魔王「どうか、***」 18/27

剣士「鍛錬って……お前は特に仕事与えられてねえじゃん。暇してればいいのに」

息子「まあ、私の分までお前が蟻のように働き死ねばいいとは思うのだが」

剣士「てめぇ……」

息子「体が鈍るといかんのでな。たまには相手をさせようかと」

剣士「他の奴に頼めよ。ここにはいっぱいいるだろ」

息子「有象無象に、私の相手が務まるわけがなかろう」

剣士「へいへい、そうっすか」

剣士「ま、実を言うと願ったり叶ったりだったりするんだわ。これが」

息子「ほう……?」

剣士「魔法と剣の両方が十分に使える奴って、お前以外にあんまり出会ったことねえんだよね」

息子「まあ、そうだろうな」

剣士「それなのにお前と手合わせしたのは一回きり。いつかちゃんと手合わせして……」

息子「決着を付けてしまいたかった、と」

剣士「ご明察!」

剣士「さすがは相棒だな!」

息子「ほざけ。だがいい機会だ。軽い運動ついでに、どちらが上かはっきりさせようではないか」

剣士「決まったらどうする?」

息子「そうだな……負けた方は勝った方の命令に、何でも一つ従う、と」

剣士「いいねいいねえ! ありきたりだが大歓迎だぜ!! んじゃあまあ行くぜ相棒とっとと死ね!!」

息子「望むところだ」

将軍「はあ……」

将軍「剣士殿はどうして……ああなのだろうか……」

将軍「姫様は面白がっていらっしゃるようだが……」

将軍「一体どうすれば……はあ……」

将軍「……うん? 何か向こうが騒がしいな……」

兵1「おいおい……何だよこいつらの動き……本当に人間かあ……?」

兵2「片方はあれだろ、さっき何十人かを一度にノシたっていう」

兵1「噂の剣士様だろ……それは分かるんだがもう一方も」

兵2「……それと同レベルとはどういうことだろうな」

将軍「……何だ、これは」

兵1「しょ、将軍様!?」

将軍「何の騒ぎだ……まあ、見れば分かるのだがな」

兵2「ええ……どういうことなんですか。こんな奴……方々が急に現れるなんて」

将軍「姫様が直々に見出し、雇い入れた方々だ。無礼の無いようにな」

兵1「はっ!」

兵2「しかし……姫様……一体どこで見つけたんでしょうか」

将軍「そ、その辺りは機密事項だ。だが、実力も人柄も申し分ないと、私が保障しよう」

兵1・2「……」

将軍「何だその目は……」

剣士「死ね! 死ね! とっとと死ね!!」

息子「これ、くらいの、攻撃で、死ねるわけが……ないだろう!!」

剣士「うっせーバーカ! 息上がってんじゃねえのか年寄り! とっとと這い蹲って土でも舐めてろ!! ぐりぐりと頭を誠心誠意踏んでやるから!!」

息子「貴様こそ×××で、×××! どうせ、××××××なんだろうが!!」

剣士「くっ、くたばりやがれクズ野郎!!!!!」

兵1「人柄……申し分無いですかね?」

兵2「実力はまあ、見れば分かりますけれど」

将軍「剣士殿……」

兵1「あ、二人とも少しずつ動きが鈍くなってきましたね」

兵2「そりゃ陽が高い内からやってるんだ。そろそろ体力切れねえと、本物の化物だ」

将軍「……と、とりあえずお前たちは持ち場に戻れ。他の者達も同じだ!」

剣士「ぐ……ぐ……う」

息子「……ちっ……また、引き分けか」

剣士「ってか……勝負付くのかなあこれ」

息子「何とも言えんな」

剣士「……まあいいや、さっきの約束、しばらく継続ってことで」

息子「……そうするか」

将軍「何をしていらっしゃるのですか……」

剣士「あ、どうも将軍さん」

息子「見れば分かるだろう。単なる軽い運動だ」

将軍「……あの死闘が、ですか」

剣士「こいつがどうしてもって言うからさあ。良ければ将軍さんとも手合わせするよ?」

将軍「え」

剣士「リベンジしたいんだろ? いつでも受けて立つぜ!」

将軍「あ……ありがとうございます」

息子「……」

息子「……再びこいつに負けたとあれば、貴殿の面子が立たぬのでは?」

剣士「ちょ!?」

将軍「まあその通りですね。剣士殿に私が負けたと知っているのは、今はまだ姫様と貴方がたのみですし」

息子「今度こそ、城の中で負けてしまえば……知らぬ者はいなくなろうよ」

将軍「そうならないように剣士殿の戦うお姿を拝見し、こちらも負けじと鍛錬を積みますよ」

息子「……ふん」

剣士「何でお前喧嘩腰なの。何かあったのか?」

将軍「いえ。お気になさらず。ところで剣士殿、これから何かご予定でも?」

剣士「ああ? 姫さんが呼んでるとか?」

将軍「い、いえ! そういうわけでは無いのですが……お時間はありますかと」

剣士「ああ、無理。ごめん。こいつと飯に行く時間だから」

将軍「……そうですか」

剣士「急ぎの用事とかなら、ちょっとくらいなら時間は取れるぜ? なあ相棒」

息子「…………」

剣士「何で睨むんだよ」

将軍「いえ。また次の機会で構いません。それほど重要なものでも……ありませんし」

剣士「そう? んじゃまあ、またなー」

息子「失礼する」

将軍「……」

剣士「うはー……でもやっぱり……腹減ったー……」

息子「右に同じ」

剣士「今日は何食いに行こうか」

息子「酒」

剣士「いいけど、何でお前目据わってんの」

将軍「…………」

将軍「色々な意味で……精進あるのみか」

将軍「……どうやら先は長いようだが」

将軍「はあ……」

夜─

剣士「ふー。とりあえず今日のところはお疲れさん」

息子「ああ……」

剣士「つってもお前は特に何もやってないんだけどな! さあ敬え! 労働者に感謝を示せ!」

息子「分かったから……とっとと自分の部屋に帰れ」

剣士「いいじゃねえか、まだ夜も浅いんだ」

剣士「第一、広くて豪華な部屋に一人って落ち着かなくね?」

息子「貧乏人が」

剣士「ちっげーよ。もし襲われたらどう立ち回り演じるかって脳内シミュレーションを延々とだな」

息子「病人か。頭の」

剣士「つまりまあしばらくこっちで暇を潰す!」

息子「人の話を聞け」

剣士「だってまだ飲み足りねえだろ。何のために酒買い込んできたんだよ」

息子「お前が物欲しそうな目をして商店の前を動かなかったからだ。そのような安酒、私はいらん。全てくれてやるから出ていけ」

剣士「金を出したのも、大半抱えて運んで来たのも例のごとくお前だろー。お前が飲まなくてどうすんだ」

息子「だからお前に持たせると外聞が……はあ」

剣士「変な奴ー」

剣士「まあまあ一本いっちまえ。こういうのは値段より度数と量だろ」

息子「頭の悪い酒の嗜み方だな」

剣士「お前昨日の飲みっぷりはかなりのものだったぞ」

息子「……まあ、少しくらいなら」

剣士「よく言った! ほらほら好きなの選べ」

息子「グラスは」

剣士「んなまどろっこしい物いるかよ」

息子「……はあ」

剣士「んじゃまあ二次会に乾杯ー」

息子「乾杯」

剣士「おっと案外素直じゃねえか」

息子「たまには、な」

剣士「よしよし、その調子で従順にデレろよ。扱いやすいから」

息子「やめろ触るな気色悪い。貴様をまともに相手にするのが疲れてきただけだ」

剣士「遠ざかった……だと?」

剣士「いいもんねー、お前より先に姫さんとか将軍さんとの仲を縮めてやる」

息子「……縮めて嬉しいのか、お前」

剣士「い、いやまあ姫さんはちょっと怖いし、将軍さんは何かよく分かんねえし」

息子「そうか……分からんか」

剣士「あんな人負かしちまった手前、どんな顔して接していいのかなあ」

息子「それでいいだろうよ」

剣士「でもあの姫さん、結構すげーみたいだな」

息子「何がだ」

剣士「先代の国王……親父さんが何年か前に早死にしちまったんだってよ。それからずっとあの若さで国を治めているらしい」

息子「……」

剣士「耳が痛い?」

息子「売り飛ばすぞ」

剣士「ぎゃー」

剣士「いやでも体張って頑張ってて偉いよなあ」

息子「王族の何が偉いものか。世襲に甘え、政策のほとんどは下任せ。自分は安全な場所から高みの見物で……敬われるだけの器量の有無も関係なく、取り替えがいくらでも利く地位の何が偉いか……」

剣士「へいへい。お前も大変ね」

息子「……何がだ」

剣士「別にー」

息子「そう言うお前も……腕、見せてみろ」

剣士「ああ?この前の怪我ならもう大分塞がってきたぜ。ほれ」

息子「それでも痕は残るだろう。お前の方がよっぽど体を張っている」

剣士「そうかなあ」

息子「負わずに済んだ怪我とはいえな」

剣士「うはは!そりゃそうだ!」

剣士「んでも傷痕なんか特に珍しいもんじゃねえって。ほれ」

息子「!?」

剣士「自分じゃ見えないけど、背中にデカイ刀傷があるし」

息子「……」

剣士「あ、前も見るか? 腹に浅い刺し傷で右胸の辺りに」

息子「やめろ」

剣士「あ、お前グロいの無理?」

息子「そういうことにしておけ……早く服を着ろ」

剣士「へいへーい」

息子「……何故、そのような傷を負った」

剣士「そりゃまあ、最初から強かったわけじゃねえしな」

剣士「色々運が良くて生き延びて、気付いたらこんな風に生きてるってわけよ」

息子「難儀なことだな」

剣士「全くだ!」

息子「……そう言う割には、随分と嬉しそうだが」

剣士「ある程度現状に満足していますし?」

息子「ほう」

剣士「もうねー、死なない程度に生きればいいかなーっと」

息子「志が低すぎるぞ貴様」

剣士「いやだって。これはこれで良待遇かもしれんと思ってしまえば」

息子「まあ、一見するとな」

剣士「適当に言われたことやってりゃ、寝床は確保されてるし、お前とぐだぐだできるし」

息子「……言うことなしだと?」

剣士「おう」

剣士「まあ今後何命令されるか分かったもんじゃねえけどなー」

息子「……分かっているではないか」

剣士「最悪逃げるさ。お前もついてくるよな?」

息子「私だけ残っても仕方がないだろう」

剣士「だよなー相棒。一蓮托生だぜー」

息子「何故お前なんぞを捕まえてしまったのか……」

剣士「でも一応漠然とした人生設計ってか、夢みたいなもんはあるんだぜ?」

息子「一発鉱山でも当てるといった?」

剣士「何で博打なんだよ。そうじゃなくて、もっとこー……笑うなよ?」

息子「保障は出来ぬ上、その前振りだと九割方失笑物だろうな」

剣士「ああうん。お前はそういう奴だよ!」

息子「いいから言え。どうせ酒が回っているんだ。羞恥も何もないだろう」

剣士「ちっ……何でこんなの捕まえちまったんだろう……」