魔王「どうか、***」 16/27

息子「分かった分かった。軽く話をしてくる」

魔物「俺は一緒には行ってやんねーからなー」

息子「最早期待もしておらぬわ。ではな」

魔物「おう。頑張って死んでこい」

息子「人事だと思いおって……」

魔王の間─

息子「……父上」

魔王「ほう」

息子「御無沙汰しておりました」

魔王「全くだ。して、どうだ」

息子「と……仰りますと」

魔王「お前の言っていた、余興に決まっておろう」

息子「はあ……」

息子「順調……かと思われます」

魔王「そうかそうか」

息子「随分と、上機嫌でございますね」

魔王「当然だ。何しろ近頃、血を見ていない」

息子「……」

息子「父上にも、そのようなお心が」

魔王「単に飽きたのだ」

息子「……」

魔王「悲鳴も慣れれば静寂と変わらず、血飛沫もただ不快な泥水と変わらぬわ。たまには良いな。休息というものも」

息子「……さようでございますか」

魔王「しばらくはまだ待ってやる。せいぜい派手に暗躍しておけ」

息子「はい」

魔王「しかし肝に銘じておけよ」

息子「はい?」

魔王「私は……戦争それ自体に倦んでいるわけではないのだからな」

息子「……は」

魔王「愉快で仕方がないぞ、戦争は。私の声一つで、どこもかしこも地獄を見る」

息子「そのようで……」

魔王「お前は興味が薄いようだがな。何度物見に呼んでも、出て来た試しがないとは」

息子「生憎ですが……」

魔王「別に構わぬ」

魔王「その内、お前にも分かるはずだ」

息子「……」

魔王「何しろ私の血を引いている」

息子「……父上」

魔王「お前も所詮、血に塗れている方が似合っているのだと、気付く日が」

息子「この辺りで……失礼します」

魔王「……ああ」

息子「それでは」

魔王「……別に構わぬよ」

魔王「お前が何を厭い、何を好んだ所で、私は構わない」

魔王「ただ肝に銘じておけ」

魔王「どの道、私もお前も……」

魔王「……さて」

魔王「後、如何程休んでやるものだろうかな」

魔王「くっく……」

城─

息子「はあ……」

息子「だから嫌なんだ。だから」

息子「嫌っているとか、そういう話ではない」

息子「面倒なんだ……あのお方は」

息子「あいつを相手にしていた方が、桁違いに好ましい疲れ方だ……」

息子「……部屋にはおらぬようだが……どこに行ったんだ、全く……」

息子「お」

将軍「……貴方は」

息子「将軍殿か。すまぬが聞きたいことがある」

将軍「何でしょうか」

息子「私の連れを知らないだろうか。先程から探しているのだが」

将軍「剣士殿でしたら……姫様の部屋かと思われますが」

息子「何?」

息子「そちらの姫君は何を考えているんだ……仮にもあいつはお尋ね者だろう」

将軍「姫様は剣士殿を気に入ったようですね」

息子「ますます分からんな。あのような粗暴な者を?」

将軍「はあ……その、失礼ですが貴方は」

息子「何だろうか」

将軍「剣士殿に……随分と辛辣ですね」

息子「そのようなつもりはないのだが」

息子「あれは甘やかすと付け上がる」

将軍「やはり……いえ、何でもありません」

息子「渋い顔で、何だと言うのだ……。まあいい。教えてくれて感謝する。では」

将軍「ああ、少しお待ちください」

息子「……今度は何だ」

将軍「剣士殿と決断して下さったようで、ありがとうございました」

息子「私は何もしていない。全てあれの好きにさせただけだ」

将軍「はあ……しかし、そうだとしても」

息子「何だ」

将軍「私は貴方に感謝します」

息子「……ほう」

将軍「それだけです。では、失礼します」

息子「……ああ。一つ言っておくが」

将軍「何でしょうか」

息子「勝手にしろ」

将軍「ええ。勝手に、感謝しておきますよ。それでは」

息子「……ちっ」

姫の部屋─

姫「お口に合いますか、剣士様」

剣士「ああ。うめー菓子だなあ」

姫「たくさんありますから、いくら召し上がって下さっても構いませんわよ」

剣士「んじゃまあ遠慮なくー」

姫「ふふ……」

姫「そうですわ剣士様」

剣士「んあ?」

姫「折角ですし、剣士様のお召物もご用意いたしましょう」

剣士「えー、昨日これ買ったばっかなんだけど」

姫「それはそれですわ。私、剣士様に似合うものを選んで差し上げたいのです」

剣士「いやでもそこまでしてもらうのはちょっと」

姫「だって剣士様、もう少し身嗜みに気を付ければきっと」

コンコン

姫「あら」

息子「失礼する……」

剣士「おー、お帰りー。早かったなあ」

息子「…………何をしているんだ、貴様は」

姫「仲良くお茶をしておりましたの」

息子「ほう……」

剣士「えっ。何で睨まれてんの」

姫「ふふ……無断でお借りして、申し訳ございませんわね」

息子「構わん。構わんが」

剣士「え、何。何だよお前」

息子「少々話があるため、返してもらう」

姫「どうぞ」

剣士「ちょ、待て待てまだ食い足りてねえのに!!」

姫「またお越しくださいね。剣士様」

息子「……」

剣士「ちょ、何なんだよーいきなり。折角楽しくやってたってのに」

息子「いいご身分だなお前は」

剣士「えー……そんなバカな。ただちょっと姫さんと二人っきりで話がしたいとか言われて、部屋に連れ込まれてただけで」

息子「ははは」

剣士「ますますバカな」

息子「昼間っから女と乳繰り合っているような奴は、憎まれた所で仕方がないだろう」

剣士「ちっ!? お前何言ってんの!? マジでもう何言ってんの!?」

息子「喧しいわ。で、どうなんだ。結局どのような雑務をやらされることになったんだ」

剣士「え……えーっと、明日言うってさ。面倒なのはやめてくれとは言っておいたけど」

息子「まあ、それほどの仕事は回しては来ないだろうよ。まだな」

剣士「ちょ、やめろよなーそういう不安煽るような言い方ー」

剣士「と、とりあえず早い夕飯でも食いに行こうぜ」

息子「ここで食うのか?」

剣士「いんや。街に出て」

息子「そう言うと思った」

剣士「だってこんな堅苦しい所じゃ味なんて分かんねーもん」

息子「貧乏人の舌は合わぬだろうな」

剣士「お前も昨日の飯、えらい面で食ってたくせに……」

息子「そういえば、先程将軍殿に会ったぞ」

剣士「へー。なんか言ってた?」

息子「……感謝された」

剣士「ああ? お前あの人に何かしたの?」

息子「していない……と思われたのであろうな」

剣士「意味分からん」

息子「分からんで良い」

街─

剣士「さーてとお前は何食いたい?」

息子「酒」

剣士「……何か嫌なことでもあったのか、お前」

息子「ただ飲みたい気分なだけだ」

剣士「まあそんな時もあるかなあ。よし! んじゃまあ今日はお前に付き合ってやるよ!」

息子「言ったな」

剣士「え」

酒場─

息子「……この瓶を、後三本頼む」

剣士「おいおい、そりゃ飲みすぎだって」

息子「私が払うんだ。気にするな」

剣士「いや、そういうことじゃなくって……お前が荒れるなんて、珍しい事もあるんだなあ」

息子「ふん……」

息子「そもそもの原因は全て貴様だろう」

剣士「言いがかり臭いけど、一応は聞いておくか。何でだよ」

息子「私はな、面倒な事は全て嫌いなんだ」

剣士「はあ」

息子「だからお前のことも嫌いだ」

剣士「えー」

剣士「何があったか知らねえけど、相棒に酷い言い草だねえ」

息子「喧しいわ社会不適合者」

剣士「ははは。お前も大概不適合で面倒な奴だと思うけど」

息子「私はいいんだ。私は」

剣士「そうっすか」

剣士「んでもお前の心の広い相棒様は、結構お前のこと好きみたいよ?」

息子「そういう趣味は無い」

剣士「このバッサリ感も最早心地いいわ。好きよー相棒」

息子「そういう相手なら、他を当たれ」

剣士「もういいっつーの。ああほら、酒が来たぞ……って」

息子「はーあ……」

剣士「一瓶一気とかバカ………いっでぇ……」

息子「バカと言う方がバカだろう」

剣士「さ、酒瓶で人を殴る方がよっぽどのバカだ!!」

息子「まあまあ、あれだ」

剣士「何だよ!?」

息子「私の相棒は酒瓶程度ものともしない猛者だと、信じているが故の行動だ」

剣士「そういう信頼はいらねえ! ドブに捨てろ! 見ろ瘤になっちまっただろうが!!」

息子「やめろ。鬱陶しい頭を近付けるな」

剣士「ぐぐぐ」

剣士「まあ、言われてみれば髪もそろそろ鬱陶しくなってきたかなー」

息子「……切るのか?」

剣士「んー、どうしよ。お前はどう思う? やっぱ切った方が良い?」

息子「切らぬ方が良いだろう」

剣士「何という面倒な奴」