剣士「話って?」
姫「貴方にお礼と……ごめんなさいが言いたくて」
剣士「もういいさ。利害はお互い一致しただろ?」
姫「……私は国を守りたくて、貴方は」
剣士「今を守りたい。そのために、お互い利用し合うって話だ」
姫「それでも……ありがとう」
剣士「こちらこそ、だ」
姫「いつ終わるかも分からない、辛い戦争になると思うけど……貴方達の戻る場所は、残しておくからね」
剣士「よろしく頼むよ。それまで将軍さんと、この国を守っておいてくれよ」
姫「ええ。頑張るわ。貴方も頑張るんですもの。負けていられない」
剣士「うはは、その意気だよ」
姫「ふふ……」
姫「私ね、貴方のこと結構好きよ。貴方は?」
剣士「多分同じ気持ちだと思うよ」
姫「良かった。ずっと、同じでいましょうね」
剣士「ああ。ずっと同じ。約束するよ」
姫「ちゃあんと戻ってくるのよ。死んだら許さないんだから。いいわね?」
剣士「うわあキツいなあ。こりゃますます死ねないね」
姫「……あはは」
剣士「はは」
姫「ねえ、終わったら何か欲しいものはあるの? 私にできる限りで用意させてもらうわよ」
剣士「んー、そうだねえ。家族かな」
姫「あら、お相手はどこのどちら様かしら?」
剣士「分かってる癖にー。言わせんなよ恥ずかしい」
姫「ええ、そうでしょうともね」
姫「でも、口説き落とすのは難しいと思うわよ? それでも?」
剣士「なぁに、時間をかけてゆっくり落とすさ。どうすりゃいいか、今はまだ模索中だしな」
姫「貴方って随分と情熱的な方だったのね。意外だわ」
剣士「うはは。たまにはいいだろ、こういうのも」
姫「そうね。でもこれだけは言えるわ」
剣士「ん?」
姫「貴方に愛されるその人は……世界一の幸せものだと思うわ」
剣士「……そう言って貰えて嬉しいよ」
姫「家族を作りたいって言うのなら、私は協力を惜しまないわよ」
剣士「ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」
姫「気をつけて……生きてね」
剣士「……分かってるって」
部屋の外
息子「……」
息子「はぁ……」
息子「……悪いな」
息子「お前のその願い……叶えてやれそうにもない」
息子「悪く思うなよ」
将軍「……」
息子「む」
将軍「どうも」
息子「……ああ」
将軍「剣士殿は」
息子「中だ。姫君と話をしている」
将軍「そうですか。では……後ほどにしましょうか」
息子「あれに何か用だろうか」
将軍「ええ。ですが貴方には関係の無いことです」
息子「果たしてそうかな?」
将軍「……」
息子「まあ、どうでもいい。勝手にあれを捕まえてくれ」
将軍「そうさせてもらますよ」
息子「では、失礼する。私は発つ準備をしなければならぬのでな」
将軍「ご苦労様です。ですが」
息子「何だ」
将軍「私のこの立場と、姫様の命が無ければ……私が貴方の代わりに付いたというのに」
息子「はっ」
息子「貴殿が何を思い、何を願っているのかは知らぬ」
将軍「……」
息子「だがな、あれは私が好きにする。そういう約束なんだ」
将軍「どうして……剣士殿は貴方などを」
息子「さあな。後で本人にでも聞けばいい」
将軍「……失礼する」
息子「ああ」
息子の部屋─
剣士「ちーっす」
息子「ノックくらいしろ」
剣士「いいじゃねえか別に。用意どうよ」
息子「見ての通り、今整理している。そう言うお前はどうなんだ」
剣士「だって持ち物なんか元々そんな持ってねえし」
息子「それもそうだな」
剣士「あ、さっき将軍さんと会ってさ」
息子「……何を話した」
剣士「いや? 頑張って下さいとか、そんな当たり障りの無い話を」
息子「ほう」
剣士「しっかしあの人、お前のことほんと嫌ってるんだなあ」
息子「む」
剣士「いやー、お前の代わりに付いていきたいって言われたんだわ」
息子「……」
息子「で、お前はそれに対してどう答えたんだ」
剣士「いや、『相棒は中々ああ見えてやる奴ですよ』って」
息子「……そうか」
剣士「あの人は真面目だねえ。こういう危機にゃいてもたってもいれないって感じったなあ」
息子「そうかそうか。それは良かった」
剣士「……何でお前が上機嫌になるんだ?」
息子「何、お前は使いやすいなと思っただけだ」
剣士「どういう意味だ」
息子「知らずとも良い。それよりその辺りの物には触れるなよ。お前が触ると散らかるばかりだろうからな」
剣士「言われなくても荷作りの手伝いなんてしねーよ。単に暇だから邪魔しに来ただけだ」
息子「いいから消えろ」
剣士「あ、そういえば酒とか、姫さんに色々リクエストして来たからな」
息子「助かるが……渋い顔はしなかったのか?」
剣士「いんや。むしろ食い物とかも大量に持たせてくれるってさ」
息子「素晴らしい待遇だな」
剣士「行かされる先を考えなきゃな!」
息子「全くだ」
剣士「まあでも案外過ごしやすい、良い環境かもしんねえし」
息子「それは……保障出来ぬとだけ言っておくか」
剣士「え、何。お前魔王城付近行ったことあんの? 秘境ってか魔境だぞ、あの辺り」
息子「あ、ああいや……書で読んだことがあってな」
剣士「なぁんだ」
息子「……」
剣士「で、兵士は十人くらい付けてくれるって」
息子「何よりだ。まあ、いわゆる有象無象といった所であろうがな」
剣士「そう言ってやるなよー。野営は大勢でした方が楽しいだろ」
息子「何の要因だと思っているのだお前は」
剣士「炊事洗濯その他!」
息子「……」
剣士「まあ何だか色々ありそうだが、よろしくな! 相棒!」
息子「ああ……よろしくな。相棒」
剣士「ところで何だそのでっけー箱。そんなの前置いて」
息子「この場で斬り捨てられたくなければ、見なかったことにするんだな……」
剣士「相棒って言った矢先にこれだもんな……」
次の日─
剣士「うわあ」
息子「ふむ」
姫「どうでしょうか」
剣士「いや、うーん」
姫「兵はこの通り、将軍直々に選出いたしました。そして物資はこれほどで」
剣士「う、うん」
姫「あら、これでは足りませんか?」
剣士「い、いや全然! むしろ言いたいのはだな! えっと!」
息子「これはまた盛大な、見送りだな」
剣士「そうそれ! それだ!」
姫「国を上げてお見送りして当然でしょう? 城の者には全員集まってもらいました」
剣士「……城下町の方からすっげー歓声が聞こえるんだけど」
姫「この街の領土を出るまで、お見送りの列が続くとお思い下さいね」
剣士「マジかよ……」
姫「ええ。マジです」
剣士「あーうん……有難いけど、かったるいなあ」
息子「おお花火」
姫「キレイですわねー」
剣士「聞いちゃいねえ」
将軍「……申し訳ありません剣士殿」
剣士「へ」
将軍「貴方はこのようなことを好まないだろうと、姫様に進言したのですが……」
姫「あら、剣士様は私の勇者様ですのよ。こうした待遇は当然でしょう」
剣士「本人が嫌がっても?」
姫「勿論!」
剣士「まったくもーお前は本当に……いやもういいや。ありがとよ」
姫「ふふ……いえいえ」
剣士「んじゃまあ……行ってくるわ」
姫「無理をしないで、ちゃんと帰って来るのよ。貴方にはまだ大任が残されているんだから」
剣士「わーってるって」
将軍「どうか、お気を付けて……」
剣士「そんな今生の別れみたいに。一応数日様子見に行くってだけなんだから、んな顔しないでくれよ」
将軍「……はい」
姫「お連れ様」
息子「何だ」
姫「どうか……剣士様をよろしくお願いしますね」
息子「……ああ」
将軍「……」
剣士「よっしゃ行くぞー!」
息子「行くか」
将軍「姫様……」
姫「なぁに?」
将軍「これで、良かったのでしょうか」
姫「……良いのよ。彼らがちゃんと戻ってくれば、良かったことになるのよ」
将軍「……はい」
姫「さてと、仕事は山積みよ。会議とか物資、人員の調達とか、色々とね」
将軍「忙しくなりますね」
姫「彼らも頑張るのですもの。残った私達は、その倍以上奮闘しなきゃ釣り合わない」
将軍「……ご無事の帰還を祈りましょう」
姫「ええ、誰も欠ける事の無いように……。ところで将軍」
将軍「はい、何でしょうか?」
姫「どうやら残念に終わったみたいね」
将軍「……何故知っておられるのですか」
姫「ふふ。秘密よ!」
数日後─
剣士「ふぁあ。よーっす、おはよ」
兵「け、剣士様! お早うございます!!」
剣士「ご苦労さん。見張り代わるよ」
兵「は!? い、いえ! 交代の時間にはまだなっておりませんので」
剣士「いいっていいって、遠慮すんなよ。休んで来い」
兵「よ、よろしいのですか?」
剣士「おう。ここの責任者が良いって言ってんだ。行きな」
兵「ありがとうございます! では、失礼します!!」
剣士「はいよー。ゆっくりな」