだが」

剣士「大体だな、国一つ救えない奴が、世界なんか救えるわけがねえだろう」

息子「……」

息子「ならば、あの大口は何だったんだ」

剣士「んー? まあ、生きてく目標かなあ」

息子「まさか、お前がそのような殊勝なことを言うとはな」

剣士「お前の目には一体どんな人間に映ってるのか気になって仕方がねえ」

息子「社会不適合者だな」

剣士「否定はしねー」

剣士「何しろ国追われてますし? 不適合ってか、すっぱりいらない人間ってーか」

息子「どうした。今日はやけに愚痴っぽいな」

剣士「そりゃまあ今まで一人で生きてきたからな。今は吐く相手がいるからさ」

息子「面倒な。いつもの大口を叩くお前はどうした」

剣士「大口叩いて……でっかい目標でも掲げてねえとさ、生きてくのって疲れるんだぜ」

息子「……」

息子「私も……」

剣士「あ?」

息子「私も協力してやると言えば?」

剣士「……」

息子「お前の剣に、お前の盾になってやる。そう言えばどうする? 魔王を討つ気になるか?」

剣士「お前は何だ。魔王に恨みでもあるのか」

息子「そのようなものだ」

剣士「ふうん」

息子「で、どうする」

剣士「……お前は何で、そこまでしようと思えるんだよ」

息子「何故だと思う」

剣士「さあな。その答えも含め、今はまだ何も分かんねえや」

息子「ならばいつかお前が、答えに辿り着く時を願っている」

剣士「はあ。そうっすかー」

剣士「まあとりあえず今日のまとめはさあ」

息子「何だ」

剣士「……女って、怖いよなあ」

息子「全くだ……!」

剣士「えっ?」

次の日─

姫「では、お返事をお聞かせ願いますか?」

剣士「へいへい。もちろん、そちらの言う通りにしますよ」

姫「ありがとうございます。ところで、お連れ様も同じご意見ですの?」

剣士「そういうことで。ああ、その相棒から伝言があるんだけど」

姫「何でしょうか?」

剣士「部屋を別にしてくれだってさー」

姫「まあ」

姫「分かりました。そのように手配致しましょう」

剣士「悪いね。なんか案外小さいところがあってさあ」

姫「いえいえ……ふふ。では将軍にも伝えておかなくては」

剣士「ああ、あの人は今頃仕事か。大変だねえ」

姫「きっと剣士様が首を縦に振って下さったこと、とても喜ぶと思いますわよ」

剣士「はあ。そんなもんかねえ。随分気にかけてくれてたみたいだけど」

姫「良い知らせが二つもあるんですもの。喜ぶに決まっていますわ」

剣士「二つ?」

姫「そういえば、そのお連れの方はどちらに?」

剣士「さっき出かけるって出ていったよ。荷物は置いてあるから、逃げたわけではねえぜ」

姫「あら、どちらに?」

剣士「さあ?」

姫「ふふ……随分あっさりしたお付き合いですのね」

剣士「まあ、つい最近知り合ったばかりで、素性も詳しくは知らねえしなあ」

姫「昨日は共に雇い入れると申し上げましたが……信用に、足る人物なのでしょうか?」

剣士「多分ね。あんな仏頂面で嫌味な奴だが、いい奴だよ」

姫「剣士様がそう仰るのでしたら……分かりましたわ」

剣士「おう。ありがと」

姫「……いえ」

剣士「ところでさー……もう一つ頼みがあるんだけど」

姫「何なりと」

剣士「あの手配書……処分して貰えないかなあ?」

姫「ふふ……」

剣士「ああうん。無理ですよねー。言ってみただけだよ」

姫「申し訳ありません」

剣士「思ってもいないことをー」

姫「でも、昨日は聞きそびれてしまいましたが、本当の所はどう思っていらっしゃるのですか?」

剣士「何が?」

姫「お国での、貴方様のご評判」

剣士「あー……仕方ないんじゃね?」

姫「……戦争の間は英雄と崇められ、敗戦後は人斬りの鬼と罵られ、国を追われたことが仕方ないこと?」

剣士「ああ」

剣士「一人に責任を被せりゃ、かなり気が楽になっただったろうよ。当然の流れさ。悲しいとは思うが、恨んではいない」

姫「……お優しいのですね」

剣士「ま、人斬りってのは本当のことだしな」

姫「それは戦争だったから仕方なく」

剣士「ダメだぜー」

姫「え」

剣士「国の偉いさんがそんなこと言っちゃダメだ。思っていても言うな」

姫「……はい」

姫「で、では……明日から色々とお仕事を頼むと思います」

剣士「言える立場じゃねえのは重々承知だが、お手柔らかに頼むぜ」

姫「勿論ですわ。生活面は完全に城で保障しますし、お給金も弾みます」

剣士「おお、良待遇。ま、そう思って今日の所は昼寝でも」

姫「いえ……少し、私にお付き合い下さりますか?」

剣士「へ?」

姫「私……剣士様のことを……もっと知りたくなりましたの」

剣士「……はい?」

魔王城─

息子「という顛末で、その城に、あいつ共々仕える事になった」

魔物「意味が分からん」

息子「だろうな」

魔物「ま、上手くやればいいんじゃねえの? 計画の前提が整いかけてるってことだろ。有名にするって前提が」

息子「……ああ」

魔物「そうなると、あの人間の経歴について裏付けを取った俺の苦労は、完全に無意味だったと」

息子「たまにはあることだろうよ。許せ」

魔物「へいへい。暇つぶしにはなったしな。しかし良く出来た手配書だねえ」

息子「……何だ、お前も入手していたのか」

魔物「おう。しかしあれだな。これは酷い」

息子「ああ」

魔物「これじゃあ『本人そのまま』だ。捕まるどころか、信じる人間なんてまずいないだろうよ」

息子「……全くだ」

息子「余程あの将軍とやら、こいつの素性が気になったのであろうよ」

魔物「総当たりで調べたんだろうなあ。でなきゃ、こんな眉唾手配書なんかに辿り着くわきゃねえぞ」

息子「……何故、楽しそうにしている」

魔物「お前に降りかかるであろう、大した面倒事を予感してな」

息子「お前もまたよく分からぬことを言うな……」

息子「では、この辺りで帰るとする」

魔物「魔王様には会っていかねえのか?」

息子「冗談が上手くなったな」

魔物「あはは。お前も大概あの方嫌っていやがるよなあ」

息子「……」

魔物「しかし、ご機嫌を窺っておくのも重要だと俺は思うぜ?」

息子「何かあったのか?」

魔物「いんや。お前が進言したあの日から、えらく大人しいものさ」

息子「ならば」

魔物「だからこそ、だろうよ。思い通りに動きたいのなら、首尾よくいってますってのを報告して来た方が絶対にいい」

息子「……お前の方から、頼む」

魔物「嫌に決まってるだろ」

息子「ちっ……仕えぬ手足だ」