魔王「どうか、***」 22/27

魔王「お前の言っていた人間」

息子「は」

魔王「それを愉快に殺す舞台を、私の満足が行くように整えたのであれば……しばらくは、全てお前の好きにしてやろう」

息子「…………」

魔王「動くなと言うのであれば私は動かぬ。どうだ? こう言えば、お前は一層魔物のためとやらで、動く気になるのではないか?」

息子「失礼します……!」

魔王城・どこか─

息子「良かった……」

息子「お前は……どうにか生きていたんだな」

息子「何も食べていないのか。待っていろ。何か持ってきてやる」

息子「お前の親は……ああ……そうか」

息子「分かっているんだな……ああ。そうだ……」

息子「……」

息子「……すまない」

息子「すまない……」

息子「すまない……すまん!」

息子「私が……私が引き合せてしまったばかりに……」

息子「安心しろ……お前は絶対に、私が守る……」

息子(私は……私はどうするべきなんだ……)

息子(もう嫌だ。このような世界、もう嫌だ)

息子(ならばどうする)

息子(何をすればいい。何が出来る。何を……)

息子(分からない)

息子(分かるはずが…………ない)

息子(あいつを殺せば……どうにかなるのか)

息子(あいつは勝手な奴で……酷く癖が強くて……)

息子(その癖腹立たしくも私を……私の事を……友……などと!!)

剣士『でもなあ……お前の事は相棒とか、いっそもう親友だと思ってんだよね』

息子『……そうか。良かったな』

剣士『お前はどう? この頼りがいのある相棒様の事は』

息子『飼育対象』

剣士『うはは! ぶっころー!!』

息子(私は……私は…………!)

息子「あいつのことを……」

息子「友、などと…………思った試しは、一度も無い」

息子「ああ……そうだ」

息子「思えるはずが……なかったんだ」

息子「……やろう」

息子「私の守るべき物……私が捨てるべき物……」

息子「整理はついた」

息子「覚悟もできた」

息子「終わらせる」

息子「……私の手で、全て終わらせる」

息子「悪く思うなよ……これも全て……」

息子「私に流れる、“血”が悪い」

息子「く……くく……」

剣士「……」

剣士「……ん」

剣士「んだよ……もう朝か……朝ぁ!?」

剣士「おいおい……どんだけ寝てたってーんだ……」

剣士「うおお……腹も減った……動けねえ」

剣士「……動きたくねえ」

剣士「あいつはまだ帰ってねえのかね……」

剣士「……ああもう畜生」

剣士「早く帰って来いよーんでもってどうにかしてくれよー」

剣士「ぐだぐだ考えるのはお前の役割だろうが……」

剣士「はーあ……」

コンコン

剣士「んあ……? どうぞー」

将軍「失礼します……剣士殿、まだお休みでしたか」

剣士「すまんね。ちっと疲れちまってさ」

将軍「いえ……あのような大仕事の後ですから……」

剣士「はあ……。そうだ、何か用かな? 仕事?」

将軍「……後ほど姫様の部屋までいらして頂けますか」

剣士「あ、ああ。いいけど」

剣士「後片付けとかの仕事はないのか?」

将軍「いえ、粗方片付けてしまいましたので」

剣士「早いなあ。たった一日でか」

将軍「城の者総出で当たっております。壊れた建物の修繕などは、まだですが」

剣士「それで十分だろうよ。さてと……そろそろ生きてみるかねえ」

将軍「は」

剣士「いやまあ独り言。あー、悪いけど姫さんに一っ風呂浴びて何か食ってから行くって言っといてくれ」

将軍「はい……」

剣士「ところでうちの相棒。まだ帰ってねえの?」

将軍「……見てはおりませんね」

剣士「うはは……将軍さんは本当、あいつのこと嫌いだねえ」

将軍「好き嫌いと言うよりも……いえ、なんでもありません」

剣士「んん? なんかよく分かんねえ濁し方だな」

将軍「……剣士殿にとって、あの方は何なのですか?」

剣士「相棒さ。んでもって大親友」

将軍「お気に障るかもしれませんが……あの方が、剣士殿に相応しい人物であるとは私には到底思えません」

剣士「そりゃ買い被りさ。第一こんなお尋ね者に相応しい奴なんて、いちゃなんねえだろ」

剣士「んじゃまあ何か食ってくるわ……姫さんによろしくな」

将軍「分かりました……」

剣士「それと相棒見かけたら教えてくれ」

将軍「……はい」

剣士「うはは。悪いね。じゃあ、そういうことで」

将軍「……は」

将軍「はあ……」

将軍「あの方は……」

将軍「……」

将軍「……職務に励むか」

姫の部屋─

姫「どうぞ」

剣士「どうも」

姫「剣士様。この度は我が城を危機から救って頂き……本当に、感謝いたします」

剣士「いやいや、当然のことをしたまで……って言えたら一番良かったんだがなあ」

姫「……何か?」

剣士「単なる独り言さ」

剣士「で、話ってのはそれだけかい?」

姫「……いえ」

剣士「どうぞどうぞ。城の復旧作業だったり、怪我人のためによく効く薬取って来いだったり。何でもどうぞ」

姫「……何でも」

剣士「ああ。ここまで関わっちまったんだ。大概の仕事なら引き受けるぜ。そういう契約なんだしな」

姫「…………」

姫「今回襲われたのは……この城だけではなかったようです」

剣士「そりゃまた……」

姫「あちこちの街や城、砦が襲われ、破壊され……多くの人が、亡くなりました」

剣士「酷いねえ……しかし、何でまた」

姫「魔王です」

剣士「お……おう」

剣士「魔王……ねえ」

姫「各地を魔物に襲わせた魔王は、あらゆる国に……人間に対して声明を出しました」

剣士「……何て」

姫「『死がお気に召さないのであれば、せいぜい無駄に足掻くがいい』と」

剣士「うわあ……悪趣味な話だねえ」

姫「……」

姫「魔物達は立ち向かった者達を、大きく圧倒したと聞きます。それでも……少しの時間暴れるだけでピタリと侵攻をやめ、消えていったと」

剣士「はあ……そりゃまた」

姫「こんなの……! ただ獣が餌を踏み躙って……遊んでいるだけじゃないの!」

剣士「よくあることだろう」

姫「何ですって!?」

剣士「人間だってやるだろ、そんなこと。特別なもんじゃねえよ」

姫「これが!? こんな地獄が!? 貴方はどれだけの人が死んで、どれだけの人が苦しめられ、怯えているのか……知らないからそんなことを」

剣士「要するに、だ。落ち着けって言ってんだよ」

姫「……失礼しました」

剣士「構いやしないさ。あんたのことだから、他の奴にはそんなとこ見せてねえとは思うしな」

姫「……剣士様になら、良いと?」

剣士「この国の人間じゃねえもの。いくらでも聞くし何でも言ってやるよ?」

姫「全くもう……貴方には敵わないわね。色々と」

剣士「うはは、戦場以外でそんなこと言われんのは中々ねえや」

姫「でも剣士様……私は貴方を、この国の人間として迎え入れたいと思う」

剣士「そりゃ……今までとどう違うんだい?」

姫「正式に。この国の、城の主戦力としての地位を与えましょう」

剣士「……雇われ指南役が大きな進化だねえ」

姫「仕方ないのです……将軍を手放すのは……惜しいから」

剣士「え?」

剣士「なんかすっげー不穏なこと言わなかった? 今」

姫「隣国から書簡が届きました」

剣士「あ、ああ」

姫「出来る限り多くの国で同盟を組み……戦力を出し合い、魔王を討伐しようと」

剣士「……つまり」

姫「我が国からは、貴方を出します」

剣士「やっぱりねえ」

姫「何でもやってくれるのでしょう? どうせ貴方には」

剣士「……故郷も何も無いだろう、ってか?」

姫「そうよ」

剣士「はー……こりゃまた……思い出すなあ。因果かねえ」

姫「……」

剣士「あれだよ、昔戦って負けた国。そこのお偉いさんにも同じような事言われたんだわ」

姫「へえ」

剣士「だからこっちの国に来いってさ。命が惜しいんならもう一回鬼になれってさ」

姫「それで貴方は逃げ出した」

剣士「ああそうさ。もう真っ平御免だったんだ。戦争なんてな」

姫「でも! 今は違うわ!!」

姫「貴方の力はもうあらゆる国に知れ渡っている! 竜をたった一人で殺めた英雄だって!!」

剣士「人斬りの次は、魔物斬りの英雄か……」

姫「貴方がいたから城の被害は最小限で済んだのよ! だから! きっと貴方なら」

剣士「魔王を倒せるって?」

姫「そうじゃないといけないのよ!!」

姫「貴方は鬼でも英雄でもない……勇者であるべき人なのよ!!」

剣士「あんたはあれだ、お伽噺の読み過ぎだよ。剣の腕だけで世界なんてでっけー物が救えるもんか」

姫「じゃあ! じゃあどうすれば救えると言うの!? 私達はどうすればいいのよ!!」

剣士「さあね。単なる鬼には、分かるはずもねえ」

姫「くっ……守るべきものの無い貴方には分からないかもしれない……!」

剣士「……」

姫「でも私は……! 国を守らなければならないのよ!! そのためならなんだってするわ! 貴方にしてもらう!!」

剣士「……」

姫「貴方なら! 貴方の強さならきっと出来るわ! 国一つ救えなかったからといって人の存亡に比べればそんな小事」

剣士「やめてくれ!!」

姫「……ごめんなさい。言い過ぎたわ」

剣士「おっと悪い……悪いな。こっちも怒鳴っちまったから、お相子だわ」

剣士「しかし守りたいものか……そうだよな、そういう戦いもあるんだよな。忘れてたよ」

姫「え」

剣士「昔は国とか家族とか、そんなもん守るために戦ってたのになあ。すっかり忘れてたわ。うはは……うん、そうだよなあ」

姫「……どうかしたの?」

剣士「思い出したんだよ。守る戦いってのは、中々いいもんだってな」

姫「え?」