魔王「どうか、***」 6/27

魔物「でも、それで何で平和になるんだ?」

息子「あの人間に勇者になってもらうためには、私達魔物は侵略の手を休めねばならんだろう」

魔物「あー……ね。そりゃ俺達は楽になるが、そんなもん時間稼ぎにすぎねえだろ?」

息子「出来るだけ引き延ばす。その内に、もっといい方法が浮かぶだろうよ」

魔物「適当だねえ後継者」

息子「こんな面倒事、適当に当たるくらいがちょうどいいだろう」

魔物「そうかもしんねーけどよ」

魔物「でもまあ、これで俺も暇になるし文句はねえな」

息子「何を言っているんだお前は」

魔物「ああ?」

息子「お前には私の使い走りという、重要な任があるだろう」

魔物「うわああ面倒くせえ」

息子「僻地の山奥で腐っているよりも、余程建設的な仕事を与えてやる」

魔物「へいへい……もうこうなったら諦めて、最後まで付き合ってやるわ」

息子「助かる」

魔物「しっかしあの人間だ」

息子「何か?」

魔物「『何か?』じゃねえよ。色んな意味で、よく捕まえたわほんと」

息子「希望の象徴としては中々の人選だろう?」

魔物「全くだ。せいぜい上手く手綱は掴んでいろよ」

息子「…………勿論だ」

魔物「おおう。やっぱ若干持て余してんだな」

息子「あれは人目を引き過ぎる……」

魔物「目立った方が有名になるんじゃねえの」

息子「それはそうだが、限度があるだろう」

魔物「分かんねえような、分かるような」

息子「しかしまあ、珍獣を飼育しているようで楽しくもある」

魔物「それが本音か?!」

息子「出来れば従順になるよう、飼い慣らしたいと思っている。骨が折れそうで楽しみだ」

魔物「……」

息子「何だ」

魔物「いや……ま、好きにしろよ。俺はいつか再戦の機会をもらいたいねえ。とだけ」

息子「考えておこう」

朝─

息子「……」

息子「……はあ」

息子「久々に夜に寝て、朝に起きたな」

息子「あいつが来るのが面倒で仕方ない……」

息子「……おや」

息子「あいつはまだ起きていないのか?」

コンコン

息子「おい」

息子「私だが」

コンコン

息子「おーい」

息子「……」

息子「……あー」

息子「失礼、するぞ」

息子「……」

剣士「ぐう……」

息子「……」

剣士「ぐー」

息子「ふう……」

ゴンッ

剣士「いっだああ?!」

息子「おはよう相棒」

剣士「て、てめえか!何をしやが痛い!髪の毛引っ張んな!!」

息子「あまりに遅いから、今日は私が起こしに来てやった。感謝しろ」

剣士「して欲しけりゃ今すぐその手をいやいや嘘ですごめんなさい?!」

息子「珍しいな。お前、朝に強いはずではなかったのか?」

剣士「あー……昨日ちーっとばかし呑み過ぎたからかね……内も外も頭痛いわ……」

息子「好奇の視線に晒されたからといって、程度を弁えぬ自棄酒に走るような打たれ弱さではな」

剣士「な、何か問題でもあるのかよ……」

息子「大いにある。詳しくは言わんがな」

剣士「お前ほんっと、よく分かんねえよなあ。ま、面白いからいいけど」

剣士「ふああ……じゃ、そんなわけだしもうひと眠りするわ」

息子「いつまでこの街に留まるつもりだ?」

剣士「いたくなくなるまで。お休みー」

息子「……全く」

剣士「ぐがあ」

息子「ふむ、起こすのも面倒だな」

息子「昨夜企みを明かし、さあ暗躍を始めるぞと意気込んだ矢先に……いきなり暇になってしまったな」

息子「仕方がない。外に出てみるか」

息子「何か使えそうな話でも転がっていないものかな」

数時間後

息子「はあ……」

息子(それほど都合よく話が進むわけはないな)

息子(劇的な出会いやら突発的な事件など)

息子(このように普遍に満ちた場所ではなあ)

息子(いっそ戦場にでも殴り込んでみるか)

息子(このご時世、人間同士の争い毎も大小様々転がっている物ではあるし、利用せぬことは)

街娘「あの……」

息子「はあ……」

街娘「あ、あの!」

息子「む」

街娘「昨日の方……ですよね?」

息子「…………私、か?」

街娘「あ、私昨日あなた方が街にいらした時に、少しだけお話させて頂いた……」

息子「……ああ」

街娘「覚えてらっしゃいますか?」

息子「あ、ああ。一応、な」

息子(人間の顔など、よほど特徴的でもなければ、記憶に残らぬわ……)

街娘「お連れの方は?」

息子「今日は別行動だ」

街娘「そ、そうでしたか……残念です」

息子「あれに何か用でも?」

街娘「いえ、出来ればお茶でも飲みながら旅のお話を聞かせて頂けたら、と」

息子「……」

息子「あれに」

街娘「はい?」

息子「あれに、気でもあるのか?」

街娘「は…………はい?!」

街娘「ち、違いますよ! 私はただ純粋にお友達になれたらと思って!!」

息子「私では駄目なのか?」

街娘「え!? ……えーっと」

息子「いい。冗談だ。分かった」

街娘「すみません……私、怖い人は苦手なんです……」

息子「まあ、いいのだがな」

息子「ああ、ついでだ。少々聞きたいことがある」

街娘「な、何でしょうか?」

息子「この街の付近には、手ごわい魔物などは住んでいないのか?」

街娘「そうですね……あなた方が越えていらした、山の魔物くらいでしょうか?」

息子「ここ最近、何か大きな揉め事などは?」

街娘「うーん……知りません」

息子「……近辺で、戦争は」

街娘「近頃は平和なものですね」

息子「……そう、か」

街娘「どうしてそんなに残念そうなんですか」

息子「いや……連れが血気盛んでな。何か首を突っ込める揉め事は無いかと探しているのだ」

街娘「あ、あの方が……ですか?」

街娘「全然そんな風には見えませんでしたけど」

息子「昨日は大人しくしていたからな」

街娘「は、はあ」

息子「実力と名が伴っていないことに、やや焦りを感じているようだ。この辺りで一つ名を売ることが出来ないかと、二人して模索している所でな」

街娘「うーん……やっぱり特に思い当たることはありませんね」

息子「……そうか」

街娘「あ。でも、ここから北西に行くと城下町がありますよ」

息子「……ほう」

街娘「この国の中心地なんです。お城を中心に街全体を大きな城塞が囲っていて、魔物にも他国にも脅かされないくらいに堅固だとか」

息子「そうか。そこならば、何かあるやもしれんな」

息子「では、明日そこに向けて発つとするか」

街娘「え!? そ、そんなにあっさり決めていいんですか!? お連れさんに相談したりとか」

息子「あれに相談など無意味だ。第一私には、ぐずぐず時間を潰している暇は無い」

街娘「え、え?」

息子「いや、こちらの話だ」

街娘「で、でも凄いですね、本当」

息子「何が、だろうか?」

街娘「お連れさんですよ」

息子「……ああ」

街娘「本当に、あの魔物を倒しちゃったんですよね」

息子「ああ。本当だ。せいぜい、広めてくれよ」

街娘「? もうすでに街中に広まっちゃってますよ?」

息子「は?」

息子「昨日の夕方で、今朝にかけて、か?」

街娘「当たり前じゃないですか。魔物も逃げちゃったみたいだし、これで遠回りすることなしに、隣の町まで行けるんです。ビッグニュースですよ!」

息子「そうかそうか」

街娘「その上、お二人は目立ちますしね。昨夜は酒場で大盛り上がりだったとかも伝わってきていますよ」

息子「……そうか」

街娘「い、一気にテンションが下がりましたけど、どうかしましたか?」

息子「もう一つ、聞いてもいいだろうか?」

街娘「は、はい?」

息子「あいつは客観的に見て……本当に目立つ、のだな」

街娘「そ、そりゃあもう。昨日少しお会いしただけですけど、遠くからでも私見分けられる自信がありますよ」

息子「……そういう意味では、決して目立って欲しくないのだが」

街娘「何か仰いましたか?」

息子「いや、何でもない」

街娘「私の周りでも、話題の中心ですよ!」

息子「はあ……それは光栄だな」

街娘「ええ。皆お連れさんの趣味は何だろうとか、お連れさんを食事に誘うにはどうしたらいいかとか、お連れさんはとってもステキな」

息子「少し急用を思い出したため、これで失礼する」

街娘「え?」

宿ー

剣士「ふあーああ……よくねたー」

剣士「さてとー、今何時だろ」

剣士「うーん……腹の具合からいって、昼過ぎくらいかな?」

剣士「つっても財布がいねえと飯も食えねえ」

剣士「あーあー……ヒモって素敵な職業だけど、ちょっと勝手が悪いのが玉にキズー」

息子「ほう」

剣士「あ」

息子「何か言うことは」

剣士「……ごめんなさい」

息子「うむ、良いだろう。私は心が広いからな。許してやる」

剣士「そりゃお前……あんだけ起きぬけの人の頭バシバシ殴りゃ憂さ晴らしも」

息子「何か他に言い残すことは」

剣士「ありませんからとっとと昼食にして頂けますと助かります」

息子「というわけで、明日の朝ここを起とうと思う」

剣士「急だねえ」

息子「異論でも?」

剣士「いや、特にねえけど。何でまたそんなところに?」

息子「物見遊山といったところだ」

剣士「まあ、そういうのもありかねえ。飯が食えるんなら、どこだって行くよ」

息子「お前は」

剣士「ん?」

息子「何故、旅をしているんだ」

剣士「何となくに決まってんだろ。こんな当てのない旅」

息子「では、故郷はどの辺りだ?」

剣士「言ってもわかんねーと思うけど」