魔王「どうか、***」 8/27

酒場─

剣士「で、魔物が怯んだその隙に……この剣でずばっと!」

街娘「凄いんですねえ」

娘2「ほんと!」

男1「ああ……」

男2「すげえ、な……」

剣士「うはは!そんなの当然のことだって!」

剣士「いやー、でも悪いな。ほんとにいいのかな、奢って貰っちゃって?」

街娘「構いませんよ。支払いはこの二人が、私達の分まで全額持ってくれることになっていますし!」

剣士「あ? 罰ゲームか何か?」

男1「そ、それはその」

男2「何と言うか……」

娘2「そんなことより、もっとお話聞かせて下さい! 料理もじゃんじゃん頼みましょう!」

剣士「え、いいの?」

男二人「……はい」

剣士「じゃあその鶏肉の串焼きセットもう一つとー」

息子「お前、酒が切れているようだが」

剣士「おお!じゃあこの店で一番度数が高い酒を一杯。お前は?」

息子「私も同じものを」

剣士「あはは!お前もやっぱりいけるクチだ…………あ」

息子「ははは」

息子「貴様、昼寝する直前に私が言っていた言葉をもう忘れたのか」

剣士「――――!」

息子「犬ですらもう少し従順だ。貴様は何だ、鳥か? それとも魚か? どうした、何類に属するのか、答えてみろ」

剣士「――――っっっ!?」

街娘「や、やめて下さい!剣士さんが凄い顔色してます! 死んじゃいます!」

息子「こいつに酸素など、贅沢だ」

街娘「わけが分かりません! 首を放してあげて下さい!!」

息子「ちっ」

剣士「げほげほげっほ」

息子「どうだ反省したか。魚類ヒモニート」

剣士「て、てめえええ……」

息子「ほうほう反抗的な目つきとは。もう少し躾が必要と見える」

剣士「いきなり何しやがる!? 見ろてめえ! 皆ドン引きしてんじゃねえか!」

息子「誓いを可及的速やかに反故にしたお前が悪い」

剣士「えー……いいじゃねえかよー」

街娘「す、すみませんお連れさん!」

街娘「私が無理やり誘ったんです! 剣士さんは悪くありません!」

剣士「お……お姉ちゃん」

街娘「私が剣士さんとお話ししたくて……他の皆もそうです。勝手にお借りしてしまい、すみませんですいた!」

息子「…………」

息子(男二人、女二人か……分かりやすい)

街娘「あ、あの……」

息子「分かった」

街娘「え」

息子「私も参加しよう。そして、支払いは全て私が持つ」

街娘「……へ?」

剣士「っでさー! こいつすっげー羽振りいい癖にケチで性格悪いんだぜ!」

息子「喧しい」

街娘「あはは。でも、本当にありがとうございます。いいんですか?」

息子「構わん。こいつが迷惑を掛けた、詫びだ」

剣士「何もしてねえよまだ!!」

剣士「しっかしあの兄ちゃん二人、なんかテンション低く帰っちまったけど。良かったのかね? 折角タダ飯食えるってのに」

街娘「あ……あー……すみませんでした」

息子「謝る必要はない。構わん」

剣士「えっ? 何どういうこと?」

息子「お前は何も発言しなくて済むよう、そこの肉でも食らっていろ」

剣士「言われなくても!」

娘2「でも……」

息子「む」

娘2「お連れさんもいい人そうですよねえ」

息子「……それは、ないとだけ」

剣士「ほんとほんと!ねーよってお前勝手に人の酒飲むんじゃねえよ!!」

息子「お前は本当に、喧しい」

街娘「怖い人だと思ってましたけど、確かにいい人ですよね。流石は剣士さんのお仲間!」

息子「やめてくれ。特に後半」

剣士「良かったな! 一緒にいると人間としてのレベルが割り増しに見えて!」

息子「下等生物が人語を嗜むな。酒でも飲んでろ」

剣士「んぐううううう!?」

娘2「うあわわわ! 流石にそれはちょっと人としてどうかと思いますよ!!」

街娘「では、ご馳走様でした!」

娘2「本当にいいんですか……?」

息子「構わん。むしろ……これであいつの痴態を忘れてくれると、感謝する」

街娘「痴態って……」

娘2「まあ、今は確かに……」

剣士「うははー。酒持ってこおーい……ぐがー」

街娘「でも、こちらこそ本当にすみませんでした……」

娘2「話を聞いてまさかとは思っていたんですけど……本当に」

息子「いや。私の方こそ、『こいつに餌を与えるな』と札を持たせることを失念していた」

街娘「え、そうじゃなくて」

娘2「剣士さんって」

剣士「さけー!!」

息子「……くたばれ」

剣士「ぎゃん」

息子「では、私達はこれで失礼する」

街娘「あ、あのー。剣士さん、伸びちゃってますけど、いいんですか?」

息子「いつもこうだ。構わん」

娘2「……いいんでしょうか?」

息子「死ぬことは無いだろうから、心配はいらん。では」

街娘「あ、本当に、ありがとうございました!」

娘2「ご、ごめんなさいでした!」

息子「……ああ?」

息子「はあ」

息子「回収も、フォローもしたが」

息子「どうも腑に落ちんな、あの反応」

息子「まあ、こいつに較べれば些細な問題か」

息子「全く手のかかる馬鹿者だ……腹は立つが、退屈せぬ」

剣士「ぐがー」

次の日・早朝─

コンコン

息子「おい」

ドンドン

息子「おい……起きろ」

ドンドンドガッ!!

息子「起きろ!社会不適合者!呑んだくれ!ヒモ!単細胞!ゴミ!」

バン!

剣士「う……うるせえええ……」

息子「うむ、お早う」

剣士「あれだけ騒いでおきながら真顔で挨拶とかお前……」

剣士「ってかもう勝手に入ってくりゃいいのに。他の客に迷惑だろ……何だその目は」

息子「お前が他人への気配りを見せるとは……」

剣士「人のこと何だと思ってんだお前。だから、仲間なんだしノックとかまどろっこしいこと辞めろってーの」

息子「生憎だが、私はお前と違って育ちが良いのでな。染み付いた習慣というものは、易々と手放せぬものだ」

剣士「あーもう朝から腹立つ財布だ……ぐぐぐぎぎぎぎ」

息子「このまま今一度眠ってみるか。永遠に」

剣士「げほげほ……お前、首絞めるにしてもちょっとは手加減しろよな……気軽にギリギリ締めあげやがって……」

息子「したとも。でなければ、こうしてお前の首が繋がっている訳が無かろう」

剣士「耳を塞ぎたくなる、恥ずかしい台詞だな。まーでもお前にも仲間を思いやる優しさが」

息子「お前の首なんぞインテリアにもならぬし、手土産にくれてやって喜ぶ者がぱっと思い浮かばんのでな」

剣士「安心しろ。そんな奴は絶対にいねえ。そうに違いない」

剣士「はー……もう出発かあ?早朝って言ってたけど、もうちょっと待ってくれよー」

息子「ならん。とっとと着替えて用意を済ませて来い。もし半時間も私を待たせれば、お前を宿代の代わりに置いていくぞ」

剣士「ちくしょー……分かった分かった。お前はもう用意出来てんの?」

息子「当たり前だろう」

剣士「じゃあ手伝って」

息子「ははは」

剣士「ははは……やりますやります一人でやります」

息子「二度寝するなよ。速やかに首を刎ねてやるからな」

剣士「へいへーい」

剣士「世話になったよ!ありがとなー!」

息子「こちらには?」

剣士「マジありがとなー流石は金持ちボンボン様の財力だぜー」

息子「まあ良い。常に感謝と尊敬を忘れるな」

剣士「お前、絶対友達いねえだろ」

息子「何だ、己に言っているのか寂しい奴」

息子「さてと、馬も回収した。とりあえずは街の出口に」

剣士「あ」

息子「何だ。寄り道は認め……」

街娘「……ど、どうも」

剣士「やっほーお姉ちゃんおはよ!朝早いんだねえ」

街娘「あ……おはようございます!」

息子「何の用だ」

街娘「あ、あの……早朝に発たれると仰っていらしたので……お見送りにと」

剣士「マジかよ!いやー嬉しいねえ。こんなべっぴんさんに!」

街娘「え……っと……はい、ありがとうございます」

息子「まあ、私からも礼を言う」

街娘「は、はい。昨日はありがとうございました。あと、本当にすみませんでした……」

息子「? 何かは知らんが気にするな」

息子「では……この道で良いのだろうか」

街娘「はい。ここを真っ直ぐです。馬の足でも丸一日くらいは掛るはずですけど……」

息子「何、その程度ならば軽いものだ。野宿も覚悟している」

街娘「剣士さんも……ですか?」

息子「あれは野生の生き物だ。野宿で堪えるような繊細さを持ち合わせているはずがないだろう」

街娘「は、はは……と、ところで一つ」

息子「む?」

剣士「えーっと……地図見る限りじゃ山越えはしなくて済むのか? 街道沿いにずーっと行くのね」

剣士「うーん……こっちの地域はほとんど行ったこと無いからなあ。栄えた街だってことは話に聞いてるけど」

剣士「ま、頼りにしてるぜ馬! ……名前とか付けた方がいいのかな」

剣士「……っつーか、相棒は何やってんのかね。あの姉ちゃんと話し込んで」

剣士「良い雰囲気だったし、なんかこーしんみりする展開でも迎えてんのかね。にしてはあいつ、すっげー渋い顔だけど」

剣士「あ、話終わったみたいだな、馬」

街娘「お、お待たせしました剣士さん」

息子「……行くぞ」

剣士「お、おう。何だよお前。すっげー疲労困憊って感じだけど」

息子「何でも無い。あるわけがないだろう」

剣士「変な奴。おいおいお姉ちゃん、何かあったのか?」

街娘「あ、あの……」

息子「何でも無い。あるとすればそうだな……竜が出るそうだ」

剣士「は?」

息子「地図だとこの辺りか……?」

街娘「は、はい。そうみたいです」

剣士「え?だって昨日お姉ちゃんが言ったんだろ?安全だって」

街娘「私もそう思っていたんですけど……最近になって被害が出始めているそうです。……お二人と別れてから、ちょっと気になって色んな人に聞いて回ったんです」

剣士「おお……夜も遅かったのに、わざわざ悪いねえ」

街娘「い、いえ!元はと言えば私がよく調べもせずにお話したせいですから……」

剣士「いやいや、それでもありがとうな。……で、どうするよ相棒」

息子「決まっているだろう。気にすることは無い」

剣士「だよなー」

剣士「っつわけで、見送りありがとう。そろそろ行くわ!」

街娘「だ、大丈夫ですか?他にも遠回りになりますけど、道は」

息子「こいつはあの魔物を倒した猛者だぞ。竜の一匹や二匹、問題ではない」

剣士「そーいうこと。ま、上手く退治出来たら被害も減るし。期待しといてくれよな」

街娘「……止めても無駄みたいですね」

剣士「ああ、何たって頭の悪い二人旅だから」

息子「私を数に入れるでないわ馬鹿代表が」

街娘「ふふ……分かりました」